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フォーカス「今後のデータ利活用ビジネスの展望」

フォーカス「今後のデータ利活用ビジネスの展望」

私たちのパーソナルデータが企業のサービス提供に利用され、私たちの行動が左右される「データ駆動型社会」が到来しようとしています。私たち生活者は主体的にデータを利用していくよう賢くならなくてはいけません。「今後のデータ利活用ビジネスの展望」について議論しました。

2019年1月31日

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私たちのパーソナルデータ(注1)が企業のサービス提供に利用され、私たちの行動が左右される「データ駆動型社会」が到来しようとしていますが、私たち生活者は主体的にデータを利用していくよう賢くならなくてはいけません。パーソナルデータを管理する生活者中心の情報銀行を普及させるには、情報銀行に対する信頼が担保され、各プレーヤーが便益(メリット)を受ける仕組みが必要です。

本対談では、「今後のデータ利活用ビジネスの展望」というテーマで、東京大学大学院の橋田教授、株式会社マネーフォワードの瀧取締役、富士通研究所の石垣特任研究員に語っていただきました。進行役は富士通総研(以下、FRI)の湯川プリンシパルコンサルタントです。

1. パーソナルデータの利活用に対する課題認識

【湯川】
私は昨年NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization:新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査事業を活用して、「情報銀行」「データポータビリティ」を巡る動向と今後の展望をとりまとめてきました。ICTの寄与について世の中に発信していきたいと思っています。

【橋田】
私は学生時代からAIの研究をしてきて、2008年頃から産業技術総合研究所でサービスの生産性に寄与できるかについて研究していた際に、パーソナルデータを用いた個人向けサービスが最も重要で、そのデータの流通・活用が一番大きな問題だと気づき、考え始めました。第3次AIブームと言われていますが、AIもデータがないと動きませんし、AIによるサービスの相手はほとんど個人なので、その個人のデータがすぐ手に入らないと、個人に適したサービスを提供できません。AIの基盤としてマイデータ(本人主導によるパーソナルデータの活用)は必須です。

橋田先生

橋田 浩一(はしだ こういち)
東京大学大学院情報理工学系研究科 ソーシャルICT研究センター教授
1981年東京大学理学部情報科学科卒業。1986年同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。1986年電子技術総合研究所入所。1988年から1992年まで(財)新世代コンピュータ技術開発機構に出向。2001年から2013年まで産業技術総合研究所。2013年から東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター教授。2017年から理化学研究所革新知能統合研究センター社会における人工知能研究グループ分散型ビッグデータチームリーダーを兼任。専門は自然言語処理、人工知能、認知科学。現在の主な研究テーマはパーソナルデータの分散管理と意味的構造化およびそれに基づく人工知能。

【瀧】
私は野村證券で資本市場の調査をしていましたが、2009~2011年のスタンフォード留学中に、世の中は人間に対して機械的にアドバイスを与えられるフェーズに入ったと感じました。そこで、個人の意識を貯蓄から投資へと変えるためにITでお金のアドバイスが受けられる世界を実現したいと思い、2012年にマネーフォワードを創業しました。最初の3年はウェブスクレイピング技術(注2)を用いて自動的に家計簿を作成するサービスを展開し、ユーザーデータを1600の金融機関からコピーしていました。2、3年後には我々と他の1社でダウンロード数が1000万以上に達しました。預かった情報を悪用する業者が出かねないという危機感もあり、銀行法の規制を積極的に評価しながら作ってきました。

【石垣】
私は個人を中心としたデータ利活用の社会実装について研究しています。元々は手書き文字認識やヒューマンインタフェースの研究者で、パーソナル端末や業務システムの人間中心設計の取り組みを経て、2010年頃、社会システムをターゲットとして今後のICTデザインに取り組み始めました。その中で行政や住民、地域の企業といった現場の課題を見て散在するパーソナル情報を個人のコントロールで利活用する社会的な仕組みが必要と考え、PDS (Personal Data Service/Store)や情報銀行という概念に出会いました。

2. 魅力的な一次利用サービスとはどのようなものか?

