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タワーマンションは供給過剰か

タワーマンションは供給過剰か

2018年10月10日

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供給過剰かどうかを考える三つの視点

近年、タワーマンションが数多く建設され、今後の供給計画も後を絶たない。不動産経済研究所によれば、2018年以降に完成予定の超高層マンション(20階建て以上)は294棟10万8,757戸(2018年3月末時点)に上り、前年の調査から54棟1万6,471戸増加した。都区部で供給が計画される超高層マンションは123棟5万5,570戸に達し、戸数ベースで51%を占める。

タワーマンションの大量供給については、供給過剰ではないかとの声もある。供給過剰かどうかを考える上ではいくつかの視点がある。

第一に、これまでのところ供給されるタワーマンションは売れており、供給過剰で新築価格が値崩れしている状況にはない。したがって、供給に対して需要が存在するという意味では供給過剰にはなっていない。

第二に、供給がハイペースで続いている一部地域では、鉄道などの交通インフラ、保育園や学校などの整備が追いついておらず、インフラや教育施設のキャパシティ対比では、供給過剰になっているという事実はある。

第三に、新築時点で完売した物件であっても、10年、20年後にそれを中古物件として売ろうとした時に、需要があるのかという問題がある。マンションは、長期修繕計画に基づき必要な修繕費用を積み立てた上、定期的に大規模修繕が行われなければ、価値を維持することはできない。それができなければ最悪の場合、物件のスラム化に向かう可能性がある。

タワーマンションの場合、必要な修繕積立金は通常のマンションよりも嵩み、区分所有者が多く合意にも困難を伴う。仮に、タワーマンションが適切なメンテナンスが行われずに価値を保てなくなった場合、中古物件としての需要が出ず、価格が大幅に値崩れするという可能性も考えられる。この点は、将来的にタワーマンションが中古物件として売れないという意味で、供給過多になってしまう可能性である。

タワーマンションの供給者、需要者にとってのメリット

第一の視点、新築時の供給に対して需要があり、その意味で供給過剰にはなっていないという点については、タワーマンションが供給側、需要側の双方にとってメリットがあることによる。供給側にとっては、超高層であれば同じ土地面積であっても、より多くの住戸を販売することができ、収益を上げやすくなる。

一方、需要者にとっては、都心部など利便性が高く地価が高い場所に住む場合に、高層建築であるため建設費用はかかるが、高い地価を多くの区分所有者で分担する形になるため、同じ場所に低層マンションを購入する場合に比べ、相対的に安い価格で取得することができる。また、タワーマンションならではの眺望や、充実した共用施設も魅力である。こうした魅力を持つタワーマンションは、購入後も値崩れしにくいと考えられており、居住目的ではなく、投資用に購入される場合も少なくない。タワーマンションの今後の供給計画が絶えないのは、こうした魅力により、今後も必ず需要がつくとの見通しに基づいている。

地域のキャパシティ不足をどう捉えるか

しかし最近は、第二の視点、すなわちインフラや教育施設のキャパシティを上回る地域が現れており、その意味で供給過剰だとの捉えられ方もなされるようになってきた。問題の深刻化により、都内ではマンション建設の抑制に舵を切る区も出てきた。

江東区では、東京メトロ豊洲駅周辺などにタワーマンションが林立しているが、10月からタワーマンションなどの大規模マンション(151戸以上)に、少人数世帯向けのワンルーム(25~40㎡)や三世代同居向けの住戸(90㎡以上)を一定数整備するよう求めることとした。子育て世代などに人気の70㎡前後(40~90㎡)のファミリー世帯向け住戸を減らすことで、人口流入を抑制する狙いがある。

江東区の人口は1997年に36.8万人にまで落ち込んだが、直近では51.7万にまで増加した。江東区では30戸以上のマンションを開発する事業者から、1戸当たり125万円の「公共施設整備協力金」の拠出を求めており、2007年以降は、豊洲・有明地域の小中学校地域の整備に200億円を投じてきた。しかし、キャパシティは限界に近づいている。

