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電子メール・マーケティングの実践


2.電子メール・マーケティングの実践

図6



1章では電子メールの特徴について述べてきましたが、ここで、なぜ電子メールをマーケティングに活用するのか、という点について考えてみたいと思います。

電子メールがパーソナル・マーケティングに最適なツールだ、と前章で言いましたが、いくらメディアとして潜在的な価値があったとしても、実用的でなければ意味がありません。

そう考えた時、電子メールは低コストの割にレスポンスが高い、反応が分かる、比較的簡単に実施でき、テストが可能など、企業が導入する上で非常に有利な点が多いのです。現状の電子メールは、テキストが一般的で表現力に乏しい、インパクトにかけるという意見もありますが、裏を返すと、それだけシンプルで取扱いしやすい、と言うこともできます。
すなわち、実用性や費用対効果という面においても、マーケティングに格好のツールという訳です。


電子メールマーケティングの手法

図7



マーケターの立場から、実際に電子メール・マーケティングの実践例を紹介していきます。

一概に電子メール・マーケティングといっても、実は様々なパターンがあります。目的または難易度に応じて整理してみると、現状では図のような方法が実際よく行われています。

例えば、最も簡単な電子メール・マーケティングの第1ステップは、「電子メール広告を出す」ことです。これは、電子メール新聞や電子メールマガジンなどに5行広告を出稿することで、雑誌やバナー広告と同じようなマスメディアに近い認知効果を得ることができます。

第2ステップは、「電子メールでダイレクトメールを発信する」ことです。最も簡単なものでは、同じ内容のDMを一斉配信する同報メールのタイプもありますが、実際はより効果を上げるために、ユーザー・プロフィールや好みなどに応じてカスタマイズする方法がとられています。また、「新刊が入ったら、お知らせします」といった具合に、強い売り込みはせず顧客に有益な情報を提供することで集客を図るリマインダー/アラートと呼ばれる手法も、アマゾン・コムに代表される有名ショップでは効果的な集客手法として用いられています。

第3ステップは、「電子メールで顧客とコミュニケーションを図る」ケースです。例えば、電子メールを利用して顧客サービスやサポートを行ったり、メンバーズクラブを運営することで、継続的に顧客とのコミュニケーションを図り、ロイヤリティを高めていくことを目標としています。

次頁より、(1)電子メール広告を出す、(2)電子メールでダイレクトメールを出す、(3)電子メールで顧客とコミュニーションを図る、という順でそれぞれのケースについて紹介していきましょう。


(1)電子メール広告を出す

図8



電子メールを活用したビジネスの中でも、電子メール新聞/電子メールマガジンは目下、急成長を遂げている分野です。現在、日本で発行されているメール新聞/メールマガジンの数は、2000誌を超えるといわれ、個人の日記的なものからビジネスニュース、娯楽情報、天気予報など様々な内容のものが存在します。

なかでも数万人規模でまとまった購読者をもつ媒体になると、通称「5行広告」と呼ばれる企業広告が入り、広告料による収入をもっています。その代表的な例がインプレス社の「Internet Watch」、日経新聞社の「BizTech」等です。バナー広告と違って、電子メール・マガジンの5行広告は直接、個人ユーザーのもとへ届けられるため、インプレッションも高いというのが一般的にいわれています。しかし、もちろんテキストのみの広告ですから、インパクトに欠けるという欠点はあります。

ちなみに、日本のメール新聞やメールマガジンはテキストベースが一般的ですが、画像などが入ったカラフルなHTMLメールも米国ではよく見かけられます。


図09



では、電子メール広告は、既存メディアと比較して、どのくらいのメディア・パワーを持っているのでしょうか?

