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ICT分野の日本企業の海外展開を促進する官民連携の方向性
(総務省海外展開行動計画2020に関する議論の紹介①)

2020年5月に総務省は「総務省海外展開行動計画2020」を公表している。筆者は総務省海外展開行動計画2020の策定を支援しており、総務省海外展開アドバイザリーボードなど様々な機会の議論に参加してきた。総務省海外展開行動計画2020への理解が深まるよう、関連する議論を2回に渡って紹介する。第1回の本稿では、ICT分野の日本企業は世界の大手企業と比べると競争力が低く、フィンランドや中国など諸外国の取組を参考に、日本も官民連携で日本企業の海外展開に取り組むことが必要であることを述べる。

2020年6月10日

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はじめに

2018年に総務省は「総務省海外展開戦略」(世界に貢献する総務省アクションプラン)(注1)を策定した。この戦略では、日本での経験を活かして諸外国の社会課題の解決に貢献するという相手国のメリットを強調しているほか、ICT分野だけではなく、統計や消防、行政相談制度、地方自治といった日本企業のビジネスの対象とはなりにくい公共性の高い分野も取り上げていた。政府ではインフラシステム輸出戦略を打ち出し、日本企業の海外展開を促進して経済成長につなげることを強調しており、総務省においても需要の増加が見込まれるICT分野を中心に、日本企業の海外展開の促進に焦点を当てた総務省海外展開行動計画2020(注2)を策定することになった。

総務省海外展開行動計画2020には、ICT分野に当てはまる「デジタル分野では、代表的な日本企業の規模が世界的にみて小さいほか、収益性が低い場合があり」、「官民連携等の展開方法について相当な工夫が必要」とある。また、「競合国の官民一体となった売り込みもあり、総務省に対しても、少なくとも数年に及ぶ一定期間のコミットメントが必要」ともある。つまり、ICT分野の日本企業は競争力が世界的に低いため、競合国と同様に海外展開を官民連携で推進する必要があるということであるが、本当に日本企業の世界的な競争力は低いのか?また、諸外国の官民連携の取組には、どのようなものがあるのか?

1.世界のICT市場と日本企業と世界的な大手企業の比較

世界的な経済成長と都市化の進展に伴って、社会経済活動の基盤となるICT分野等のインフラを整備する需要が増加している。世界的なインフラ需要は2030年には4.2兆ドル(約462兆円)と2020年から23%増加し、地域別では着実な経済成長を続けるASEANを含む「アジア」が54%を占め最も多いと見込まれる(図表1)。ここで、ICT分野に当てはまる「通信分野」のインフラ需要は2030年には0.4兆ドル(約44兆円)となり、分野別では交通・エネルギーに次ぐ規模となる見込みである。このように、世界のICT市場はASEANなどアジアがけん引して拡大することが見込まれ、ASEANへの進出を進めている日本企業にとってはビジネスチャンスが広がっていると言える。

【図表1】インフラ需要の予測
【図表1】インフラ需要の予測
出典:
「Global Infrastructure Outlook 2017」(Global Infrastructure Hub)より作成

このような拡大する世界のICT市場については、多くの国の企業が参入して、日本企業と競合している。ICT分野をサービスとソフトウェア、ハードに分けて、それぞれ日本と世界においてシェアが高い3社(日本は富士通とNEC、NTTデータ。世界はIBMとマイクロソフト、HP)を取り上げて、2018年度の業績を比較する(図表2)。ICT分野の主要な日本企業の売上高の平均は約3兆円であり、世界の大手企業(約9兆円)の3割にとどまっている。また、ICT分野の主要な日本企業には営業利益率が10%を上回る高収益な事業がない一方、世界の大手企業は多くの高収益の事業を持っており、特にIBMには「ソフトウェア」、マイクロソフトでは全ての事業、HPには「プリンター」といった営業利益率が15%を超える非常に高収益な事業があり、これらの事業を強みとしてビジネスを世界で展開していることが分かる。このように、ICT分野の日本企業は世界の大手企業と比べると、規模が小さいほか、高収益な強みとなる事業がなく、競争力は低いと言える。

【図表2】ICT分野の日本企業と世界の大手企業の業績の比較(2018年度)
【図表2】ICT分野の日本企業と世界の大手企業の業績の比較(2018年度)
注:フキダシは、営業利益率。なお、IBMは税引き前利益。
出典:各社アニュアルレポートより作成

ICT分野の日本企業は世界の大手企業と比べると競争力が低く、これらの企業と競合しながら拡大する世界のICT市場でビジネスチャンスを獲得するためには、少ない経営資源の中で「売り物」や「売る場所」を絞り込むとともに、「売り方」について工夫が必要である。ICT分野の日本企業が海外展開に当たっての重要な売り物としては、総務省海外展開行動計画2020で指摘されている「中規模なIoT製品」、重要な売る場所としては既に進出を進めており、インフラシステム輸出戦略で政府が重視している「ASEAN」が挙げられるだろう。

