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中国経済四半期報告(2009年第3四半期)

主席研究員 柯 隆

 

2010年の中国経済と資産バブル崩壊の可能性

2009年の中国経済は金融危機の影響を受けながらも、大規模の財政出動と思い切った金融緩和によって景気回復している。12月現在の試算では、09年の実質GDP伸び率は政府が掲げる8%成長を上回り、8.5%前後の成長になるとみられている。

1.輸出依存の経済成長の不安定性

中国経済は金融危機の影響を受けて成長率が07年の13%から08年の9.5%(修正値)、09年の8.5%(予測値)へと大きく減速している。その原因の一つは輸出依存の体質にある。08年の中国経済の輸出依存度(輸出÷GDP)は33%に上る(図1参照)。

振り返れば、1997年に起きたアジア通貨危機の教訓の一つは過度な対米依存の経済成長が持続不可能という点にある。それから10年経過し中国経済はまたも同じ轍を踏んでしまった。中国政府は経済成長をけん引するために、内需を刺激すると繰り返して表明してきたが、それに関する有効策が打ち出されていない。

08年11月に、金融危機のショックを緩和するために、政府は急遽4兆元(約55兆円)に上る財政出動を発表し、同時に、商業銀行に対する総量規制が解除された。金融危機に対処する緊急避難的な措置としてこのようなポリシーミックスは必要だが、問題はその効果が一過性のものであり、持続可能な成長を目指すには思い切った構造転換が必要である。

図1 高まる輸出依存度の推移

資料:中国商務部

2.デフレと資産バブルの共存

金融危機の影響の一つはそのマイナスの所得効果により家計の消費マインドを低下させることである。中国の場合、輸出不振により労働集約型製造業の一部は倒産に追い込まれ、雇用情勢が急速に悪化した。政府は農民の潜在需要を喚起するために、農民が家電や軽乗用車を購入する場合、購入代金の一部を政府が補填する「家電下郷」と「汽車下郷」という販売促進策を打ち出している。

現状において、家電や自動車などの耐久消費財に対する家計の潜在需要は十分旺盛だが、潜在需要の顕在化を妨げる要因の一つは家計の厳しい予算制約にある。中国の労働分配率(賃金の合計÷GNI)は先進国の60-70%に対してわずか43%(08年)しかない。同時に、格差が拡大している中国社会では、低所得層の潜在需要がもっとも旺盛だが、所得分配が富裕層に傾斜している。最近行ったサーベイでは、全国70%の富みは総人口の0.3%に集中している。

図2 資産バブルの源泉―商業銀行新規融資の増加(2005~09年)

資料:中国人民銀行

一方、金融危機に対処する財政政策と金融緩和政策は景気を押し上げている半面、過剰流動性を作り出し、株と不動産の資産バブルの源泉になっている。09年商業銀行の融資(フロー)は08年の倍以上に達した(図2参照)。輸出の見通しが明るくないなかで、企業の投資マインドも改善されていない。にもかかわらず、過剰な銀行融資が国有企業に流れ込んでいる。結果的に銀行融資を手に入れた国有企業はその傘下の「財務公司」(finance company)などを通じて株や不動産投資など財テクに走っている。

これまで、世界のほとんどの資産バブルにはノンバンク金融機関が加担している。たとえば、80年代末日本で起きた不動産バブルには住専が加担していた。今回中国で起きている資産バブルには、国有企業系列の「財務公司」や信託会社(trust company)が加担しているとみられている。ノンバンク金融機関は金融監督機関の厳しい管理を受けないため、財テクに走りがちである。

3.経済の高成長でも失業が悪化

中国政府は依然として8%成長に拘っている。09年3月の全人代で温家宝首相は8%成長を経済政策の目標として掲げた。これまでの1年間の経済運営は基本的に8%成長の目標を達成することを軸に、4兆元の財政出動と金融緩和が行われた。中国がなぜ8%成長に拘るかについて明確な解釈はない。巷では、失業率がこれ以上上昇しないための最低限の成長は8%であるといわれている。しかし、公式統計が示す失業率は「都市部登録失業率」と定義され、4%前後で推移している(図3)。

産業構造が大きく変化するなかで、8%成長の維持が失業の悪化を食い止めることができないのは明々白々である。とくに、今回の金融危機によって玩具やサンダルなどの労働集約型の中小企業は大きなダメージを受け、広東省だけで7万社の中小企業が倒産したといわれている。

現在の中国社会を考察すると、雇用情勢が悪化していることは明らかな事実である。経済成長に伴い人件費などの経営コストの上昇は避けられない。近年、労働集約型中小企業の多くは人件費の安い国と地域を探し求めて、工場の移設を検討している。要するに、経済成長とともに、機械化と自動化が進展している。その結果、労働生産性が上昇し、10年前に比べ、同じ8%の実質GDP伸び率でも雇用の創出効果は限られている。したがって、8%成長維持に関する雇用拡大説は明らかに説得力を欠いている。したがって、産業構造の転換を図るために、まずは成長率を目標にするやり方を取りやめ、産業構造の転換と雇用創出を目標に据えるべきである。

