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日本における口座維持手数料導入の可能性

日本における口座維持手数料導入の可能性

2019年9月期の中間決算発表において、大手行による口座維持手数料導入に関する記者質問が相次いだ。本稿では、日本における口座維持手数料導入の可能性とともに、導入された場合の利用者への影響、金融ビジネスの変化、金融機関にとっての意義について検討する。

2019年12月3日

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1. 口座維持手数料とは

口座維持手数料は、金融機関に口座(主に普通預金などの要求払預金)を持っているだけで利用者に毎月課される手数料である。これまで日本では金融機関に口座を保有するだけで手数料を取られることはほとんどなかったが(注1)、海外をみると口座維持手数料の制度は一般的である。利用者が預金口座を開設・保有すると、金融機関はその口座を維持・管理するだけでも様々なコストがかかる(詳しくは後述)。海外ではこうしたコストを利用者に転嫁することは当然であるという考え方があるが、日本では「サービスは無料」という意識が長く定着している。

米国の事例をみると、大手行を中心に多くの金融機関が口座維持手数料を導入している。手数料水準は概ね5~20ドル/月程度で、一定の預金残高があれば口座維持手数料は免除(注2)される(図表1参照)。

【図表1】米国金融機関における口座維持手数料の状況(対象:250金融機関、2019年7月時点)
有利息口座(注3) 無利息口座
平均口座維持手数料(月額) 約15ドル 約6ドル
手数料が免除となる平均預金残高(注4) 約7,123ドル 約622ドル

(資料)bankrate.com掲載記事をもとに筆者作成

2. なぜ口座維持手数料導入の議論が高まったのか

口座維持手数料導入の議論のきっかけとなったのは、国内金融機関の収益力低下である。2019年3月期における全国銀行116行(注5)の業務純益(注6)は、過去20年間で最悪となった(図表2参照)。

過去20年間において、全国銀行の業務純益は1998年度と2008年度に大きく減少している。前者はバブル景気後の不良債権問題に起因する国内の金融危機、後者は米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発する世界的金融危機(リーマンショック)の影響を受けたことが主因である。過去における国内金融機関の収益力低下は、こうした一時的な環境変化によってもたらされたと考えられる。しかしながら、2016年度以降続く国内金融機関の収益力低下は、比較的経済環境が良好ななかで発生している。いまや、預金を集めて融資や有価証券で運用するという伝統的な金融モデルが成り立たなくなってきている恐れもある。国内金融機関が直面している収益力低下は、金融機関自身のビジネスモデルが限界に達していることに起因するものと考えられる。

【図表2】全国銀行における業務純益の推移
(図表2)全国銀行における業務純益の推移
(資料)全国銀行協会発表資料をもとに筆者作成

こうした状況のなか、国内金融機関の多くが構造改革による収益力強化とコスト削減に取り組んでいるが、いまだ好転する兆しが見られない。2019年度の中間決算でも、3メガバンクグループともに最終利益ベースで減益となり、上場する地方銀行・持ち株会社でも7割が最終減益となった。収益力強化に向けた施策が見いだせないなかで、収益回復に直結すると期待される口座維持手数料の導入に関する議論が高まってきている(図表3参照)。

【図表3】口座維持手数料導入にかかわる主な発言
(図表3)口座維持手数料導入にかかわる主な発言

3. 収益力低下の要因

そもそも国内金融機関の収益力が低下した要因として、主に3つの環境変化が挙げられる。第一の要因は、日本銀行による超緩和政策の長期化である。2013年4月に異次元緩和政策(2%の物価上昇目標を、2年程度を念頭にできるだけ早期に実現)が導入され、2016年2月にはマイナス金利が導入された。一連の日銀による超緩和政策導入に伴い金融機関の貸出金利回りが低下し、収益の大半を占める資金利益が大幅に減少することとなった(注7)(超緩和政策の副作用と呼ばれる)。最近では「マイナス金利の深掘り」の可能性も浮上し、金融機関の収益力低下が一層進む懸念も出てきている。

第二の要因は、人口減少である。日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じているが、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)に着目すると既に1995年をピークに20年以上も減少を続けている。「地域の生産年齢人口(注8)が1%減少すると、預金取扱金融機関の対民間向け融資額が7%減少する」(全国銀行協会・金融調査研究会)という研究報告もある。人口減少は既存の金融機関にとって極めて深刻な問題であり、特に人口減少が進む地域を営業基盤とする地方銀行では、単独での生き残りが難しくなっているケースも出始めている。

