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「漫画村」から学ぶべきこと:漫画のサブスクリプション・サービスの可能性

「漫画村」から学ぶべきこと:
漫画のサブスクリプション・サービスの可能性

「漫画村」については取り締まりに関する話題が多いが、ワンストップで多様な漫画を読むことのできるサービスに対する需要の大きさが明らかになったのも事実である。コンジョイント分析で推計したところ、条件次第では定額サービスの導入によって市場全体が大きくなる可能性が高いことがわかった。サブスクリプション型のビジネスモデルに基づいた新しい漫画ビジネスの確立に期待したい。

2019年9月11日

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はじめに

「漫画村」は、違法にインターネット上にアップロードされた多くの漫画などのコンテンツを誰でもブラウザで読むことができるサイトであった。2018年になると口コミによって急激にアクセス数が増え、2018年2月にはサイトへのアクセス数が1億6千万に達し、漫画業界の被害総額は流通ベースで3,000億円に上ったという推計もある(注1)。これは過大推計だという指摘もあるが、著作権保護の観点から大きな話題となり、通信業界によるブロッキング規制の是非や通信の秘密に関する憲法論議にまで及び、政府、通信業者、コンテンツ業界、司法関係者などを巻き込んだ大きな論争を生んだ。

漫画村のサイトは2018年4月に閉鎖され、2019年7月には運営を主導したとされる男性がフィリピンで拘束され、その後も運営に関与したとして逮捕者が相次いだ。また、漫画村によく似たサイトが登場しては閉鎖されるという事態も起きている。このように、いまでも漫画村に関連した話題は尽きないが、その多くは著作権を守るための取り締まりに関する議論であり、重要な視点が一つ欠けている。それは、漫画の定額サービスに対するニーズの大きさであり、そこに事業機会があるという視点である。

漫画村のサイト訪問者数が非常に多かったことは、被害の大きさを示すために引用される場合が多いが、単純に考えれば、それだけ大きな需要があったことを示している。わが国でも、コンテンツプロバイダーや通信事業者などが漫画の定額サービスを提供しているが、人気漫画が読めない、最新号が読めない、特定の出版社の漫画しか読めないという制限があり、広く普及しているとは言えない。これに対して、漫画村ではコミックスの最新刊や雑誌の最新号を含む多くの出版社の漫画約7万冊がアクセス可能になっていたと言われている(注2)。もちろん著作権者に無断でコンテンツをアップロードして誰でも閲覧できる状態にしておくことは違法であり、取り締まりは必要だが、もし漫画村のような特徴を持った合法な漫画の定額サービスが始まれば、ビジネスとして成り立つ可能性がある。

音楽市場はサブスクリプションで回復しつつある

最近、さまざまな分野で「サブスクリプション」型のサービスが普及しつつある。利用者は、モノを買うのではなく、使用する権利に料金を支払う。多くのサービスが、一か月の利用料を固定する定額制を採用している。最近では、自動車や飲食店など幅広い分野に広がりつつあるが、もっとも代表的なものの一つが音楽の定額サービスだろう。音楽は、従来はCDを購入することが普通であったが、それがアップルのiTunesなどの登場によってデジタルデータを購入してダウンロードする形式に変化した。そして、現在では、スマホがインターネットに常時接続することで、毎月料金を支払って自分の好きな曲をネット経由で再生できるストリーミング・サービスの市場が広がっている。その代表的なものが、スウェーデンのベンチャー企業が2008年にサービスを開始したSpotifyで、現在では多くのメジャーなレコード会社と契約して4,000万曲以上を聞くことができ、有料会員数は世界中で1億人を超えると言われている。

図表1は、全世界の音楽市場の推移を示したものである。2001年から「Physical(CDなどの物理的な媒体)」の売上は一貫して減少しており、ストリーミング以外のデジタルデータ(「Digital (excluding streaming)」)が増えてはいるものの、2014年までは市場全体としては縮小が続いていた。しかし、2015年からはストリーミングが急激に増加し、音楽市場全体としても増加傾向へと転じた。それほど、定額サービスの影響は大きい。

【図表1】世界の音楽市場規模
(図表1)世界の音楽市場規模
(出所)IFPI Global Music Report 2019

出版社横断的なサービスへのニーズは大きい

音楽のように、漫画も月額定額制の読み放題サービスがあれば、市場は拡大するのではないだろうか。しかし、サブスクリプション型のサービスには複数の要素を組み合わせたさまざまなオプションがありえるし、ユーザーがそれらのオプションに対してどの程度の金額を支払ってくれるかは事前にはわからない。そこで、私たちはサービスを要素別に評価できるコンジョイント分析を行い、要素別にユーザーの支払意志額(willingness-to-pay)を推定した。

