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利用者目線に立った行政手続コスト削減方策の効果算定と今後の在り方

政府はICTの活用等により、行政手続コスト(行政手続に要する事業者の作業時間)の削減目標を掲げている。行政手続を行う主体である、事業者の具体的な生産性向上につなげるためには、利用者の目線で、行政手続コスト削減に資する具体的な改善点を洗い出し、改善効果を積み上げて目標達成に結び付けることが欠かせない。本稿では中小企業からも簡素化の要望が多い政府調達手続を例に、具体的な削減方策を設定し、それを実行した場合の削減効果について算出した事例を紹介する。

※本記事は、政策研究(2019年8月号)(新・地方自治フォーラム)に掲載したものに加筆・修正したものです。

2020年1月9日

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はじめに

2017年6月に閣議決定された「規制改革実行計画」において、政府はICTの徹底的な活用等により、行政手続コスト(行政手続に要する事業者の作業時間)を2020年3月までに20%削減する目標を掲げている。

その調査審議を行ってきた内閣府の規制改革推進会議の行政手続部会の資料(注1)では、行政手続コスト削減に向けた各府省の基本計画に含まれる行政手続について、事業者ヒアリングにより削減方策を実行する前のコストを把握した上で、削減方策を実行した場合の削減効果の見通しを示している。報告によると、国の手続に関する事業者の行政手続コストは、年間3億2,277万時間、人件費ベースで8,208億円であった。削減方策を実行することにより、毎年約7,136万時間、人件費ベースで約1,815億円の削減(削減率は22.1%)となる見通しである(図表1)。

このような全体的な見通しを、当初の目的である事業者の具体的な生産性向上につなげるためには、行政手続を行う主体である事業者等の目線で、行政手続コスト削減に資する具体的な改善点を洗い出し、改善効果を積み上げて目標達成に結び付けることが欠かせない。

本稿では行政手続のうち、特に中小企業からも簡素化の要望が多い政府調達手続を例に、具体的な削減方策を設定し、それを実行した場合の削減効果について、株式会社富士通総研が総務省より受託した業務内で算出した事例(注2)を紹介する。

【図表1】 分野別の行政手続コストと削減時間の見通し
【図表1】 分野別の行政手続コストと削減時間の見通し

出典)行政手続コスト削減に向けて(見直し結果と今後の方針)(行政手続部会)(2019年7月改定)

※「削減時間の目標」について、各府省の基本計画において手続ごとに目標設定していない場合は、削減率20%を乗じて計算し、分野ごとに積み上げている。

1.統一参加資格申請手続とその具体的な行政手続コスト削減方策

(1)統一参加資格申請手続の概要

政府調達手続は、効率化のため、府省共通の情報システムが運用されており、手続を電子申請することも書面申請することも可能である。「物品・役務」及び「一部の公共事業」の政府調達に関わる電子調達システム(注3)(調達総合情報システムと政府電子調達(GEPS))(図表2)は総務省が所管しており、行政手続コストの削減に向け、その利便性向上、特に、3年ごとに更新申請が必要となる、調達総合情報システムにおける統一参加資格申請時の申請書・添付書類等の提出方法の見直しが求められている。

【図表2】 政府電子調達システムの概要
【図表2】 政府電子調達システムの概要

出典)政府電子調達システム等の利便性の向上について(行政手続部会 総務省資料)(2018年12月)

(2)具体的な行政手続コスト削減方策

2018年12月の行政手続部会において、総務省は、統一参加資格申請手続など、政府電子調達システムの利便性向上に向けた方策・計画を説明している。(図表3)。

それによると、2020年3月までに、営業経歴書や誓約書及び役員等名簿の提出を不要化し、申請書記載事項として入力することに替える措置(営業経歴書等の申請書への一本化)や、調達総合情報システム上の申請フォームへの入力時に全角/半角自動入力変換を行ったり、入力エラー箇所を的確に表示したりする等のシステム改善を実施することで、システムを利用する事業者の利便性を向上させ、それにより行政手続コストを20%以上削減する目標となっている。なお、営業経歴書等の申請書への一本化は、2018年11月末に既に実施済みである。

