GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. ナレッジ >
  3. オピニオン >
  4. キャッシュレスによる地域経済活性化─「さるぼぼコイン」のケース

キャッシュレスによる地域経済活性化─「さるぼぼコイン」のケース

キャッシュレスによる地域経済活性化

─「さるぼぼコイン」のケース─

2018年10月31日

opinion2018-10-8_1280-800

広がるQR決済

海外に比べ遅れていた決済のキャッシュレス化で、日本でも様々なサービスが提供されるようになっている。QRコード(二次元コード)を使ったスマホによる決済がその代表である。中国では、電子商取引大手のアリババグループの「アリペイ」がよく使われている。

QR決済には、ネット企業、携帯キャリア、銀行、流通など様々な企業が参入しているが、地方では、地域通貨と結びつけたサービスも登場している。岐阜県の飛騨高山を地盤とする飛騨信用組合は、昨年12月、現金や預金を「さるぼぼコイン」という地域通貨に交換して、スマホで使える仕組みを導入した。加盟店が、当初の約100店舗から一気に約800店舗にまで急拡大したことで注目を集めている。利用人数は約5,200人となっている(2018年10月現在)。

「さるぼぼ」とは、飛騨弁で猿の赤ちゃんという意味で、お土産の人形として売られている。コインの使用範囲は、飛騨信用組合が営業拠点をおく高山市、飛騨市、白川村の2市1村である(人口は合わせて約11万5千人)。

さるぼぼコインの仕組みとメリット

さるぼぼコインを使用するには、スマホアプリをダウンロードして、アカウントを開設すればよい。アカウントには、本人確認なしで現金で10万コイン(1コイン=1円)までのチャージと支払いができる「さるぼぼPay」と、飛騨信用組合の普通預金口座を保有することによって、200万コインまでのチャージやコインの円への払い戻し、さらにユーザー間の送金ができる「さるぼぼBank」の二種類がある。支払いは、加盟店のチラシに印刷されたQRコードをスマホで読み取り、金額を入力して店員に確認してもらって画面をスライドさせると、ありがとうの飛騨弁「あんと」の音声が流れて完了する。

ユーザーにとってのメリットは、チャージする際に1%分のプレミアムポイント(コインと同価)が付与されること、キャッシュレス化で支払いが容易になること、さらにさるぼぼBank利用の場合、ユーザー間の送金が無料になることである。ただし、コインの有効期限は1年とされているため、早期に使うインセンティブが与えられている。これは加盟店での早期の消費を促す効果がある。「さるぼぼBank」では上限200万円であるため、コインで自動車を購入する例もあるという。

加盟店にとっては、導入費用ゼロで、カードリーダーなどの特別な機器を置く必要がなく、簡単に導入できるメリットがある。導入すれば、さるぼぼコインを持つ顧客を集客でき、会計の実務負担も軽減できる。特に店主一人で営む場合などは、オペレーションが楽になる。自店のQRコードさえあれば、店外のイベント出店などの際もコイン決済を利用できる。通常、クレジットカードの決済端末を導入すると、導入費用に加え、5~8%程度の決済手数料がかかるため、中小店舗が導入する際のハードルになっているが、さるぼぼコインはそうした費用負担がない。

コイン決済にかかる手数料もゼロで、現金化する際と加盟店間での送金に手数料が生じる仕組みである。現金化は、加盟店専用の管理画面から申請し、手数料1.5%(税別)または1.8%(税別)を引いた残額が、翌営業日に飛騨信用組合の口座に入金される。

送金は加盟店同士で0.5%(税別)の手数料で24時間いつでも送金できる。送金する方が現金化するよりもコストが低いことが特徴で、この仕組みによって、原材料仕入れなどにかかる加盟店同士の送金でコインの活用を促すことを狙っている。加盟店同士のコイン送金が進めば、地域外にお金が流出することなく地域内で循環することになる。飛騨信用組合にとっては、コインの送金が活発になれば、従来追うことのできなかった地域内のお金の流れを把握できる一助ともなる。現在は、現金化される場合の方が多いが、加盟店同士の送金も徐々に行われ始めている。

飛騨信用組合にとってのメリット

ユーザーに付与する1%のプレミアムはすべて飛騨信用組合側が負担しており、飛騨信用組合のもうけは換金・送金時の手数料のみとなっている。利用者を増やさなければ利益は出ないため、利用者1万人を目指しているという。もっともコイン単体で採算が取れる事業ではなく、コインの導入で地域のお金回りを少しでも良くすることで、長い目で見て預金や貸し出しが増える効果が発揮されることを期待している。また、飛騨信用組合は、アプリで得られた情報を活用することで、加盟店に経営支援を行うことなども視野に入れている。

加盟店向けにはアプリを集客、販売促進に使ってもらうことを提案しており、例えば、GPSによるアクセス案内や、店舗付近にいるユーザーへの特売の通知などを行うことが可能となる。信用組合は、コインのアプリを地域での生活に欠かせないプラットフォームに育てることを狙っている。

かつて、1990年代の終わりから2000年代初めにかけて地域通貨がブームになったことがあるが、長続きしなかった。最近になって、スマホやブロックチェーン技術など技術の進歩によって、地域通貨が再活性化する動きが出ている。地域通貨の発行は、信用組合では初めての取り組みであったが、いきなり何の基盤もなく導入できたわけではなく、長年、培ってきた地元との関係性がその背景にあった。

