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  4. 日本とドイツにおけるデジタル化と働き方改革―先進企業から中小企業へと広がる可能性―

日本とドイツにおけるデジタル化と働き方改革―先進企業から中小企業へと広がる可能性―

日本とドイツにおけるデジタル化と働き方改革

―先進企業から中小企業へと広がる可能性―

2018年10月5日

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世界中で、デジタル化が生産性向上と成長の機会を生み出している。しかし、新しい価値創造のためには、効率化やコスト削減のためのICT投資以上に効果的なデジタル化が必要である。デジタル化された新しい働き方によって、社員のやる気を引き出し、新しいアイデアやサービス、革新的な製品の開発力を高めるべきである。2018年6月に富士通総研とベルリン日独センター(JDBZ)、ドイツ経済研究所(IW)は、デジタルトランスフォーメーション(注1)と働き方改革に積極的に取り組む企業と共同で、日独シンポジウム「働き方改革およびデジタル化と企業の生産性」を開催し、伝統的な働き方をデジタル時代にどのように適応させればよいかを検討した。そこで示された先進的企業のデジタル化と働き方改革に関する取り組みは、中小企業の生産性を高めるためにも大いに参考になるはずである。

1.伝統的企業の復権に必要なデジタルスキル

デジタル技術を効果的に活用するために、企業はビジネスモデルや社員の働き方について、グーグルやアマゾンのような「デジタルネイティブ(注2)」の会社に学ぶべきである。これまで多くの伝統的な企業は、将来のマーケットに向かって急速に進む「デジタルネイティブ」企業と競争しながらICT関連のリストラクチャリングを求められたため、デジタルトランスフォーメーションのプロセスを実現することは非常に困難であった。デジタルトランスフォーメーションは、業務プロセスが最初からデジタル技術を前提に設計されている「デジタルネイティブ」企業の方が圧倒的に有利である 。しかし、テクノロジーブームは一段落し、アマゾンやテスラ、ネットフリックスのような「デジタル・ディスラプター」にとって、むしろアナログの世界での業務領域が増え続けている。例えば、アマゾンのビジネスがうまくいくためには、日本ではヤマト運輸が運営しているような優れたロジスティクス業務が不可欠である。テスラでは、利益を出すために効率的な工場運営が欠かせない。ネットフリックスがヒット番組を作り続けるためには、アナログ時代の番組制作技術が必要である。

デジタルとアナログの両面で長期的な利益を得るためには、アナログ世界との幅広いインターフェースを持つ卓越したデジタルサービスを運営することが必要になっている。優位性は、むしろ、伝統的な企業へシフトしているかもしれない。というのは、伝統的な企業の中には、アナログ世界での競争力を維持しながら、例えばAI技術の活用に優れたスタートアップ企業と提携したり、デジタル技術を活用して業務の生産性や創造性を高めることできるデジタルスキル(注3)を社員に身につけさせようとしたりしている企業が増えているからだ。一方で「デジタルネイティブ」な会社は、ますますアナログ業務の遂行に苦労するようになり、既存ルールのコンプライアンスに直面している。先に述べた例の中では、テスラは工場運営を改善しようとはしているが、アナログな旧来の自動車メーカーによる買収も噂されている。

2.伝統的な働き方のアップグレード

私たちが6月に開催したシンポジウムの中で印象深かったのは、登壇したシンポジウムの発表者が皆、「将来のためには新しいICTシステムの導入よりも働き方改革が重要だ」という点で一致したことだ。新しい事業機会に対応し、異なる市場の新しいパートナーと仕事を進めるためには、新しい働き方をしながら新しいシステムを創造的に利用する多様な社員の存在が不可欠である。

三井物産では、急速に多様化する国際市場に対応し、国内で最も優れた人材を獲得するために、社員のダイバーシティを促進する働き方改革を強力に進めている。社員は市場開発の最先端にいることが求められており、デジタルプラットフォーム上で情報や活動内容を共有することが不可欠である。実際、2016年に働き方改革が本格化した後、生産性や柔軟性、モビリティを向上させるなど、従業員のデジタルスキルの開発は確実に進んでいる。時間単位の年次有給休暇や必要に応じた時差出勤、モバイルワークといった単純な指標を見ても、実感レベルの生産性や社員満足度には大きな違いがあった。その後は長期的なダイバーシティ政策として、仕事と家庭の両立が難しい女性たちをよりサポートするために、デジタル技術を活用して働く場所や業務フロー、組織階層などを再設計することを大目標としている。

効果的な働き方改革は大企業の内部だけで起きているのではない。デジタル化が進む世界では、労働市場の柔軟性が高まり、企業が「アウトサイダー」の活用を学ぶにしたがって、終身雇用制度から外れた専門ワーカーが企業をサポートするようになっている。日本の有力クラウドソーソング企業であるクラウドワークスのオンライン・プラットフォーム上には、190万人のワーカーが登録され、すでに23万社とのマッチングを達成している。ドイツでは独立した専門家やコンサルタントは、すでに「ニューエコノミー」の中核を成している。日本でも、フリーランスのワーカーは1100万人超まで増えており、2018年の報酬市場も2015年から40%増えて20兆円規模になった。日独両国で、このような労働市場の柔軟性がなければ、特に中小企業にとって、多くのプロジェクトを進めたり、必要とされるスキルのギャップを埋めたりすることが難しいのは明らかである。