第三の要因は、競争環境の変化である。2000年に開業したジャパンネット銀行を皮切りに、日本では既に7つのネット専業銀行が誕生している。店舗を持たないローコスト構造を武器とした低利の住宅ローンなどで、ネット専業銀行は既存の金融機関の脅威となっている。また、決済分野ではIT企業・EC企業などが極めて安価(または無料)で便利な送金サービスやキャッシュレス決済を提供し、既存の金融機関の領域を浸食している。人口減少が進む中、既存の金融機関の事業機会が縮小する一方、こうした異業種からの金融業参入により国内金融ビジネスの競争環境は熾烈を極めている。金融機関が提供する商品・サービスは差別化の余地が小さいため、金利や手数料の価格競争に陥り、収益性が一層低下する事態となっている。

4. 口座維持手数料導入がもたらす利用者への影響

口座維持手数料が導入されると、金融機関の利用者には手数料負担が生じることになる。ただし、一定の預金残高があれば手数料が免除されると考えられており、必ずしもすべての利用者に手数料負担が生じるとは限らない。

当然のことながら、金融機関利用者の多くは手数料を払いたくないと考え、手数料負担を回避する行動に出るであろう。ひとつには、複数の銀行に分散した口座を一つの銀行へ集約することで、手数料が免除される預金残高基準を満たす方法である。もう一つは口座維持手数料のかからない金融機関に口座を移すという方法である。口座維持手数料を導入しない金融機関も少なくないと考えられ、これを武器に顧客獲得を狙う金融機関もあるはずである。

このように、口座維持手数料の制度が日本で導入されたとしても、消費税のようにすべての人に支払義務が生じる訳ではない。とは言え、口座維持手数料の支払を回避するためには、口座の集約や移動の必要がある。また、預金金利低下によってタンス預金が増加(注9)しているが、口座維持手数料が導入されるとさらにタンス預金が積みあがる可能性もある。

5. 口座維持手数料導入による金融機関のメリット

金融機関にとって、口座維持手数料導入により新たな収益機会を獲得できるというメリットがある。超低金利環境が長期化して貸出金利息収入や有価証券運用益が減少するなかで、多くの金融機関は手数料収入の拡大を図ろうとしてきた。しかしながら、決済ビジネスは異業種の参入で収益拡大は難しい。投資信託などの金融販売ビジネスによる収益力強化では「貯蓄から資産運用・資産形成へ」の動きが進まず、思うような成果が得られていない。また、既存の金融機関が行う金融商品販売は対面取引を中心とする労働集約的なビジネスで、当初の期待に反して採算性がなかなか確保できない(注10)。

このように既存の金融機関では新たなビジネス機会の確保が進まず、近年は手詰まり感が強くなっていた。こうしたなか、水面下では口座維持手数料を新たな収益機会として導入を検討する金融機関が徐々に増えている。預金口座保有者に対し、広く、薄く手数料を課すことができれば、金融機関は一定の収益を安定的に確保することが可能となる。

ただし、口座維持手数料を導入しても、金融機関にとっての収益貢献度はさほど大きくはない。図表4は、業務純益800億円、口座数500万口座の銀行を仮定した場合の口座維持手数料導入による収益貢献度を試算したものである。仮に口座維持手数料が課金される口座が200万口座(全口座の40%)あり、毎月¥200の手数料が課金された場合、48億円の手数料が得られることになる。これは業務純益の6%に相当する。米国商業銀行の例でみても、粗利益に占める口座維持手数料の割合は5%前後に過ぎない。日本の金融機関が口座維持手数料を導入しても、収益への貢献度はせいぜい数%に過ぎないものと考えられる。

【図表4】口座維持手数料導入による収益貢献度の試算
[仮定]業務純益800億円、口座数500万口座
(図表4)口座維持手数料導入による収益貢献度の試算
(資料)筆者作成

一方、口座維持手数料の導入には、コスト削減効果という側面もある。日本における預金口座は人口の10倍にあたる12億口座(注11)もあると言われ、他国(注12)に比べ非常に多い。口座維持手数料がかからないために、これまで日本では “使い捨て”感覚で預金口座が作られることも多かったようである。こうした預金口座の維持に、国内金融機関は1口座あたり年間2,000~3,000円のコストをかけていると言われている。預金口座を維持するにはシステムによるデータ管理コストや通帳の印紙税(年200円)がかかり、これを金融機関が負担している。12億口座もある預金口座のうち日常的に使われている口座は一部に過ぎず、かなりの口座はほとんど使われずに忘れ去られているものと考えられる。こうした不活動口座についても金融機関はコストをかけて管理しているわけで、使われない口座が少なくなれば中長期的にコスト削減が可能となるはずである。

