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食品ロス削減対策:フードシェアリングサービスがもたらす社会的価値

食品ロス削減対策:フードシェアリングサービスがもたらす社会的価値

わが国でも食品ロス削減推進法が成立し、大手チェーンによる消費期限の迫った商品へのポイント還元などの取り組みが始まった。一方、食品ロス対策で先行する欧州では、スマートフォンのアプリを活用したプラットフォーム型のフードシェアリングサービスが広く普及し始めている。海外事例などを参考としつつ、日本でのフードシェアリング普及の可能性について考える。

2019年7月11日

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はじめに

2019年5月24日に「食品ロス削減推進法 (注1)」が成立し、6か月以内に施行される。これには、①自治体に推進計画の策定と削減に取り組む事業者の支援やフードバンクとの連携強化等を、②企業に施策への協力や積極的に食品ロスの削減に取り組むことを、そして③消費者に購入や調理の際、自主的に取り組むよう促す条文が盛り込まれている。

このような流れのなかで大手チェーン店は、消費期限が迫った商品の購入に対するポイント還元や、食べ残しを持ち帰ることができる容器を用意するなど店頭での取り組みを始めた。海外では、スマートフォンのアプリを活用したプラットフォーム型のフードシェアリングサービスが登場し、飲食・小売店と消費者をマッチングするという新たなビジネスが欧州を中心として広範に普及している。その最大手である「Too Good To Go」というサービスは約3年間という短期間に750万人のユーザー数と約25,000店舗の登録店を獲得するまでに成長し、2020年までに5000万人の登録を目指しサービスの拡大を続けている。本稿では欧州を中心とした海外事例をいくつか取り上げて分析を踏まえたうえで、フードシェアリングサービスの日本での普及を考えるうえでのポイントとその本質的な価値について考察する。

食品ロスの現状と先進国で重要な「食料廃棄」対策

食品ロスとは、食べるためにつくられた食品が失われたり捨てられたりしてしまうことを指す。世界的にみると生産された食品の3分の1にあたる13億トンが廃棄されており(注2)、日本に着目すると2016年時点で推計約643万トンに上るとされている(注3)。このような食品ロスは、世界には飢餓に苦しむ人口がなお多数存在する一方で、食品が大量に無駄になっているという矛盾から、持続可能な社会の構築を目指すうえで問題視されている。また、廃棄処理にコストがかかり多量のCO2を排出しているという点でも早急に解決を図るべき課題として位置づけられている。2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」においては目標12のターゲット3に「小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品の廃棄を半減させ、収穫後損失等の生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」ことが明記されるなど、食品ロスに対する取り組みが国際的に促進されている(注4)。

日本では「食品ロス」にまとめられているが、より細かくみると「食料ロス(Food loss)」と「食料廃棄(Food waste)」の2つの段階に分けられる(図表1)。食料ロスは食品サプライチェーンのより上流段階で発生することが多く、例えば、店頭には並ばない規格外品、加工過程で不要となった食材や食品等が含まれる。食料廃棄はより下流の小売や消費段階で発生することが多く、売れ残りの調理品や賞味期限切れの商品、食べ残し等がそれにあたる。日本など「先進国」ではサプライチェーン下流の食料廃棄が多く、まだ食べられるものが多く含まれているのでこの解決が課題となっている(図表2)。

対策として、これまでも食品や食材の見切り品、スーパーや惣菜店での閉店間際の値引き等が行われてきた。加えて、厳しい消費期限管理や季節商品の販売等によって食品の大量廃棄が指摘されるコンビニ業界では、セブン-イレブン・ジャパンやローソンが消費期限の迫った商品の購入に対しポイント還元を行うことで対策に乗り出し、ファミリーマートは恵方巻などの季節商品を完全予約制にすることを決定している。外食産業大手のすかいらーくホールディングスでも、食べ残しを持ち帰ることができる容器を用意するなどの対応を行っている。



