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中国経済四半期報告(2012年第3四半期)

主席研究員 柯 隆
上級研究員 趙 瑋琳

 

1. 景気動向

2012年に入り、中国経済は減速の一途を辿っている。実質GDP伸び率をみると、第1四半期は8.1%、第2四半期は7.6%、第3四半期は7.4%と減速している(図1参照)。中国政府の公式見解として景気が減速しているのはアメリカの金融危機とユーロ圏の債務危機の影響によるものといわれている。しかし、1-9月の貿易黒字は1,483億ドルに達し、前年同期比39.1%増加した。貿易統計をみるかぎり、外需が中国経済の足を引っ張っているとはいえない。

確かにアメリカの金融危機とユーロ圏の債務危機により、外需は弱くなっているが、中国の輸出製造業にとり、今のところ深刻な影響は出ていないようだ。なぜならば、欧米諸国では、購買力の低下により安い中国製品の売れ行きは逆によくなっている。このことは中国の貿易黒字は前年同期比大きく増えた背景である。

では、なぜ景気が減速するようになったのだろうか。

それは外需の問題ではなく、内需に問題があった。一つは景気循環によるものであり、もう一つは政策の失敗があった。

図1 実質GDP成長率と三次産業の伸び率(前年比、%)

資料:CEICデータをもとに作成

まず、景気循環論からみれば、中国経済は2008年の北京オリンピックと2010年の上海万博の特需により、2007年11.4%、08年9.0%、09年8.7%、10年10.3%と高い成長が続いていた。万博が成功裏に開催されたのをピークに、国際イベントの特需が終わるにつれ、経済成長率は次第に減速するようになった。ただ、09年のリーマンショックとそれ以降のユーロ圏の債務危機により景気がさらに押し下げられる恐れがあった。

そこで政策当局は景気減速の可能性を過大に判断して09年と10年の2年間、4兆元の財政出動を拙速に実施した。しかも、公共工事を中心とするこれらの景気刺激策は不透明ななかで実施されたため、受注した国有企業は一部の資金を住宅不動産の開発に投じるなど財テクを行った。これは10年以降の不動産バブルの主因だったといわれている。

図2 マネーサプライと商業銀行貸出の伸び率(前年同期比、%)

資料:CEICデータをもとに作成

11年に入り、住宅バブルをコントロールするため、政策当局は商業銀行に対して不動産関連の融資を停止するよう要請した。国有銀行を中心とする商業銀行の貸出は大きく減少した(図2参照)。この動きこそ12年の景気減速の主因と思われる。本来ならば、景気変動を調整するには、金利政策などの金融政策を実施すべきだが、これまでの3年余り、金利が調整されたのは12年7月の2回のみだった。

ちなみに、12年第3四半期の経済成長率は7.4%であり、政府が設定した7.5%の成長目標を下回った。このままいくと、景気はハードランディングする可能性が出てくると思われる。しかし、実際は、景気が第3四半期に底打ちしたようだ。

2. トピックス

(1)住宅市場動向

景気は第3四半期に底入れし、第4四半期に入ってから、回復傾向を示している。その一つの動きとして全国70主要都市のうち、半分にあたる35都市では、住宅価格は上昇に転じている。なぜ景気は底入れしたのだろうか。

繰り返しになるが、2012年に入ってから連続9か月間、景気が減速しているのは流動性がコントロールされているからである。国務院は住宅バブルをコントロールするために、商業銀行の新規貸出を抑制した。その結果、新規の住宅取引は急速に減少し、住宅価格は上昇が止まったのである。

問題は、不動産関連の土地売買の売り上げを財源にしている地方政府は財源不足に陥ったことにある。

10月に入ると、中国の政治は政権交替ムードになり、温家宝首相の指導力が低下するとみられ、そこで地方政府は財源を確保するため、不動産開発のデベロッパと手を組んで新たな不動産開発に取り組んでいる。すなわち、予想されうる政治空白は景気が底入れするきっかけだったのである。ただ、このような景気の底入れは持続していけるかどうかについて依然不透明である。2013年3月、習近平新政権が誕生する予定だが、どのような政策を実施するかは注目を集めると思われる。

(2)習近平政権と中国の行方

現実的に考えれば、あらゆる改革は短期的にプラスサムゲームになりえず、ほとんどの場合はゼロサムゲームかマイナスサムゲームになる。改革される分野やグループは必ずといっていいほど改革に反対してくる。また、改革される分野やグループは往々にして現状では既得権益を得ているため、その抵抗ぶりは想像以上に激しいものになるだろう。

