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介護ビジネスにおける新たな価値創造:介護ビジネスエコシステム

介護分野の課題解消や新たな価値の創造は、新たな枠組みで考えることが重要です。
介護分野の共創の新たな取り組みと枠組み(介護ビジネスエコシステム)について紹介します。



2019年8月27日

近年、介護分野でも共創による新たな価値創造を目指す動きが広がっています。現在では、異業種大手企業が参入し、介護施設の経営が盛んに行われ、さらに、介護用品のベンダーや開発メーカーだけでなく、流通・小売業が介護施設への入所の取次や相談のサービスを行うなど、介護分野に間接的に参入する大手企業も増えています。介護分野の課題解消や新たな価値の創造は、新たな枠組みで考えることが重要だと言えます。介護分野の共創の新たな取り組みと枠組み(介護ビジネスエコシステム)について紹介します。

1.背景

近年様々な分野でオープンイノベーションの取り組みが広まっている。一方で、医療や介護などのヘルスケア分野では、サービスが一方向に提供されるイメージが強く、共創やイノベーションとは縁が薄いように思われる。しかしながら、最近、介護分野ではケアから自立支援という介護観の変化があり、双方向性が重視され、共創の意識が高まっている。それと呼応するかのように、ビジネスサイドでも変化が見られ、異業種企業が介護分野に積極的に参入し、共創(オープンイノベーション)による新たな価値創造を目指す動きが広がっている。

介護ビジネスの新たな潮流:異業種参入

超高齢社会の到来は、介護業界に様々な課題を与える一方、介護事業の必要性から新たなビジネスの機会にもなっている。こうした中で近年、異業種大手企業が介護施設の経営に盛んに乗り出している。事業規模や資本力が大きい異業種大手の参入は、自社本業の特徴や資本力を活かした利便性の高い独自のサービスを提供でき、保険制度の持続可能性の向上につながるなど、新たな価値創出主体として期待がもたれている。さらに、経営管理体制が強化されることで介護人材を厚遇できたり、設備投資を行えたりするなど、介護業界の様々な課題を解消する大きな役割を果たす可能性がある。利用者側にとっても大手企業が持つ信頼感や充実したサービスは魅力的なものと言えるだろう。

【表1】介護事業売上高順位(2018)
【表1】介護事業売上高順位(2018)

介護分野の課題解消の鍵:間接参入

これまで介護業界とは関係が薄かった企業が、介護に関する新たなサービスを始めたり、介護事業者へのサプライヤーとなって製品や技術を開発したりするなど、間接的な参入も増加している。例えば、前者では、流通・小売業であるイオングループがベネッセスタイルケア運営の介護施設への取次サービスを提供したり、大手コンビニエンスストアのローソンがケア拠点併設型店舗として介護相談を行ったりする事例が挙げられる。後者では、大和ハウス工業が介護関連の機器や必需品などの代理販売を手がけるほか、自動車や電気産業の大手企業がロボット介護機器などの開発に乗り出していることが挙げられる。ロボット介護機器の開発については、介護人材不足や介護現場の生産性向上を目指し、2013年から国が政策(注1)として積極的に支援し、新規企業の参入を促している。

間接参入の課題

一方、ロボット介護機器や業務を支援するためのICT機器のような、いわゆる現場で使われる製品や技術の開発に関しては、現場への導入に向けた現実的で大きな壁が存在する。その1つが、開発側が現場との接点を持ちにくいことである。多くの現場では、試用段階でも実利用の安全性や操作性の担保が求められ、現場の意見を直接取り込んだ開発が難しい。現場でどのような課題が生じるかなど実際の利用を想定した検討ができない。つまり、実際のユーザーとなる職員のニーズやウォンツがわからないまま、「技術ありき」で機器やサービスが開発されているのが現状と言える。また、「介護は人手でやるもの」という考えや機器操作に対する職員の抵抗感があることなどから、現場での利用がさらに遠ざけられるという、ある種の悪循環が生じている。

2.介護分野におけるエコシステム型価値創造

施設×企業:リビングラボ

こうした障壁を取り払い、現場職員がより充実したケア(サービス)ができるようになることを目指して、介護現場と開発者が一体となり、現場で活用でき、施設利用者の役に立つ機器や必需品、サービスを開発する取り組みが始まっている。