【湯川】
皆様が言及されているとおり、一次利用サービス(注3)と呼ばれるパーソナルデータを用いた生活者個人へのサービスが肝になるのは明らかであり、その次のステップとして、それらデータをビッグデータとして活用し販売していくことも考えられます。世の中には金融、ヘルスケア、電力、教育、モビリティ等の様々なデータがありますが、日本で魅力的な一次利用サービスを立ち上げるにはどうすればいいでしょうか?

【図1】一次利用サービスと二次利用サービス
【図1】一次利用サービスと二次利用サービス

【橋田】
PLR(Personal Life Repository:個人生活録)で最初に実証実験したテーマは介護でした。その後、国のプロジェクトを活用して医療・介護を中心に検証を重ねてきました。最近始めたのは教育です。2020年から大学入試制度が変わる予定であり、eポートフォリオ(注4)が導入されます。甲子園で2回戦まで行ったとか、倉敷で災害復興のボランティアをしたといった課外活動などのデータを受験生本人が作り、大学出願の際に提出し、大学はそのデータや入試の成績を総合的に評価して合否を決めるというのが文科省の方針です。基本的にすべての高校が対応する必要があります。eポートフォリオ等の教育・学習データは明らかにポータビリティが必須ですから、私は教育に力を入れています。医療・介護はデータポータビリティの必要性が分かりやすく、教育は若い人が大人になってもマイデータを実践してくれるので波及効果が大きいと考えています。

【湯川】
私も医療・介護と教育は重要だと思いますが、個人の手元にデータを取り戻すときに商習慣や規制など乗り越えるべき障壁はありますか?

【橋田】
医療機関、介護施設はデータを出したがらないし、学校の現場では先生方の情報リテラシーが高くなく、制度上も、例えば、自治体の実施機関である病院や学校が管理するデータを簡単に外部とオンラインでつなげないという問題があります。それを打破するために、大学入試制度改革や医療制度改革など、国の施策が個人にデータを集約する方向に向かっているように感じています。

【湯川】
瀧さんはすでにサービスを提供されていて、一次利用サービスに重点を置いておられるようですが、事業者としてどこでのマネタイズを意識されていますか?

【瀧】
事業をしていて思うのは、複雑なことをしなくてもユーザーは価値を感じるということです。極端なことを言えば、四則演算で平均値を見せるだけでも大きな反響を得られることがあります。銀行データを取りまとめて、残高と入出金の合計値が見えるという、ある種当たり前のことであっても、丁寧なコンテキストとグラフで見せるだけで、ユーザーが月500円のプレミアムサービスに入るケースがあります。人が家計簿をつけたい理由は、フィナンシャルフィットネスなのだと思います。その場合のユーザー体験というのは、理想の自分を買うということだと思います。稼ぐ方法を模索して、こういう人にこういうCMを見せたらという広告事業もしていますが、きちんとお金を管理できる自分を月500円で買うというフィットネスのイメージは強いなと思っています。さらに、2050年の自分をイメージいただいたり、高齢や認知症になった時のお金が奪われないような保全ということも考えています。マネタイズにこだわるということは、ユーザー体験を作るということです。

瀧さん

瀧 俊雄(たき としお)
株式会社マネーフォワード 取締役 Fintech研究所長
2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券株式会社へ入社、野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。その後、スタンフォード大学経営大学院へ留学し、2011年にMBA取得。帰国後、2011年より野村ホールディングスCEOオフィスに所属。
2012年10月に株式会社マネーフォワード設立に参画し、取締役兼Fintech研究所長として経営全般を担当。また、経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」、金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」などに参加。FINOVATORS Founder。2018年6月電子決済等代行事業者協会 代表理事就任

【湯川】
石垣さんの地域コミュニティ型PDSにはマネタイズの要素を必要以上には意識されていないと思いますが、いかがでしょうか?