一方、中央区には都営地下鉄勝どき駅、東京メトロ・都営地下鉄月島駅周辺といったタワーマンション密集地域があるが、中央区はそうした地域を含む区内の8割の地域において、これまで一定の要件を満たすことで容積率の上限を1.4倍まで緩和していた制度を2019年7月に廃止する方針を発表した。ただしこの措置は、中低層マンションに適用されてきた経緯があり、数十戸程度のマンション開発は抑制されるものの、タワーマンションは都などの緩和制度によって建て続けられる。

中央区の人口は1953年の17.2万人から、1997年には7.2万人まで落ち込んだ。この対策として中央区は定住人口10万人の目標を掲げ、住宅誘導政策を約20年間続けてきた。この結果、タワーマンションを中心に大幅に人口が増え、直近の人口は16.6万人にまで増加した。

都内の他では、川崎市中原区のJR・東急武蔵小杉駅周辺が、タワーマンションが林立することで有名である。この10年で10棟以上が建ち、中原区の人口は約15%増えた。その結果、朝の通勤ラッシュ時に改札手前に長蛇の列ができるようになり、混雑緩和のためJR横須賀線のホームが増設されることになった。武蔵小杉では、今のところ供給抑制までは考えられていないが、人口が駅のキャパシティを上回るようになった事例である。

タワーマンションの供給に対し、地域のキャパシティ不足を理由とする供給抑制策については、日本全体の生産性という観点から批判的な意見もある(注1)。すなわち、知識集約型産業では、人的資本の高い人々の集積が生産性向上につながるため、人々の集積を地域のキャパシティ不足から抑制するような施策を講じるのは、日本全体の生産性向上にとってマイナスになるとの指摘である。この立場に立てば、供給は抑制すべきではなく、地域のキャパシティ拡大を、国も含めて支援していくべきということになる。

その必要性を判断するためには、人口集積による便益と費用を総合的に評価する必要がある。しかし、今のところはそうした視点は欠いたまま、地域内のキャパシティとの対比によって、人口流入を抑制すべきとの判断がなされている。

中古価格が値崩れする可能性

最後の第三の視点は、タワーマンションを含めたマンションという住まいの持続性をどのように考えるのかということと関わる。タワーマンションの大規模修繕の事例はまだ少ないが、川口市の「エルザタワー55」(55階建て、650戸、1998年竣工)で2015~17年にかけて行われた1回目の大規模修繕の事例では12億円の費用がかかった。

タワーマンションの大規模修繕では、その高さのため、足場を組んで外壁の修繕が行えない難点がある。ゴンドラによる作業が必要になるが、作業効率は悪く、強風の時には作業の中止を余儀なくされる。結果として工期は長期化し、費用も高くなる。1回目の修繕は済んでも、2回目の大規模修繕で必要となるエレベーターや給排水システムなどの交換にはより費用がかかると考えられる。エルザタワーの場合は、1回目の修繕は追加負担なしに賄えたが、2回目の修繕に向け、修繕積立金の値上げが検討されている。

長期修繕計画の見直しには合意が必要であり、タワーマンションの場合は、多数の区分所有者がいて、また、投資目的の区分所有者が多い場合には、修繕積立金の値上げには消極的な姿勢が勝る場合も考えられる。それでも将来的に多額の費用がかかることを見越して、修繕積立金の値上げに踏み切るタワーマンションも出ている。

その一例である武蔵小杉にある「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(59階建て、794戸、2009年竣工)は、長期修繕計画を見直した結果、大幅な資金不足が生じることがわかり、2013年に修繕積立金月額を約2.5倍に引き上げた。区分所有者の間で、適切な維持修繕によって資産価値を守り、ビンテージマンションを目指すとの意識合わせができたことなどが、大幅値上げに踏み切ることができた要因であった。

