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中国の「第12次5ヵ年計画」提案を読む(後篇)

発行日 2010年11月12日

主席研究員 金 堅敏

 

【要旨】

  • 中国の新5ヵ年計画提案に明示された目標には「安定的で比較的高い経済発展の実現」、「経済構造の戦略的調整が著しい進展を遂げること」、「都市と農村住民の収入が全体的に比較的速いペースで増加する」、「社会的なソフトインフラ整備の著しい強化」、「改革開放のさらなる深化」の五つが挙げられている。具体的な数字目標は提示されていない。
  • 目標を達成するためには、1)内需拡大、2)農業近代化の推進、3)近代的産業システムの発展と産業競争力の向上、4)均衡のとれた地域(国土)開発、5)資源節約・環境保護型社会への転換、6)「科学教育立国」と「人材強国」戦略の実施、7)社会事業建設の推進と基礎公共サービスシステムの整備、8)文化大発展の推進、9)社会主義市場経済体制の精緻化、10)互恵的開放戦略の実施の任務が明示されている。戦略的新興産業の育成、環境税導入等、新たな政策手段も提起した。全体的に新5ヵ年計画では内政問題が中心となる。

「第12次5ヵ年計画」提案で掲げた目標

  • 前篇で述べたように、中国当局は「第11次5ヵ年計画」の実施状況や国内外の経済社会環境に鑑み、新5ヶ年計画では以下の五つの目標を掲げて取り組む方針である。
  1. 「安定的で比較的高い経済発展の実現」
    経済成長の目標設定については、「第11次5ヵ年計画」の提案で提示したGDP成長率や省エネ・環境などのような具体的な数字目標は明示されていない。これは、これまでの5ヵ年計画で定めた目標はいずれも大幅に前倒しで実現されている自信の表れと経済成長目標の追求よりも「不協調、不均衡、持続不可能」という経済社会の構造問題の解決による経済社会発展の「質」を求めることに政策の重点が置かれるからであろう。
  2. 「経済構造の戦略的調整が著しい進展を遂げること」
    ここでは、経済構造調整政策を通じて不均衡な構造を直すとともに消費主導による内需型の経済成長を目指している。GDPに対する個人消費割合の上昇、サービス業の比率や都市化率の向上、都市部と農村部の協調した発展を図っていくとともに、全要素生産性の向上、省エネ経済構造の追及や汚染物質の大幅削減、生態環境の保全などが提示されている。
  3. 「都市と農村住民の収入が全体的に比較的速いペースで増加する」
    GDPに対する消費率の向上などによる内需型経済成長を実現するためには住民の所得向上が欠かせない。また、住民の所得向上は「国富」から「民富」への転換という社会的な強い要請に答える政策にもなる。第11次5ヵ年計画では住民の可処分所得(純収入)の伸び率は経済成長率よりも2.5%低く設定されたが、新5ヵ年計画提案は一石二鳥の政策効果を狙って「都市と農村住民の収入が全体的に比較的速いペースで増加する」という目標を掲げている。具体的には、住民の所得増加は経済成長のペースと、労働報酬の増加は生産性向上と一致させることや、低所得者の所得を著しく増加させること、ミドルクラスを持続的に拡大させることなどが目指される。
  4. 「社会的なソフトインフラ整備の著しい強化」
    他方、消費率向上による内需型経済成長モデルを確立するためには、住民所得の向上とともに、社会的ソフトインフラ(社会保障、医療システム、教育システム)の整備が欠かせない。新5ヵ年計画提案では、すべての国民をカバーする公共サービスシステムの整備、住民教育レベルの向上、国民権利の保護などの民生問題の解決が重視されている。
  5. 「改革開放のさらなる深化」
    改革の深化については経済分野が重点となり、財政・税制・金融、価格体制、独占業種及び行政機能の改革などは言及されたが、海外の注目する政治システム改革への直接言及はなかった。対外政策は軽く触れる程度で、新5ヵ年計画では内政問題が中心となろう。

政策目標を実現する任務と政策手段

  • 上述した目標を実現するために、以下のような10の任務が提示されているが、「第11次5ヵ年計画」を踏襲したものもあれば、いくつかの新たな政策手段も提起されている。
  1. 内需拡大
  2. 農業近代化の推進
  3. 近代的産業システムの発展と産業コア競争力の向上
    戦略的新興産業(次世代IT産業、省エネエコロジー産業、新エネルギー産業、バイオ産業、ハイエンド設備製造業、新材料産業、新エネルギー自動車産業の7つの産業を指す)の育成は産業政策の重点と位置付けられている。
  4. 均衡のとれた地域(国土)開発
    西部大開発は新5ヵ年計画においても最重要な地域開発戦略としている。
  5. 資源節約・環境保護型社会への転換
    基本的に「第11次5ヵ年計画」の政策を踏襲したが、GDP当たりの二酸化炭素(CO2)排出量削減を拘束力のある指標にするとともに、炭素税の導入を明記した。
  6. 「科学教育立国」と「人材強国」戦略の実施
  7. 社会事業建設の推進と基礎公共サービスシステムの整備
    労働争議を処理する制度の整備、分配における公平さの実現、社会保障制度の拡充、末端医療システムの整備、社会的紛争の予防と解決メカニズムの確立などが挙げられている。これまで活動の中心とされていなかった社会事業の建設は新5ヵ年計画の重点となる。
  8. 文化大発展の推進
    文化体制の革新や文化産業の育成(国民経済の基幹産業へ)に取り組む。文化事業の「走出去」(国際化)戦略も実施される。
  9. 社会主義市場経済体制の精緻化
    基本的には経済体制改革を中心とする政策を踏襲して、精緻化する。近年議論を博した不動産税についてもその推進を研究するに止まっている。
  10. 互恵的でウィン・ウィンの開放戦略の実施