【石垣】
私は地域課題の解決のためにPDS的な仕組みが必要だと提唱していますが、「儲かりそうにない」「誰がお金を出すのか」という反応をいただくことも多いのが現状です。でも、こうした仕組みが社会インフラ化すれば、十分マネタイズは可能だと思っています。第一はこの仕組みを利用した有償パーソナルの仲介手数料です。システムに蓄積されているパーソナルデータを使った有償サービスが可能になれば、5~10%程度の利用料を取れると思います。第二はパーソナルデータの管理を個別事業者が行うのではく、地域情報銀行に置いたまま使うという管理代行サービスです。こうしたモデルの方がデータ販売モデルよりも可能性が高いと考えており、実証していきたいと思っています。

3. 情報銀行、中間的事業者に求められるものは?

【湯川】
自らの情報を生活者個人が管理するのは限界があるという趣旨で情報銀行が提唱されてきていると認識しています。その趣旨を踏まえたうえで、情報銀行、もしくはそれを支えるICTも含め、情報銀行に求められる要件について、ご意見いただけますか?

【橋田】
現在、各所で言われている情報銀行はお客様のデータを預かる方式ですが、技術的に考えると、それは不要と考えています。データはお客様自身が分散的に持っていて、お客様のアプリと情報銀行員が交信する機能があれば、情報銀行がやるべきことは全部できてしまいます。時には、一部のデータを本人の許諾のもとで情報銀行員が参照してアドバイスをすることはあるかもしれませんが、その都度本人同意でやればいいので、そっくり預かって保管する必要はありません。その方がリスクもコストも小さいし、マネタイズが成立しやすいはずです。企業秘密やパーソナルデータに限らず、一般公開できないデータは多いので、セキュリティの管理が重要です。DRM (Digital Rights Management)を適用して、保存するデータを全部暗号化し、特定のアプリでしかデータにアクセスできず、そのアプリを使っている限り、必要なことは全部できるけど、必要でないことは一切できない、という管理は技術的には簡単です。個人も、自分のパーソナルデータを使ってグラフを描いたり、病院にデータを提供したりはできるけど、それ以外の不要なことはできないので、うっかりデータを漏らすことは決してありません。

【湯川】
医療介護の分野で利用者のリテラシーはそれに追いつきますか?

【橋田】
介護だと本人がお年寄りなので無理ですが、教育ならスマホを使いこなす子供の将来の情報リテラシーを期待できるかもしれません。しかし、多くの個人が十分なリテラシーを持つ世の中は来なくて、本人にメリットがあるからツールを使うに過ぎないのだろうと思います。そのときに安全なシステムで安心できるということと、自分の管理下にデータがあるから自由に便利に使えることが感じられることが重要です。

【湯川】
瀧さんは中間的事業者、つまり情報銀行の位置にあると思いますが、いかがですか?

【瀧】
分散させた方がいいという先生のお考えに反論したいのですが、この6年の経験に照らすと、3要素あると思います。
1つは、たまに使うサービスなら分散型でいいけど、マネーフォワードを開いて4秒で帰っていくせっかちなユーザーに応えるために、溜めてすぐ出せるよう加工しておきたいということです。
2つ目は非常に重いのですが、データを整形するコストです。データは基本的には標準化されていないので、日本のベンダーさんの内部プラットフォームの数だけ多様な銀行データが存在していて、内部で整形することが必要です。その内容も逐次変わることになるため、データは社内に溜めておくニーズがどうしてもあります。
3つ目は、皆が考えていないAPIの使い方を試して特許をとるようなUnexpectedなサービスを作らないと儲からないならば、中でやりたいということです。我々が評価いただくのは、データを集めただけではなくソフトウェアです。「新しい自分」を買いに行くときの「新しい自分」というのはユーザー本人が想像できていないので、ただの手続きであれば、分散でいいと思いますが、Unexpectedなサービスを作るときは社内でデータ分析しながらやります。

【橋田】
それは矛盾しておらず、データの正規化は個人アプリでできます。正規化のためのデータの標準スキーマの管理とかアプリの開発とかはもちろん集中管理です。ただし、データの管理運用は分散した方がいいという話です。

【湯川】
石垣さんの地域コミュニティ型PDSは情報銀行に近しいものなのでしょうか? 行政の関与も含め、ご意見ございますか?