また、長年使われない不活動口座については、一定の条件を満たすと「睡眠預金(注13)」となり、銀行の雑益として利益計上(注14)される。ただし、預金者から払い戻しの請求があった場合には消滅時効(5年)が過ぎても、これに応じることになっている。したがって、睡眠預金についてもいつでも払い戻しに応じられるようにデータ管理を行い続ける必要があり、金融機関にとってはコスト負担が続くことになる。

金融機関にとって、何らかの方法で管理対象となる口座数が減ればコスト削減につながる訳であり、こうした意味でも口座維持手数料の導入は一定の意義があると言えよう。

さらに、金融業に参入してくる異業種などとの競争のうえでも、一定のメリットがあると考えられる。IT企業やEC企業などが提供するスマートフォンなどを使った個人間送金サービス(注15)は、無料で提供されることが多い。ネットショッピングを提供するEC企業を例に取ると、個人間送金などの決済サービスを無料で提供しても、それが本業のネットショッピングの売上拡大につながれば、全く問題はない。一方、金融機関にとって決済サービスは本業であり、対抗上決済手数料を無料にすることは極めて難しい。ただし、口座維持手数料というかたちで口座関連サービスに対する対価を包括的に徴求することで(一種のサブスクリプションモデル)、個人間送金サービスなどの個々のサービスを無料化することができる。大手米国商業銀行でも個人間送金サービスの無料化を実現(注16)しているが、これは別途口座維持手数料というかたちで口座関連サービスの対価を得ているからだと考えられている。さらに得られた口座維持手数料を原資としてフィンテックへの投資を行い、異業種等との競争を勝ち抜くための新サービス開発に取り組んでいる。

6. 口座維持手数料導入がもたらす競争環境の変化

もし日本で口座維持手数料が本格的に導入されると、金融機関同士の競争環境に大きな変化が生じるものと考えられる。先にも述べたとおり、ほとんどの利用者は口座維持手数料を支払いたくないと考え、複数の金融機関に分散している口座を特定の金融機関に集約しようとする。こうして預金が集まるのは利便性の高いサービスを提供する大手行や地域トップシェアの大手地銀などであると考えられ、中小金融機関などからは預金が流出することになる。一方で、中小金融機関は預金流出を防ぐため、口座維持手数料を導入しないことで大手行などに対抗するものと考えられる。

口座維持手数料という新たな収益機会を得られない中小金融機関としては、ビジネスの選択と集中を進めるとともに、一層のコスト削減によって収益(業務純益)を確保することが必要となる。具体的には、大手行やネット専業銀行などがスマホなどを介して展開するデジタルバンキングサービスなどに追随することなく、店舗や渉外活動をベースとするリレーションシップバンキングへの回帰を図るものと考えられる。デジタルバンキングの主たる対象層は、マスリテールと呼ばれる一般の個人顧客である。金融機関にとってマスリテール層との取引は、低コストで安定的な資金を調達するというメリットがあり、将来的には住宅ローンや資産運用などの収益ビジネスの潜在顧客としての魅力がある。中小金融機関としては、マスリテール層との取引は低コスト・安定的預金源として位置づけ、大手行やネット専業銀行などと住宅ローンなどの収益ビジネスでは競わない方が得策である。地域に根ざす中小金融機関としては、中小企業向けの融資や各種のアドバイザリーサービスに特化し、巨額のIT投資が必要となるデジタルバンキングとは一線を画すことで独自性を発揮する方が、メリットが大きいであろう。

また、既存の金融機関による口座維持手数料の導入は、ネット専業銀行や流通系銀行などの優位性を高める可能性もある。海外を見ても、ネット専業銀行などは口座維持手数料を導入しないケースが多い。ネット専業銀行等と競合する大手行などが口座維持手数料を導入すれば、若年層(注17)を中心に手数料を払いたくない利用者がネット専業銀行などへ口座を移すものと考えられる。

7. 本当に口座維持手数料は導入されるのか?