ここでの懸念は、習近平政権は難しい政治改革を成し遂げることができるかどうかにある。習近平自身は国家副主席に選出されてからほとんど目立った業績を上げておらず、その政治手腕は依然未知数である。また、習近平新政権のチームワークの強さは明らかではない。ただ、一つだけいえるのはこれまでの江沢民政権や胡錦濤政権に比べ、習近平政権のカリスマ性はさらに弱くなる可能性が高い。

指導者にとっての政治運営は車の運転に喩えることができる。かつて、毛沢東の時代は、毛沢東の絶大なカリスマ性のもとで毛沢東自身がハンドルを握るようなものだった。同様に、鄧小平の時代も鄧小平自身は他の政治家の影響をほとんど受けず、自ら運転していた。しかし、江沢民の時代に入り、その前半(1997年鄧小平死去までの間)江沢民は鄧小平の影響を受けながら運転せざるを得なかった。ただ、江沢民政権の後半(1998年―2002年)は彼一人で運転することができた。それに対して、胡錦濤の時代において、終始胡錦濤と江沢民の二人で運転してきた。この点は改革を妨げる原因の一つである。

では、これからの習近平の時代はどうなるだろうか。当面は、習近平、胡錦濤と江沢民の三人で運転することになる。ハンドルこそ習近平が握るが、両脇に胡錦濤と江沢民が座り右折や左折など口うるさく指導が入る。このような政権運営では思い切った政治改革を断行するどころか、日常的な政治すらままならないかもしれない。

最後に、習近平政権と中国の行方を展望すれば、経済こそ成長を続けるだろうが、政治は前途多難の一言である。政治改革が前進しなければ、逆に経済成長の妨げになると予想される。

(3)習近平政権下の日中関係の行方

国家の指導者として習近平総書記は胡錦濤前総書記に比べ、いくぶん国際的であり、国際感覚を持っているといわれている。しかも、若いころ、6年間も都市部に戻れるかどうかが分からないなかで、辺鄙の農山村へ下放させられ、農作業に従事した。こうした経験は今日の習近平総書記にとり貴重な財産であるはずだ。

日本との関係でいえば、国家副主席に就任してからいち早く日本を訪問し、日本重視の姿勢といえる。ただし、当時、民主党政権は国家元首でない習近平国家副主席と天皇陛下との会見を実現させたが、それに対して、日本の野党を中心に批判が相次いだ。いわば、少々後味の悪い訪日だったはずである。

全般的にみて、習近平政権にとり日本との関係を重視しない選択肢はない。ただし、これまで江沢民政権と胡錦濤政権の下で日本との関係について靖国神社参拝や歴史認識を巡り対立し、今般、尖閣諸島の領有権をめぐり争いが激しくなっている。こうした難局を一気に改善することは難しく、結局のところ、徐々にソフトランディングを図っていくしかない。

時系列で日中関係をみれば、90年代半ばまでは、相互補完の関係だった。それ以降、歴史認識の違いをめぐり対立が激しくなり、最近は利益をめぐる対立に変わりつつある。歴史認識の違いが問題だった時代、日中双方の専門家による歴史の再検証が行われた。利益をめぐる対立を解消する唯一の方法は、共通の利益を見出すことである。すなわち、日中は同床異夢の関係から呉越同舟の関係に変えていかなければならないということである。

そのなかで、尖閣諸島の領有権問題は簡単には決着しないと思われる。日中にとってこの海域はいわば地雷のようなものであり、誰が触っても爆発する可能性がある。尖閣危機を回避するために、棚上げ論が再び提案されているが、筆者からみると、尖閣諸島の議論の棚上げが重要だが、それを担保する枠組みが必要である。すなわち、尖閣諸島の紛争を棚上げするために、日中両国政府はそれに関する覚書を交わし、当該海域を立ち入り禁止海域に設定すべきである。この目標を実現するのは、習近平政権と日本の次期政権の責務といえる。

(4)日中経済関係

尖閣諸島の領有権を巡る日中両国の対立は激しい反日デモに発展し、その一部は暴徒化し、在中国の日系スーパーやレストランと工場が放火されるなど大きな被害を被った。デモのなかで若者の一部は日本製品のボイコットを叫び、現在、中国で車などの日本製品を敬遠する動きが出ているといわれている。9月日系自動車メーカーの販売台数は前年同期比軒並み40%前後減少した。