【図2】中間的事業者の役割
【図2】中間的事業者の役割

【石垣】
事業者の役割を整理してみました。(【図2】)。
1番目は連携するデータホルダーからデータを取ってくる機能で、マネーフォワードさんのスクレイピングや銀行APIに対応する部分です。
2番目がデータの保管やメンテナンスで、アーキテクチャ的には分散が良いですが、メンテナンスは自分でやりたくない人は誰かにやってもらってもいいと思います。
3番目がデータの整形や可視化と、それが正しいデータであると証明する機能です。例えば、情報銀行で原本が住民票であるデータのこの部分は正しいから間違っていないと証明してあげるような事業役割も必要です。このためには、デジタルアイデンティティと本人を紐づける有人窓口的な機能も大事な要素になると思います。
4番目が開示支援です。開示判断を事業者が代行する情報信託的な役割だけでなく、事業者が個人の判断に必要な情報を提示するなどの支援的な役割があります。支援には開示先の推薦やマッチング、開示条件の適性評価、開示先の信頼保証といった機能なども考えられます。地域系情報銀行の場合、ITリテラシーが弱い高齢者を支援するために実在するコミュニティの力をどう組み込むかがポイントになると考えています。

石垣さん

石垣 一司(いしがき かずし)
株式会社富士通研究所 特任研究員
東京大学大学院情報科学専攻(修士)卒。1982年富士通株式会社入社後、手書き文字認識、ヒューマンインタフェース、 人間中心設計、ソーシャルイノベーションなどの研究に従事。近年は少子高齢化に対応する新しい社会システムとして個人中心のデータ流通(PDS/情報銀行)のビジネス推進、社会実装をテーマとする。「オンライン手書き文字認識および応用技術の開発と実用化」で2006年、「個人主体の情報流通を実現するオープン分散型パーソナルデータストアの実用化」で2018年に電気科学技術奨励賞を受賞。

【瀧】
マネーフォワードは開示支援以外カバーしています。プロファイリングは難しく、総資産いくら以上の人に広告を打つといった判断しかできないので、データが追い付かないと思います。

【湯川】
データが追い付かないというのはデータの種類と量のどちらの意味ですか?

【瀧】
細かさのレベルです。例えば、居酒屋で飲んでいるのがビールかウーロン茶かが、ポイントカード事業者であればわかるかもしれませんが、品目までわからないとできないことは多いと思います。個人がアクセスできる自分のデータの限界で、事業者側には品目データがあるけど、こちら側はレシートを撮影し続けないとできないのです。

4. 情報銀行が信頼を得るためにはどうしていけばよいか?

【湯川】
情報銀行や中間的事業者が信頼を得ないと、そのサービスは浸透しないし、拡大していかないと思いますが、どうすれば信頼を得られるでしょうか?

