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転換期を迎えたプラットフォームビジネス

転換期を迎えたプラットフォームビジネス

プラットフォームビジネスは大きく発展してきたが、最近になって風向きが変化してきたようにも見える。巨大化・寡占化に伴う弊害やサービスの品質に対する疑問といった問題はプラットフォームビジネスの構造に内在するものであり、事業者は問題の解決に真摯に取り組まねばならない。一方で、過剰な規制など対応を誤れば、消費者がプラットフォームの価値を享受できなくなるだけでなく、わが国の産業の将来の競争力を損なうことにもなりかねない。

2020年1月28日

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表面化してきたプラットフォームビジネスの問題点

私たちが早稲田大学の根来龍之教授とともに『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社)を上梓したのは2013年末だったが、その後「プラットフォーム」という言葉は広く一般にまで広がり、いまでは関連する話題がメディアに出ない日はないと言っても過言ではないだろう。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)は企業の時価総額ランキングの上位を占め、最近注目されている中国のデジタル化はBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)というプラットフォーム事業者がけん引している。わが国でもヤフーとラインが統合を発表し、ますますプラットフォームは巨大化する傾向にある。

これまで追い風に乗って成長してきたプラットフォームビジネスだが、ここにきて深刻な問題が広く議論されるようになり、風向きが変わりつつあるようにみえる。問題の一つは、巨大になったプラットフォームが競争を阻害しているのではないかということだ。プラットフォームが持つ消費者の個人情報の活用に対する批判も高まっている。もう一つは、プラットフォームが提供する価値の品質に対して疑問が生じてきたことだ。ビッグデータを解析することで、情報やサービスの提供者と利用者の組み合わせを最適化し、双方に高い価値を提供することができると考えられてきた。しかし、最近では、プラットフォーム上の情報の精度が問題になったり、サービスの品質が批判されたりすることが増えてきた。

ここで改めて指摘したいのは、これらの問題は最近になって急に表れたものではなく、原因は構造的にプラットフォームビジネスに内在するということだ。したがって、問題への対策を誤れば、プラットフォームビジネスの成長が阻害され、その価値を享受することもできなくなる。本稿では、プラットフォーム巨大化のメカニズムが問題を生み出す原因にもなっていることを指摘し、問題解決の方向性を考えてみたい。

プラットフォームが巨大化するメカニズム

プラットフォームビジネスには、構造的に「一人勝ち」になる特徴がある。その理由の一つは、大きなネットワーク効果である。代表的なプラットフォームビジネスは、図表1にあるように、ユーザー(消費者)とプラットフォーム上で付加価値を提供する補完事業者という二つの異なる面(サイド)を持つ。ユーザーにとってのプラットフォームの価値は、ユーザーの数が大きければ多いほど高い。原理的には、電話サービスの価値が電話を利用するユーザーの多さに左右されるのと同じことだ。ネットワーク効果はネットワーク外部性や需要側の規模の経済と言われることもあり、ユーザー同士だけではなく、補完事業者とユーザーの間にも働く。ユーザー同士のネットワーク効果をサイド内ネットワーク効果(または直接ネットワーク効果)と言うのに対して、ユーザーと補完事業者の間に働くのはサイド間ネットワーク効果(間接ネットワーク効果)である。

(図表1)プラットフォームビジネスの構造
(図表1)プラットフォームビジネスの構造
出所:筆者作成

もう一つの理由は、ユーザーと補完事業者にとってのマルチホーミングのコストである。プラットフォームは原則的にオープンであり、ユーザーも補完事業者も複数のプラットフォームを使うことはできる(マルチホーミング)。しかし、現実的には、管理の手間やデータの分散によってマルチホーミングにはコストがかかるため、一つのプラットフォームだけを集中的・継続的に利用する利用者も少なくない。

補完事業者に対する優先的地位の濫用のおそれ

ネットワーク効果とマルチホーミングのコストによって、実際に多くの分野では有力なプラットフォームの独占・寡占状態にあり、そのことがさらにプラットフォームを巨大化させる。そうなれば、プラットフォームの取引上の交渉力は強化され、補完事業者が不利な条件を認めざるを得ない状況になる。具体的に言えば、電子商取引のプラットフォームが出店者に対する手数料率を高くしたり、動画などのプラットフォームがコンテンツ提供者に支払う広告料の割合を一方的に引き下げたりするようなことが考えられる。

