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eマーケットプレイスの実像


第4回:eマーケットプレイスは日本の取引慣行を破壊するか?



業界慣行は簡単には変わらない

インターネットが我々の前に登場した頃から、インターネットは中間流通を排除し、メーカーと最終需要家とが直接取引を行うようになると言われてきた。また、新規の取引先の開拓が簡単になることや、取引の意思決定が透明化されることなどで、業界のしきたりやしがらみに縛られてきた日本的な取引慣行に変化が迫られるとも言われている。eマーケットプレイスは、インターネットのオープン性や地理的な制約に捕われないという性質を生かすことのできる仕組みであるが、果たして何かと批判の多い日本的な取引慣行を変革する破壊力を持つものだろうか?これまで、我々が観察してきたところでは、その答えは5%「YES」であり、95%「NO」である。eマーケットプレイスが導入されても、それは日本の取引慣行を大きく変える方向には進んでいない。なぜか、その理由を次に挙げよう。(富士通総研 下地健一 2001年5月)

1.業界の惰性と抵抗

eマーケットプレイスが、数ヶ月という短期間で設立、システム開発、サービス展開を行えるのに対比して、それがターゲットとする産業界や企業はそう簡単には舵を切ることができない。企業が内部の業務プロセスを変えたり取引形態を見直そうとすると、内外から大きな抵抗や政治的圧力を受ける。本来企業を変革しようとすれば、強いリーダーシップが不可欠であるが、eマーケットプレイスは企業の部外者であり参加企業を変えるには、顧客企業自身による強い意思と理解と時間とが必要となる。企業が変化していくためには、5年~10年といった長い時間が必要な一方、eマーケットプレイス側では、むしろ、自社のビジネスをいち早く軌道に乗せることを優先的に考えるため、既存のプロセスを追認した形での電子化にとどめることで取引量を確保しようとする。これは、なにも日本についてのみ言えることではない。米国においても、eマーケットプレイスの最も成功に近いアプローチは既存の取引の一部をそのままネットに移すことである。さらに、企業間の取引に変革をもたらそうとする場合は、コンサルティング会社と提携し(あるいは出資を受け)、参加企業に対して業務革新のためのコンサルティングを提供する事例が見うけられる。

2.既存システムへの依存性

一見単に中間に入っているように見えるだけの事業者も、実は決済,物流,加工等で重要な機能を果たしている。中間業者がある機能を果たしている場合は、それを単に中抜きすることは容易ではないし、また、中抜きすることが本当に全体最適につながるかも保証できない。少なくとも、既存の取引システムは、長年のコスト削減や効率化の努力により、全体としては違ってもその枠組みの中では局所的に最適化されている。これをいくらかでも変えようとすれば、かえって非効率やコスト増を招くこととなる。

以下にいくつかの事例を紹介する。

【事例1】

ゼネコン大手企業が集まって構築した建設業界向けのeマーケットプレイスでは、出資者である設立メンバー以外の参加者集めがなかなか進んでいない。このeマーケットプレイスでは、建設現場用の資材などリース品の調達がまず考えられているが、リース用資材のサプライヤー側は価格の下落を恐れて加入を見合わせているようである。一方、出資者以外の建設事業者に対しても、説明会を開くなどして勧誘を行っているようだが、こちらも成果はなかなか上がっていない。やはり、競合他社が運営するeマーケットプレイスに対しては、取引条件を覗かれるのではないかという懸念を持つようだ。業界コンソーシアムによるeマーケットプレイスでは、米国でも同様な中立性に対する懸念が指摘されているが、サプライヤーからも出資を受けたり経営陣を外部からつれてくるなどしてその懸念を払拭しようとしている。しかし、日本では外部の経営のプロという人材も探しづらい。