【瀧】
これは2段階あると思っています。まずトラディショナルな信用については顔を出して誠実にコミュニケーションするしかありません。例えば、銀行さんにマネーフォワードのサーバだとわかるようにして、きちんとした株主に参画いただいて、社会的に安心イメージが強い人たちもユーザーだというhalo effectを狙ってテレビCMを打つというのがトラディショナルな信用の得方だと思います。一方で、新しい信用の得方は体験ベースです。我々は20年間でGoogleに親以上の信頼を預けるようになっていますが、体験の積み重ねが重要で、サービスが嘘をついたときに失うものの方が多いから功利主義的にデータプラットフォームを信じているという部分があります。弊社に置き換えれば、マネーフォワードがきちんと使えるとか、わかりやすいデザインで提供されているといった、お金で解決できる部分もありますが、これを使ったら前よりフィットネスできているといった有用性を感じる体験の積み重ねは、弊社にとって一番のブランド価値であると思います。

【湯川】
実際にユーザーが劇的に増えて、世の中の信用を得たと実感された経験はありましたか?

【瀧】
初期的にはトラディショナルな方が効いていると感じていました。給料日に家計簿を始める人と三が日に家計簿を始める人は日本ではランダムに生成されるので、線形的な成長になりますが、指数的に伸びたのはテレビ放送時でした。WBSの4分間の放送で数万人にユーザーが増えました。テレビに取り上げられることは凄い信用補完になると思いました。

【湯川】
石垣さんは個別同意、包括同意など、ご意見があるかと思いますが、いかがですか?

【石垣】
情報信託の認定指針が包括同意型で議論されていますが、現在提案されている情報銀行の構想の多くは個別同意であるという現実があります。企業で実際にやろうとすると、包括同意にも限界があるのだと思います。包括同意だとGDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)対応が難しいという問題もあります。また、個別同意に比べて事業者が大きな責任を負うことにもなりますので、事業リスク面からも課題があるように感じています。包括同意型の情報銀行では、お金と異なり情報は開示先を増やしても減ることがなく、開示先や開示内容を増やすほど儲かるため、情報銀行事業者が過剰開示してしまうリスクがあると考えています。この課題を解決するため、情報銀行の運営主体と開示先の判断を行う人や組織(判断主体)を分離することを考えています。判断主体は利用者が任意に選択可能で、判断主体は運営者の収益と分離するのです。

【湯川】
今の意見について、橋田先生はどのようにお考えですか?

【橋田】
データの使い方は3通りあると考えています。1つはマッチングで、個人のニーズと商品・サービスの適合性の判断・選択です。2つめで一番メジャーな使い方はいわゆる一次利用で、病歴等を医者に開示するなどの使い方です。3つめは二次利用で、多くの人々からデータを収集して統計分析や機械学習にかけることです。データを多く出した方が儲かるのは最後の二次利用です。そこは市場原理が働いて、データを買う方も無限の予算があるわけではないので、多くの個人がデータを出すようになれば単価が下がります。

5. データの二次利用サービスを成立させるためにはどうすればよいのか?

【湯川】
GAFAのユーザー数は10億人単位と言われる一方、日本企業のユーザー数は数百万人単位であり、対抗/協調等の様々な選択肢がある中で、二次利用で闇雲に何か提供するのは難しいと思いますが、二次利用サービスを成立させる重要な要素は何でしょう?

湯川さん

湯川 喬介(ゆかわ きょうすけ)
株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント
2003年某コンサルティング会社入社。2006年7月 株式会社富士通総研入社。これまで防災、ヘルスケアといった安全・安心分野をテーマに国内外における調査・コンサルティング業務に従事。近年は、主に医療・介護連携や地域包括ケアシステムに関わるコンサルティング業務に従事。

【瀧】
この分野は会社のマネタイズそのものなので、継続的に研究しています。例えば、総務省の家計調査にデータを提供するコンソーシアムにマネーフォワードの名前を出しています。また、銀行が営業活動に使う「マネーフォワードfor〇〇銀行」というアプリも出しています。海外を見れば、もっと儲けに行く二次利用のモデルはアドテクや、家計簿のデータをヘッジファンドに売るという事業者がいますが、弊社ではユーザーに価値が戻る形であることを重視しています。最終的に、ユーザーに付加価値が還元されるストーリーを作らないと、良かったと思われないので、慎重にやっています。

【湯川】
二次利用でデータの価値を生んで儲かるかと思いましたが、簡単ではないのですね。橋田先生はどう思われますか?