左のグラフは、コンピュータ関係にジャンルを絞って、紙媒体の専門誌とメールマガジンの発行部数を比較したものです。

コンピュータ雑誌の中で最も発行部数の多い「日経パソコン」の発行部数こそ24.7万部と断トツですが、その他のこの分野の雑誌は10万部以下が一般的なところで、メールマガジンとさほど差がありません。

ちなみに、電子メール出版代行サービスで知られる「まぐまぐ」発行の電子メール・マガジン「ウィークリーまぐまぐ」は98年6月現在、発行部数47.4万部。電子メール・マガジンが既存の出版メディアと匹敵する存在へと急成長していることがうかがえます。

一方、右の2つの表は、実際に、ある会員制ホームページがメンバー募集のプロモーションを行った際の結果をまとめたものです。上表は、メンバーがどの経路で募集を知り入会したかを集計したデータ、下表は、メンバー1人獲得にかかるコストを実際に利用した広告媒体別に算出したものです。この2つの表を見る限り、電子メールの広告効果とコスト効率は、他の広告媒体と比べて非常に高くなっています。それは特に、インターネットの世界においては非常に有効であるということができます。


(2)電子メールでダイレクトメールを発信する

図10



電子DM

電子メール・マーケティングの第2ステップとして、特にオンラインショップの集客などに応用されているのが、電子DMです。郵送のDMや電話よりコストが安く、レスポンスが得やすい、といったメリットに人気が集まり、採用する企業が増えています。

電子DMの種類には、同じ内容を複数のユーザーに一斉発信する同報メールに近い形態もありますが、それを一歩進めて、カスタマイズ型の電子DMを送るケースが最近では多くなっています。

カスタマイズ型では、予め個人情報や興味ジャンルを登録してもらい、それに応じて個々のユーザーの好みに添った内容のDMを定期的に送ります。また、一度購入した経験のある顧客に対して、「○○とごいっしょに△△はいかがですか?」や「お買い求めいただいた○○に、このカバンもお似合いですよ」などと勧める接客販売の考え方(アップセル/クロスセル)を取り入れたメールを送る場合もあります。

こういった電子DMは特に、継続して発信することによって、顧客のリピーター化を図ることができます。アマゾンコムやCD-NOWなどの成功したオンラインショップでは、こういったカスタマイズ型の電子DMを繰り返し発信することによって、顧客の約半数をリピーター化し、大きな成果を上げているのは承知のとおりです。

しかし、電子DM一方で、頼みもしないDMが送りつけられるジャンクメールなどの問題が発生しているのも事実です。情報の送り方や内容によってはかえって不快感を与えることにもつながるため、ユーザー側の承諾を得ること(Opt inと 言う)や内容(コンテンツ)の質の維持など企業側の配慮が重要になります。


図11



リマインダー/アラート

リマインダーやアラートと呼ばれる電子メールの活用法があります。耳慣れない言葉ですが、これは電子DMとはちょっと違った意味で、非常に有効な電子メール・マーケティングです。これらは一言でいうと、案内や通知のメールで、DMと違って積極的な売り込み文句を含まないのが特徴です。また、顧客にとって役立つまたは必要な情報をタイムリーに知らせるメールとも言えます。ちなみに、リマインダー(Reminder)とアラート(Alert)は、明確な使い分けはないようですが、敢えて訳すならリマインダーは案内、アラートは通知、といったところです。

リマインダーの有名な例には、アマゾン・コムの新刊お知らせサービスがあります。これは、ユーザーが自分の好きな作家やジャンルを登録しておくと、該当する新刊が出たときにEメールで知らせてくれるというもので、メールからリンクして直接本の注文ページへと飛ぶことができます。同社では、こういったリマインダーを積極的に発信することで、リピーター客をうまく確保しているのです。ちなみにこういった類のリマインダーには、記念日を登録すると直前に知らせてくれるサービスの他、航空券の料金通知サービス、不動産物件お知らせ等があります。

しかし、それよりもっと重要な役割を果たすのが、注文や予約をいただいた顧客に対し、注文確認や商品の入荷時期、配達状況を知らせる類のメールです。特に、インターネット上で商売を行う企業にとって、今後、必要不可欠の機能になると思われます。