金融機関にとって、口座維持手数料の導入は新たな収益源でありコスト削減手段としても大きな期待がある一方で、多くの利用者からの反発も招きかねない諸刃の剣といえる。2018年7月に口座維持手数料導入に関するアンケート(注18)を行ったところ、予想通り無条件で「容認」できるとする回答は数%にとどまった。一方で、どんな理由があろうとも「反対」という回答は5割に満たず、残りは「手数料免除の制度があれば構わない」「代替措置があれば構わない」などの「条件付き容認」であった(図表5)。

【図表5】口座維持手数料の導入に関する利用者の意向

【問】近い将来、日本の銀行が口座維持手数料を導入するとすれば、あなたはどのように思いますか?最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

  • [1]
    理解できる、仕方がない、やむを得ない
  • [2]
    手数料免除の制度(例:給与・年金の振込口座は無料、あるいは預金残高10万円以上は無料など)があれば、導入しても構わないと思う
  • [3]
    口座維持手数料を払う代わりに代替措置(ATMや両替手数料の無料化、振込手数料などの値下げなど)があれば、導入しても構わないと思う
  • [4]
    手数料免除の制度や代替措置があっても、口座維持手数料の導入には反対
  • <注>
    回答者3,144人をA群およびB群に均等に分割し 、A群の回答者のみ、次の文章を読んでもらったうえで回答を得た。
    「私たちが普段利用している銀行口座には、通帳にかかる印紙税¥200やデータ管理料など、1口座当たり年間¥2,000~¥3,000のコストがかかっており、これを銀行が負担しています。また、日本の銀行口座は約12億あると言われ、その4割程度は利用されておらず銀行の管理負担を大きくしていると考えられています。」

(図表5)口座維持手数料の導入に関する利用者の意向
(資料)富士通総研実施アンケート結果をもとに筆者作成

「容認」および「条件付き容認」とする回答が5割を超えてはいるものの、これをもって口座維持手数料の導入に踏み切る金融機関はほとんど無いと考えられる。金融機関の利用者にとって不利となる口座維持手数料を導入すれば、間違いなくSNSなどで金融機関を非難する声が巻き起こると考えられ、メディアでも利用者寄りの報道がなされる可能性が高い。

上記アンケートにおける自由回答では、「(金融機関は)自身の失敗を利用者に転嫁するのはおかしい」「まずは金融機関の給料を下げるべき」といった意見が多く、「口座維持手数料を取らなければ経営が成り立たないなら、銀行などやめてしまえ!」などという辛辣な意見もあった。こうした利用者の思いについては金融機関自身もある程度把握しているものとみられ、現時点では口座維持手数料導入のハードルは極めて高い状況にある。

このように口座維持手数料の導入に際しての利用者からの強い反発が予想される中、多くの金融機関は業界の“盟主”と目されるような大手金融機関や各業態のリーダー的位置づけの金融機関が先陣を切ることを期待しているように見える。

8. 本格導入に向けた段階的取組みの必要性

口座維持手数料導入の障害となっている最大の要因は、利用者の反発である。いきなり預金口座保有者に毎月数百円の手数料を課そうとすれば、一気に顧客の流出が始まることも想定され、金融機関は導入に躊躇せざるを得ない。金融機関利用者の激しい反発が予想される本格的な口座維持手数料の導入は、簡単には実現しそうにもない。

このように、短期間に利用者の理解を得ることは困難であるため、段階をふんだ口座維持手数料の導入が検討されているようである。例えば、当初は法人名義の口座のみに口座維持手数料を課し、一定期間経過後に少額の手数料を個人口座にも課すというものである。あるいは、当初は「通帳利用手数料」という位置づけとし、通帳を利用するのであれば毎月一定額の手数料を徴求し、通帳を発行せずパソコンやスマホなどから取引明細や残高を確認する(WEB通帳)場合には手数料を課さないという方法もある。

実は伝統的な金融機関にとって通帳廃止は、長年の課題となっている。通帳を発行すると通帳代、毎年の印紙税などがかかる。金融機関の店舗に置かれているATMには通帳ユニットが搭載されているが、これをなくせば1台当り数十万円の導入コストを削減できる。このほかにも通帳があることで直接的・間接的に様々なコストが生じ、金融機関の負担を大きくしている。こうした点においても、通帳を発行しないネット専業銀行の方が伝統的金融機関に比べ、コスト競争力で勝っている。

