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中国版の所得倍増計画の意味

発行日 2012年11月30日

主席研究員 柯 隆

 

さる11月14日閉幕した第18回共産党大会で胡錦濤国家主席は2010年に比べ、2020年に国民所得を2倍にする、いわゆる中国版所得倍増計画を発表した。分かりやすくいえば、2010年の一人当たりGDPは約5,000ドルだったので、この所得倍増計画が実現すれば、2020年に10,000ドルに拡大するということになる。10年間で国民所得を2倍にするため、GDPを年平均7%成長させる必要がある。これは今の中国にとって無理な目標ではない。

2011年の実質GDP伸び率は9.2%だった。今年の成長率はおそらく7.7%前後になるとみられている。残りの8年間、年平均6%強の成長を実現するのはそれほど難しいことではない。

なぜ所得倍増計画なのか

  • そもそもなぜ胡錦濤政権は引退する間際に、自らが引退したあとの計画を発表しないといけないのだろうか。
  • 実は、中国の研究者から06年のときにすでに所得倍増計画の実現が提言された。当時の日中関係は小泉元総理の靖国神社参拝をきっかけに悪化していた。そこで所得倍増計画を発表すれば、かつて日本の池田内閣が実施した所得倍増計画を彷彿とさせ、胡錦濤政権の指導部は日本を単純に真似するなど若者からの批判を恐れ、所得倍増計画を政策目標として採用しなかった。
  • 無論、今の日中関係はあの頃に比べもっと悪い。しかしそれ以前に、国内では胡錦濤政権に対する批判が強い。これまでの10年間、確かに経済成長は実現したが、それは現政権の努力によるものというよりも、これまでの政権の努力による部分が大きい。WTO加盟は朱鎔基前首相の時代に実現したもので、北京五輪と上海万博も江沢民政権の時代に誘致に成功したものである。いわば、胡錦濤政権はほとんど何もしなくても経済成長ができたラッキーな政権だった。
  • それよりも、国民の大多数を占める低所得層において、経済成長が実現しても、その果実を享受できず、生活はかなり苦しくなっている。たとえば、住宅価格がますます上昇し高根の花になっている。一方、共産党幹部の腐敗はますます横行している。さらに、所得格差はますます拡大する傾向にあり、政府は何も手を打っていない。
  • こうしたなかで、胡錦濤政権は自らの花道として国民に所得倍増計画を約束した。それが実現すれば、自らの業績になり、実現しなければ、次期習近平政権の責任になる。無論、この所得倍増計画が実現する可能性は大きい。

パイの拡大よりも所得分配の公正化

  • しかし、国民所得を2倍に拡大させても、それを国民の間で公正に分配することができなければ、中国社会は安定しない。この点にこそ中国の国民は習近平政権に対して期待をし、一方で政権にとっては試練となっている。
  • 胡錦濤政権下、民主主義への政治改革の必要性が繰り返して強調されたが、改革そのものは10年間まったく着手されず、先送りされてきた。このままの状態で、中国の政治が持続していけるかどうか問われると、その答えは明らかにノーである。現在の中国で共産党への求心力はかつてないほど低下している。習近平政権下で政治改革をこれ以上先送りすれば、共産党政権の存続そのものは難しくなる。換言すれば、民主主義の政治改革を断行することについて人々は習近平政権に対して期待すると同時に心配している。
  • 習近平新政権の顔ぶれはすでに明らかになっている。習近平党総書記は記者会見で自らの所信について国民が経済成長の果実を享受し、より幸せな生活を送ることこそ自分の使命と豪語した。習近平は党の総書記に就任したが、政権交替はこれで終わったわけではない。来年の3月の全人代で国家主席に選任されてはじめて政権交替のすべての手続きが終わることになる。
  • 胡錦濤政権に比べれば、習近平政権はそれほどラッキーな政権ではない。なぜならば、彼らは胡錦濤政権から幹部の腐敗と格差の拡大と国民の不満という負の遺産を引き継いでいる。したがって、習近平政権は政治改革と経済改革をこれ以上先送りすることができない。また、経済成長を実現するだけでも、社会は安定しない。そもそもカリスマ性がそれほど強くないといわれている習近平政権が改革を断行し、抵抗勢力を抑えるには、国民の支持を得るしかない。まさに前途多難な門出である。