例えばアマゾン・コムでは、取引の合った顧客には必ず受注確認のメールと配達状況を知らせるメールの最低2通を送ります。1人の顧客から複数の注文を受けた場合は、今回の発送分、これからの発送分、発送済み分、というふうに出荷毎に状況をしらせるなどの工夫も行っています。インターネット通販の場合、まだ完全に定着していないだけに、注文が受付られたのか、商品がちゃんと届くのか消費者は多くの不安を抱えています。しかし、こういったメールをタイミングよく発信することで、消費者の不安をとりのぞいているのです。

リマインダーやアラートが、顧客に信頼感を与え、ブランド・ロイヤリティ向上、リピーター化に有効な手段であることは、アマゾン・コムの成功においても実証されているといえるでしょう。


【事例】米百貨店メーシーズ

図12



米国の有名百貨店メーシーズでは、97年夏より、インターネットを使った会員制のショッピング・サービスを開始しました。このサービスでもやはり電子メール・アラート(通知)が重要な役目を果たしています。

このショッピング・サービスは、パンストや靴下、化粧品、下着などを自動補充形式で消費者の自宅へ定期宅配するというものです。ターゲットは仕事をもつ多忙な女性。つい切らしがちな消耗品を継続して届ける利便性を売りとしています。

WWW上で予め、色やサイズ、ブランド、配達先や配達頻度などを登録し、会員になると、指定した周期ごとに「今月のパンストの注文はいかがいたしますか?」といった具合で注文伺いのメールが届きます。返信すると、即座に商品が発送され、ユーザーはうっかり買い忘れる、といったことを避けることができる仕組みとなっています。

顧客が何も言わなくても”いつもの商品をお願い”というだけで、ショッピングができる環境を電子メールとWWWで実現し、固定客をつかまえる工夫を行っているユニークな事例です。


(3)電子メールでコミュニケーションを図る

図13



電子メールによる顧客サービス

ホームページ上に単に問合せ用のEメール・アドレスを掲載することは、どこのサイトでもやっていることです。しかし、最近では、それよりもっと顧客と親密なコミュニケーションを図るために戦略的に電子メールを活用する企業が現れています。

特に、インターネットでビジネスを行う場合、消費者にとって不安がつきまといます。パソコンの向こうに人がいることを感じさせ、安心してもらうのに、電子メールが非常に有効な働きをするのです。

例えば、問合せメールひとつにしても、「○○時間以内に必ず返答します」と宣言し、クイック・レスポンスを実践したり、企業対顧客という立場ではなく、企業内の担当者と顧客が、ひとりの人間同志の会話をメールを通じ行うことで、顧客とのコミュニケーション・ループを構築するのです。

WWWを通じて機械的にオーダーを高速処理することだけをよしとするのではなく、電子メールを使って、重要な顧客とのヒューマン・コミュニケーションの部分を補うことで、ビジネスを活性化させることができます。

【事例】ノードストーム

図14



電子メールを使って顧客とのリレーションシップ構築に成功している有名な事例が、米国の高級百貨店ノードストロームの「パーソナル・タッチ・オブ・アメリカ」です。伝説的なサービスで知られるノードストロームは、95年からこの独自の電子メール・ショッピング・サービスを展開してきました。

このサービスは、通常のインターネット通販と違い、商品カタログは一切ありません。顧客が要望(フリー・フォーマット)を電子メールで伝えると、ノードストロームの担当者が条件に合う商品を店から探し出し、提案してくれるのです。ヒューマン・コミュニケーションを大事にする同社の精神を反映し、顧客1人1人に専属の担当者(パーソナル・ショッパーという)がつく、という点もノードストロームらしい最大の特徴となっています。

パーソナル・ショッパーは、ファッション関係のスペシャリストで、予め登録された顧客の好みのブランドや色、サイズを参考にしながら、例えば、「少し大人っぽいスーツが欲しい」といった漠然としたリクエストにも快く応じてくれます。また、回答のメールを48時間以内に返すことも保証しているそうです。もちろん、気に入れば電子メールで直接オーダーすることができます。