当社が過去に行った通帳の必要性に関するアンケートにおいて、「通帳の廃止には反対」とする回答は各年代で5割を超え、年齢層が高いほど反対回答が多くなった。一方、通帳の利用頻度に関するアンケートでは、「日常的に通帳を利用している」という回答は少なく、大半の人が「通帳があると安心」という回答結果が得られた。こうした状況を鑑みると、「通帳利用手数料」導入のハードルはさほど高いとは考えられず、すぐにでも導入が可能であると考えられる。本格的な口座維持手数料導入にはまだまだ時間を要するものと考えられるが、その第一歩として「通帳利用手数料」は有効な施策であると考えられる。

また、りそな銀行では、「未利用口座管理手数料」という制度を導入しており、最後の預入れまたは払戻しから2年以上一度も取引が無いなど一定の要件に該当する普通預金口座に対し、一定の手続きを経て、年間1,320円(消費税等込み)の手数料を課している。さらに「未利用口座」の残高が未利用口座管理手数料未満になると、自動解約となる。一部の地域金融機関では、りそな銀行に追随し未利用口座管理手数料を導入する動きもある。

未利用口座管理手数料によって得られる収益は限定的であると考えられるが、不活動口座や睡眠預金の発生を防ぎ、口座維持管理コストの削減につながる。また、口座の不正利用の防止という観点でも有効な策であると考えられる。

9. 口座維持手数料導入の意義

この先日本銀行による超緩和政策が正常化したとしても、国内金融機関の収益力が回復するという見方は少ない。人口減少で地域を中心に資金需要が伸び悩むなか、銀行業への新規参入や異業種による便利で安価な決済やキャッシュレスサービスの拡大が続き、いわゆるオーバーバンキングが顕在化しつつある。「金融の基本機能は、資金仲介、信用創造、資金決済」とされるが、人口減少と厳しい競争環境下にある今日、単純な資金仲介や決済では付加価値(≒収益)を生まなくなってきた。こうした状況にAIなどの先進技術が追い打ちをかけているのが現状であり、いまこそ伝統的金融機関における真の構造改革が求められている。

口座維持手数料の導入を、単に新たな収益機会の確保やコスト削減という観点でのみとらえることは、避けるべきである。口座維持手数料の導入は、競争環境を変えるとともに、ビジネスモデルの見直しにまで影響が及ぶ。こうした点で、口座維持手数料の導入は、国内金融機関の構造改革を促す役割もあると言えるだろう。

日本において口座維持手数料の導入が本当に進むかどうかは極めて不透明であるが、収益力低下に苦しむ金融機関としては、是非導入したい制度である。とは言え、口座維持手数料導入に対する利用者の反対は根強いものがあり、時間をかけながら丁寧な説明と段階をふんだ取組みが不可欠であろう。