【図表1】食料ロスと食料廃棄の定義
食品ロスの段階 定義
食料ロス(Food loss)

人の消費に向けられる食料を特定的に扱うサプライチェーンの各段階における食料の量的減少。
食品サプライチェーンの生産、収穫後(調製、輸送、貯蔵など)および加工の段階で発生する。

食料廃棄(Food waste)

食料ロスの一部で、特にまだ食べられるのに捨てられているもの。食べ残しや賞味期限切れ食品などが該当。
食品サプライチェーンの最終段階(小売や消費)で発生する。

(出所)国連食糧農業機関(FAO)「世界の食料ロスと食料廃棄Open a new window」を基に富士通総研作成




【図表2】食品サプライチェーンにおける主な食料ロス・廃棄
(図表2)食品サプライチェーンにおける主な食料ロス・廃棄
(出所)富士通総研作成

食品ロス削減で存在感を示すフードシェアリングサービス

こうした中で、近年注目を集めつつあるのがプラットフォーム型のフードシェアリングサービスである。図表3に示すように、フードシェアリングサービスとは小売店や飲食店と消費者やフードバンクのような団体(注5)をスマートフォンのアプリ等を使ってマッチングし、飲食可能な状態にありながら廃棄されてしまう可能性の高い調理品や食料を提供するサービスである。欧州を中心とする諸外国では2015年辺りからサービスが登場し始め、各国や地域で広く普及しているものもある(図表4)。

小売業の店頭でも行われている見切り品や時間による値引き等の従来の対策も食料廃棄を減らすうえでは効果的な取り組みの一つであるが、プラットフォームを活用したマッチングにより、これまでは廃棄されるだけで消費者が安く購入するという選択肢さえ与えられてこなかった食品を可視化できるようになった。これにより店舗側は来店している客以外にも広く即時に告知でき、消費者にとっては選択肢が広がるというメリットがある。

フードシェアリングサービスはマッチング対象や目的によって特性が異なり、環境経済学やビジネス・マネジメント分野の研究においてこれらのサービスの類型化がいくつかなされている(注6)。Micheliniら(2018)(注7)は、1. 営利型(The sharing for money model)、2.チャリティ型 (The sharing for charity model)、3. コミュニティ型(The sharing for the community)の3つのモデルを提示している。営利型とはB to Cのモデルで、主に企業が消費者向けに営利活動としてフードシェアリングサービスを提供しているものを指す。チャリティ型は非営利団体が運営主体となり、基本的には無料で食料がやり取りされる。廃棄になる予定だった食品を貧困層等に分配することが主な活動である。最後のコミュニティ型はP to Pモデルで、個人間での食品廃棄のやり取りを主とする。このモデルに関わっている組織は基本的には個人の活動等をマネージすることはなく、あくまで個人と個人が活動のためのコミュニティを形成する場を提供するというスタンスで参加する。

この類型を参考にしながら、日本で重要になっている食料廃棄に着目し、食料ロスと食料廃棄の段階の違いがより明確になるようサプライチェーンの下流・上流の観点を入れて、以下の3つのパターンに修正して事例を分析した。