図表1に示したように、プラットフォームと補完事業者はプラットフォームビジネスの「エコシステム(生態系)」と呼ばれる。地球の生態系と同じように、プラットフォームと補完事業者は、本来は共存共栄の関係にあり、ビジネス的にはwin-winの関係にあるはずだ。しかし、2019年5月に代表的なライドシェアのプラットフォームであるウーバーのドライバーが世界12都市で手数料引き下げを要求するストライキを行ったことが報じられたように、プラットフォームで生まれた富は、現実的には補完事業者を十分に潤しているとは言えない場合も少なくない。

このような状況が独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとして、わが国ではプラットフォームの活動を規制する動きが出ている。優越的地位の濫用は、これまでも小売業と納入業者との間などで問題になってきたが、プラットフォームビジネスの場合は、上述したように、そもそもビジネスの構造として独占・寡占が進みやすいこと、独占・寡占の状態になるまでのスピードが速いこと、デジタル化された情報を扱うため国境を越えた取引にも影響を与えやすいことといった特徴がある。

プラットフォーム上の個人情報に関する問題

プラットフォームの競争力の源泉の一つは、自らが集めたユーザー(消費者)の情報である。検索サービスであれば個々のユーザーの検索履歴やウェブページの閲覧履歴、電子商取引サービスであればユーザーの購買履歴、SNSであればユーザーが入力した内容や友人たちとやり取りした情報などがプラットフォーム上に蓄積され、プラットフォーム事業者はそれを分析することで、ユーザーに対するサービスの質を高めたり、補完事業者とユーザーとのマッチングを行ったりすることができる。

一方で、プラットフォームが巨大化すれば、その取引上の交渉力は、補完事業者だけではなくユーザーである消費者に対しても強くなり、消費者が不当に不利益を被る恐れもある。具体的には、利用者の合意なしに利用者に関する情報を第三者に提供したり、契約の内容をわかりにくくして消費者に不利な条件を認めさせたりすることなどが考えられる。最近では、就職マッチングのプラットフォーム事業者が、学生のウェブ閲覧履歴などから内定辞退率を推定し、そのデータを学生の合意が不十分なままに企業に販売していた事実が明らかになって批判を浴びた。

このような状況に対して、個人情報保護の観点からプラットフォームに対する規制を強め、消費者のデータ主権を取り戻そうという動きが出てくるのは当然のことだ。また、わが国では公正取引委員会が昨年末に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表した。その中では、消費者に対しても「優越的地位の濫用」があり得るとして、独占禁止法で規制されることが示されている。

プラットフォームの提供価値への疑問

プラットフォームに関するもう一つの大きな問題は、プラットフォームが利用者に提供するサービスの品質に関わるものである。プラットフォームの重要な価値の一つは、補完事業者やユーザーとのマッチングの精度を高め、利用者が求める情報を個別に提供することであった。その代表例が広告である。広告主が従来のアナログなメディアに出す広告は、誰にどのように届いているか正確には把握できないが、インターネット上ではユーザーのウェブ閲覧行動などによってターゲットを細かく把握し、本当にその広告に関心のある消費者に広告を届け、しかもユーザーがその広告をクリックしたかどうかもわかるため、効果の高い広告を出すことができると考えられてきた。しかし、最近になって、ユーザーには実際には見えない広告を閲覧されたとカウントしたり(「ビューアビリティ」の問題)、ユーザーがクリックしていないのにクリックされたかのように見せて広告主から広告料をだまし取ったりする「アドフラウド(広告詐欺)」の問題が表面化してきた。また、広告のプラットフォームが複雑化し、広告主が知らない間に自社の広告が不適切なサイトに表示されて自社のブランドが毀損される(「ブランドリスク」)という問題も深刻化している。

