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【シリーズ】2018年の災害を振り返る(3)

人命を守る災害拠点病院の機能確保

災害時に地域の医療サービスの最後の砦としての役割を期待される災害拠点病院。2018年の災害対応から見えてきた課題と有事に効果的に機能を発揮するために取るべき対策について整理します。

2018年12月27日

opinion2018-12-5

1.災害拠点病院の災害対策の現状

大災害が発生した場合に最も重要なことは何でしょうか?会社や自宅から最も近い災害拠点病院を把握されていますか?そもそも災害拠点病院とは何か知っていますか?

災害拠点病院とは、災害時に医療機関が多数被災し、地域の医療サービスの提供レベルが大幅に下がった状況でも、最後の砦として医療サービスを提供できる地域の中核病院として、厚生労働省の制度に基づき各都道府県が指定するもので、全国で731施設が指定されています。設置の目的のとおり、災害時でも医療サービスを継続的に提供すべく災害対応の強化が進められてきており、最近のトピックとしては、2019年3月までに災害拠点病院における「BCPの整備」と「BCPに基づいた研修及び訓練の実施」をすることが義務化されています。しかし、現状ではBCP策定率は50%程度に留まっている状況です。また、これまでに災害拠点病院が備えるべきとして推奨されてきた事前対策である、施設の耐震化や非常用発電機の確保、断水に備えた受水槽や井水、非常時通信手段の確保等も十分できていないのが現状です。

このように多くの災害拠点病院が対策の途上である矢先に、今年の災害への対応という実戦を迎えたのですが、そこから見えてきた、災害拠点病院が認識すべき課題や今後の方向性について考察します。

2.2018年に発生した災害から考える災害拠点病院の課題

西日本豪雨や北海道胆振東部地震などの今年の災害では、医療機関の事業継続に不可欠な電力や上下水道が長時間寸断し、人工呼吸器や人工透析装置などの継続的な稼働が危うい状況になり、患者や関係者に大きな不安を与えました。

具体的には、西日本豪雨では約100の医療機関が浸水や断水、停電の被害を受け、事業停止を余儀なくされる状況に陥りました。ある医療機関では、水害により床下・床上浸水が発生し、生命に危険のある人工透析患者をドクターヘリで災害拠点病院に搬送するなどの緊急対応が行われています。被害の状況を見てみると、低層階にある非常用発電機の水没による電力供給の途絶や、土砂災害などの影響による貯水槽の破裂による断水などが発生し、事業停止につながりました。これは災害拠点病院においても例外ではなく、停電や断水が発生し、医療サービスを十分に提供することができない災害拠点病院も一部発生しています。

また、北海道胆振東部地震では、道内の医療機関の376施設で停電、82施設で断水が発生しました。道内の人工透析患者に対応する医療機関では40以上の施設で事業の停止もしくは一時停止に至り、それに対応するため災害拠点病院では災害モードへの切り替えが行われ、通常の予約患者の受け入れ停止や、緊急性の低い手術の延期、外来受け入れの停止を判断し、急患への備えが強化されました。しかし、道内で約1.5万人規模の人工透析患者に対応するためには、透析の間隔見直しや透析時間を2時間以内に限定する必要があり、患者へのサービスが限定的となる事態となりました。

災害拠点病院では、自然災害などにおいて重症患者を優先的に受け入れることが求められています。しかし、これら2つの災害事例では、地域の多くの医療機関の事業停止や縮退によって生じた患者への対応で手一杯となる事態になりました。想定される南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった大規模災害では、災害によって負傷した患者が今年の災害以上に発生することが想定されます。現状の備えで、その過酷な状況がしのげるでしょうか?

BCP訓練についても、各医療機関で実施されていますが、災害時は現場が自律して考え、行動する力を養う必要があります。これまで実施した訓練の成果が今年の災害で発揮できましたでしょうか。災害時の組織的な対応能力を養うためにはどのような訓練をすべきでしょうか。

さらに、災害時に被害状況を登録して支援要請を行うEMIS(広域災害救急医療情報システム)についても、今年の災害では登録率が非常に低い状況にありました。壊滅的な被害が発生する医療機関に対し支援要員を迅速に最適配分するためにはどのような対応が必要でしょうか。

災害拠点病院の事業継続能力強化に向けて、事前のハード対策強化に加えて、以下3点の対応ポイントについて述べます。

3.今年の災害を上回る大規模災害にも備えるために災害拠点病院が対応すべきこと

(1)具体的な被害想定に基づいたBCPの検討

上述のとおり、今年の災害では、ブラックアウトによる停電の長期化、11府県を跨がる大雨による停電や断水などの想定外事象が発生しました。そのため、重症患者の受け入れが十分できない災害拠点病院も発生しています。災害時に発生することのすべてを想定できないことは確かですが、「想定外であるから仕方ない」で済ませてよいものでしょうか。

地域の医療サービスの中核として期待される災害拠点病院では、BCP策定において、地域防災計画やハザードマップから自組織の「被害想定(不測の事態)」を具体的に想定し、脆弱性の的確な分析・把握を行い、対応策を策定することが必要です。脆弱性の分析については、厚生労働省が提供している「BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」のチェックリストも参考にできます。