【図表3】フードシェアリングサービス
(図表3)フードシェアリングサービス
(出所)富士通総研作成




【図表4】主なマッチングサービス一覧
マッチングのパターン サービス名称 対象地域 提供団体 サービス開始年(注8) 概要
①飲食・小売店×消費者 Too Good To Go デンマークを中心 とした欧州11カ国(注9) 企業 2016 消費者向けのフードシェアリングアプリ。
飲食店(個人経営が多い)や小売店で余った調理品をアプリ上から購入し、指定時間までに消費者が現地へ取りに行くサービスを提供している。
デンマークから始まり、現在欧州11カ国に広がる大規模なサービスへ成長。約24,600件の店舗登録があり、750万人以上のユーザーを抱える。
ResQ Club フィンランド
スウェーデン
ドイツ
企業 2015 消費者向けのフードシェアリングアプリ。
フィンランドの会社で、3カ国に展開している。Too Good To Goと同様に飲食店や小売店で余った調理品や食品を、アプリをとおして安価に販売し、食品ロスを減らすことを目的としている。登録店舗や登録ユーザーの正確な数は公表していない(2019年6月時点で店舗は1,000を超える)。
Olio イギリス
スペイン
企業 2015 消費者向けのフードシェアリングアプリ。
消費者と飲食・小売店を繋ぐだけでなく、消費者間のやり取りもできるのが特徴。例えば個人が長期旅行に行く場合等に個人宅で余っている食品(や食品以外のアイテム)が売買可能。
Y Waste オーストラリア
ニュージーランド
企業 2017 消費者向けのフードシェアリングアプリ。
他の類似サービスと同様に飲食店、小売店と消費者をアプリ上で直接マッチングしている。
注文毎に20%を手数料とする。
②飲食・小売店×組織・団体 Meal Connect アメリカ 非営利団体 2017 フードバンクやチャリティ組織向けのフードシェアリングアプリ。
Feeding AmericaというNPO団体によるアプリサービス。この団体自体は52年の歴史を持ち、貧困問題に対して活動してきた。
主に飲食店等の企業とフードバンクを繋ぐプラットフォームを提供。そこからフードバンクが食料困窮者と食品を繋ぐ仕組み。
Food Rescue US アメリカ 非営利団体 2017 フードバンクやチャリティ組織向けのフードシェアリングアプリ。
団体の設立は2011年。小売店やレストラン等で出た余剰食品を寄付してもらい、食環境が脆弱な人々をサポートするチャリティ組織等に供給する仕組みを運営している。2017年からはアプリを使用しその仕組みを管理。団体だけでなく個人もボランティアとして登録可能で、米国内に17か所ある寄付された食品が集まる”Food Rescue Sites”から指定場所へ届ける役割を担う。
③生産・加工×団体・組織 Food Cloud アイルランド
イギリス
企業 2016 生産・加工過程で出る食料ロスにも特化し、アプリでのマッチングを含めたフードシェアリングサービスを提供。
飲食店、小売店で出る食料廃棄だけでなく、農家、工場等で出る食料ロスを団体や組織に繋ぐ仕組みを構築。食環境の貧しい人々に食べ物が行き渡ることを最終的な目標としており、主にチャリティ組織とマッチングをしている。
No Food Waste インド 非営利団体 2017 最少50食以上をカバーする大規模なロスを集め、ボランティアによって扱う。飲食店や小売店による食料廃棄だけでなく、農場等で出る加工前の食料ロスも扱っている。 アプリを活用しHunger spotと呼ばれる食の貧困地帯を特定しマッピングしてデータベース化(2018年10月で80箇所)。食品・食料を寄付したい側はアプリ上で引き取りを依頼、消費側は食料の運搬を依頼することができる。

(出所)各団体ホームページやデスクリサーチを基に富士通総研作成



①食品サプライチェーンの下流(飲食・小売)と消費者を直接マッチング

まず一つ目の類型は、冒頭からも触れている、飲食・小売店と消費者を直接アプリでマッチングするサービスである。この代表的な例は、日本でも紹介されており、国際的に認知度が高い「Too Good To Go」である。このサービスはデンマークから始まり、いまや欧州11カ国に展開するまで拡大した。レストランやベーカリー等の飲食店やスーパーマーケットのような小売店がその日に余りそうな調理品や食材をアプリ上で安価に販売し、それを購入した消費者は指定時間に現地へ取りに行く。決まった品物が用意されていることもあれば、その時に残っているものを自らその場でパックや袋詰めにする場合もある。2016年に始まり、イケアの一部店舗が登録するなど、2019年6月時点で11カ国に約24,600店舗の登録がある。ユーザー数は2019年2月時点で750万人の登録を誇り、2020年の終わりまでに5,000万人というチャレンジングな目標を掲げている。類似のサービスは多く出現しているが、早くからこのモデルでフードロスシェアリングビジネスを展開してきたことによる知名度の高さがToo Good To Goの強みといえる。

