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  4. 組織における「メタカルチャー」と「サブカルチャー」 ―周縁にあるオルタナティブなサブカルチャーに注目を―

組織における「メタカルチャー」と「サブカルチャー」 ―周縁にあるオルタナティブなサブカルチャーに注目を―

組織における「メタカルチャー」と「サブカルチャー」

―周縁にあるオルタナティブなサブカルチャーに注目を―

2018年10月5日

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組織を構成している文化には、「メタカルチャー」と「サブカルチャー」があります。「企業文化」といった場合、一般的には様々な文化が集合する組織全体の文化を一元的に表現したメタカルチャーを指していることがほとんどです。しかし、組織という文化単位は、元々共通の業務内容と歴史をベースにした強力なサブカルチャーを内包している(注1)だけではなく、アディショナルなプロジェクトに携わるメンバーや共通の問題意識を持つメンバーたちが独特のサブカルチャーを形成する場合もあります。

サブカルチャーというと、ヒッピー、漫画やアニメ、奇抜なファッションなどを想像する人も少なくないかもしれませんが、本論で取り上げるサブカルチャーは、その企業を特徴づけている中心となる「企業文化」から、周縁にオルタナティブに生まれてくる文化を対象としています。組織におけるサブカルチャーは、イノベーションの種になったり、組織が機敏に動くための土壌になったりする点で注目に値します。さらに、ダイバーシティを奨励したり、生産性を向上させたりすることで働き方改革の推進につながるという期待が高まっています。

1.働き方改革で周縁のサブカルチャーに注目する意味

社員に精神的な苦痛を与えるいわゆるハラスメントのような行為は、会社全体で公然と行われるというよりも、組織の中のあまり目立たない周縁に部分的に起こりやすいものです。東京大学教授の安冨歩氏は、「働き方改革だけでは日本の組織は改善しない」ことを問題視し、長時間労働の是正等だけでは過労死やハラスメントを予防するのは困難であり、抜本的な改革にならないことを指摘しています。他人を差別して徹底的に貶める行為をするハラッサー(ハラスメントをする側)は「周縁に出現」し(注2)、加害者という自覚の有無にかかわらず様々な嫌がらせを時に繰り返して行うこともあります。

周縁では、ネガティブなことが起こる一方で、変革につながる創造的な動きが見られたり、新しい価値が生まれたりするなど、ポジティブなことも起こります。私たちは、このように変化の兆しが表出しやすい周縁と、そこに発生する後発的な文化であるサブカルチャーに注目して、組織にどのようなインパクトをもたらすのか研究しています。

2.組織におけるメタカルチャーとサブカルチャーの定義

企業文化とは、「共有された暗黙の仮定のパターン」です。グループの所有物であり、グループが共通の経験を十分な量だけ積めば、必ず文化が形成されます(Schein , 1999; 2009; 2016)(注3)。また、「共有された価値観および行動様式」(Kotter and Heskett, 1992)(注4)を規定しており、「時間をかけて育まれる」ものです(Gordon and Di Tomaso, 1992)(注5)。「組織に属する人々の間で共有された精神的ソフトウェア」(Hofstede, 2005)であるとも定義されます。

しかしながら、そのように人々の間で長い間共有されていると、文化が強いものとして残り(強い文化)、人々の意識を変えることは困難になります。しかし、文化が弱いものだと(弱い文化)、組織に浸透して定着しづらく、人々にも意識されにくくなります(注6)

一般的に、企業文化という場合、企業全体の特徴としての文化や規範を指しています。その企業の代表的な文化や、そこに属する様々な集合的価値です。これをメタカルチャーと言います。ところが、組織が成長するにつれ、規模が大きくなると、共有された様々な新しい価値や、新しい意味を持った従来とは異なる規範などが生まれてきます。これらをサブカルチャーと言います。

社会学では、「中心となる支配的な文化」をメインカルチャーと呼んでいますが、これに対して、後発的にそこから独立ないしは逸脱した文化のことをサブカルチャーと位置付けています。サブカルチャーは、ヒッピー、漫画やアニメ、ストリートファッションなど、メインカルチャーに対する差異化として出現します。吉見(2000)(注7)は、「今日的な観点からするならば、サブカルチャーは、単純に機能的な意味で社会システムの下位体系なのでも、小集団の価値体系なのでもなく、むしろ社会の支配的な価値を相対化していく契機を含んだ一定の集団の文化的正解として理解される」としています。