利用客の多くは、比較的高所得者で、遠方に住んでいる人や職業がら忙しい人など、なかなかデパートに足を運ぶことができない人だそうです。

このサービスは、ノードストロームの売りである徹底したサービスを、インターネットを使ってさらに進化させたものです。直接顧客と顔をあわすことがなくても、電子メールが立派に接客をしている、といえるでしょう。


図15



電子メンバーズクラブ

電子メールを活用し、顧客とコミュニケーションを図る手段として、電子メールやメーリングリストを活用し、メンバーズ・クラブを運営する方法もあります。

会員に対し、商品に関する最新情報をいち早く伝えたり、定期的にプレゼントやサンプルの提供、イベントなどを行うことで、企業と消費者間のコミュニケーションの場を作ることを目的とするものです。つまり、ファンやリピーターを育てるためのコミュニティ作りです。

こうしたクラブを運営する企業側のメリットとしては、ファン育成の他にも、クラブ内で発生する消費者の声を吸い上げ、マーケティングや商品開発に役立てることなどが挙げられます。

特に、メーリングリストを使ったコミュニティは、口コミ・ネットワークとして大きな威力をもつといわれています。


【事例】資生堂

図16



資生堂では、97年7月より「+W(プラスダブル)」という会員制クラブをスタートしました。電子メールとWWWを使って、資生堂の新製品情報をはじめ、製品モニターの募集、アンケート、プレゼント提供、美容カウンセリングなどを行っています。97年11月時点でのメンバー数は約7500人。資生堂ファンのコミュニティとして、現在もその数を増やしています。

メンバーは入会の際、予め性別や年齢、居住地区などを登録します。これによって、興味のある情報だけがメールで届く仕組みとなっています。実際に、このクラブで募集したモニターに対しアンケートを行ったところ、50%以上という高い回答率を得たこともあったそうです。

また、美容カウンセリングでは、会員別に問診を行い、その結果に基づいてサンプルを提供し、さらに感想を電子メールで返してもらう、といったサービスも行っています。

資生堂では、このクラブでファンやリピーターの育成していく他、集まってくる消費者の声を開発部門にフィードバックし、新商品開発や商品改良に役立る計画だそうです。


アウトソーシング・サービスの利用

図17



アウトソーシングの利用

これまでそれぞれの企業が、独自に電子メール・マーケティングを実践している例を紹介してきましたが、もし、電子メール・マーケティングをもっと簡単に導入したいと考えるならば、専門業者にアウトソースすることも可能です。

例えば、アウトソーシング・サービスのなかには、単に消費者のEメール・アドレスを大量収集し、切り売りするリスト業者のようなものから、電子DMの発行代行や電子メール・アンケートの実施を請け負う行う業者などがあります。後者は消費者にメンバーに、予め電子メールでDMを受け取ってもらうことを承知してもらい、DMを見て何かアクションを行う(商品を買う、ホームページに訪れるなど)毎にインセンティブを進呈するサービスなどが有名です。米国のサイバーゴールドやボーナスメール、富士通のiMiネットがこれにあたります。

こういったアウトソーシング・サービスの場合、DMの受取を消費者が承諾しているか(Opt inであるか)、電子メールの特徴を活かし、ターゲットをしぼって発信したりできるかどうか、などがポイントとなります。


【事例】iMiネット(いみねっと)



日本の代表的な電子メール・マーケティング・サービスが富士通のiMiネットです。

iMiネットは、サービス開始は96年9月で、98年6月現在、インターネット・メールまたはNIFTY-SERVE経由でメンバー登録している生活者メンバーは約10万人に達しています。予め生活者メンバーに登録した性別や年齢、職業などの個人属性の他、興味ジャンル、良く行く店や街といった項目に基づき、ターゲットを絞ったマーケティングができるのが特徴で、主に電子メールによるダイレクトメールの送付や各種リサーチを行っています。

iMiは、 Interactive Marketing Interfaceの略。“企業と生活者が直接対話するワン・トゥ・ワン(個客対応)を実現するメディア”が同サービスの基本コンセプトとなっています。


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