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  4. 地方自治体における働き方改革-長時間労働是正のポイントとリソースマネジメントへの一提案-

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地方自治体における働き方改革

-長時間労働是正のポイントとリソースマネジメントへの一提案-

あらゆる業種・業界で「働き方改革」の取り組みが本格化している。本稿では、地方自治体における働き方改革具体的な内容や、実効性の高い取り組みとするためのポイント、さらに職員リソースのマネジメントのポイントを考察する。

※本記事は、地方財務(2019年4月号・5月号)(株式会社ぎょうせい)に掲載されたものに加筆修正したものです。

2019年11月8日

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はじめに

我が国では2016年8月の働き方改革担当大臣の設置や同年9月の「働き方改革実現会議(安倍首相の私的諮問機関)」の設置後、「一億総活躍社会実現」のスローガンのもと、あらゆる業種・業界で「働き方改革」の取り組みが本格化した。これに伴い府省および地方自治体の行政機関の職場においても、様々な取り組みが進められている。

本稿では、数多くの地方自治体の現場におけるコンサルティングの実績に基づき、地方自治体における働き方改革の具体的な内容や、流行りではない実効性の高い取り組みとするためのポイントを考察する。また、経営資源の有効活用の視点から今後重要性が増大する職員リソースのマネジメントのポイントを考察する。

1.「働き方改革」そのものの問題点:イメージ先行による手段の目的化

働き方改革と聞いて読者は何を思い浮かべるだろうか。各読者がそれぞれの問題意識に基づいて色々な取り組みをイメージするものと考える。そして、その内容は必ずしも一致しない幅広い取り組みを包含している。働き方改革の第一の問題点は、抽象度が高く多様な取り組みを内包するため、同じ組織の関係者であっても意図や目的が必ずしも一致せずに協議・検討している場合が多いことにある。

前述の働き方改革実現会議による「働き方改革実行計画(平成29年3月28日決定)(注1)」では、13項目中「2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」から「12.外国人材の受入れ」までの11の改革項目が位置づけられている。この11の改革項目の全てを同じ重要度で実行しなければならない組織は基本的には存在しないはずであり、それぞれの組織が自身の問題点を踏まえて実行するべき改革項目を選ばなければ有効な取り組みとはならない。この改革項目の絞り込みと組織内共有が不十分な状態で取り組みが進められた場合は、労力をかけた割には乏しい成果に終わる場合が多くなる。

「働き方改革実行計画/働き方改革実現会議(平成29年3月28日決定)」の改革項目

  1. 働く人の視点に立った働き方改革の意義
  2. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  3. 賃金引上げと労働生産性向上
  4. 罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正
  5. 柔軟な働き方がしやすい環境整備
  6. 女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備
  7. 病気の治療と仕事の両立
  8. 子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労
  9. 雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援
  10. 誰にでもチャンスのある教育環境の整備
  11. 高齢者の就業促進
  12. 外国人材の受入れ
  13. 10 年先の未来を見据えたロードマップ

出典:「働き方改革実行計画/働き方改革実現会議(平成29年3月28日決定)」より抜粋

また「働き方実行計画」の11の改革項目やICTベンダーが打ち出している多くの働き方改革ソリューションはあくまでも手段でしかなく、それらが効果をあげるか否かは各組織・職場の問題の要因や達成を目指す目的・目標次第である。しかし「テレワークを導入しよう!」、「ノー残業デーを週2日に増やそう!」、「RPAを導入しよう!」など手段の導入が目的化し、それらが本当に有効であるのか否かの検証が不十分なまま導入されあまり効果を生み出していない場合も少なくはない。

筆者は、各組織が抱える働き方に関する問題とその発生要因の明確化が出発点と考える。その上で、様々な改革項目・制度・ソリューション等の中から要因の解消に有効な手段を選択して実施することが重要なポイントである。

以下では、多くの地方自治体で共通の大きな問題である「長時間労働」是正に焦点を絞って考察する。

2.地方自治体における「長時間労働」発生の背景と問題点

地方自治体において長時間労働が発生する主な要因として、以下の3点が挙げられる。

1.行政改革の主要施策としての職員定数の削減

地方自治体(都道府県、市町村の合計)の教育、警察、消防部門を除く一般行政部門の一般職常勤職員(フルタイム再任用職員を含む。以下、正職員。)は、1995年度の1,174,838人をピークに2014年度の908,570人まで削減が続いた後に増加に転じたが、2018年度の919,097人でも1995年度比で▲22%減少している(注2)(民間委託や臨時・非常勤職員の任用拡大は進んでいるが)。