日本にとって中国は最大の輸出先である。また、中国には約2万5000社の日系企業が設立されている。日本経済と日本企業の対中依存度は予想以上に強くなっている。中国との貿易関係と中国でのビジネスが悪化していることは日本企業にとり死活問題ほどではないが、大きなダメージであることは間違いない。

ただし、ここで過度に悲観する必要はない。というのは中国の消費者が日本製品の品質が悪いからそれを敬遠しているわけではないからである。反日ムードは少し時間が経てば、下火になる。否、実際に尖閣問題をきっかけに日本について不快感を持ち、日本製品を自らボイコットする中国人はごくわずかであるはずだ。デモのとき、日本製品のボイコットを叫んでいた若者のほとんどは日本製品を買うお金を持っていないものばかりである。

無論、日本企業側も考えなければならない点が多い。これまで、日本企業のなかで品質の良い日本製品を中国に持っていけば新興国の中国できっと売れるだろうという間違った考えがあった。日本企業以外の外資企業が進出していなければ、その理屈が成り立つかもしれないが、実際には、車でいえば、ドイツメーカー、アメリカメーカーと韓国メーカーはいずれも進出している。その結果、デモが起きる前から、日本メーカーの販売台数は伸び悩んでいた。

そして、考えなければならないのはいかに製品を売るのか、というセールス戦略のことである。これまで日本企業はモノづくりに重点を置いてきた。それは依然として重要だが、同時にもう一つの軸として売り方を再考し強化する必要がある。そして、過去20年間、日本企業のブランドイメージが大きく低下しているのも問題である。

日本経済の景気後退を受け、日本企業は軒並み広告費を削減している。また、日本企業において研究開発費の削減により、基礎研究から応用研究に軸足がシフトされている。さらに、製品の設計を重視するあまり、デザインを軽視する傾向がみられる。その結果、日本企業は製品の性能を大事にする反面、そのブランドイメージを粗末にしている。

グローバル競争が激化している今の時代において、優れた製品は優れた性能を備えるだけではなく、優れたデザイン、強いブランドイメージと消費者にとっての高いステータスが求められている。これらの諸要件のなかで日本企業は自社製品の性能だけこつこつと高めているが、それ以外の要件は備えていない。

日本企業にとって今回の尖閣危機はその投資戦略を再考し強化するチャンスと捉えるべきである。繰り返しになるが、中国の消費者は日本製品をボイコットしているのがその一部である。ここで重要なのは中国の消費者から信頼を取り戻すことである。そのために、販売戦略を強化するとともに、アフターケアなどのサービスを強化する必要がある。そして、広告戦略の強化も求められている。振り返れば、日本企業が中国に進出しはじめたのは1980年代だった。長い紆余曲折を経てここに来てようやく花が咲き、もうじき実る季節になる。中国のカントリーリスクを強化しながら、投資戦略の強化に気合をいれるべきである。

別表 中国経済主要指標(2006~2012年)

単位2006200720082009201020112012.1-10
実質GDP成長率前年比、%10.711.49.08.710.39.27.7
第1次産業5.33.75.54.24.34.34.2
第2次産業12.513.49.39.512.210.38.1
第3次産業10.311.49.58.99.59.47.9
固定資本形成25.924.825.530.123.823.620.7
不動産投資25.430.220.919.933.227.916.7
小売総額13.716.821.615.518.417.114.2
輸出入総額23.823.517.8-13.934.722.56.3
輸出27.225.717.2-16.031.320.37.8
輸入20.020.818.5-11.238.724.94.6
貿易収支億ドル1,7752,6222,9551,9611,8311,5491,802
直接投資契約金額前年比、%2.11..623.6-2.617.49.7-3.45
外貨準備10億ドル1,6601,3301,9502,3992,6483,1813,285
消費者物価上昇率前年比、%1.94.85.9-0.73.35.42.7
マネーサプライM216.016.717.827.719.713.613.9
実質収入:農村住民10.49.515.08.510.917.912.3
都市住民7.412.214.59.87.814.19.8
都市部登録失業率%4.34.34.24.34.34.14.1

注: (1) 都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。(2) 2012年度の実質GDP成長率(第1、2、3次産業)は9月までのデータである。(3) 2012年度の直接投資実行金額と輸出入総額(輸出、輸入、貿易収支)は1~10月のデータである。(4) 2012年度の外資準備は9月までのデータである。(5) 2012年度の実質収入と都市部登録失業率は9月までのデータである。
資料: 中国国家統計局、中国商務部、中国人民銀行、中国人力資源社会保障部