将来的には、このように区分所有者の意識が高く、適切な維持修繕を行えるタワーマンションとそうではないタワーマンションに二極化する可能性がある。前者の場合、中古物件として高い価値を維持できると考えられるが、後者の場合、中古価格は値崩れする可能性がある。

実際問題として、区分所有者の高い意識に基づいて資産価値を維持していくことは簡単なことではない。そうした問題を見越して、タワーマンションを購入しても10~15年ほどで売り抜けることを考えるべきだと指南する専門家も存在する。つまり、1回目の大規模修繕の前である。そうであれば、1回目の大規模修繕で積立金が不足していたとしても一時金を徴収されることもなく、値崩れしないまま高い価格で売却できる可能性が高いとの考え方である。

こうした考え方は現時点で広まってはいないが、今後、2000年代に供給が増加したタワーマンションが続々1回目の大規模修繕を迎え、そこでの積立金不足や2回目に向けた積立金の大幅増額の必要性などが広く認識されるようになると、その時点で中古になっても高値で取り引きされていたタワーマンションが値崩れする可能性は否定できない。物件としての維持可能性に疑問符が付いたタワーマンションは、区分所有者の高齢化や空室化が進む中、必要な管理費用や修繕積立金を徴収することがさらに困難になり、スラム化に向かうという、現在、通常のマンションで進展しつつあることが、タワーマンションにも波及していくことになる。

タワーマンションを購入する場合は、通常のマンションよりも維持修繕にお金がかかること、また多数の区分所有者がいて合意形成にも時間がかかることを見越し、管理組合を通じた日頃からのコミュニケーションがより一層重要になることを自覚する必要がある。しかし、そのような必要性はあまり自覚されておらず、マンションは戸建てと比べて近所付き合いの必要がなく、カギ1本で他人と関わらず生活できるとの利便性に引かれて購入する場合が多い。

現実には、区分所有者が多数いる中、定期的な大規模修繕を合意によって進めていかなければならないマンションの方こそ近隣との密なコミュニケーションが必要になる。にも関わらず、そのような必要性を理解しないまま購入していることは、マンションの持続性に影を落とし、将来的に売れない中古物件が大量に発生する可能性を高めているといえる。

必要な対策

以上、タワーマンションの供給過剰問題について三つの視点から考えてきたが、次のように整理することができる。供給すれば売れることから、現時点では供給過剰になっているとはいえない。しかし、一部地域ではインフラや教育施設などのキャパシティを越えているケースもあり、その意味では供給過剰になっている。しかしこれに対しては、都市部に人的資本の高い人々の集積を図り、日本全体の生産性を高めていくという観点からは、いたずらに抑制すべきではなく、キャパシティを拡充すべきという見解もある。

タワーマンションが人々の都心居住の要求を満たし、また、生産性向上に寄与する効果をもたらしているとしても、持続的な住まいでないとすれば、地域や日本にとって逆にマイナスとなる。タワーマンションの持続性を担保するためには、必要な修繕積立金を確保して適時に維持修繕を行い、すべてのタワーマンションがビンテージマンションとなって、中古物件としての価値が保たれていくような取り組みを行っていく必要がある。

これは通常のマンションでも必要なことであり、今後は、タワーマンションを含むすべてのマンション購入者に対し、購入時に老朽化した場合のリスクや区分所有者の責任などの注意喚起を行う仕組みにすることが望ましい。長期修繕計画については、60年間の計画を義務付け、均等割で月々の修繕積立金を徴収し、当初から十分な額を積み立てていく形に変えるべきである。

注釈

  • (注1):
    例えば、中川雅之「[経済教室]東京一極集中の功罪(上)─生産性に与える影響、重視を 「閉じた都心の形成」避けよ」『日本経済新聞』2018年6月6日。
米山秀隆

本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

米山 秀隆(よねやま ひでたか)

 

1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員

【執筆活動】
捨てられる土地と家(ウェッジ、2018年)
限界マンション(日本経済新聞出版社、2015年)
空き家急増の真実(日本経済新聞出版社、2012年)
ほか多数。

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