電子商取引の分野では、商品を手にとって見ることのできない代わりに、実際にその商品を使ったことのあるユーザーによるレビューが商品評価に役立つはずである。しかし、最近では「やらせレビュー」とでも言うべき情報が目立つようになり、ユーザーレビューの信頼性は低下している。また、SNSでは本来は自分の知り合いが書き込む情報は信頼性が高いと考えられていたが、利用者が増えるにつれて信頼性の低い情報も拡散するようになってきた。意図的に嘘の情報(フェイクニュース)が流されることもあり、SNS上の情報の信頼性を担保するのが難しくなっている。

電子商取引における商品の配送やライドシェア、ルームシェアなど物理的なモノが伴うサービスにおいては、信頼性の問題はより深刻である。ライドシェアが行われている国ではドライバーの不祥事が報じられることは少なくないし、わが国でも商品の不適切な配送などが問題になることも増えてきた。利用者が増えればそのような問題が増えるのもある意味では自然なことだが、あくまで補完事業者に原因があるとしてプラットフォームが自らの責任を認めず、改善をおろそかにするのであれば、プラットフォームの提供価値は下がり、ユーザーが離れていくことになるだろう。

過剰な規制と不安はイノベーションの芽を摘む

このような問題がメディアなどで広く扱われるようになって、消費者の間に不安が広がり、規制を期待する声も大きくなっている。政府が昨年末にとりまとめた「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)」は、巨大プラットフォーム事業者に対して取引状況の定期報告を義務付けようというもので、2020年の通常国会に提出予定だという。また、個人情報保護法についても、個人が企業による自分の情報の利用停止を要請できる権利の導入などを定めた改正案が昨年末に発表された。

巨大プラットフォームに対する消費者の不安が広がると、価値がわからないままにサービスの受け入れが否定されてしまう恐れもある。たとえば、Airbnbのようなルームシェアのプラットフォームは、安い宿泊先を提供するだけでなく、ホストとゲストの交流を促すという価値を持っている。通常のホテルなどでは得られないこのような新しい体験の質を高めるために、プラットフォーム事業者もさまざまな工夫を行っている。しかし、一部ゲストの不良行動などルームシェアあるいは「民泊」の問題点がメディアで大きく取り上げられると、実際に価値を経験したことのない人たちは漠然とした不安を募らせ、明確な根拠がないままに規制を求めるようになる。

最初に述べたように、プラットフォームの巨大化はプラットフォームビジネスの構造によるものである。過剰な規制など対策を誤れば、プラットフォームビジネスの成長が阻害され、消費者も新しい価値を享受できなくなる。現在注目されているのはGAFAなどインターネット上でほぼ完結するサービスのプラットフォームだが、今後はIoTによって物理的な製品もインターネットにつながる。製品の稼働情報などをやり取りするプラットフォームを中心にしてエコシステムを形成することで、新しい価値創造の可能性が広がる。つまり、IoTによって、物理的な製品の製造に関して競争力のある日本企業にもプラットフォームビジネスのチャンスが広がる。

実際、最近話題になっているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の一つの要素は、これまでつながっていなかった製品をつなぎ、そのデータを分析して価値を生み出すことである。わが国の製造業にとって、DXはモノづくりを超えた新しい価値創造の機会である。そのようなプラットフォームの活動までもが過剰に規制されるのであれば、日本の製造業の競争力の低下も避けられない。

また、プラットフォームを基盤とした新しい価値創造には、ユーザーを巻き込んだ試行錯誤も不可欠である。現在議論されている問題に対して、補完事業者も含むエコシステム全体の持続的な成長を実現するためにも、プラットフォーム事業者自身が補完事業者と協力してサービスの価値を高めていくための取り組みを真摯に行うとともに、そのような取り組みに消費者を巻き込んでいくことも効果的だと考えられる。また、出店者や広告主など補完事業者としては、できれば特定のプラットフォームに依存するのではなく、場合によっては連携してプラットフォーム事業者との交渉力を高めることも必要だろう。

浜屋 敏

執筆者

経済研究所
研究主幹

浜屋 敏

 

専門は経営情報システム。早稲田大学、立教大学 非常勤講師。主要著書に、『プラットフォームビジネス最前線』(共編著、翔泳社、2013年)、『IoT時代の競争分析フレームワーク』(共編著、中央経済社、2016年)、『ネットは社会を分断しない』(共著、角川新書、2019年)ほか

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