本稿では、これらの具体的な削減方策を実行した場合の行政手続コスト削減効果を算定した事例を紹介し、それを踏まえて今後の課題について整理する。

【図表3】 政府電子調達システムの利便性向上に向けた方策・計画
【図表3】 政府電子調達システムの利便性向上に向けた方策・計画

出典)政府電子調達システム等の利便性の向上について(行政手続部会 総務省資料)(2018年12月)を基に筆者編集(以下同様)

2.統一参加資格申請手続に関する行政手続コスト削減額の算定

(1)1件当たりの従前の作業時間と削減後の作業時間

以下は、2018年6月に実施したアンケート調査(注4)に基づき、統一参加資格申請に係る作業時間を算出した事例である。

インターネット申請と書面(郵送または持参)申請に掛かる作業時間を(A)添付書類の取得・作成と(B)申請書の作成・提出に分けて算出している。特に作業時間を多く要する添付書類の取得・作成にも焦点を当てていることにポイントがある。なお、社内説明や決裁(稟議)などの社内手続時間は、企業の組織体制や慣習・風土に左右され差異が非常に大きいことから算定に含めていない。

(A)添付書類の取得・作成

統一参加資格申請手続では、これまで主に、登記事項証明書や納税証明書、営業経歴書、誓約書及び役員等名簿、財務諸表等の5種類の添付書類の取得・作成(注5)が必要であった。

アンケート調査により、これら5種類の添付書類の取得・作成に従前掛かっていた平均作業時間を算出すると、総作業時間は195分となっている。また、2018年11月末に実施された営業経歴書等の申請書への一本化により30分削減され、165分になると算定される(図表4)。

なお、(a)登記事項証明書の取得や(b)納税証明書の取得では、書類取得のために登記所や税務署に出向く必要があり、その往復時間や手続時間が含まれている。(c)営業経歴書の作成や(d)誓約書及び役員等名簿の作成では、申請書記載事項として必要事項を入力する必要がある。(e)財務諸表等の取得では通常、当該手続とは別に作成されていることが多いが、申請用に集め、修正等を行う作業が含まれる。

【図表4】 添付書類の取得・作成に掛かる1件当たりの平均作業時間
【図表4】 添付書類の取得・作成に掛かる1件当たりの平均作業時間

(B)申請書の作成・提出

統一参加資格申請手続の申請書の作成は、インターネット申請と書面(郵送または持参)申請で作業内容が異なる。インターネット申請では、調達総合情報システム上の申請フォームに必要事項を入力し、添付書類を電子化して添付し送信する。一方、書面申請では窓口等で申請様式を取得し、必要事項を記入して申請書を作成し、添付書類とともに郵送または持参する。

インターネット申請における申請書作成・提出に従前掛かっていた平均総作業時間は88分であり、2018年度に実施した営業経歴書等の申請書への一本化や、2019年度に実施予定の全角/半角自動入力変換や入力エラー箇所の的確な表示等のシステム改善により24分削減され、64分になる見込みである(図表5)。

【図表5】 インターネット申請における申請書作成・提出に掛かる1件当たりの平均作業時間
【図表5】 インターネット申請における申請書作成・提出に掛かる1件当たりの平均作業時間

書面(郵送または持参)申請における申請書作成・提出に従前掛かっていた平均総作業時間は154分であり、2018年度に実施した営業経歴書等の申請書への一本化により11分削減され、143分になっていると算定される(図表6)。

【図表6】 書面申請における申請書作成・提出に掛かる1件当たりの平均作業時間
【図表6】 書面申請における申請書作成・提出に掛かる1件当たりの平均作業時間

(2)事業者全体の行政手続コスト削減額の試算

(A)利用者

統一参加資格(物品・役務)は3年毎に更新する必要があり、2013~2015年度(3年間)の申請手続件数は77,008件となっている。申請方法別の内訳は、インターネット申請が61.7%、紙申請が38.3%である。削減額算定にあたり全体の申請件数は一定とし、インターネット申請比率が2020年3月までに実施される調達総合情報システムの利便性向上により80%に向上すると仮定した。