日本の有力機械メーカーDMG森精機は、グローバリゼーションの進展に合わせて、2009年から2016年にかけてドイツのギルドマイスター社との経営統合の過程で日独の工場を比較し、働き方改革の重要性を学んだ。2つの工場では、同様の製品を作っているのに社員の労働時間は大きく違っていた。マネジメント方法や働き方を詳しく分析してみると、日本では頻繁な会議のコストや計画期間の短さが、生産性の低さと労働時間の長さの原因となっていることがわかった。自動化や業務改善などに見られる「日本的」な仕事の優秀さを残しつつ、長期的な視点を持った計画や無駄な会議の削減など「ドイツ的」な時間効率性を目指して働き方を変えることで、日本の工場の労働時間は約20%減り、休暇取得率も高まり、社員満足度も向上した。このような新しい働き方は、業務のあり方を世界的に統合して再設計する際の基本になっている。

3.カルチャー変革の重要性と政府の役割

三菱ふそうトラック・バスは、独ダイムラー社のアジアにおけるトラック事業に統合後、成長著しいアジアの商用車市場で、費用対効果の高い先導的な事業体となっている。世界展開拡大のため、情報システムをグループのグローバル・デジタルプラットフォームに統合することは最重要課題の1つであった。そのプロセスで、働き方改革の一環として、社員のデジタルスキル向上と同様に現地の働き方カルチャー尊重の必要が明らかになった。また、社員の士気や学習意欲、チームワーク能力を高めるため、IoTのようなトピックスに関するオープンセミナーやレクチャーが行われ、明るく開放的な職場のリデザインも行われている。例えば、スキル向上の取り組みの中で、社員のプログラミング能力を高めることにより、国際的な協力をより円滑に行うスキル基盤を強化できることがわかった。そのため、同社では個人向けにカスタマイズされたオンライン学習プログラムを提供し、業務のデジタル化だけでなく、国際ビジネスで自由にコミュニケーションできる英語学習にも焦点をあてている。

また、政府が新しい役割を果たす必要があることも指摘しておきたい。例えば、ドイツでは政府が15年間にわたって働き方と労働市場の改革に取り組んできた。しかし、その結果はしばしば失望させられるもので、抵抗も強かった。企業にデジタルスキルの開発と働き方の柔軟性の向上を促す政策である"Work 4.0"を進めるためには、まず政府自身の改革についてデジタル化の先行事例から学ぶ必要があるだろう。ロールモデルになり得るのは北欧諸国の政府である。明確なのは、真の「デジタル政府」だけが先進的なデジタル化のニーズを理解し、市民や企業の新しい働き方をサポートできるということだ。企業がよりクリエイティブになり、新しい価値創造へフォーカスすることをサポートするには、政府自身が効果的なデジタルサービスを提供し、アナログの壁を低くする必要がある。自動化されたデジタル税務会計と現金管理、政府に保証されたデジタルアイデンティティ、社会保障と福祉サービスのデジタル化といった政府の真のデジタル改革は、中小企業のデジタル化にも大きな影響がある。中小企業は大きな投資こそ難しいかもしれないが、環境変化に合わせて素早く対応することができるはずだ。

4.中小企業へと広がるデジタル化と働き方改革

デジタル化と働き方改革に関して、中小企業もシンポジウムで紹介されたような先進企業の事例から学ぶことができるだろう。しかし、中小企業は大企業と違って先進技術に投資する余裕がない場合が多い。通常であれば、技術は時が経つにつれてコストが下がり、普及が進んでいくので、中小企業もタイミングを待っていればよい。ところが、デジタル技術は通常の技術とは異なり、普及のスピードは速い。中小企業が得意とする伝統的な製品の洗練化や熟練による業務の専門化は、デジタル化によって従来以上に破壊されつつある。一方で、SaaSなどクラウドコンピューティングのような新しいデジタルプラットフォームは、巨額の初期投資不要で莫大なICT能力を提供してくれている。

中小企業もそのようなデジタルプラットフォームを大いに業務で活用すべきだ。同時に、社員がデジタル技術の活用を進め、デジタル化の効果を発揮できるような働き方改革も実践しなければならない。ドイツでは、中小企業や独立コンサルタント、フリーランスの専門家たちが、デジタル技術活用の最前線を走っている。日本では、伝統的な企業が持つスキルとデジタル化に関する政府や企業などの取り組みを融合することができれば、大きな可能性が広がるはずだ。日本経済の生産性を高め、新しい価値を「共創」するためには、伝統的な大企業や中小企業、フリーランス、政府など多様な関係者がデジタル技術を取り入れ、新しい働き方を実践する必要がある。

注釈

  • (注1)
    デジタルトランスフォーメーション : AIやIoTといった新しいデジタル技術を前提としない業務プロセスなどを、それらの技術の活用を前提として最適化すること。
  • (注2)
    デジタルネイティブ : 生まれながらにインターネットやパソコンのある生活環境で育ってきた世代。
  • (注3)
    デジタルスキル : 技術の活用能力(例えばSaaSを活用する能力)だけでなく、デザイン思考(プロトタイピング能力)やシステム思考(異なる他のシステムとの関係を作る能力)ができる能力、デジタルマーケティングの能力、多様な人たちとチームワークできる能力など、広い意味で、「デジタル時代において生産性や創造性を高めることのできる能力」を意味している。
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本記事の執筆者

経済研究所
上席主任研究員

Martin Schulz(マルティン・シュルツ)

専門:国際経済、企業戦略、対外投資など

1989年 ベルリン自由大で政治学修士、1990年 経済学修士を取得、1996年 同大学で博士号(経済学)を取得。1998年まで同大の政治経済研究所助教授。1996年以降、英国バース大学、イタリアのバリ大学、ポーランドのシュテティン大学、ベルリン社会科学学術センターにて勤務。1991年~1993年 東京大学社会科学研究所研究員。1997年 立教大学経済学部奨励研究員。1998年~2000年 東京大学社会科学研究所研究員および同大学経済学部研究員。一方、1998年~1999年には日本銀行金融研究所に滞在。2000年7月 富士通総研経済研究所入社。

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