図表4に示したように、これ以外にも様々なサービスが登場している。イギリスとスペインで展開する「Olio」は他のサービスと違って、飲食店や小売店と消費者を繋ぐだけでなく、消費者間のやり取りにも対応している。例えば長期で旅行に行くとき等、自宅に保管できない食材やそれ以外の日用品等を売買することも可能である。自宅保管の食材の取引は特に安全性の管理が難しいだろうが、数週間にわたる長期休暇が珍しくない欧州らしい取り組みである。

基本的にどのサービスもユーザーが支払うのは食品代金のみであり、登録店舗が売上をあげた時点でそのうちのいくらかを手数料としてとっているケースが多い。その額については明記している企業もあればそうでないものもあるが、フィンランド、スウェーデンとドイツに展開している「ResQ Club」は25%、オーストラリアとニュージーランドで展開する「Y Waste」は20%としている。このモデルでは、食料廃棄がどれだけ売れたかどうかが直接売上に関わるため、登録店舗数とアクティブなユーザー数の確保・維持がカギとなる。

また、いずれのサービスにおいても、サービスによって廃棄を免れた食事量やそれに付随したCO2の削減量等の環境面の社会的インパクトをホームページ上で強調している。ここからは、ユーザーたちが単に売れ残り商品を安値で購入する「お得感」だけでなく、こうした社会的インパクトに価値を見出していることが窺える。

②食品サプライチェーンの下流(飲食・小売)と組織・団体をマッチング

①と同様に飲食店や小売店の食料廃棄を扱うが、消費者個人ではなく、団体や組織とマッチングをすることに特化するサービスも存在している。このパターンは非営利団体による運営が多く、アプリ等を活用しフードバンクのようなチャリティ組織と飲食・小売店をマッチングすることで、食環境が貧しい人々に分配が行われるルートを確保するための取り組みがみられる。アプリを活用することで、飲食・小売店で扱われることの多い調理済みの食品の余剰を即時に把握できるようになり、より短時間で的確に食料を分配すべき地域や人の特定が可能になっている。

日本ではまだこういった活動は極めて数が少ないが、食品ロス削減推進法にはフードバンク支援が明記されており、農水省はフードバンクへの寄付に関して企業に税制上の優遇措置を設けるなど促進策(注10)を展開しており、今後広がっていく可能性もある。

③食品サプライチェーンの上流(農家・生産加工業者)と組織・団体をマッチング

店舗と消費者や組織のマッチングに比べると事例が少ないが、サプライチェーンの上流である農家や生産加工業者等と組織を繋ぐ取り組みもみられる。その一例はアイルランドに拠点を置く、Food cloudだ。同社は2種類のサービスを、名称や体制を分けて提供している。

一つ目は飲食店やスーパーマーケットで出た余剰な調理品や食品とチャリティ組織をマッチングする「Food Cloud」で、アプリを活用し組織と組織を繋いでおり②の活動といえる。もう一つ「Food Cloud Hubs」と呼ばれる方は「食料ロス」をターゲットとしてサプライチェーンのより上流である生産者や加工業者とチャリティ組織をマッチングしている。こちらはアプリではなく、より大規模な食品を扱うため、倉庫管理のITシステムを導入し運営している。非営利団体としてではなく、社会問題の解決を目的としながらも収益事業に取り組む「社会的企業(Social Enterprise)」として活動を続けている(注11)。