2.諸外国の官民連携の取組:フィンランドと中国

ICT分野の日本企業は世界の大手企業より競争力が低く、世界のICT市場でこれらの企業と競合していくためには政府による支援が必要となる。世界のICT市場での売り物と売る場所については、日本企業が経営判断として検討するべきものであるが、売り方については政府の政策支援ツールを活用する官民連携による工夫が有効である。

例えば、フィンランドでは2018年に「ビジネスフィンランド」を立ち上げて、約120億円を投じてスタートアップ企業や中小企業の海外展開を支援している。ビジネスフィンランドの重点支援分野には、「AIビジネス」や「発電・スマートグリッド」などICT分野も取り上げられている(図表3)。

【図表3】ビジネスフィンランドと中国の産業補助金の概要
【ビジネスフィンランド】

【ビジネスフィンランド】
【中国の産業補助金】
【中国の産業補助金】
出典:富士通総研

また、ICT分野の日本企業が海外展開の際に競合することが多い中国については、「中国製造2025」で設定された分野の企業に交付される産業補助金がある。ICT分野は「次世代情報技術(5G、半導体等)」として取り上げられており、最近では、産業補助金は海外展開を進めるアリババやテンセント等のプラットフォーマーにも交付されていると見込まれる。産業補助金の規模は2018年には約1,600億元(約3兆円)と2013年から2倍に増えており、ICT分野等の中国企業の海外展開を支援していると考えられる。

このようにフィンランドや中国では、ICT分野等の自国企業の海外展開を支援するため、資金面の支援を行っている。日本においてもICT分野の日本企業の海外展開を促進するため総務省等の府省事業やJICAなど関係機関による調査事業、ODA、2015年に設立された海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)(注3)による出資等の政策支援ツールを通じて資金面の支援を行っているが、政策支援ツール間の連携が不十分で途切れてしまう場合があった。このため、総務省海外展開行動計画2020では、政策支援ツールによる資金面の支援が円滑に行われるよう、「バトンタッチによる継続的なファイナンス支援体制の確保」が打ち出されている。なお、政府が自国の企業の海外展開を資金面で支援することは、国際的な補助金となって公正な貿易・投資を歪める恐れがあるため、慎重に検討すべきである。しかし、中国などICT分野の日本企業が海外展開の際に競合する国が自国の企業を資金面で支援を行っている以上、日本も競争条件を整えるため資金面の支援を行うことはやむを得ないと筆者は考える。

おわりに

本稿では、「ICT分野の日本企業の海外展開のためにはなぜ官民連携が必要なのか?」という問いについて、「ICT分野の日本企業の世界的な競争力は低いのか?」・「諸外国の官民連携の取組には、どのようなものがあるのか?」に関する議論を紹介した。ICT分野の日本企業は世界の大手企業より競争力が低く、経営資源が少ない以上、政府の政策支援ツールを活用する官民連携による売り方の工夫が有効であることを述べた。また、フィンランドや中国は自国の企業の海外展開のために資金面の支援を行っており、日本も競争条件を整えるために切れ目のない資金面の支援が必要であることも述べた。

ICT分野の日本企業の海外展開に当たっての売り方の工夫として、総務省海外展開行動計画2020では「デジタル官民協議会」(仮称)の設立を打ち出している。デジタル官民協議会(仮称)とは総務省海外展開行動計画2020の目玉となる施策の1つであり、ICT分野の日本企業の海外展開を促進するための官民協議会である。次回では、様々な分野の日本企業の海外展開を促進する官民協議会に関わってきた経験を踏まえて、デジタル官民協議会(仮称)のあり方を提案する。

注釈

坂野 成俊

本記事の執筆者

コンサルティング本部 行政経営グループ
マネジングコンサルタント
(兼)公共政策研究センター主任研究員

坂野成俊(さかの なるとし)

 

  • 1999年慶応義塾大学経済学部卒業、2001年一橋大学経済学研究科修了、同年富士通総研入社。主にICT・交通分野など日本企業の海外展開の促進に関する政策や経済動向、環境政策等に関する調査研究業務のほか、地方自治体の各種計画策定等に関するコンサルティング業務に従事。
  • 『Smart City Emergence 1st Edition』(Elsevier/2019年7月)で「The Smart City of Nara, Japan」や、『運輸と経済(2019年10月)』(交通経済研究所)で「民間力を活用したメンテナンスについて~英国からの教訓~」等を執筆。日本規格協会で「日ASEANコールドチェーン物流ガイドラインのJSA-S化(2019年度)」の委員等も務める。

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