2013年には地元商店を中心にした「ひだしんさるぼぼ倶楽部」という組織を作り、会員が加盟店で会員証を提示すると各種サービスを受けられるようにしたり、加盟店だけで使える割引券を発行したりしていた。このサービスの原資は信用組合の負担となっていたため、こうした仕組みがコインを発行するという発想に自然に発展していった。導入に当たっては、2016年11月からIT企業のアイリッジ(東京)と仕組みの構築に取り組み、2017年5月から3か月の実証実験を行った上、12月に導入に踏み切った。プラットフォームは、アイリッジが開発した「MoneyEasy」を利用している。

さるぼぼコインの仕組みは、お金を地域内に囲い込み、また循環させることで地域経済の活性化を図り、そうした効果を通じて、営業地域が限られる信用組合が生き残ろうという取り組みといえる。

アリペイとの連携

さらに飛騨信用組合は、地元でお金を囲い込むだけではなく、観光客の取り込みにも乗り出した。飛騨高山といえば、世界的にもよく知られた観光地で、2017年度には約462万人(うち訪日外国人約51万人)の観光客が訪れた。近年は映画「君の名は」の舞台となったことも、観光地としての人気に拍車をかけている。しかし飛騨高山では、手数料が高いなどの問題でクレジットカードが使える店舗が限られ、訪日外国人にとっては買い物の利便性が低いという問題があった。

こうした問題に対し飛騨信用組合は、アリペイと連携し、今年9月に、さるぼぼコインとアリペイどちらでも使えるQRコードスタンドを店舗や観光地に設置し、中国からの観光客がキャッシュレス決済できる環境を整えた。当面はQRコードを並べて掲示するが、年内にも共通QRコードを導入する。

アリペイは現在、日本国内での導入を進めており、信用組合と連携するのは初めてであった。信用組合は決済額の約3%を手数料として得る。信用組合はコインの加盟店からアリペイのサービスを使いたい店を募り、アリペイの店舗情報紹介サービスで店舗を紹介できるようにもする。

飛騨信用組合が連携できたのは、たまたま観光協会会長を訪問していたアリペイ関係者を紹介してもらったという偶然の要素も大きかったというが、さるぼぼコインによる決済が浸透していて、アリペイとの親和性が高かったのは追い風となった。この連携により、飛騨高山で増える中国人観光客の消費拡大を狙う。

商店街を中心とした地域通貨としては、1996年に導入した長野県駒ヶ根市の買い物カード「つれてってカード」がその先駆けであるように、従来からICカードに地元の金融機関などを通じてお金をチャージした際などにポイントが付き、地元商店で使える仕組みはあった。しかし、どの仕組みでも一時期はカードによる決済が増えても、高齢化による利用者減少という課題に直面している。さるぼぼコインによるQR決済はこうしたカードの進化したバージョンといえるが、スマホの決済機能を中国人観光客とも共有することで、内外の利用者を呼び込む仕組みとなった点は興味深い。

地域貢献と公金のキャッシュレス化

さるぼぼコインは地域貢献の仕組みも持っている。今年5月、飛騨信用組合は、さるぼぼコインのチャージ額の一部15万円を飛騨市と観光協会に寄付した。毎年度のコインのチャージ額の0.15%を地域振興支援として、高山市、飛騨市、白川村と両市の観光関連団体に寄付することになっており、初年度は合わせて40万円の寄付を行った。このほか、コインを活用して募った寄付金を被災地に寄付する活動も行っている。

さらに、行政もコインを使用する動きが出ている。今年10月に飛騨市と飛騨信用組合が覚書を締結し、コインを住民票や印鑑証明書、戸籍謄抄本、納税所得証明書の取得費用に使えるようにするモデル事業を行うことになった(来年3月末まで)。電子地域通貨が自治体で採用されるのは初めてといい、公金のキャッシュレス化の導入に向けて検証が行われる。

このように飛騨信用組合が導入したさるぼぼコインの仕組みは、その利便性や導入のしやすさから瞬く間に地域の決済機能として浸透し、行政にも使用しようとする動きが広がり、さらには、中国人観光客の取り込みにも発展するなど、地域に密着した信用組合の新たな役割を示すものとして興味深い動きとなっている。今後は、法定通貨と交換した独自通貨を域内に流通させるという仕組みは、地域金融機関が生き残り策としてとり得る一つの選択肢になる可能性もあるのではないか。

一方、折しも、消費税率の来年10月の引き上げに合わせ、中小商店のキャッシュレス化を普及させようとする取り組みが進められようとしているが、地域金融機関が積極的な役割を果たすことによってキャッシュレス化を普及させた事例としても興味深い。

執筆者オピニオン

米山秀隆

本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

米山 秀隆(よねやま ひでたか)

 

1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員

【執筆活動】
捨てられる土地と家(ウェッジ、2018年)
限界マンション(日本経済新聞出版社、2015年)
空き家急増の真実(日本経済新聞出版社、2012年)
ほか多数。

お客様総合窓口

入力フォーム

当社はセキュリティ保護の観点からSSL技術を使用しております。