類似のサービスはインドでも発展しており、「No Food Waste」と呼ばれる非営利団体が提供するアプリ上でのプラットフォームにより、食の貧困地域の特定、余剰食糧の確保と分配を行っている。アイルランドおよびインド、双方の例は食料廃棄と食料ロスの両方をターゲットにしており、①や②の食料廃棄のみに対応したソリューションに比べると扱う食品量の規模が大きく、またロスを移動させる距離が長い傾向にある。そのため、食品・食材と受け取り手のマッチングだけでなく、ロケーションのマッピングや移動人員と手段のマッチングなど①や②では重要視されていない項目もカバーされている。こういったサプライチェーンの上流で生まれる食料ロスについては、食料として扱う以外にも、再生可能エネルギーに転換するという取り組みもみられる(注12)。

日本でのフードシェアリングサービス普及を考えるうえで重要なポイント

では、フードシェアリングサービスは日本で普及するのだろうか。まず、上でみた③のようなソリューションは、Micheliniら(2018)が指摘しているように、いわゆる「発展途上国」でより親和性が高い。サプライチェーンの上流での加工、保管や輸送において限られた技術や資源しかなく、最適な方法が選択できずに廃棄に至るケースが多いからである。インドの事例が取り組むように、生産や保存において恵まれない環境でも廃棄を減らし効率的に必要とする人々へ食べ物を分配するのにICTが一役買っている(注13)。①や②のようなサプライチェーンの下流で起こる廃棄への対策は、日本も含めた「先進国」においてより重要な取り組みである。特に日本では、フードバンクがあまり普及していないこともあり現状では②のような取り組みはほとんどみられない。上述のとおり、今後は次第に増加することが考えられるが、本稿では①に着目し日本での普及の可能性を考察してみたい。

実は日本でも昨年辺りから①のフードシェアリングサービスが登場している。2018年よりサービスを開始した株式会社コークッキングのフードシェアアプリ「TABETE」や、SHIFFT株式会社が運営する定額制が特徴の「Reduce GO」等が代表例だ。ただTABETEが2019年3月時点で登録者10万人(注14)であることからも、海外事例との規模の違いが分かる。「TABETE」の創業者は、「Too Good To Go」に着目して日本でのサービス展開を考えたと語っている(注15)。類似の課題に対して、既に広く普及しているものからヒントを得てそれを応用すること自体は筆者も物事の発展に重要な一歩だと考えるが、サービスの背景にある考え方や環境が異なれば、サービスモデルがすぐさま日本で機能するわけではないことを認識しておく必要もある。

フードシェアリングサービスの利用が日本で増えていくかは、消費者や企業がこういった取り組みに価値を置くかどうかに左右される。それには食料ロス・廃棄問題に対して社会全体がどのように考え取り組んでいるかが大きく影響しているといえるだろう。欧州では、そもそもの社会的背景として循環型経済や持続的な社会のあり方の模索のなかで、社会全体の基礎に根付く価値観や体制が変化している点がある。①に限らず、②や③のような取り組みが広がっているのも、こういった背景に因るところが大きい。

例えば、欧州議会は2012年に EU 加盟各国に対し、2025年までに食品廃棄物を半減させることおよび食品廃棄物の発生を抑制するための具体的行動を求める決議を採択している。日本では成立したばかりの食品ロス削減推進法だが、世界に先んじて食品廃棄に対応する法律を制定したのはフランスだった。2016年に食品廃棄禁止法が成立し、大型のスーパーマーケットを対象に事前に契約した慈善団体に食品を寄付するか、家畜の肥料や飼料に転用することが義務付けられた。違反した場合は罰金が科せられるという厳しい内容である(注16)。法整備による枠組みの構築というマクロな変化に呼応するように、消費者がより持続可能な方法や商品を選択する傾向が強まっている(注17)。このような環境の中で、消費者の態度が企業の生産や販売方法の見直しを迫ると同時に、企業は問題意識をビジネス等の活動に反映し社会課題解決への貢献を消費者に促すという双方向の相互作用が生じ、本稿で取り上げたフードシェアリングが普及する素地が形成されている。