【橋田】
平均で1人の日本人が様々な企業に自分のデータを売って1年間にもらえる額は3万円もないでしょうから、日本全国で3兆円、その売買の仲介業は手数料を2割もとれないので、5~6千億円と考えると、GDPの0.1%です。しかし、例えば医療データに関して製薬会社をターゲットにすると、単価が高いので可能性があるかもしれません。その際、本人にどう価値を提供するかが知恵の絞りどころです。例えば、がんのゲノムデータ+診療データであれば、製薬会社は何百万かで買ってくれるかもしれません。がんの確定診断が出たらすぐ自費で全ゲノム解析をしてプレシジョンメディシンの最適な方法を早めに見つけるのが良いと思いますが、自分のがんゲノムデータと病院の診療データを合わせて製薬会社に売れれば、全ゲノム解析の費用と情報銀行の運用経費と本人の治療費に充てられるかもしれません。そうすると、製薬会社がデータを集めて分析する二次利用と本人のためにデータを使うということの両方で価値が生まれます。そういういろいろなユースケースを丹念に見つけ出す必要があります。

【湯川】
石垣さんは研究者としてご意見ありますか?

【石垣】
私は二次利用の前に一次利用があるべきだと考えます。その方が圧倒的に市場価値も高いし、消費者の受容性も高いと思います。一方、世の中にはデータ化されていない貴重なデータがたくさんあって、例えば介護の現場でヘルパーが毎日やっていることの記録はデジタル化されていません。社会保障費削減のような課題のためには、そういったデータを集めて二次利用して施策を打たないといけませんが、データのデジタル化と蓄積の方法が問題です。その阻害要因は、介護事業者が零細でICT投資が限定的であること、データをとることが最前線のヘルパーにとって余計な仕事になってしまうことです。そのため、ヘルパーにとって、事業者のためでなく自分自身のためにシステムを利用しデータを集めるスキームに変えられれば集まると思います。例えばヘルパーが自分のキャリアや報酬を上げるために、自分の実績を蓄積するという形になれば、集まる可能性があると思います。GAFAではアクセスできていない、電子化すらされていないデータを自身のメリット(一次利用)のために蓄積して、国全体として二次利用する仕組みの実現にチャレンジしていきたいと考えています。

6. パーソナルデータの利活用を加速させていくために必要なことは?

【湯川】
パーソナルデータを利活用させていく前提として生活者にコントローラビリティがあり、データポータビリティが確保される必要があると思いますが、それを実現するために事業者の立場としてやるべきことはありますか?

【瀧】
一般的に、日本の企業が新規事業を立ち上げる際には、何度か企画会議を通すと思いますが、当初はマストハブなアイデアが、気がついたらナイストゥハブなアイデアになっていたりします。また、他社との差別化を強要されるケースも多いですが、同じ戦略をよりうまく実行するのも十分差別化だと思います。そして、最後はユーザーに立ち戻れるようにしたいと思っています。様々なユースケースを試す人が必要で、その人たちは信頼がない場合もあるので、銀行やSIerに信頼を共有いただくのですが、単なる信用補完ではなく、データが漏れないセキュアなインフラを提供いただくことも期待しています。

【湯川】
石垣さんは差別化についてはどのようにお考えですか?

