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ソフトランディングに向いつつある中国経済

発行日 2012年1月20日

主席研究員 金 堅敏

 

【要旨】

  • 2011年の中国経済成長率が9.2%に鈍化した。中国国内では満足のいく結果としてポジティブに受け止めているが、海外(特に日本)では中国の経済減速ないしバブル崩壊のリスクに備えようと警戒する雰囲気である。ただ、1)中国では所得増と支出コスト低下などから民間消費需要は堅調に推移していること、2)経済過熱を抑えるため投資需要を抑制する政策を取っているが、その伸び率は2010年並みになっており、投資のGDP寄与率を1%~2%引き下げる余地さえあること、3)輸出の対GDP比率が5年間で10%も下がっていることなどから経済成長を推し進めるドライブは健在である。
  • ただし、経済運営に内外のリスクも数多く存在している。特に、不動産バブル処理に関して政策的なジレンマに直面している。現状では、不動産価格指数を徐々に低下させており、今後1~2年にかけてソフトランディングさせようとしている。また、物価の低下に伴う金融政策の余力、豊富な財政能力、金融機関の不良債権処理の加速と引き当て金額の引き上げなどで経済運営のリスクに備えている。

中国経済の減速に対する異なる内外の反応

  • 2012年1月17日に中国国家統計局は、2011年の経済成長率が9.2%になったと発表した。四半期ベースでは、第一四半期の9.7%から第四四半期の8.9%まで減速し、2009年第二四半期以来の8%台に減速した。因みに、2011年中国のGDP総額は47兆1,564億元となり、ドル換算で約7.3兆ドルに達した。
  • 経済成長と構造調整のバランスを図ってきた中国当局は、高位のインフレ率を低下させながら比較的高い成長率を実現し、政策的に期待していた範囲内(8.5%~9.0%)に誘導できたことで安堵を見せた。また、中国国内の市場関係者、投資家、メディアなども厳しい外部環境の中においても、予想以上の結果となったことで悲観的なムードからポジティブな雰囲気になり、株式市場は一日で4%以上も上昇した。
  • しかし、欧州債務危機の最中で中国経済の減速は、世界の経済成長のエンジン役として期待している各方面を落胆させてしまったようだ。また、成長の減速は、バブル崩壊のシグナルとなり中国経済はハードランディングに向かうという見方(ただ中国経済のハードランディングとは何を意味するのかを統一した判断基準は存在しない)も根強く存在する。

経済成長を推し進めるドライブは健在

  • ただ、中国当局が期待しているGDP成長率8.5%~9.0%、インフレ率4%以内というマクロ経済状況を、中国経済がソフトランディングする判断基準としたら、その方向性は見えてきている。
  • まず、GDP成長を支える国内消費需要は比較的堅調に推移している。2011年のGDP成長に対する寄与率は半分以上の51.6%(貢献度では4.8%)となっている。つまり、投資需要や純外需がゼロであっても、消費需要だけで、5%前後のGDP成長は実現可能である。踊り場になった自動車消費を除き、いずれの商品分野やサービス分野も高成長を維持している。実際、中国の旺盛な消費需要を支えているのは、収入増(2011年都市部住民の可処分所得実質8.4%増、農民純収入実質11.4%増)、消費環境の整備、社会保障システムの充実・減税・諸費用免除などのコスト減などである。
  • 次に、国内投資について、一部の分野における過熱状況を、メリハリをつけてスローダウンさせようとしているが、2011年の伸び率23.8%は、2010年並みに達している。例えば、不動産投資に対しては、投資増加率を2010年の35.2%から27.9%までに鈍化させたが、2,000年代平均の25%を超えている。また、製造業の投資も尚31.8%と高くなっている。因みに、2011年に投資需要のGDP成長寄与率は54.2%(寄与度は5.0%)になっていたので、寄与度1.0%~2.0%を引き下げていく余地は残っている。仮に、投資の寄与度が3.0%前後になっても消費需要を合わせてGDP成長率8.0%前後は達成可能となろう。欧州債務危機による輸出伸び率低下のプレシャーが投資意欲を抑制するために働くことは、中国にとってよい要素になるかもしれない。
  • 不確実性が高く、中国当局の政策が届かないのが外需である。内外の制約から中国は、輸出入バランスの実現や自国経済の対外依存を適度に下げていくことを目指している。実際、中国の輸出総額対GDP比(ドルベース)では、史上最高の35.7%(2006年)から2011年の26.0%まで低下してきており、貿易収支も2008年の2,981億ドル(対GDP比6.6%)から2011年の1,551億ドル(同2.1%)となっている。因みに、2011年に外需のGDP成長寄与率は-5.8%(寄与度-0.6%)となった。外需の不確実性がGDP成長に与える影響は明らかに低下してきている。

中国経済運営のリスク

  • しかし、経済成長の内生ドライブが健全であるとは言え、経済運営にまつわるリスクは数多く存在する。欧州債務危機の急速な悪化、イランの核疑惑をめぐる紛争の勃発による原油の高騰などの外部環境の不確実性は言うまでもなく、中国国内における不動産バブル退治の行方、地方政府の抱える債務問題、多発する社会の衝突などのリスクは海外でもよく取り上げられている。
  • 中国経済運営における最大のリスク要因は日本や米国でも経験した不動産バブルの後処理である。中国当局は、不動産価格の急騰は経済的に持続不可能であるだけでなく、低所得者からの反発による社会不安にもなりかねないリスクを内包しているので、不動産バブルを沈静化させなければならない一方、投資の約20%弱を占めている不動産業は経済成長のエンジン役にもなっているので、不動産価格を急落させてしまうと市況回復に時間がかかりすぎ、経済成長への打撃が大きい、というジレンマに直面している。中国当局の引き締め政策は、不動産価格指数を徐々に低下させており、後1~2年かけてソフトランディングさせようとしている。

経済運営のリスクに備えた中国

  • 以上で見たような経済運営のリスクが潜んでいると言え、そのヘッジ手段も中国当局は手にしている。昨年後半からの消費者物価の5ヵ月連続低下によって金融緩和政策が可能になった。また、毎年20%増を超えた豊富な財政収入はピンポイントなリスク対策も可能にした。さらに、銀行貸し出しの約19%を占めている不動産ローンの焦げ付きに備えて既存不良債権の処理(現在の不良債権比率は0.9%と低くなっている)を加速させており、不良債権引当金のカバー率も300%近く引き上げている。
  • このように、中国は、高まる内外のリスクに備えて経済をソフトランディングさせようとしており、目下のところ、着実に成果を収めつつある。