(B)従前の行政手続コスト

申請方法別に事業者全体の総作業時間を算出し、平均人件費単価(2,543円/時間)(注6)を乗じて行政手続コストを算定した。

インターネット申請と書面申請を合わせた事業者全体での従前の総作業時間は23,739千分(395,650時間)、行政手続コストは約10.06億円と算出される(図表7の上段)。

(C)削減後の行政手続コストの削減額

営業経歴書等の申請書への一本化や全角/半角自動入力変換、エラー表示等のシステム改善を含め、2020年3月までに実施される予定の調達総合情報システムの利便性向上により、インターネット申請割合が80%になると仮定した場合、削減後の総作業時間は18,852千分(314,200時間)、行政手続コストは約7.99億円と見積もられる。

手続の頻度である3年当たりの総削減時間は4,887千分(81,450時間)、削減額は約2.07億円、削減率は20.6%と試算される(図表7の下段)。

逆に行政手続コストの20%以上の削減という目標を達成するためには、インターネット申請比率を80%にまで高める必要があるということである。

【図表7】 行政手続コスト及び削減率(試算)
【図表7】 行政手続コスト及び削減率(試算)

3.更なる電子調達システムの利便性向上に向けた対応策(案)

「規制改革実施計画」では、事業者目線で規制改革・行政手続の簡素化・IT化を一体的に推進するため、「行政手続簡素化の3原則」((1)行政手続の電子化の徹底(デジタルファースト)、(2)同じ情報は一度だけの原則(ワンスオンリー)、(3)書式・様式の統一)を掲げている。以上3つの観点で2020年3月以降も含めた統一参加資格申請手続に伴う行政手続コストの削減の課題を次のように整理した。

図表8 簡素化の3原則の観点で見た統一参加資格申請手続に伴う課題
【図表8】 簡素化の3原則の観点で見た統一参加資格申請手続に伴う課題

(1)行政手続の電子化の徹底(デジタルファースト)

政府調達手続は、政府電子調達システムが運用され既に電子化されているが、2013~2015年度のインターネット申請の利用率は全体の61.7%と、行政手続コスト削減率20%以上を達成するための基準となる利用率80%には達していない。今後は、現在も書面による申請を利用している事業者に向けて、インターネット申請を利用するメリットを示していく必要がある。

(2)同じ情報は一度だけの法則(ワンスオンリー)

既に営業経歴書や誓約書及び役員等名簿の申請書への一本化によって、入力が申請書と重複していた項目は排除されている。今後も添付書類の撤廃が進むことで、申請時に重複して入力する項目が減少していくことが期待される。

一方で、例えば競争参加資格の変更申請や更新申請時には、前回の入力データが自動的に復元されて、変更点のみ修正・申請できるようになると、ワンスオンリーによる削減効果がさらに発揮されると期待される。現在も入力内容が保存されている一時保存ファイルを利用することや、変更申請や更新申請時に一部復元される項目があるが、担当者名や主たる事業の種類、競争参加を希望する地域など、一から入力し直す項目も存在している。今後より再入力する項目を削減するためには、ID・パスワードの取得後に競争参加資格申請を行う仕様にすることで入力フォームのセキュリティを担保し、入力データの復元項目の拡大や変更項目のみ入力するなどの工夫が必要である。

(3)書式・様式の統一

インターネット申請の際、申請フォームの書式(全角/半角など)の自動変換機能が付くことで、登録内容確認時のエラーの減少が期待される。一方で、初めてインターネット申請を利用する企業・担当者にとっては、書面申請と様式が異なるために、申請フォームや入力マニュアルの確認など手間がかかり、書面申請よりも作業時間がかかってしまう場合も想定される。

