GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. 中国通 >
  4. 人民元大幅切り上げの背景

人民元大幅切り上げの背景

発行日 2012年11月22日

主席研究員 柯 隆

 

中国経済先行きの不透明感が強まっている。今年第三四半期のGDP伸び率は7.4%と政府が掲げた経済成長目標の7.5%を下回っている。にもかかわらず、温家宝首相をはじめ、政策当局は沈黙を守り、新たな景気対策を実施する気配は今のところない。

景気減速と人民元大幅高の怪

  • 中国の経済成長率が急減速するなか、米ドルに対する人民元の為替相場が大きく切り上がっている。ここのところ、人民元の切り上げを求める米国からの圧力はそれほど強くない。しかも、景気減速期において輸出が難しい状況に陥っていることから人民元は大きく切り上がらないはずである。
  • 人民元の為替レジームは、主要通貨からなる通貨バスケットとの為替レートを参考に、人民銀行(中央銀行)は一日の仲値を定めることになっている。そのなかで、一日の変動幅は、インターバンク市場では、±1%であるのに対して、外為専門銀行の対顧客取引の場合は±2%である。
  • 振り返れば、人民元の対ドルレートが切り上がりはじめたのは2005年7月以降であった。具体的に1ドル=8.3元から現在の6.23元に累計33%切り上がった。とくに、今年の7月末から元の切り上げが加速し、11月12日現在まで2.6%も切り上がった。
  • しかし、なぜここで突如として人民元の切り上げが加速しているのだろうか。その背景は必ずしも明らかではない。少なくとも、このタイミングで人民元の切り上げを求める外圧が強まっていない。中国政府は国際貿易を促進する観点からここで人民元を大幅に切り上げる必要性はない。
  • 客観的にみると、中国の景気は弱含みであり、人民元はこのまま強気に推移するとは考えにくい。したがって、目下の人民元の切り上げは中国経済のファンダメンタルズに起因する動きではないといえる。中国経済の現状から考えれば、今般の元の切り上げは政府が意図する動きではなく、中国外為市場でのなんらかの変化によるものと推察される。
  • 一つの可能性として6月までに続いた為替市場の膠着状態は7月に入り、ドル安期待に変わり、企業を中心にドル資金を人民元に転換する動きが加速した。ドル安期待が強まる背景には、米国経済の先行き不安が強まったことに加え、FRBがQE3を実施したことでドル安期待がかかるようになったことがある。直近の動きについていえば、オバマ大統領が再選されてから、米株安の動きもあり、市場で漂う不安感がいっそう強まった。要するに、直近の元高はドル安によるところが大きい。

人民元先行きの展望

  • ただ、このまま元高が進行すれば、中国の国際貿易に深刻な影響を与える可能性があり、人民銀行による市場介入の可能性が高い。したがって、このまま人民元が大幅に切り上がることは考えにくい。
  • 中国の市場関係者の間で中国政府が現段階で人民元高をある程度容認しているのは元安になった場合の海外への資本逃避を防ぐためである。国内の景気が減速するなかで今年に入ってから海外への資本流出が続いているといわれている。資本流出を食い止めるために、ある程度の元高への誘導が必要と思われている。無論、行き過ぎた元高は国際貿易に悪影響を与えるため、そのバランスを取ることが重要である。
  • ここで、議論しておきたい重要な点として、人民元為替レートの水準よりも、その為替レジームの合理性である。要するに、現在の人民元の為替レートの形成は十分に市場の需給を反映しておらず、市場メカニズムの役割を必ずしも果たしていないということである。
  • 通貨の為替レートはその通貨の値段のようなものである。その水準が適正かどうかは市場メカニズムによって決まるものでなければならない。中国の人民元は人民銀行の管理下で安定して推移してきたが、グローバル経済と中国経済のダイナミックな動きを背景に、人民銀行による人民元の管理はすでに限界に来ており、そのひずみも一目瞭然である。
  • 現在、世界経済はアメリカの金融危機と欧州の債務危機により景気後退局面にあるのに対して、中国経済は減速しているとはいえ、依然7%以上の成長を続けている。1-9月期の貿易黒字は1483億ドルに上る。これも元高に振れる要因の一つかもしれない。今後、人民元の為替相場がきちんと市場メカニズムの役割を果たしていくためには、為替レジームの改革が急がれる。