2.将来に向けて増加し続ける新たな政策

過去から現在まで常に新たな行政課題が発生し、その対応のために新しい法律、制度が施行され、基礎的自治体を中心に地方自治体が担わなければならない政策・施策・事務事業は将来に向けて増え続ける。1990年代以降の新規政策としてすぐに思いつくものだけでも地球温暖化対策(地球温暖化対策推進法)、DV対策(DV防止法)、食育(食育基本法)、地方版総合戦略(まち・ひと・しごと創生法)、空き家対策(空き家対策特別措置法)などが挙げられる。福祉政策を中心とする定期的な制度改正に伴う業務負荷の継続や、情報公開請求・行政訴訟等への対応負荷の増大なども業務量増大の大きな要因である。

3.公務としての特殊性

地方自治体の事務は「公務」でありその公共性を担保するため、労働基準法が適用される地方公務員においても、「公務のために臨時の必要がある場合」の労働時間延長・休日労働の規定や、地方公務員法第58条5項による一部の適用除外などにより、非現業職(事務職などの一般的な公務員)は労働基準監督署の監督権限外と理解されている(行政委員会としての人事委員会が代替。人事委員会未設置団体では首長がその機能を代替。)。

人事院規則の改正による国家公務員の時間外勤務の上限時間の設定などの動向の地方公務員の長時間労働是正への影響は期待できるが、近年頻発する災害対応時など公務としての特殊性に起因する長時間労働発生の要因には大きな変化はない。

以上の3つの要因に加え、近年、小売業やコールセンター業務など対人サービス業で顕在化してきている「感情労働」問題は、過度な住民お客様主義によって市町村行政の現場で長時間労働の大きな要因となっている。それだけでなく、一部住民の過剰なクレームへの対応によってメンタルヘルスに不調をきたし長期休業者となる職員が後を絶たない自治体も多い。

これらの発生要因のため、自治体における長時間労働は民間企業以上に解消が困難である。さらに、財政が逼迫する中、残業代を支払うためにも議会の議決による予算措置が必要な自治体では、ノー残業デーの推奨や首長などの定時退社号令だけで具体的な対策を伴わない働き方改革の取り組みは、サービス残業を助長する要因にすらなっている。

3.長時間労働是正のためのポイント

1.長時間労働発生の原因・要因の探求

民間企業とは異なる様々な制約がある自治体の長時間労働を是正するため、まずはじめに行わなければならないことは、働き方改革というスローガンに踊らされて他団体の先進事例をものまねすることでも、ICTベンダーが提案するソリューションに飛びつくことでも決してない。はじめに行うべき最も重要なポイントは、長時間労働発生の原因・要因を明らかにすることである。根本的な原因・要因、重要な原因・要因を突き止めることができれば、自ずと有効な対策は導き出される。

ただし、長時間労働が恒常化しているなど職員の労働環境に問題が多い組織ほど、根本的で重要な原因・要因を明らかにすることは難しい。少なくとも職員で構成するワーキンググループなどの検討での究明は難しい場合が多い。その理由は上司である管理職などがいる前で、特定の職員に起因する原因・要因を明らかにすることが困難だからである。ましてや上司に根本的な原因・要因がある場合は尚更である。

2.正職員が従事しなければならない業務量の削減

長時間労働が発生する原因・要因が特定できれば、正職員が従事しなければならない業務量を削減する視点で有効な対策を検討することがポイントとなる。これはBPR(Business Process Re-engineering)をはじめとする従来からの業務効率化、生産性向上のための改善・改革の取り組みと変わらない。

ここでは、正職員が従事しなければならない業務量削減のための主なポイントを3点紹介する。

(1)非効率の解消

各自治体では、各組織、各職員に担当するべき「事務・事業」が割り当てられている。これらの「事務・事業」は、日々何度も繰り返して発生するもの(窓口における証明書発行事務など)、年間スケジュールに基づき推進するもの(総合防災訓練に関する事務など)、と多種多様である。さらに数年毎に職員の異動が発生することから、前任者から事務を引き継ぎ実施する前例踏襲による「事務・事業」の執行が基本となる。

その結果、多くの「事務・事業」においてその執行のための様々なプロセスで、無駄な業務、過剰品質の業務が温存・蓄積されていくことから、業務改善によりこれら非効率の解消に取り組む必要がある。