図表2が、分析に必要なデータを集めるために実施したアンケートの回答者を、漫画に対する実際の支払額別に示したものである。20歳から69歳までの全サンプル10,008人のうち、調査実施時(2019年3月)の前月に料金を支払って漫画を読んだ人は19.2%であった。無料の電子漫画や紙の漫画の立ち読み、さらには漫画村のような海賊版の利用など、料金を支払わずに読んだ人は10.2%、残りの70.6%は一か月の間に漫画を読まなかった人である。

【図表2】ユーザー種類別調査対象者
(図表2)ユーザー種類別調査対象者
(出所)筆者作成

このような人たちの定額制の漫画サービスへの支払意志額を推定するために、図表3のような質問を条件を変えて何度か繰り返してデータを集めた。今回の調査では、定額制サービスの要素として、①連載中の作品を読めるかどうか、②最新刊の漫画を読めるかどうか、③すべての出版社の作品を読めるかどうか、さらに、④月額料金として500円、700円、1000円という条件を組み合わせて、利用意向を調べた。

【図表3】コンジョイント分析のための質問例
(図表3)コンジョイント分析のための質問例

そうやって集めたデータを分析して、要素別にユーザーの支払意志額を推定したのが図表4である。ユーザーが現在どの程度漫画を読んでいるかによって支払意志額も変わるから、購読者を先月の支払額が1,500円以上のヘビー購読者と1,500円未満のカジュアル購読者に分け、無料読者と非読者とともに、読者の類型別に支払意志額を推定した。「外部機会(アウトサイド・オプション)」とは、定額サービス以外を選んだ時に得られる効用であり、従来通りの紙や電子漫画の閲覧から得られる効用、ならびに非読者の場合は漫画以外の楽しみから得られる効用である。

【図表4】ユーザー種類別の要素別支払意志額(月額、円)
(図表4)ユーザー種類別の要素別支払意志額

この表で目立つのは、「全出版社が読める」ことに対する支払意志額の高さである。漫画を好きなヘビー購読者では、月額1,007円支払ってよいと考えており、先月は漫画を読まなかった非読者でも、そのようなサービスには月額398円を支払ってもよいと考えている。音楽のSpotifyでもレコード会社横断的な楽曲を聞くことができるからこそ1億人を超える有料会員を集めることができたのであり、出版社横断的なサービスが重要であることがわかる。

一方で、ヘビー購読者にとっては外部機会の価値も高く、1,036円とカジュアル読者(265円)の約4倍にも達する。これは、ヘビー購読者が従来型の紙と電子の漫画にカジュアル読者以上に愛着を持っているからだと解釈できる。特に、紙の漫画は物理的に手元に置いて収集することができるため、ヘビー購読者は紙の漫画にも高い価値を認めていると考えられる。このことから、ヘビー購読者は、定額サービスが始まれば利用する人は多いものの、かなりの人が紙の漫画も買い続ける可能性があることがわかる。

サブスクリプション・サービスを開始しても総売上は減少しない

漫画の定額サブスクリプション・サービスに対するニーズがあったとしても、新しいサービスによって従来の漫画が代替されてしまえば、市場全体としては縮小することになり、従来のビジネスを行っている出版社などは新しいサービスに乗り出すことはないだろう。市場全体の大きさを考えるとき、新しいサービスと従来のサービスの合計を推定する必要がある。

そこで、コンジョイント分析の結果から、以下の5種類のサブスクリプション・サービスに対する利用率をユーザー種類別に計算し、推定した利用率から漫画の市場全体の大きさを推定してみた。ただし、上述したように「全出版社の作品が読める」という条件は重要であるため、すべてのサービスにおいてこの条件は満たすように設定した。

連載中X、最新刊X、500円
連載中〇、最新刊X、500円
連載中〇、最新刊X、700円
連載中〇、最新刊〇、700円
連載中〇、最新刊〇、1,000円

図表5は結果の一部を表したもので、一番上の行の「連載中の作品は読めないが(したがって最新刊も読めない)、月額500円ですべての出版社の漫画を読める」というサービスの売上を、定額サービス実施前と実施後で比較してみたものである。ここで、対象者は調査全体のサンプルの分布に合わせるように、合計2,724人と設定した。