3.サブカルチャーの形成過程

企業におけるサブカルチャーの形成過程は、大きく3つに分けられます(Boisnier and Chatman, 2003)(注8)。1つ目は「構造的特性」に基づいて形成されるものです。業務内容や各製造ライン、職種や勤務地、序列における各階層をベースに細分化されているように、主として組織属性に基づいて形成されるサブカルチャーです。これらのサブカルチャーは、それぞれ異なる環境で成功しなければならないことによって学習されてきたものです(Schein 1999; 2009, 2016)。また、社会情勢が変わったり、不安定な環境変化に伴って出現したりすることもあります(Rose, 1988)(注9)

2つ目は「グループプロセス」です。これは、頻繁に交流している人々や、同じような課題に直面している人々が問題解決のために議論したりする過程であり(注10)、交わり合う機会が多いことがそのようなグループ内での新たなサブカルチャー形成につながっています(Cohen, 1955)(注11)。また、新しいビジネスを創出する必要性、イノベーションを生み出すための特定のチームにアサインされる人々や、経営トップ直下のイノベーションチームなどが創り出す場合もあります。ただし、このようにアサインされた人たちには、自分から率先してグループに入っていった人もいれば、自分の意図ややる気とは関係なく、上司の命令として渋々関与した人たちもいます。そこで重要となるのが、メンバー本人の意図です。

3つ目の「個人的特性」は、既存の文化やコンテクストに収まらない社員の資質そのものや、現状のカルチャーが自分たちにとってメリットをもたらさないと考えて意図的に新しいサブカルチャーを形成しようとする場合です。Boisnier and Chatman(2003)(注12)は、Brehm(1966)(注13)の心理的リアクタンスという理論を引用し、何らかの形で侵害・妨害された自分たちの価値を間接的・直接的に回復しようとする動機が、サブカルチャーの個人的特性の1つであるとしています。自分たちを取り囲んでいる構造に同調できない人々が集団となって独自の文化を形成し、自分たちの満足度向上のために行動します。

以上、3つの形成過程を見ましたが、依然としてサブカルチャーは組織の中でのサブすなわち補助的な存在です。メタカルチャーという中心的な企業文化が存在すると同時に、周辺としてのサブカルチャーが存在する構造になっています。組織が大きく、複雑であるほど、後発的に周辺としてのサブカルチャーも出現しやすく、「組織によっては、サブカルチャーは組織全体の文化と同等か、あるいはそれ以上に強力な存在となる」(注14)場合も考えられます。

4.サブカルチャーの事例

(1)アジャイル開発

富士通ソフトウェアテクノロジーズ(以下FST)では2003年からアジャイル開発に取り組んでいます。請け負ったシステムの開発サイクルが短期・大規模化するにつれ、受託するリスクが増大したことや、ビジネス状況で顧客の投資額が変動するため、開発チームの規模もそれに合わせて変動させることで負担が増え、またそれに伴ってリーダークラスが疲弊していたことなどを背景として、それまで行っていたウォーターフォール型開発のオルタナティブとして少人数の社員で取り組みが始まりました。

平鍋・野中(2013)は「従来のソフトウェア開発の現場では、分析、設計、実装、テスト、という開発の工程(手順)を踏み、その間を仕様書というドキュメントで意図を伝えるウォーターフォールと呼ばれる開発手法が主流だった。これに対して、アジャイル開発では短い期間(1週間から1か月)を区切って、その中ですべての手順を踏んで動作する完成品の一部をつくる」(注15)とそれぞれの開発手法を比較しています。そして、アジャイル開発の導入によって、生産性の向上もみられました。

開発期間が短く区切られているため、区切りごとにその都度「何のための仕事か?」と作業の価値を改めて問う根本問題に立ち返り、チームメンバーが目的を確認できているといいます。そのため、「全員で未来をつくる」という大きな目的を掲げて仕事をすることにも役立っています。このように、アジャイル開発は、開発のプロセスが従来のウォーターフォールと異なり、開発者たちに新しい価値を提供しました。

