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Japan

超高圧(UHV)送電で世界をリードする中国

発行日 2011年1月14日

主席研究員 金 堅敏

 

【要旨】

  • 長距離・大容量の送電インフラが求められている中国では、2004年ごろから超高圧(UHV)送電の技術開発や商業化に取り掛かった。2009年1月~10年8月にかけて世界初の交流100万ボルトUHV試験線と、同じく世界初かつ世界最長の±800kv直流UHV送電線が運転開始された。運転の蓄積を積んだ中国は、「12次5ヵ年計画」で4万キロに及ぶUHV基幹送電網を整備する計画(投資額7兆円以上)を打ち出した。
  • 大規模なUHV基幹送電網を急ぐ中国は、当初から海外との技術交流や人材育成を仰ぎつつ、自主技術開発力や電力設備製造産業競争力の強化、つまり、市場誘導型の産業育成を狙っている。交流100万ボルト送電プロジェクトでは76%以上の設備が国内メーカーによって供給されるなど、その戦略は狙いどおりに実りつつある。UHV送電技術商業化で世界をリードする中国は海外進出を狙い始めている。技術力に長けた日本企業もシステムを輸出する中国企業の戦略から学ぶべきである。

「12次5ヵ年計画」で4万キロに及ぶ超高圧(UHV)基幹送電網を整備

  • 中国では、石炭資源の76%、水力資源の80%、これから整備される大規模な風力発電所、太陽光発電所の大部分は中西部に偏在しているが、エネルギー需要の70%以上は東部の沿岸部や中部地域に集中している。そのため、エネルギー配置は石炭輸送に過度に依存しており、石炭の輸送をめぐる問題が頻繁に発生している。このことからも、電力輸送の割合が低く、電力ネットワークがエネルギーの総合輸送システムで果たす役割が極めて不十分であることが明らかである。また、経済成長に伴う電力消費の急増はこのようなアンバランスの構造問題をより深刻化させている。さらに、エネルギー・環境の制約からより効率的でロスの少ない送電システムが求められている。因みに、2020年に中国での各地域間の長距離送電量は4億kwに達すると見込まれる。
  • 電力輸送インフラの強化、電力供給安定性の確保、効率的な電力供給体制(中国の国家電網は「統一、強固、智能電網(スマートグリード)」の整備という戦略を打ち出している)を図るため、中国では、2004年年末から長距離、大容量、つまり高効率、低ロスの超高圧(UHV)(中国語では「特高圧」という)の技術開発や実用整備に着手した。5年間の集中活動を経て2009年1月に世界初の交流100万ボルト・UHV1回線試験的送電線(山西省・湖北省間のこう長(全長)は650km、運営会社:国家電網公司)、2009年12月には世界初の±800kvのUHV直流送電網(雲南省・広東省間のこう長1,373km、運営会社:南方電網公司)、2010年7月には世界最長(四川省・上海市間のこう長1,907km)の±800kvのUHV直流送電網がそれぞれ運転開始された。
  • 以上のような超高圧送電プロジェクトの運転実績や技術の蓄積で自信を深めた国家電網公司は、2010年8月に「12次5ヵ年計画超高圧投資計画」(案)を策定し、2015年までに華北、東北、華中にUHVによる基幹送電網(交流)を完成させる計画を発表した。計画では、「三縦三横一環(南北に3本、東西に3本、環状に1本)」の形状に建設するとしている。また、2011年1月7日に中国は、第12次5ヵ年期間中(2011~2015年)に5千億元以上(7兆円以上)を投入して、「三縦三横一環」プロジェクトおよび11件のUHV直流送電線の建設プロジェクトを推し進め、UHV送電線の全長は4万kmに達し、交流と直流とがバランスよく発展する堅固で力強い送電ネットワークを形成させると伝えられた。今後5年間のUHV送電網整備の投資額は、第11次5カ年計画(2006~10年)の200億元から大幅に増額されることになった。

UHV送電技術商業化で世界をリードする中国

  • 超高圧送電網の商業化整備を急ぐ中国では、市場整備を通じて自国のUHV送電技術を高め、UHV送電設備関連の産業育成を通じて中国の電力設備製造産業の競争力強化に繋げる戦略も当初から想定されていた。高速鉄道分野で見られたように、UHV送電分野でもその戦略は狙うとおりに実現されたと言える。
  • 世界的には、ロシア、日本、アメリカなどではUHV送電の技術開発は進んでいるが、上述したように交流100万ボルトと直流±800kvの商業運転は中国が世界唯一の国である。もちろん、中国のUHV送電線整備の過程で日本、ロシア、フランスなど各国企業との技術交流、人材育成、設計面でのアドバイスを通じて前述した商業運転に寄与したと評価されよう。例えば、日本の東京電力と電力中央研究所は、UHV送電関連の技術コンサル契約を通じて人材育成や技術交流を行った。また、日本AEパワーシステムズと中国地場企業のJVを通じてガス遮断機を国家電網に納入した実績がある。スイス系のABB社から重慶でのJVを通じて±800kvの直流変圧器製品の提供を受けたという。
  • 高速鉄道と同じように、中国は、上述したUHV送電技術はあくまで世界をリードする自主開発技術であると誇っている。実際、中国は、UHV(特高圧)送電技術を『国家中長期科学技術発展計画(2006~2020年)』における重要開発技術とし、研究開発予算を優先的に配分した。5年近くの集中開発によって679件の特許申請があり、379件は登録されたという。また、100社以上の設備企業がUHV送電関連の設備開発・納入を行っている。前述した交流100万ボルト送電プロジェクトでは76%以上の設備は国内メーカーによって供給された。このような中国の産業育成政策は、日本のもっぱら技術指向型産業政策とは異なり、市場誘導型の産業育成政策と言えよう。

「走出去」戦略に新たなケースとなる

  • 中国の高度経済成長を背景に世界第8位(「Fortune Global 500」ランキング)の巨大企業で、世界唯一かつ最高レベルのUHV送電技術商業化の経験を手に入れた国家電網公司は、豊富なキャッシューフローと技術力をミックスさせ、中国の「走出去」戦略(企業の国際化)の担い手として動き出している。2007年12月におけるフィリピン国家電網の経営権の取得に続き、2010年12月にブラジルにおいても送電会社の買収や送電網経営権の獲得に成功した。これからは、インドや南アフリカ、ひいては老朽化が深刻で国土の広い米国への上陸も視野に入れている。技術力に長けている日本のサービス企業もシステムを売るという中国企業のビジネスモデルから学ぶべきである。