日本においても、冒頭で紹介した「食品ロス削減推進法」の成立や大手チェーン店の対応など、食品ロス対策への意識と実際の対応も確実に変化しており、消費者の感度も上がっていると言えるだろう。それがすぐさま普及に繋がるわけではないが、フードシェアリングサービスなどに取り組む企業を選択するという、欧州と同様な流れが加速していくことが予想され、企業はこの点を消費者にうまくアピールしていくことが求められる。

また、日本での普及に対し実務的な課題として食品の安全性をどのように担保するのかということは重要な点である。コンビニの大量廃棄などの問題に至った厳しい消費期限管理も、元を辿れば食中毒など衛生上の問題を引き起こすことによるリスクや、そうしたリスクに対する消費者の過敏なまでの反応への対処という面がある。上記に挙げた海外事例のなかには独自に安全性を査定する仕組みを明記し、利用には講習を受ける必要があるサービスもあれば、そういった記述は少ないものも多くあった。そもそも、Too Good To Goが始まったデンマークを含む北欧諸国の気候風土は日本と大きく異なっており湿気の高さや最高気温の違いなどにより、食品の腐敗スピードなど衛生管理の必要なポイントも違っている。日本での普及には、こういった食品の安全性の確保をより明確に消費者へ示していく必要がある。

フードシェアリングサービスが促す社会認識の醸成

食料ロス・廃棄問題に対して、アプリを中心としたフードシェアリングサービスは、従来の生産や販売方法で出てしまう余剰に対して効果的なアプローチであることは間違いない。しかし、ここでは消費者を目先の利害のみを追求する存在としてではなく、社会的価値にもコミットする存在として捉える視点が重要になろう。フードシェアリングサービスの提供を単に新たなビジネスチャンスの到来と理解し、消費者に「お得感」を訴えるようなアプローチでは、海外の先行事例の表面的な部分だけを捉えて終わってしまうのではないか。企業と消費者の双方が相互的に作用しながら価値観の変容が起こっていくことで新たな社会認識が醸成される過程と欧州におけるフードシェアリングサービスの普及を切り離すことはできず、その流れを含めて理解する必要があるからだ。この相互作用抜きにサービスを設計してしまうと、例えばその帰結として、フードシェアリングサービスが安価に購入できる食品の選択肢を増やし、むしろ不必要な購入を増やす懸念もないとはいえない。購入に至って利益が出たとしても、結局購入されたものが消費者によって廃棄となってしまっては意味がない。問題になっている食料廃棄のなかには家庭内での大量廃棄も含まれており、食品ロスの削減を考えるとき、この点は重要である。

フードシェアリングサービスは、大きく言えば資源の有効活用による持続可能な社会を目指すという大義が明確にある。本稿で取り上げた事例では、消費者は単に安く在庫を購入するだけではなく、それによってどのような社会的インパクトを与えることに貢献しているのかを以前よりも明確に感じることができるようにサービスがデザインされている。この点を消費者が購買をとおして感じ、次第に意識が変わっていく過程こそが、フードシェアリングサービスのもたらす社会的価値といえる。

サービス提供主体はこの点を念頭に置き、現時点での日本の社会経済状況や持続可能な社会に対する消費者の感度と実際の行動などを敏感に捉え、サービスをデザインしていく必要がある。さらに、普及を加速するためには、国や自治体による食品ロス対策啓蒙との連携や、サービス利用企業に対する優遇措置などの施策も効果的だろう。こういった動きが積み重なり、少しずつ企業活動と消費者の行動変容を促すことで、本来の目的が達成される流れが醸成されていくことを期待したい。

