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中国経済四半期報告(2010年第1四半期)

2010年の経済運営の課題

主席研究員 柯 隆

 

1. 景気動向

中国経済は第1四半期の11.9%から第2四半期の10.3%へとやや減速している。その原因は主としてギリシア危機によって欧州市場が低迷し、輸出が縮小したことにある。リーマンショック以降、中国政府は「家電下郷」など農民による家電購入に対する補助金支給等種々の消費刺激策をとっているが、輸出鈍化の穴を埋めることができないでいる。

一方、主要都市では、不動産市場でバブルが起きている。不動産バブルを抑制するために、住宅ローンが抑制されている。その結果、住宅価格の伸びこそ減速しているが、依然として10%ぐらいの伸び率になっている。こうした状況下で中央銀行はいかなる金融政策をとるべきかについて深く悩んでいるようだ。

周小川人民銀行行長(総裁)は下期の政策トレンドについて適度な金融緩和を続けるとしている。要するに、金融政策について大きな方向転換はしないということのようだ。否、そもそも人民銀行は臨機応変に政策をとる手段をもはや持ち合わせていない。

輸出製造業へのダメージを懸念して人民元為替相場の調整を慎重に行わざるを得ない。その結果、人民元金利を景気変動に応じて調節することもできない。何よりも状況を難しくしたのは、消費者物価指数が少しずつ上昇していることだ。7月のCPIは3.3%に上昇し、それに対して、2%半ばの預金金利は実質的にマイナスとなる。

現状を総括すれば、ここで金融政策によって安定した成長を目指すのはもはや不可能である。中央銀行の役割という原点に立ち返れば、通貨の安定を維持すればよい。市場を開放した以上、自国通貨の為替相場を固定化することはそもそも無理な注文である。他方、消費を刺激するならば、低所得層家計の可処分所得を増やす必要がある。そのために、労働分配率(労働報酬の合計÷GNI)を現在の40%程度から55%ぐらいに引き上げる必要がある。

最後に、中国経済は従来の低賃金の成長モデルが限界に来ている。賃金を低く抑制することは労働者が経済成長の果実を享受できないことを意味する。これから中国経済は産業構造高度化の段階に突入する。この新たな動きは経済成長の必然の結果であるが、中国政府はそれを好意的に受け止めていないようだ。しかし、それを阻止しようとすれば、中国経済の構造上の歪みはますます拡大してしまう。

2. トピックス

(イ)新たな段階に入る中国経済

「改革・開放」政策は始まった時点から計算すれば、すでに30年経過した。この間、経済成長率(実質GDP伸び率)は年平均10%に達し、一人当たりGDPは4000ドル近くまで拡大した。中国はサミットなどの場において自らが途上国であることを強調するが、実際は限りなく中進国に近づいている。

問題は、実体経済の発展に比べ、産業構造の転換が大幅に遅れていることにある。振り返れば、これまでの経済成長は輸出製造業の振興によって実現されたものである。短期的にみて際限ない労働力の供給は中国経済成長の原動力の一つだった。労働力の供給は豊富だったため、過去15年間、労働者の賃金水準はわずかしか上昇しなかった。極論的にいえば、これまでの経済成長は労働者に対する搾取のプロセスだったといって過言ではない。

一方、経済は成長しているが、中国の通貨人民元の為替レートはドルにペッグしていた。2005年7月、先進国からの切り上げ圧力に屈した形で少し(2.1%)切り上げられ、08年まで累計で18%切り上がった。それ以降、欧米から圧力が弱まったこともあり、人民元は再びドルにペッグするようになった。

中国という国としては、08年2955億ドル、09年1961億ドルとそれぞれ巨額の貿易黒字を実現しているが、通貨と人件費のいずれも抑えられる現状において労働者は経済成長の果実を享受することはできない。確かに、中国は巨額の貿易黒字を実現しているが、それに含まれる利益はそれほど大きくない。とくに、半導体などハイテク産業の輸出額の65%は外資系企業によるものであり、地場企業は主として労働集約型産業に属し、委託加工などEMS生産が多い。

産業組織論的に考えれば、経済成長とともに、産業構造が徐々に高度化していく。すなわち、産業構造は低付加価値産業から中付加価値、さらに、高付加価値産業へとシフトする。為替のペッグ制の維持と人件費の抑制は一時的に輸出競争力を維持することができるが、いずれ効果が失われるものと思われる。

