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eマーケットプレイスの実像


第1回:注目浴びるeマーケットプレイス




はじめに

インターネットを利用して、多数の売り手、買い手企業間での取引を実現するeマーケットプレイスが日本でも続々と開設されている。しかし、各業界で一斉に参入が続く様子は、どこかブーム先行のように見える。富士通総研では、本年前半にアメリカおよび日本のeマーケットプレイスに対してインタビュー調査を実施した。今回から数回に渡り、調査結果をダイジェストでご報告する。(富士通総研 下地健一 2001年5月)

商取引を革新する?eマーケットプレイス

まず、eマーケットプレイスを良くご存知ない方のために、eマーケットプレイスがどういうもので、これまで業界でどのようなことが起きてきたか簡単に説明する。

eマーケットプレイスは、インターネットを通じた取引の「場」である。従来、企業間取引で利用されてきたEDIが、買い手企業と売り手企業を1対1で結び取引をするものであったのに対して、eマーケットプレイスには、複数の買い手企業と売り手企業とが参加し、売買を行う。取引の方式には、売買価格をどのように決定するかによって、いくつかのモデルがあり、扱われる商品や業界特性などに適したモデルで取引が行われる。取引モデル概要向いている商品・分野
エクスチェンジモデル売り手と買い手が価格を出し合い、引き合ったところでマッチングさせる方式。原材料、汎用部品など、商品規格が標準化され価格変動が激しい商品
オークションモデル売り手の商品提示に対して複数の買い手が入札する方式余剰在庫品、中古品、不動産など出品商品の個別性が強い商品
逆オークションモデル買い手が購入したい商品の条件を提示し複数の売り手が入札する方式。自動車、家電のような買い手に大手企業が多い業態
カタログモデル総合電子カタログと検索サービスにより多数の売り手から特定の製品・サービスの情報を収集整理し、買い手に提供する方式。化学品、薬品のように商品アイテム数が非常に多い分野
コミュニティモデル産業に特有なコンテンツや産業の専門家に関係ある情報を提供することにより、狙った売り手・買い手をサイトに集める方式。自動車業界、医薬品業界・・といった業界別のポータルサイト
相対交渉モデル調達プロセスが複雑で個別性が強い複雑な商品に合わせ、見積もりや交渉、プロジェクト管理などの仕組みを提供する方式。受注品や建設プロジェクトなど調達プロセスが複雑で個別性が強い商品
コラボレーションモデル幅広いビジネスプロセス、取引先間との間で、設計情報、在庫情報等の共有化などを通じて、取引の効率化や共同作業などのコラボレーションを行う方式。多数の企業間をまたがる製造,流通分野


資料:日債銀レポート2000年6月(日債銀総研) Collaborative Commerce2000年4月(Morgan Stanley Dean Witter) などをもとに富士通総研作成

多くのeマーケットプレイスは、これらのうち複数の取引モデルに対応している。また、全体的な傾向としては、オークションやカタログという形態を採用しているeマーケットプレイスが多いが、徐々にコラボレーションモデルへ比重を移しつつある。

eマーケットプレイスの収入手段は、参加企業から得られる年会費や売買成約時またはサービス利用時における手数料が主要なものだが、その他にカタログ掲載手数料やシステムをASP形式で提供することによるシステム使用料、広告収入などがある。売買手数料や年会費を売り手企業と買い手企業のどちら(または双方)から徴収するかは、取引の形態や業界の置かれた状況によって違ってくる。

独立系から業界コンソーシアム系へ

次に、eマーケットプレイスの業界動向であるが、この分野でも先行したのはアメリカであった。数年前から電子部品のFastParts、化学分野のChemdex、鉄鋼分野のe-steelなどベンチャー企業が立ち上げた、いわゆる独立系のeマーケットプレイスが数多く登場した。2000年当初には、これらの独立系eマーケットプレイスの多くが既に稼働していたが、同年始め頃より各業界の大手企業が集まり共同でeマーケットプレイスを設立する動きが出てきた。いわゆる業界コンソーシアム系のeマーケットプレイスである。自動車業界でGM、フォード、ダイムラー・クライスラーの米国旧ビッグスリーが中核となって立ち上げたCovisintや、電子機器・部品分野で米国、日本、韓国など世界の大手企業が参加するe2Open.com、Convergeなどが代表例である。こうした動きは、自動車、電子機器・部品業界に留まらず、化学、航空・宇宙、エネルギー、小売等ほとんど全ての業界で起きている。当初は、競合企業が共同でビジネスを展開することに懐疑的な見方もあったが、サイトの開設が現実のものとなるに従い、一転してB2Bビジネスの本命として有望視されるようになってきた。

期を同じくして、折からのドットコム・バブルの崩壊の影響もあり、独立系eマーケットプレイスへの期待は急速に萎んでいった。そして、Chemdexはサイトを閉鎖、FastParts、PartMinerなどは従業員のレイオフに追い込まれている。

業界コンソーシアム系が独立系と比べ有利と考えられているのは、
1.業界コンソーシアム系の場合、売り手、買い手またはその双方が出資しているため、積極的にそのeマーケットプレイスを利用する
2.業界の取引慣行や業界ニーズを理解している


などの点である。このような状況の中、電子部品の分野では、独立系のPartMinerが業界コンソーシアム系のe2Open.comと提携したり、独立系eマーケットプレイスを数多く運営するVerticalNetが傘下のNECXをコンソーシアム系のConvergeに売却するとともに、Convergeに出資し技術パートナーとしての地位を獲得するなど、独立系とコンソーシアム系との連携や合中連衡の動きも出てきている。

日本でも設立相次ぐ

一方、日本でもeマーケットプレイスを設立する動きが活発化した。日本の場合の特徴は、独立系がそれほど登場しないうちに、多くの業界コンソーシアム系が登場してきたことである。化学業界、建設業界、電力業界、石油製品などで業界コンソーシアム系の設立が相次いだ。また、電子機器・部品,小売の分野では、日本企業も世界的規模の業界コンソーシアム系eマーケットプレイスに参加している。さらに、日本において忘れてはならないのは商社の動きだ。鉄鋼分野のeスチールとスマートオンラインという2つのeマーケットプレイスは、商社が米国のeマーケットプレイスと組んで設立したものである。その他にも、FreeMarketsなどの米国の有力eマーケットプレイスが日本に進出するにあたっては、商社がパートナーとなっている。

実態の見えにくいeマーケットプレイス

以上は、プレスリリースや新聞・雑誌記事、eマーケットプレイスの専門サイトなどから得られるレベルの情報である。ここまで、eマーケットプレイスを独立系や業界コンソーシアム系というくくりで分類してきたが、多くのメディアの論調では、独立系は厳しい状態に立たされ、業界コンソーシアム系が今後の主流になるということである。しかし、実態はそれほど単純化できるものではなく、独立系にも、毎年のように取引規模を拡大しているFreeMarketsのような企業もある。一方、業界コンソーシアム系はビジネスを始めたばかりのうえ、非公開企業のために事業の業績は見えてこない。果たして、華々しく宣伝されたなりの成果を上げつつあるのかなかなか外部からなかなか窺い知れないのである。

次回からは、富士通総研で行ったインタビュー調査の結果を中心にしながら、eマーケットプレイスの実態を報告する。


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