インターネット申請では、一時保存ファイルを作成することができることから、分からない項目は入力を一度中断して確認し、再度読み込むことで入力を再開することができる。しかし現在の一時保存ファイルは、登録フォームから再度読み込みをしないと入力データを確認できない仕様となっており、システム上での使用に限られてしまう。例えばオフラインでも一時保存ファイルの入力データを確認することができ、ファイル内の入力項目に直接データ入力することが可能になると、入力の際に調達総合情報システムへ毎回アクセスする手間も省け、申請に係る作業時間が減少するだろう。

おわりに

本稿では行政手続のうち、総務省が所管する調達総合情報システムにおける統一参加資格申請手続を事例として、具体的な削減方策を設定し、方策を実行した場合の削減効果を算定する手法と今後の課題を整理した。紹介した今後の課題は、調達総合情報システムだけの問題ではなく全ての行政手続について当てはまる課題である。また、本稿で示した削減効果を定量的に算定する手法は、利用者目線に立った行政手続の見直しやシステム改善に関する他の様々な取り組みにおいても適用することができ、今後の更なる活用が期待される。

ただし今回紹介した方法では、社内決裁を取るための手続や必要書類等の社内説明など、企業の組織体制や慣習、風土に影響する作業コストは算定に含めていない。これらの要素を含めると、社内決裁等も含んだ行政手続コストはより大きくなり、企業や担当者による作業内容の見直しによって更なる削減が期待できる。

さらに、競争入札参加資格審査に関する手続は、国だけでなく各地方自治体においても存在しているが、その申請書や添付書類の様式や項目は地方自治体ごとに大きく異なっており、申請する事業者はそれぞれの地方自治体に合わせた対応を行っているのが現状である。「競争入札参加資格審査申請書」を含めた地方自治体における様式の標準化は、総務省の「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」で現在議論を進めているところである(注7)。様式の標準化や共通項目を定めるためには大きな労力を要することが想定されるため、画像解析AIや言語解析AIなどで標準様式・項目を定めることが有効とされており(注8)、今後の官民協働により行政手続の更なる削減が期待される。

注釈

  • (注1)
    行政手続部会「行政手続コスト削減に向けて(見直し結果と今後の方針)」(令和元年7月改定)
  • (注2)
    平成30年度「政府調達における行政手続コストの算出に係る整理・分析等支援業務の請負」(株式会社富士通総研受託)
  • (注3)
    政府電子調達システムとは、公共事業を除く政府調達の手続の電子化に係る取り組みの一環として、政府が行う「物品・役務」及び「一部の公共事業」の調達手続に係る競争参加資格申請から入札・契約(支払いを含む)までの一連の業務を電子化するための府省共通の情報システムのことを指す。
  • (注4)
    政府電子調達システムに登録されている競争参加有資格者(7,868社)にアンケートを実施し、回答が得られた718社を集計。
  • (注5)
    「①添付書類の取得・作成」に関しては、次項で示す「②申請書の作成・提出」とは異なり、インターネット申請でも書面申請でも作業内容・時間がほぼ同じと想定し、インターネット申請と書面申請分けた行政手続コストの算出はしていない。
  • (注6)
    「行政手続コストの削減に向けて(見直し結果と今後の方針)」における事務局算出単価を使用
  • (注7)
    第16回行政手続部会 議事次第(書式・様式の統一の総務省からのヒアリング)(2019年4月16日)
  • (注8)
    「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会 報告書」(総務省)(2019年5月)
中辻裕

本記事の執筆者

株式会社富士通総研 行政経営グループ
シニアコンサルタント

中辻 裕(なかつじ ゆう)

2013年立教大学理学部生命理学科卒業、2016年琉球大学大学院理工学研究科海洋自然科学専攻博士前期課程修了、同年富士通総研入社。主に中央官庁や地方公共団体等の公共分野を対象としたコンサルティング業務・調査研究業務に従事。特に、規制改革分野や技術経営分野の調査研究業務のほか、総合計画等の自治体経営に関するコンサルティング業務を手掛ける。

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