GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. 技術力で世界トップを猛追する中国

技術力で世界トップを猛追する中国

発行日 2011年1月7日

主席研究員 金 堅敏

 

【要旨】

  • 世界スーパーコンピュータ技術、高速鉄道技術、国際主要科学技術論文などの分野で中国の科学技術力が急速に台頭してきている。しかし、要素技術、キーデバイスの欠如や技術論文の引用率の低さから中国の技術力に対する評価が分かれる。また、政府主導の自主革新政策についても失敗例が多く経済発展と同じように技術革新分野でも台頭するのかと疑問する声も聞かれる。
  • しかし、「コピー天国」という汚名の返上や低コストの優位性による経済成長の限界の克服を急がせ、技術革新志向の国づくりに向けて戦略転換を図ることは明らかである。R&D支出の年平均成長率は23%に達し世界有数の支出国になったこと、R&D支出額の70%以上が企業によるもので企業主体のイノベーションシステムが出来上がっていること、R&D要員数が世界最大規模になっていること、などから中国による世界技術革新への貢献は期待できる。

科学技術分野で躍進する中国への評価は分かれる

  • 2010年11月に発表された世界スーパーコンピュータのランキングで中国国防科学技術大学の「天河1号A」が中国初のトップになったことで世界は中国の科学技術力の台頭に驚いた。他方、世界一の計算速度をもたらしたのは、7168基のNVIDIA製「Tesla M2050」GPUと1万4336基のIntel「Xeon」CPUを組み合わせてはじめて実現できたことで、米国技術への依存も明らかになった。
  • また、2010年12月に中国の高速鉄道「和諧号」CRH380Aは運営試験テストで時速486.1キロという世界最高運営試験テスト速度に達した。現在、中国高速鉄道の運営総延長は7,531キロ(2010年11月末現在)、最高運営速度は時速350キロでいずれも世界最高レベルに達している。中国は、自国の「高鉄技術」を、海外技術をベースにしつつも新たに開発された重大な成果であると誇っている。しかし、海外では、中国高速鉄道の基礎技術は、日本、ドイツ、フランス、カナダから導入されており、最高速度を実現する推進システムの改善を除き、大きな技術革新はないと中国の技術革新力を疑問視する声が聞かれる。
  • さらに、世界有名な科学技術論文検索ツールであるSCI(Science Citation Index)、ISTP(Index to Scientific & Technical Proceedings)、EI(Engineering Index)に収録される中国の論文数は2000年の第8位、第8位、第3位から2008年の第2位、第2位、第1位に国ベースの順位を上げた。しかしながら、1998~2008年の10年間で国別論文の引用率では米国の14.28%、ドイツの11.47%、日本の9.04%に遥かに及ばず、インドと同程度の4.61%に止まっている。「量産はするが、品質は今一つ」という「チャンピオンデータ」を誇示する傾向が強いという見方もある。
  • また、政府主導の自主革新政策の推進は非効率で市場からソッポを向けられる可能性が高い。例えば、中国独自で開発された移動体通信3G技術であるW-SCDMAについて国内ではチャイナモバイルに使わせたが、海外での利用実績は皆無である。ほかにも半導体チップ、OSソフト等の開発において巨額の研究開発予算を投入されたにもかかわらず失敗で終わった事例が存在する。実際、上述のスーパーコンピュータについても税金の無駄遣いなども批判の声が聞かれる。
  • 個々の事例については事実関係の解明を待たなければ結論を下せないが、経済成長を上回るスピードで資源を投入し、技術力で世界トップを猛追し、技術革新志向の国づくりに向けた中国の戦略転換は明らかである。

R&D支出の主役は企業となった

  • 中国政府の最新調査によると、2009年に中国のR&D支出額(GERD)は5,802億元(約850億ドル、前年同期比26%)で日本のR&D支出額の約半分ぐらいしかないが、2000~09年の平均成長率はGDP成長率の倍以上の23%に達しており、世界の主要R&D支出国となっている。また、物価水準を考慮した購買力平価(PPP)で見ると、2010年の中国のGERDは1,414億ドルで日本と並ぶ。20年後には米国と同額になる推定もある。
  • 2009年のGERD/ GDPは1.7%で2000年の0.9%より倍増した。もちろん、これは、日本(3.44%、2007年)の約半分しかないが、2010年には2%、2020年には2.5%という先進国平均のレベルを目指して投入を拡大させている。また、世界的に注目されているインドのGERD/GDPは0.88%で2000年の0.81%からわずかに上昇したのと比べても、中国の技術革新志向戦略は骨太であると言える。
  • 2008年に中国のGERDにおける企業、政府の支出の割合は72%と24%であった。企業が技術革新の主役となっている。中国における技術革新の政府主導とは政策面においては正しいが、技術開発の支出面において政府はすでに脇役になっている。例えば、インドのR&D支出における政府の比率は70%前後となっており、企業を技術革新の主役に引き出した中国の政策は評価されよう。

R&D研究要員は世界トップになった

  • 2009年に中国のR&D要員は229.1万人(フルタイム換算値)になり、世界最大規模の要員数となった。実際、2007年の時点で中国のR&D要員は142万人あまりに達し、米国とEUと同程度で、それぞれ世界R&D要員数の約20%を占めた。因みに、日本とインドのR&D要員はそれぞれ約71万人と15.5万人(2007年)であった。
  • また、中国の人口100万人当たりのR&D要員数(2007年)は、1,071人で世界平均の1,081人を下まわり、日本の5,573人、米国の4,663人、EUの2,936人には及ばない。そこで、中国は、2008年からの5年間で世界トップレベルの研究者2,000名を、2011年から5年間で中堅研究者2,000名を厚遇で誘致する「国際人材活用戦略」を実施している。
  • このように、自主開発へのこだわりや中国の科学技術分野での著しい進歩は、「コピー天国」という汚名の返上や、技術革新に依らなければ高度経済成長が持続不可能な状況になったことからの危機感によってもたらされたものである。成果を上げつつある中国には単に経済成長のエンジンに止まらず、技術革新においても世界への貢献を期待したいのである。