最近、アップル社のiPod部品をEMS生産する台湾系企業フォックスコン(富士康)では、労働者の自殺が相次ぎ、社会問題になっている。原因は、長時間単純労働にあるといわれている。そして、ホンダやブラザーなどの日系企業では、労働者のストライキにより、生産停止に追い込まれた。

本来ならば、中国の治安条例では、労働者によるストライキが禁止されている。日系企業では、ストライキが連続して発生しているというのは中国の歴史にも残る出来事といえる。ストライキが禁止されている中国では、労働者は自らの利益を守る手段が付与されていない。今回は、日系企業で起きたストライキだからこそ、政府も武力で鎮圧できない。このままでは、ストライキは国内企業にも飛び火する可能性が高い。

労働者に対する搾取によって経済成長を実現する従来の成長モデルはもはや機能しなくなった。新たなストライキを警戒して、多くの地方政府は最低賃金法を改定して、労働分配率を引き上げる努力をしている。

しかし、賃金水準は政府によって決まるものではなく、市場の需給、すなわち、労使双方の交渉によって決まるものである。中長期的にみると、今回のストライキは中国における産業構造高度化に向けた重要な一歩といえる。外資系企業はこれまで中国の安い労働力を目当てに中国に進出しているとすれば、これからはこうした投資をアジア全域に分散すべきである。中国の魅力は廉価な労働力ではなく、その市場の大きさにある。外資系企業にとっても新たな投資戦略の再構築が求められている。

(ロ)第12次5ヵ年計画の内容

中国では、2011年から始まる第12次5ヵ年計画が作成され、最終段階に入っている。というのも秋に開かれる党大会で審議されるため、その前に、骨格を固める必要がある。

実際の計画作りは秘密裏に進められており、詳細は明らかになっていないが、中国経済が抱える種々の課題を踏まえて考えれば、第12次5ヵ年計画のおおよそのピクチャーがみえてくる。

第1に、経済構造と産業構造の転換である。江沢民・朱鎔基政権の時代からいわれてきた構造転換はいまだ進んでいない。実際に、第11次5ヵ年計画(2006-2010年)では、同期間中GDP比のエネルギー消費量を20%削減することを目標に掲げていた。また、経済成長のパターンは資源投入を軸とする「粗放型」成長から効率化を軸とする「集約型」成長に転換するとしていた。第11次5ヵ年計画で実現できなかった当該目標は引き続き第12次5ヵ年計画の目標になるだろう。

第2に、新たな成長目標の明確化である。14億人の巨大人口を抱える中国は社会の安定を保ち、成長を持続するには、目標とビジョンが必要である。期間中の成長目標について、「所得倍増計画」が掲げられることになる。

第3に、格差の縮小である。これには二つの側面がある。一つは地域格差を縮小していかなければならない。そのために、再び西部開発など公共工事の増額が予想される。もう一つは所得格差の縮小である。そのために、最低賃金を引き上げるなど労働分配率の上昇が図られる。

第4に、新産業と新技術の育成である。これについてエコ産業を軸に、新エネルギーの開発と省エネ技術の開発が中心になる。政府は計5兆元もの資金を投じ、研究・開発を促進していく考えのようだ。

それ以外に、環境保全への取り組みなども引き続き努力することになるが、大きな方向性として、胡錦濤政権が提示している「和諧社会」(調和の取れた社会)作りが主軸となる。具体的に、人間同士の和諧と人間と自然環境の和諧が重要な謳い文句となる。

問題は、胡錦濤政権にとり残りは2年程度であり、これらの目標の実現は次期政権に委ねられることになる。また、今年で終わる第11次5ヵ年計画の総括も不可欠である。計画とおりに実現した目標と達成しなかった目標およびその責任の所在を明らかにしておく必要がある。

実は、上海万博が終われば、中国経済は新たな段階に入るとみられる。すなわち、安い人民元と低い人件費を背景とする高い経済成長という従来のパターンは終焉に向かい、人民元の切り上げと人件費の上昇の下で成長を持続していかなければならなくなる。

また、世界の景気もいずれ上向くと思われ、それによって資源価格も上昇するようになる。すでに鉄鉱石などの資源価格は大きく上昇している。IEAによると、09年に中国は米国を追い抜いて世界一の資源消費国になったといわれている。

これまで、中国国内で省エネが提起されたのは、単なる理想だったように思われる。しかし、これからは省エネが理想ではなく、必ず実現しなければならない目標になる。種々の側面からみて、中国経済が持続可能な成長を目指すには、技術のレベルアップと産業構造の高度化が先決条件になる。