また、「事務・事業」を推進するための庁内外での各種調整事務や、日々の住民や事業者からの様々な問合せへの対応など、担当職員による計画的な業務推進を阻害するプロセスが相当な業務量となっている場合はその解消を図る必要がある。

(2)「事務・事業」の数量の削減

前述のとおり、過去から現在まで、さらに将来に向けて、新たな行政課題に対応するために新しい政策を推進しなければならない行政機関では、放置すると「事務・事業」の数は右肩上がりに増大し続ける。一方、正職員数の抑制が続き今後も職員定数の大幅な増加が期待できない中、長時間労働を是正するためには、職員数など行政サービスを実行する担い手に関するリソースに応じた「事務・事業」の数量に削減する必要がある。

(3)正職員が担うべき業務の見直し

政策の増加、正職員の削減が同時並行で進んできていることから、従来、正職員が直接担当していた「事務・事業」について、民間企業などへのアウトソーシングや会計年度任用職員の活用拡大を前提に、少数精鋭化している正職員が担うべき業務を見直す必要がある。その際、従来多かった「事務・事業」を丸ごとアウトソーシングするという視点だけではなく、プロセス単位で可否を分析しながら複数の「事務・事業」の同種プロセスをまとめたアウトソーシングを検討することが有効である。

なお、2020年度から導入される会計年度任用職員の制度設計や担当する職務、正職員との役割分担などの検討に当たっては、この視点を盛り込むことが重要である。また、現状では実力以上の期待を背負っているRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション:ソフトウエア型ロボットによる定型的大量処理事務の自動化)やAI(Artificial Intelligence / 人工知能)活用による情報処理の効率化・高度化も、従来は職員が担っていた業務を代替する手段として、条件によっては優れた費用対効果が期待できる。

4.具体的な職場で長時間労働の削減を実現している事例

この数年間、長時間労働が問題となっている多くの自治体で、その是正への取り組みが進められている。その中で具体的な成果をあげている事例として、鎌倉市「職員力向上プロジェクト~業務量等調査に基づく業務改善の取組~」のポイントを紹介する。この取り組みは、平成30年2月に日本計画行政学会第17回計画賞(2017年度)の特別賞を受賞している(受賞者は鎌倉市と(株)富士通総研の共同受賞)(注3)。

同プロジェクトは福祉部門を対象に実施された。平成18年4月の関連法施行に伴い慢性的な超過勤務が発生するようになり、平成25年の新たな法施行により事務事業の複雑化・高度化によって、同部門の超過勤務時間が一層増加するとともに、複数の職員のメンタルヘルス不調による休職が続くなど深刻な問題が顕在化していった。この間、人事管理部門・事務管理部門が原因把握の努力や様々な改善方策を講じたが、超過勤務時間の縮減効果が十分に生まれなかったため、平成26年度に外部コンサルタントを活用した長時間労働削減の取り組みを開始した。

鎌倉市の事例が効果を上げた主なポイントは2点挙げられる。

1点目は、自治体の業務や組織文化に精通する外部コンサルタントの活用による対象部門の業務量や業務内容の見える化と、慢性的に超過勤務が発生する本質的な原因の究明や課題分析、および、それに基づく有効な対策案の提案である。前述のとおり、大きな問題を抱える組織ほど庁内関係部門だけでは原因・要因を明らかにすることが難しいことを踏まえた取り組みである。

2点目は、市事務管理部門が主体となって外部コンサルタントによる報告書で示された改善手法等を精査し、原部門の意向を踏まえながら平成27年7月に「業務改善企画書」を作成し、事務管理部門と原部門が共同で改善手法の具体化と超過勤務縮減に取り組んだことである。単にコンサルタントの提案を原部門職員に押し付けるのではなく、いわゆるQCサークルとして展開することで原部門職員を巻き込んで納得性と実効性の高い改善策を実施することが可能となった。ここでは特に事務管理部門職員がファシリテーターとして原課職員の自発的・積極的な改善活動を促した役割が極めて重要であった。

この様に特に長時間労働が慢性化し問題が根深いと思われる組織では、スローガンとしての働き方改革の取り組みは無意味である。専門家(外部コンサルタント)による根本要因の探求および有効な施策(案)の提案と、それを原部門で展開するための事務管理部門職員の熱意ある支援、および原部門職員による多忙な中での検討・実施が組み合わされることで、初めて大きな効果を生み出すことが可能となる。