従来の月間売上高は、合計929,655円である。一方、定額サービスを始めるとすると、ヘビー購読者の53.2%が500円を払うので、ヘビー購読者からは51,870円の売上が上がる。同じように計算すると、カジュアル購読者で92,650円、無料読者からも83,740円の売上が得られる。また、非読者は、利用率は31.0%だが人数が多いので、298,220円になる。これらを合計すると、526,480円の売上となり、これだけでは従来の売上を補うことはできない。

しかし、定額サービスを開始するとすべての人が従来型の漫画の購入を止めるわけではないだろう。特にヘビー購読者の中には、定額サービスを利用しながらも、自分の好きな作品は紙でも買うという人が一定数はいるはずだ。そこで、図表5では、ヘビー購読者については定額サービスを利用しても4割は従来の漫画を購入すると想定した。そうすると、従来ビジネスの売上は469,027円になる。一方、定額サービスを利用するカジュアル購読者はすべて従来の漫画を買わなくなるとすると、従来の漫画の読者は45.5%(1-0.545)に減って売上は109,528円となり、合計は578,555円となる。これに定額サービスの売上526,480円を加えると総売上は1,105,035円となり、従来の売上929,655円を上回る。したがって、この想定であれば、定額サービスを始めても市場全体が縮小することはなく、むしろ拡大すると推定される。

【図表5】売上高の変化
「連載中X、最新刊X、500円」のサービスが対象
また、定額サービス利用者のうちヘビー購読者の4割は従来の漫画も購入すると仮定した場合
(図表5)売上高の変化

このような計算を、5つのサービスすべてについて行った結果が図表6である。この図から明らかなように、「最新刊を除いて連載中の作品も読め、月額500円」というサービス以外は、定額サービス開始後の売上は従来の収入を上回るという結果になった。私たちは、定額サービスの利用者は従来の紙・電子の漫画の購入をゼロにする(完全に代替される)というケースも分析したが、5つのうち4つのサービスの総売上は従来を上回るという結果に変わりはなかった。

【図表6】定額サービス開始後の売上高
(図表6)定額サービス開始後の売上高
(出所)筆者作成

漫画の新しいビジネスモデルの確立に向けて

これまで述べてきたように、今回の分析では、出版社横断的なサブスクリプション・サービスを開始しても、サービスの条件をうまく設定すれば総売上は低下しないという結果になった。今回の分析にはいくつかの課題があるが、その主なものは以下のとおりである。

まず、今回の調査では、非読者のサンプル数が少なく、支払意志額やサービス利用率の推定値の精度も低い。非読者の中にも条件によっては定額サービスを利用したいという人たちもおり、マーケットとしては重要である。したがって、サンプル数を増やしてより精緻な分析を行う必要がある。次に、定額サービスによってどの程度従来の漫画が代替されるかはわからない。音楽などの実績を分析して、より現実的な比率で計算しなおすこともできるかもしれない。さらに、新しいサブスクリプション・サービスの事業性についても課題が残る。音楽のSpotifyも、レコード会社などへのライセンス料がかさんで赤字になっている。サブスクリプションは一般にユーザー数が多いほど事業性が高まるため、多くのユーザーを集めるための広告宣伝費などを負担する必要もある。

しかし、デジタルコンテンツのサブスクリプション・サービスは、Spotifyのように比較的低コストで世界中からユーザーを集めることができる。漫画の場合は音楽と違ってセリフを翻訳するコストなどは必要だが、海外では新サービスによって既存の市場が大きく代替されるおそれもない。また、デジタル化に伴う新しい広告ビジネスや、ユーザーの正確なアクセスデータに基づいたサービスの改善や新サービスの創造など、サブスクリプション・サービスならではの新しい収益源も期待できる。

私たちの研究には上述したような課題も多いが、漫画の新しいサービスの展開に少しでも貢献できれば幸いである。

注釈

田中辰雄

執筆者

慶應義塾大学 経済学部

田中 辰雄

 

専攻は計量経済学。主要著作・論文に、『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社、2003年)、『モジュール化の終焉』(NTT出版、2007年)、『著作権保護期間』(共編著、勁草書房、2008年)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル:フリーミアムの経済分析』(共著、勁草書房、2015年)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房、2016年)ほか

浜屋 敏

執筆者

富士通総研 経済研究所

浜屋 敏

 

専門は経営情報システム。早稲田大学、立教大学 非常勤講師。主要著書に、『プラットフォームビジネス最前線』(共編著、翔泳社、2013年)、『IoT時代の競争分析フレームワーク』(共編著、中央経済社、2016年)ほか

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