【石垣】
差別化は既存市場でシェア争いする場合は有効な手段ですが、新しい市場を開拓する場合は自分を逆排除する可能性が高いので、差別化だけが真ではないと考えることも必要です。当面は業界全体でのオープンイノベーションによる共創も重要です。普及・加速化については、データ販売ビジネスのための新しい事業としての情報銀行というアプローチだけでは限界があると思います。むしろ既存のデータ保有事業者が自分の保有するデータを中心に、自身のサービスや商品をより拡大展開するために自己情報コントロール機能のあるPDS的な仕組みを実装する方が実現性は高いと思います。これによってGDPRのような保護規制の強化や、データの透明性や自己情報のコントローラビリティの拡大への要請に対応していくのです。個人中心のデータ利活用環境の普及を目指している国際団体MyData Globalは、こうした世界の実現のためにはBLTS(B:ビジネス、L:リーガル、T:テクノロジー、S:ソサエタル)が必要だと言っています。ビジネス面、法律面、技術面だけでなく、最後は住民が自分で情報を使う意識改革が社会的に浸透することが必要であり、そのためにも身近なところから自分で情報を利活用して自分、家族、地域のために役立っていると実感できるようにすることが大事だと思っています。

【湯川】
総務省で「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」を作り、ガイドラインもできました。民間ビジネスとして制度に則って頑張らなければいけないところもあるでしょうし、制度として手当てしなければいけないところもあると思うのですが、いかがでしょうか?

【橋田】
ユーザー体験を増やすために、まずデータポータビリティが必要で、それには企業が対応しないといけないのですが、日本は制度整備ができていません。ヨーロッパのGDPR第20条では、データポータビリティ権を規定していますが、本人に負担をかけず無料で提供しなければいけないので、企業としては嫌でしょう。だから、新しいビジネスモデルが必要です。本人にデータを渡して、本人がそれを活用して、本人や他の事業者に収益が発生したら、データを提供した企業にもその一部が還元される仕組みです。そのような仕組みが働いていれば、事業者は喜んで本人にデータを渡すでしょう。ルールに対応して本人にデータを提供すると儲かるようになれば、ルールがより実効的になるはずです。日本では幸い情報銀行が始まってしまっていて、それが世の中全体で収益分配されるようなビジネスモデルに発展する可能性があるように思います。

【湯川】
実現は何年先くらいでしょうか?

【橋田】
2,3年でやらないといけません。日本がこれから法整備というのはチャンスでもあるわけです。GDPRだけでは産業振興に直結しませんが、日本国内で企業が儲けるために本人にデータを渡す社会ができれば、日本はヨーロッパの上を行く仕組みで産業振興し、個人向けサービスのクオリティを高めて国民もハッピーになるので、ぜひ実現しましょう。

【湯川】
富士通総研としても生活者中心のデータ流通を訴えていきたいと思っています。

【橋田】
個人というのは生活者・消費者であると同時に生産者・勤労者でもあり、生産者・勤労者としてもハッピーでないといけないわけで、個人向けサービスのクオリティを高めるということは働き方改革とも関連すると思います。我々の生活と業務を全体としてハイクオリティにすることにつながるはずです。

【湯川】
本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。

(対談日:2018年12月14日)

注釈

  • (注1)
    パーソナルデータ : ここでは、オンライン上で管理されているか否かにかかわらず、自ら入力したデータやIoT機器等で観測されたデータも含め、生活者個人に紐づくデータすべてを指す。
  • (注2)
    ウェブスクレイピング技術 : ウェブサイトから情報を抽出するコンピュータソフトウェア技術。
  • (注3)
    一次利用サービス: ここでは、一次利用をパーソナルサービス、二次利用をビッグデータ活用、データ販売と定義する。
  • (注4)
    eポートフォリオ : 生徒が探究活動や課外活動、資格・検定等の実績をインターネット上に蓄積する「学びのデータ」。生徒が蓄積したデータを教員が閲覧して学習指導に役立てたり、生徒自身が大学への出願に使ったりすることが想定されている。

集合

対談者(敬称略、所属・役職は対談当時のもの )

(左から)株式会社富士通研究所 特任研究員 石垣 一司
東京大学大学院情報理工学系研究科 ソーシャルICT研究センター教授 橋田 浩一
株式会社マネーフォワード 取締役 Fintech研究所長 瀧 俊雄
株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント 湯川 喬介

お客様総合窓口

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