【事例2】

米国において鉄鋼のeマーケットプレイスは、ある程度の取引量を確保している。例えば、MetalSiteは2000年一年間で2000万トン規模の出品があり、5万件の注文があったという事である。米国では、これらのサイトを通じてメーカーと需要家が取引を行っている。一方、米国の鉄鋼eマーケットプレイスも出資する形で、日本でもスマートオンラインや日本メタルサイトなどが設立されているが、行われている取引はだいぶ異なる。日本では、もともと鉄鋼メーカーが小ロットで製品を売ることは稀で、商社が介在し代金回収、与信管理等の機能を提供する。さらに、2次、3次の問屋が商社から製品の提供を受けてこれを加工して販売する。日本の鉄鋼eマーケットプレイスが提供するのは、商社とその下の問屋や需要家との間での取引なのである。すなわち、これは商社を中核とした鉄鋼の取引の一部をそのまま電子化したものでしかない。

日本の鉄鋼eマーケットプレイスと出資企業



【事例3】

ワールドワイドに展開するスーパーなど小売業のeマーケットプレイスであるGNXは、海外ではメーカーと小売チェーンとの間で直接取引を行っている。しかし、GNXは、ダイエー、マイカルなどと組み、日本に進出するにあたっては日本法人を設立して本家のGNXと接続された別のeマーケットプレイスを構築しようとしている。これは、日本における取引形態と欧米の取引形態が異なるためである。日本の小売チェーンは、メーカー直接ではなく卸から製品を購入しており、その際各店舗への商品の配送に卸の物流機能を利用している。仮に、GNXの仕組みを利用してメーカーと直接売買を行う仕組みが整っても、店舗へ独自に配送する手段を持っていない。したがって、GNXの日本法人が行う取引は、卸の存在を前提とした取引形態となる模様である。

大きな変化が期待される分野も

これらの例が示すのは、eマーケットプレイスが導入されても基本的な取引の流れや業界の秩序は変化しないということだ。おそらく、ほとんどのeマーケットプレイスはこうした現実的な方向を選ぶだろう。より成功に近づくためには、このような既存のビジネスの流れを認める形でeマーケットプレイスを構築することが現実的な方法である。

しかし、一方で業界の取引を革新しようという動きもある。その場合eマーケットプレイスの運営者は、かなり大胆かつ緻密なアプローチをとることが求められるだろう。そのような動きをしているeマーケットプレイスとしては、森ビルとソフトバンク・イーコマースが創設したCMnetを挙げることができる。CMnetは建設関係の入札支援のeマーケットプレイスで、CM会社,建築事務所,施工者等の選定、建築資材調達のための入札システムを提供する。CM(コンストラクション・マネージメント)とは、1970年代に米国で生まれた、発注者と工事会社との間に入り、施工管理や発注者への助言を行うサービスである。CMnetはCMの仕組みに公正な入札を加えることで、建築コスト、内容、施工会社選定のプロセスを明らかにし、透明でオープンな取引を実現しようとしている。CMnetの設立にあたっては、大学の研究者,マスコミ,IT関連などから幅広い参加を募ったCMnet運用協議会が発足している。建設業界の取引慣行に対して大きな変革を迫るものであるが、大手ゼネコンなど建設会社は前向きに取組もうとしている。CMnetが軌道に乗れば、業界の取引にそれなりのインパクトを与えそうである。

過去4回に渡り、eマーケットプレイスについて述べてきた。株価の暴落に伴い市場ではB2Bへの期待感も剥げ落ちている。しかし、それは株式市場における期待値の調整が起こっているだけで、実際のビジネスを行う企業は、今こそ地に足をつけて着実に歩を進めるべきではないだろうか。実際に、現実のeマーケットプレイスの中には成長を続けているものも多い。Ford社がe-Steelを鋼鈑調達の中核に据えるなど、eマーケットプレイスを自社の調達に戦略的に利用しようとする動きも出てきている。また、米国企業はeマーケットプレイスと自社のシステムを繋ぐための投資や、戦略品取引のためのプライベート・ネットワークの構築などにも力を入れている。日本企業においても、B2B分野の動きには引き続き注意が必要である。次回以降はパブリックなeマーケットプレイスから視点を変えて、企業が限定された取引先との間で構築しているプライベートeマーケットプレイス(「プライベート・エクスチェンジ」,「プライベート・トレーディング・ネットワーク」などとも呼ばれる)の動向について取り上げる予定である。


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