このプロジェクトによって対象部門の部門全体の超過勤務時間は、平成26年度の6,361時間から平成28年度には3,013時間へと削減でき、1人あたりの年次休暇・夏期休暇取得日数は平成26年度の16.8日から平成28年度には19.7日へと増加させる効果を生み出し、正職員の良好な職場環境を実現した。

5.今後の職員リソースマネジメントへの一提案

将来に向けて、経営資源としての財源・職員のリソースの制約が強くなる中、「お金」は同じ金額であれば執行面での能力差はないが、一人ひとりの職員には能力差があることは否定できない。また、女性職員の比率の上昇と職員のワーク・ライフ・バランスの確保が進む中では、従来の正職員の定数管理の考え方では、必要な職員リソースの確保が困難となる。また職員の労働環境の劣化を通じて行政サービスの質的劣化を誘発する原因の一つとなる。

上記を踏まえ、今後の職員リソースマネジメントおよび定数管理には、以下の機能・視点を盛り込むことが有益と考える。

(1)タレントマネジメント機能の整備・運用

将来に向けて行政課題・行政需要の増加が続く自治体では、今後も業務量と比較した正職員の少数精鋭化が進むことが予想される。その中で従来、定数1名は新卒採用者であってもベテラン職員であっても同じ1名としてカウントされてきたが、実際には職員の生産性・効率性に相当な差異がある。これまでは職員体制に余裕がある中で具体に配属された各職員の生産性等の差異を吸収できていたが、今後はその余裕がさらに減少していく状況にある。そのため、各職員の配属履歴・適性・生産性等に関する履歴管理などタレントマネジメント機能を整備・運用することで、生産性等を基準としたモデル職員1名に対し、新卒採用者1年目は0.3人、2年目は0.7人、職場の業務特性に適性の高いベテラン職員1名は1.3人で換算するなど、生産性を考慮した職員配置を行うことで、より実効性の高い定数管理が実現できるものと考える。

(2)育児休暇等の長期休業者を見込んだ職員定数の設定

一般的に正職員が育児等により長期休業する場合は、その代替措置として欠員補充のための臨時職員が任用・配属される。しかし、臨時職員に正職員と同等の生産性と能力の発揮を期待することは、地方公務員としての業務実績・経験の面で困難であり、同一労働同一賃金の面でも望ましくない。正職員の女性比率が高まる中、また、男性の育児休業も普及する中、20歳代から40歳代にかけて一定の割合の職員が出産・育児休業で長期休業することが予測できる。職員のワーク・ライフ・バランスと各職場の円滑な業務遂行および良好な職場環境の確保、行政サービスの質の維持と量の確保のため、育児休業等による長期休業者を見込んだ職員定数の設定が極めて重要と考える。

一部の議会では、育児休業等による長期休業者を見込んだ職員定数増の条例改正を否決する事例もみられる。これは歳出削減を重視した旧来型の行政改革や有権者を過剰に意識した結果、職員に過度な負担を強いる危険性を有しており、合理的な判断が求められる。

おわりに

1990年代後半から20年以上にわたる自治体の歳出削減を優先した行政改革は、貴重な経営資源である職員の職場環境に大きな影響を与えている。長時間労働の慢性化やメンタルヘルス不調による長期休業者の増加など地方公務員の職場で発生している大きな問題は、働き方改革を起点とする対処療法的な取り組みだけでは抜本的な改善は期待できない。

長時間労働等が発生する根本的な要因を探求するとともに、安易に全庁的な制度の導入やソリューションの活用などのツールありきの改善策に飛びつくだけではなく、管理職の組織マネジメント能力の向上にも正面から取り組むなど、最大の経営資源である職員のモチベーションと能力の向上を目指す取り組みが重要である。

佐々木 央

本記事の執筆者

コンサルティング本部 行政経営グループ
グループ長

佐々木 央(ささき あきら)

 

1991年 株式会社日本能率協会総合研究所に入社。都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。1999年 株式会社富士通総研に入社。公共事業部(現行政経営グループ)で、主に地方公共団体および中央官庁の行政評価・行政改革・総合計画策定等の行政経営改革、都市政策・地域政策に関するコンサルティングに従事。また、(財)全国市町村研修財団 市町村職員中央研修所(市町村アカデミー)における行政経営改革に関する研修講師など、自治体職員を対象とする研修講師も多数実施

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