(ハ)危険水域にある上海株式市場

今年に入ってから、上海株式市場総合指数は3割近く下落し、7月6日現在、2409ポイントにまで落ちた。ちなみに、07年ピーク時の同指数は6170ポイントだった。中国経済のファンダメンタルズが悪化していないにもかかわらず、なぜ上海株式市場はこんなに急落したのだろうか。これまで専門家からも納得のいく説明がなされていない。

そもそも株式市場の動向は景気のメルクマール(判断基準)といわれている。この考え方からすれば、現在の中国経済は順調に成長していても、投資家はその先の景気動向を捉え、中国経済について悲観的にみているかもしれない。

現状において株価指数が暴落した背景について次の諸点が考えられる。一つは、ポスト万博の中国経済に関する悲観的な見方が優勢になっているかもしれない。もう一つは、政府が実施している不動産バブル引締め政策が株式市場に影響を及ぼしていることである。さらに、株式市場の欠陥を背景に、個人投資家を中心に株式市場離れが進んでいる。

健全な株式市場は透明性を確保しなければならない。しかし、現状において株式市場で上場している企業の大半は国有関連企業であり、その情報開示はきわめて不十分である。市場プレーヤーをみても、大口投資家を優遇する風潮が支配的であり、インサイダー取引も日常茶飯事のようだ。

国務院発展研究中心の研究員呉敬蓮氏は「中国の株式市場はギャンブルそのものだ」と指摘している。やや極論すぎるかもしれないが、問題の所在を的確に指摘している。

株式市場の暴落は実体経済にどのような影響を及ぼすのだろうか。まずは、家計のバランスシートが壊れ、そのマイナスの所得効果により消費が抑制され、デフレが進行する恐れがある。そして、企業のバランスシートが壊れる。株式市場で資金を調達する企業と株式市場で財テクを行う企業のいずれも流動性不足に陥る恐れがあり、その結果、企業の設備投資は大きく落ち込むことになる。さらに、商業銀行のバランスシートが壊れる。企業に対する融資の一部は財テクの失敗で不良債権となり、マネーサプライが途切れ、金融危機の引き金になる恐れがある。

むろん、中国では、今すぐ金融危機が起きる可能性は現実的に考えてそれほど高くない。ここで心配されるのは順調にV字型回復する中国経済が株式市場の暴落によって大きく落ち込むことである。

中国経済の発展を背景に、中国が世界の工場から世界の市場への転身が期待されている。しかし、中国経済がほんとうに世界経済をけん引する力があるかどうかについて簡単に結論をつけることができない。

メディアの報道を総括すれば、すでに上場している国有銀行3行はいっせいに増資に走っている。その背景に、自己資本不足と不良債権の急増がある。最近、中国銀行の株が大きく落ち込んだのはその一環とみるべきであろう。未上場の農業銀行は現在IPO(新株上場)を申請している。株式市況が大きく落ち込むなかであえてIPOを申請するというのは相当深刻な事情があると推測される。

こうした状況下で政策当局にとりもっとも悩ましいのは、不動産バブルを引締める政策を徹底するかどうかである。資産市場で株と不動産という二つのベクトルはまったく正反対の方向に向いている。この先、セレクティヴな政策を実施する必要があるが、実際の政策実施はそれほど簡単なことではない。

(ニ)新たな日中関係のあり方

菅民主党新代表が選出された6月4日、たまたま筆者は北京出張だった。中国の主要メディアはいっせいに菅新代表の選出を速報し、民主党新政権の対中姿勢を展望する特番が放送された。日中の相互依存関係が強まっているとはいえ、中国が対日関係をここまで重視するのは異例のことといえる。

中国の指導部にとっても一般の人民にとって隣の日本でなぜこんなに頻繁に首相が交代しているのか、不可解のようである。東アジア共同体の構築を呼びかけた鳩山前首相はなぜわずか8ヶ月で退陣をせざるを得なかったのか。要するに、日本の政治の実行力が予想以上に低下しているからであろうが、その背景は理解されていない。

中国としては、もっとも戸惑っているのはこれからどこまで日本政府と域内のことについて真剣に議論したらよいかについてである。今回、鳩山前首相の辞任はタイミングとして悪すぎる。5月31日、温家宝首相が日本を公式訪問した翌日に、鳩山前首相は辞任した。温家宝首相は内心的にはきっと首をかしげているだろう。今回、なぜ日本に行ったのだろうか、と。