例えば、今被災した場合に、自分達の地域はどれぐらい停電、断水するのか、対策している非常用発電機や受水槽は何日持つのか、そのインフラを利用する医療機器の優先順位付けはどのように行うのかなど具体的に議論することが重要となります。また、電力や上下水道が利用できたとしても医療機器が損傷してしまえば医療サービスは停止してしまいます。多くの負傷者への対応には検査機器(CT、MRIなど)の稼働が不可欠となるため、もし検査機器が故障した場合の現状復旧時間の把握や、復旧時間短縮のための対策の検討も必要となります。ほかにも、地域の重症患者を多く受け入れるためには、その対応余力を生み出すために優先度の低い業務を停止する必要があります。例えば、外来の受け入れ停止や、急を要しない手術の停止、入院患者の一時退院などが挙げられます。これらの判断を迅速かつ適切に対応するためには、病院として誰が、いつまでに何を判断するのか、その判断の結果どのような影響が起こるのか、その判断基準はどのように設定するのかを具体的にイメージすることが重要です。病院として重要な判断を目標時間内に達成するためには、周辺の医療機関を中心とした地域の被害状況の迅速な把握も当然必要となるので、そのスピードアップのための手順の検討も必要です。

首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの大規模災害の場合は、今年の災害以上に多数の負傷者が発生することが想定されています。自治体や被災していない医療機関の応援は期待どおりには得られない可能性もあります。ライフラインである電力、ガス、水道、通信も長期間にわたり寸断されます。事前のハード対策が不十分な災害拠点病院では、長期停電や長期断水が発生し、道路の寸断による患者の搬送困難や、医薬剤の供給途絶なども発生し、重症患者の受け入れが困難になります。こういった現状の要素を取り込んだ具体的な被害想定とその対策に向き合う事が必要だと考えます。

加えて、これらの対策が絵に描いた餅にならぬよう、事前対策の優先順位付け、経営層との合意形成が不可欠となります。

(2)BCP訓練による対応能力の強化

BCPの実効性を高めるためには、策定時には気づかなかった課題を洗い出せるようなBCP訓練を定期的に行うことが重要となります。しかしながら、多くの災害拠点病院のBCP訓練では、「訓練が目的化しておりセレモニー的な内容となっている」、「訓練で具体的な課題が抽出できていない、対応策が検討できるほど課題が整理されていない」といった声がよく聞かれます。

では、どうすれば課題が洗い出せるのか。これらの訓練が実践的でないというケースの多くに共通していることは、受け入れが求められる地域の重症患者がどれくらい発生するのかを意識できていないということです。例えば、受け入れを要請される人工透析患者がどれくらい発生するのか、その場合自組織で対応可能な人工透析患者の受け入れ可能な人数をどのように判断するのか、近隣の病院が被災した場合の受け入れ要請はどれくらい発生するのか、その受け入れにどのように対応するのか。また、今後想定される大災害に備えて、もし東日本大震災のような平常時の5倍の重症患者が搬送された場合の受け入れ可否判断をどうするのか、など議論を具体的にできるような訓練にすべきではないでしょうか。

また、BCP訓練では、情報の整理や判断の遅さについての分析をすることが重要です。なぜ判断に戸惑うのか、どうすれば判断するまでの時間の短縮が可能であるのか、その要因を細分化し対応を検討する。例えば、現場からの報告や連絡、相談内容や回数が減らせないか、対策本部から指示がなくても能動的に行動できることがないかなど、具体的に検討することが重要です。

(3)ICTインフラ強化、官民連携による地域の被害情報共有のための仕組みの強化

厚生労働省では、災害時にEMIS(広域災害救急医療情報システム)への被害情報の登録を義務付けていますが、今年の災害では、停電によるネットワークの停止などが発生し、被災地におけるEMIS登録率が50%程度にとどまり、被災地の医療機関の被害状況把握に時間を要することとなりました。これは、DMAT(災害派遣医療チーム)などの支援要員の最適配分や非被災地からの後方支援を適切に行えないという事態につながります。すべての活動の基本となるEMISは、強化されたICT基盤で運用されることが必要です。例えば、地域の医療機関の非常用発電機の燃料をガス、重油、軽油などと分散させていくことや、ネットワークの二重化、衛星携帯通信の活用などが考えられます。また、EMIS登録については、緊急時(3時間以内)に登録する項目として、病院のトリアージ(赤・黄・緑・黒)や職員・患者の状況を誰がどう判断するのかも重要となります。

さらに、EMISが利用できない場合を想定して、EMISを用いないで地域の医療機関の被害状況を把握し、最適な支援を実現するための仕組みを行政、自治体、災害拠点病院で再整備する必要性もあると考えます。既に検討が進んでいる地域もありますが、各地域で対応方法が異なる状況は将来的に混乱を招く可能性も高いため、全国で標準的な仕組みの構築が必要と考えます。当然その仕組みは、被災時に医療機関に負荷のかからないものであるべきです。



今後の展望について

地域の医療サービスという必要不可欠な機能を担う最後の砦としての災害拠点病院に対する期待は大きく、その期待に応えるために継続的な取り組みが進められています。それらの取り組みが有事に効果的に機能を発揮するために必要なポイントとして3点をあげました。平時である今から継続して検討・対策実施をすることが重要だと考えます。

また、被害の様相や可能な対応が具体的になればなるほど、需要(=重症患者)の発生を抑えるための地域災害医療の方向性と、その実現に向けた地域医療機関や自治体、取引先などとの連携について、いくかの取り組みの必要性が見えてくると考えます。

大谷 茂男

本記事の執筆者

コンサルティング本部 ビジネスレジリエンスグループ
プリンシパルコンサルタント

大谷 茂男(おおたに しげお)

 

2012年より株式会社富士通総研にて事業継続マネジメントに関わるコンサルティング業務に従事。最近は災害拠点病院を中心に医療機関のBCP策定やBCM支援などのレジリエンス強化のコンサルティング業務を従事、その他、地域連携やサプライチェーンのコンサルティング業務など多数実施。

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