注釈

  • (注1)
    正式名称「食品ロスの削減の推進に関する法律」
  • (注2)
    国連食糧農業機関(FAO)のウェブサイトOpen a new window参照
  • (注3)
    農水省の推計Open a new window参照(2019年4月発表)
  • (注4)
    環境省(2017) 『環境白書Open a new window
  • (注5)
    フードバンクとは「食品企業の製造工程で発生する規格外品などを引き取り、福祉施設等へ無料で提供する」活動や団体を指し、フードドライブとは「家庭で余っている食べ物を持ち寄り、それらを地域の福祉団体やフードバンクなどに寄贈する活動」をいう。農水省ウェブサイトOpen a new windowおよび崎田裕子(2017)「もったいない!食品ロス:③広がるフードバンク活動や事業者の工夫」、『国民生活』(国民生活センター発行)より。
  • (注6)
    類型化については、Abrahamson(2002)が福祉国家の類型化に関する研究に対して、新たな類型を出すことが研究界での「流行り」になってしまったことを「The modelling business」と揶揄したように、類型化すること自体は目的とすべきでないが、フードシェアリングサービスのように比較的新しい動向についてその実態を整理・把握するためにパターンを提示することには一定の意義があると考える。Abrahamson, P (2002) The Welfare Modelling Business, Social Policy and Administration, Vol.33, Issue 4: 394-415.
  • (注7)
    Michelini, L., Principato, L. and Iasevoli (2018) Understanding Food Sharing Models to Tackle Sustainability Challenges, Ecological Economics, Vol. 145: 205-217.
  • (注8)
    アプリ等を使用したシェアリングサービスの開始年であり、運営団体の設立年とは異なる。
  • (注9)
    ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、ポーランド、スペイン、スイス、オランダ、イギリスの11か国。ウェブサイトOpen a new window参照。
  • (注10)
    詳しくは農水省のウェブサイトOpen a new window参照。
  • (注11)
    昨年時点では総売り上げ€2,141,917の30%は寄付やグラント等からの収入で構成されている。
  • (注12)
    スコットランドでは、技術を用いて廃棄される食品を再生可能エネルギーに転化させるビジネスが立ち上がった。より大規模な廃棄が出てしまうホテル業、イベント業などの業種もターゲットにしている。スコットランドで廃棄物処理やリサイクルの大手であるBinn GroupとEarnside Energyの2社が協業して立ち上げたFood Waste Scotlandというサービスである。
  • (注13)
    先進国におけるより上流での食料ロスは、こういったマッチングによる解決を図ることが有効な部分以外に、例えば規格外品を選択しない消費者の問題など、消費者と企業の意識変革によって解決されるだろう部分も大きい可能性がある。
  • (注14)
    TABETEによるプレス・リリースより。
  • (注15)
    創業者のインタビュー記事Open a new window参照。
  • (注16)
    ジェトロ調査レポート(2016年9月)「【欧州】廃棄食品削減の動き活発化」
  • (注17)
    Schanes & Stagl (2019)は消費者がどのような動機をもってフードシェアリングを活用しているのかを分析し、「感情と倫理観」、「アイデンティティとコミュニティ参加の感覚」、「利益」、「社会に対する影響」、「行為の有用性」の5つを特定している。詳しくは以下を参照されたい。Schanes, K. and Stagl, S. (2019) Food waste fighters: What motivates people to engage in food sharing?, Journal of Cleaner Production, Vol. 211: 1491-1501.
森田 麻記子

本記事の執筆者

経済研究所
上級研究員

森田 麻記子(もりた まきこ)

 

2012年~2015年 デンマーク、オールボー大学、比較福祉研究所(Centre for Comparative Welfare Studies)に4年間在籍し、2016年 富士通総研入社。 専門領域は社会政策学、高齢者福祉、ライフコース研究。

田中 秀樹

本記事の執筆者

経済研究所
担当部長

田中 秀樹(たなか ひでき)

 

消費者調査や市場調査を行った後、流通業向けコンサルティングやインターネットビジネスの新規事業化支援に従事。現在はICTが企業・社会に与えるインパクトのリサーチとビジョン策定を担当。

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