問題は、民主党の菅新政権はいつまで続くかである。東アジア情勢の安定、とりわけ、朝鮮半島の問題と北東アジア経済協力などの難題を考えると、民主党の新政権は少しでも長く持続される必要がある。

中国にとってアメリカとの関係は米中戦略対話を通じて一応安定している。台湾海峡の緊張関係も台湾党内の政権交替以降、大幅に緩和されている。問題は日中関係の方向性が未だ明らかになっていないことにある。

日中両国政府は戦略的な互恵関係の構築について基本的に合意しているが、現段階でそれは中身のない抽象的なユートピアに過ぎない。というのは、日中間の懸案である東シナ海のガス田問題や領土問題などはほとんど解決の糸口はみえていない。日中は互いに相手を同盟国と見なしておらず、内心的にライバル視する向きが依然強い。とくに、国民のレベルでちょっとした「誤解」により感情的になりがちである。

メディアなどの報道を総合すれば、菅新首相自身は知中派といわれ、30年前に3000人の日本人の若者が訪中した代表団の一員でもあった。しかし、菅首相自身の知見も重要だが、民主党のなかに対中窓口の責任者がいないのは確かである。とくに、新しく幹事長に任命されている枝野前行政刷新担当大臣は中国との関係について必ずしも得意ではないといわれている。

内政的に、新政権は小沢前幹事長と多少距離を置いたほうが得策といえるかもしれないが、対中関係については、自民党旧田中派の「遺産」をフルに活用する必要がある。目下の外交日程をみると、菅新首相の初外遊は上海万博の「ジャパンディー」の行事に出席することが決まり、とりあえず中国に決まったようだ。問題は、これから日本は米中とはそれぞれどれぐらいの距離を置くかである。

日本の安全保障の重要性を考えれば、対米関係を引き続き重視していく必要があるが、対中関係の位置づけも経済面の相互依存関係の深化を考えれば、強化することがあっても、トーンダウンすることはできない。重要なのは日中双方の信頼関係の構築であり、それについて踏み込んだ議論をしていく必要がある。そのために、日中両国政府間の戦略対話が求められている。

3. 経済統計でみた中国経済

図1 実質GDP伸び率の推移

出所:中国国家統計局

図2 消費者物価指数(CPI)の推移

資料:中国国家統計局

図3 鉱工業価格指数(PPI)の推移

資料:中国国家統計局

図4 都市部固定資産投資(設備投資)伸び率の推移

資料:中国国家統計局

図5 不動産投資伸び率の推移

資料:中国国家統計局

図6 マネーサプライ(M2)の推移

資料:中国国家統計局

図7 商業銀行新規融資の推移

資料:中国国家統計局

別表 中国経済主要指標(2004~2010年1-6)

単位 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010.1-6
実質GDP成長率 前年比、% 10.1 10.4 10.7 11.4 9.0 8.7 11.1
第1次産業 6.3 5.2 5.0 3.7 5.5 4.2 3.6
第2次産業 11.1 11.4 12.5 13.4 9.3 9.5 13.2
第3次産業 8.3 9.6 10.3 11.4 9.5 8.9 9.6
固定資本形成 27.7 25.7 25.9 24.8 25.5 30.1 25.0
不動産投資 30.3 19.8 25.4 30.2 20.9 19.9 38.1
小売総額 13.3 12.9 13.7 16.8 21.6 15.5 18.2
輸出入総額 35.7 23.2 23.8 23.5 17.8 -13.9 43.1
輸出 35.4 28.4 27.2 25.7 17.2 -16.0 35.2
輸入 36.0 17.6 20.0 20.8 18.5 -11.2 52.7
貿易収支 億ドル 320 1,019 1,775 2,622 2,955 1,961 533
直接投資契約金額 前年比、% 13.3 -0.5 -2.1 13.6 23.6 -2.6 19.6
外貨準備 10億ドル 610 819 1,660 1,330 1,950 2,399 2,454
消費者物価上昇率 前年比、% 3.9 1.8 1.9 4.8 5.9 -0.7 2.6
マネーサプライM2 14.6 17.9 16.0 16.7 17.8 27.7 18.5
実質収入:農村住民 6.8 9.6 10.4 9.5 15.0 8.5 9.5
都市住民 7.7 6.2 7.4 12.2 14.5 9.8 7.5
都市部登録失業率 % 4.3 4.2 4.3 4.3 4.2 4.3 4.3

(注)都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。
(資料)中国国家統計局