経済産業省は「ビンテージ・ソサエティ・プラットフォーム形成事業」の中でサービスイノベーションを生む場としてリビングラボの取り組みを始めた。その1つが「川崎リビングラボ」(社会福祉法人伸こう福祉会)である。リビングラボ(以降、LLと呼ぶ)は、新しい技術やサービスの開発にユーザーや市民も参加する共創活動、またはその活動拠点のことを言い、近年ヨーロッパを中心として盛んに行われている。

川崎LLでは、参加者による「共創」と「共進化」を掲げ、施設が企業とコラボレーションして「介護イノベーション」を創出するための取り組みが行われている。参加企業は、真のユーザーとなる現場の職員や施設利用者の方々とともに課題を発見し、意見やアイデアを取り入れながら製品やサービスの開発を行っている。また、このLLでは現場、企業、大学や研究機関、行政が参加した勉強会やワークショップなどが開かれ、介護イノベーション創出に向けた全体的な方法論となる枠組みづくりが行われている。こうした取り組みは、関与者全体で課題解消や目的の実現に向けた取り組みを行う点で介護の現場をプラットフォームとした「エコシステム型」の価値創造と捉えられる。

3.地域ぐるみの高齢者生活支援の共創

地域包括ケアシステム

介護においては、このエコシステム型の価値創造をより大きな広がりで捉えることができる。国は超高齢社会に向けて、地域の関与者(医療・介護施設、住民、行政など)が一体となって地域全体で高齢者の生活を支援する「地域包括ケアシステム」という考えを提案し、その実現に向け、各自治体や地域が独自にその取り組みを進めている(注2)。

地域包括ケアシステムでは、一体的で継続的な医療と介護の連携サービスを提供できるようになるだけでなく、医療依存度が高い人や認知症を持つ人も自宅で今までどおりの生活を続けられるように、買い物や掃除など多様な生活支援を個別のニーズに応じて必要なタイミングでサービス提供できるようになる。地域包括ケアは、地域の施設・病院を中心とした住民との相互関係を作り出し、行政や市民、さらに他の多くの関係者を含み互いを支援し合う「介護エコシステム」へと拡張されることになる。

地域×企業:介護ビジネスエコシステム

重要なこととして、施設を経営する異業種大手企業は、今後このエコシステムの一部を担い、貴重なプラットフォーマーとして加わることになる。エコシステムでのサービスを多様化する可能性が広がり、新たな価値を創出する。利用者となる地域住民は、新たな価値を授受できるようになる。例えば、施設の新たな価値として、実際に地域住民に施設の一部を開放し、地域住民が様々な活動をできるよう支援する介護事業者もある。シルバーウッドが運営するサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」では、入所者が施設内で駄菓子屋などの店舗を開き、地域の子どもがそれを購入するといった活動などが見られる。介護サービスのユーザー(入所者)がプラットフォーム上で補完事業者(駄菓子屋の店主)になり、地域の子どもに新しい価値を提供するという介護施設の1つの新しい姿となっている。

このように、地域のエコシステムの中で異業種企業がプラットフォーマーとして活動することで、介護の課題解消に大きく寄与するだけでなく、既存の産業構造に変化がもたらされ、新たなビジネス機会になると期待できる。施設を経営する企業は、その資本や経営力を活かすだけでなく、企業間協力を上手く活用できる可能性があり、介護に関わる製品の開発やサービスの創出がより促されることになるだろう(【図1】介護ビジネスエコシステム)。開発側は自身もエコシステムに寄与する重要なプレーヤーの1つとなる。地域住民はこの恩恵を受けつつ、エコシステムの共同体として自分たちの役割を果たすことにもなる。これらの相乗効果として、より良い社会の形成につながる期待が持てる。

【図1】介護ビジネスエコシステム
【図1】介護ビジネスエコシステム
厚生労働省「地域包括ケアシステム」Open a new windowPDF(注2)資料に基づきFRI作成)

4.おわりに

地域住民、行政、企業の協働による強力な介護事業のエコシステムの形成は、今後の社会やビジネスにおいて重要なカギを握るものと考えられる。このような動きは、介護だけでなく、医療などのヘルスケア分野や他の消費者向けサービスなどの領域で起きつつあることと共通点が多い。また、コミュニティでの子育て支援やフードロス対策など社会課題解決型の事業のビジネスモデルを考える際にも有用な観点を与えるものになるだろう。

中島 正人

本記事の執筆者

経済研究所 上級研究員

中島 正人(なかじま まさと)

 

専門は認知科学、サービス科学。ICTを活用したサービス現場のスキル・知識の理解技術の開発などに従事。現在は医療・介護サービスのイノベーション創出に関する研究を進めている。博士(工学)

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