図3 実質GDP伸び率と都市部登録失業率の関連性(1978-2008年)

資料:中国国家統計局

4.元の切り上げよりも為替の弾力化

こうした背景のなかで、人民元の切り上げを求める声が高くなっている。それに対して、温家宝首相は人民元の安定を維持すると繰り返して強調している。確かに外圧に屈して人民元を切り上げれば、市場では人民元高の期待がいっそう高まってしまう。

しかし、このまま人民元の為替相場を「安定」させても、対外経済不均衡の問題が解決されない。極論をすれば、中国政府が何らかの手法で対外経済の不均衡を是正できれば、人民元の為替相場を調整しなくて済むかもしれない。問題は、輸出依存の産業構造を改めず、人民元の為替相場も「安定」すれば、マクロ経済のストレスはインフレと資産バブルの形で現れてくることにある。

中国にとって人民元を人為的に切り上げることは上策ではなく、重要なのは為替レジームを弾力化することである。2005年7月の為替制度改革で人民元の対ドルレートが少しずつ切り上がっていたが、それは市場の力によるものよりも、政府が直接決めていた。

実体経済が開放されている中国にとってかつてのような固定相場制に逆戻りすることは下策といえる。中国にとって選択しうる為替制度は完全な変動相場制または管理変動相場制である。変動相場制に移行すると同時に、さらなる金融制度改革を行う必要がある。一つは国有銀行の民営化である。もう一つは金利の「市場化」(自由化)である。

中国は人民元の国際化を目指しており、そのために、上海や広州などで国際貿易に係る人民元の決済を試験的に行っている。また、近い将来、資本取引の自由化を含む資本市場の対外開放も試みられるだろう。人民元が国際通貨として国際金融市場に登場するのは時間の問題であり、その最初の段階でアジア域内の基軸通貨としての地位を確立することである。そして、第2段階において人民元の国際化が実現される。

ただ、人民元の国際化は長期的な努力目標であり、それに到達するまでには、さらなる金融制度改革と金融インフラの整備が求められる。そのなかで、何よりも重要なのは人民元に対する信頼を確立することである。

目下、人民元切り上げの圧力が高まっているのは事実であるが、人民元に対する信頼は十分に確立されていない。人民元の切り上げ圧力は脆弱な金融市場での投機が盛んになっている結果である。

客観的にみれば、これからの10年間、中国にとって人民元の国際化を実現する絶好のチャンスである。ただし、かつて円の国際化の失敗の教訓を踏まえ、中国は人民元の国際化を実現しようとすれば、ただ決済システムの整備だけでなく、資本輸出能力を強化しなければならない。

経常収支の黒字が恒常化するなかで、資本収支を赤字に転換することができれば、国際収支が均衡する。そのため、中国は資本市場を開放し、資本輸出能力を強化する必要がある。

むろん、人民元が国際化するといってもドルに取って代わるほどの力がまだない。予見可能な将来においても、グローバルな金融市場で、複数の基軸が並存し、国際貿易と金融取引のなかでこれらの基軸通貨は補完的に機能していくものと思われる。ただし、人民銀行の周小川行長(総裁)が提唱しているIMFのSDR(特別引出権)を強化する構想は、それを支える実体経済がないため、SDRは基軸通貨にはなりえない。

別表 中国経済主要指標(2003~2009年3Q)

単位2003200420052006200720082009.1-3Q
実質GDP成長率前年比、%10.010.110.410.711.49.07.7
第1次産業2.56.35.25.03.75.54.0
第2次産業12.511.111.412.513.49.37.5
第3次産業6.78.39.610.311.49.58.8
固定資本形成26.727.725.725.924.825.533.4
不動産投資29.730.319.825.430.220.917.7
小売総額9.113.312.913.716.821.615.1
輸出入総額37.135.723.223.823.517.8-20.9
輸出34.635.428.427.225.717.2-21.3
輸入39.936.017.620.020.818.5-20.4
貿易収支億ドル2563201,0191,7752,6222,9551,355
直接投資契約金額前年比、%1.413.3-0.52.113.623.6n.a.
外貨準備10億ドル4036108191,6601,3301,9502,273
消費者物価上昇率前年比、%1.23.91.81.94.85.9-1.1
マネーサプライM219.614.617.916.016.717.829.3
実質収入:農村住民4.36.89.610.49.515.09.2
都市住民9.07.76.27.412.214.510.5
都市部登録失業率%4.34.34.24.34.34.24.2

(注)都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。
(資料)中国国家統計局