注釈

  • (注1)
    日本における口座維持手数料導入事例:ジャパンネット銀行(2000年10月)、三菱東京銀行(2001年1月)、三井住友銀行(2002年11月)などの事例があるが、現在はいずれも廃止となっている。
  • (注2)
    欧州などでは、預金利息が付与されない無利息口座を選択すると手数料が免除されるという国もある。
  • (注3)
    米国で家計口座として利用されている決済用口座は「Checking Account(当座預金)」と呼ばれ、預金利息が付与される有利息口座と預金利息が付与されない無利息口座とがある。利用者の大半は無利息口座を保有している。
  • (注4)
    手数料免除の基準となる預金残高:有利息口座の場合、Bank of Americaでは5,000ドル、Citibankで10,000ドル、Chase Bankで15,000ドルなど、各行で大きく異なる(2017年4月時点)。
  • (注5)
    全国銀行:都市銀行、地方銀行、第二地方銀行および信託銀行(2019年9月末時点で116行)
  • (注6)
    業務純益 ≒ 業務粗利益 - 営業経費。一般事業会社の営業利益に相当し、本業における収益力を測る指標として利用される。
  • (注7)
    小倉義明・早稲田大学教授は、「量的緩和により銀行の超過準備が増え貸し出し余力が増す」一方で、「資金需要が銀行の供給余力ほど伸びなかった結果、融資競争の激化で利ざやが縮小」したと述べている(日本経済新聞「経済教室」2019年11月20日)。
  • (注8)
    地域の生産年齢人口:国立社会保障・人口問題研究所によれば、東北地方を中心に減少率が高く、特に秋田県では2015年を基準とすると、2030年には30.8%、2045年には55.1%も減少すると予想されている(2018年発表)。
  • (注9)
    日本銀行「資金循環統計」によれば、2007年から2017年の10年間で、家計の現金保有高が43.3%増加。
  • (注10)
    川村健一・横浜銀行頭取は金融商品販売について、「人手のかかる厳しいビジネス」と述べている(月刊金融ジャーナル・2018年4月号のインタビューにて)。
  • (注11)
    2012年、当時の全国銀行協会会長である三菱東京UFJ銀行・永易克典頭取が睡眠預金の活用議論に際して、「全国津々浦々の金融機関で総口座数は12億口座ある」と発言。ただし、口座維持手数料の課金対象となる普通預金などの要求払預金に限れば、国内銀行および信用金庫だけで約4億口座あり(日本銀行「預金者別預金」、2019年3月末時点)、全業態合計では6~7億口座程度と推計される。
  • (注12)
    他国における預金口座数:英国では約1.5億口座、韓国は約1.7億口座(2012年2月「自見内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要」金融庁ホームページ掲載)
  • (注13)
    睡眠預金:最終取引日以降10年を経過するなど、一定の条件を満たす預金口座。
  • (注14)
    全国銀行協会に「睡眠預金については利益金として計上することとして差し支えない」旨の内規(ガイドライン)があり、金融業界全体がこれに倣っている。
  • (注15)
    個人間送金:送金先の携帯電話番号やメールアドレスを使って簡易的に送金するサービス(P2P Payment)。
  • (注16)
    米国の個人間送金サービス:PayPal傘下のVenmoなどに対抗し、JP Morgan Chaseなどの大手米銀でもZelleと呼ばれる個人間送金サービスを無料で提供している。
  • (注17)
    金融機関に対する価格面での不満:60歳以上では「預金金利が低い」という不満が53.2%、「手数料が高い」という不満が37.0%であるのに対し、30歳未満では各々24.9%と34.2%と逆転する(富士通総研アンケートより/2014年2月実施、サンプル数個人2,000人、年齢・性別は人口動態比例・地域性を考慮、インターネット調査)。
  • (注18)
    アンケートの要領:2018年7月実施、サンプル数3,144人、年齢・性別は人口動態比例・地域性を考慮、インターネット調査

参考文献

  • "Survey: Rising ATM and overdraft fees leave consumers paying much more than they did 20 years ago", Bankrate
  • 村山敦「政府で議論が進められる休眠口座活用の行方」(近代セールス2012・6月1日号)
  • 「あの日預けた休眠預金を探して」(日経ヴェリタス2012年9月16日)
  • 日本銀行「金融システムレポート(2018年10月号)」
  • グローバルリサーチ研究所「ウィークリーグローバルリサーチ」
  • "Average Checking Account Interest Rates 2019", ValuePenguin
  • 全国銀行協会「全国銀行決算発表」
  • 中曽宏「マクロプルーデンス政策の新たなフロンティア」(時事通信社「金融懇話会」講演2017年11月29日)
  • SankeiBiz「三井住友信託銀社長単独インタビュー」(2019年9月18日)
  • 日本経済新聞「経済教室 金融政策の効果と限界(下)」(2019年11月20日)
  • 全国銀行協会・金融調査研究会(第1研究グループ)「少子高齢化社会の進展と今後の経済成長を支える金融ビジネスのあり方」(2015年9月18日)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
  • 日本銀行「資金循環統計」
  • 「地域とともに 横浜銀行 川村健一頭取に聞く」(月刊金融ジャーナル2018年4月号)
  • 日本銀行「預金者別預金」
  • 金融庁「自見内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要」(2012年2月17日)
  • 衆議院「『休眠口座』に関する質問主意書」および「答弁本文情報」(2012年3月)
  • 岡宏「構造改革の一環としての口座維持手数料導入の可能性」(富士通総研・研究レポート No.463)
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執筆者

経済研究所 主席研究員
(兼)オルタナティブ・フューチャーズ 金融グループ プリンシパルコンサルタント

岡 宏

 

慶應義塾大学商学部卒業、1986年4月 地域金融機関入行、1998年4月 富士通総研入社、金融コンサルティングを経て、2017年4月からは 経済研究所に従事。専門領域は、銀行を中心とする金融機関のビジネスモデルと構造改革、チャネル戦略、融資戦略、事務・店舗改革

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