(2)ダイバーシティ&インクルージョン

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ(以下J&J)では、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)に関する理解と啓発、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の醸成に関する活動を行う「Open & Out Japan」(以下O&O)を2015年10月にスタートしました(注16)。米国、カナダに続いて世界で3番目です。LGBTの当事者である社員が、同僚たちに嘘をつきながら仕事をしなければいけないことに強いストレスを感じ、社内に理解を広めたいという思いから開始しました(注17)。2015年秋に8人で開始し、2017年1月で50人、その後の社内のカフェテリアで開催したカンファレンスでは経営陣も含めて100人以上が参加するに至っています(注18)

Wolfgang & Ferracuti (1970)(注19)は、サブカルチャーとそれを包含するさらに大きなカルチャーの関係を親子関係に例えており、J&Jは「O&Oの活動が支えられる背景には、J&Jが元々持っているダイバーシティへの深い理解とチャレンジし続ける企業風土」(注20)があるからであるとしており、まさにそのような風土が寛容な土壌となって生まれた活動であると言えます。

J&Jでは、O&Oによる活動のみで理解を増やす文化を醸成するのではなく、セクハラやパワハラなどの悩みを相談できる窓口の設置や、その他の人事制度・施策などが相互に関連しながら社内ルール・システムの見直しなどを行っています。

5.サブカルチャーを奨励する

Boisnier and Chatman (2003)(注21)は、サブカルチャーは組織にとって望ましいものであることを前提としつつも、メタカルチャーと比較して、なかなかリソースが投資されにくく、組織が機能するために不可欠なものであると理解されにくい点を指摘しています。サブカルチャーが「創造性のコンテナ」(Martin and Siehl, 1983)(注22)であると認識して、組織が奨励したり、関与しているメンバーの評価を行ったりすることが重要です。

組織にとってサブカルチャーが重要である理由は、元々少人数で共有されているため、メンバーが柔軟に「アジャイルな(機敏な)」行動をしやすいことです。この機敏性がイノベーションや創造性を高めるうえで役立ちます(Boisnier and Chatman, 2003)。実際に、FSTの場合は少人数でアジャイル開発に着手し、J&Jでは5人の社員で始まりました。

サブカルチャーにはメタカルチャーを補助する働きもあります。というのも、サブカルチャーは往々にして世の中の変化に応じるように生まれてくるので、抽象的で大きな企業文化のもとではメンバーが行動しにくいという場合に個別に対処しやすいからです。例えばFSTのように、システム開発のサイクルや規模が変化したことによって生まれてくるものもあるし、J&JのようにLGBTなど新しい概念に対応するために人事制度・施策を見直すきっかけなどをつくるものもあります。

組織が、サブカルチャーの発生に注視し、その活動を奨励することは、イノベーションや創造性を高めることやより多様な働き方を実現することにつながります。

注釈

  • (注1):
    E.H. シャイン『企業文化 ダイバーシティと文化の仕組み』[改訂版] 白桃書房、2016年
  • (注2):
  • (注3):
    (注 1)に同じ
  • (注4):
    Kotter, J.P. and Heskett, J.L. (1992). Corporate Culture and Performance, New York: Free Press.
  • (注5):
    Gordon, G. G. and DiTomaso, N. (1992). “Predicting Corporate Performance from Organizational Culture”, Journal of Management Studies Vol. 29: pp.783-798
  • (注6):
    企業文化における「強い文化」と「弱い文化」についてはサブカルチャーの発生において重要な側面を持っていることを認識している。本論では紙面の都合で割愛する。
  • (注7):
    吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』岩波書店、2000年
  • (注8):
    Boisnier, A. and Chatman, J. (2003). “The Role of Subcultures in Agile Organizations”, Leading and Managing People in the Dynamic Organization. Psychology Press
  • (注9):
    Rose, R.A. (1988). “Organizations as multiple subcultures: A rules theory analysis”. Human Relations, 412, 139-170
  • (注10):
    また、交わりあって議論を重ねているうちに、既存の企業文化に対して反抗的に生まれてくる文化もある。これをカウンターカルチャー(対抗文化)というが、紙面的制約により本論では説明を割愛する。
  • (注11):
    Cohen, A. K. (1955). A general theory of subcultures. Delinquent boys: The culture of the gang. New York: The Free Press
  • (注12):
    Boisnier, A. and Chatman, J. (2003).
  • (注13):
    Brehm, J. W. (1966). A theory of psychological reactance. New York: Academic Press
  • (注14):
    シャイン(2016)
  • (注15):
    平鍋健児・野中郁次郎『アジャイル開発とスクラム』翔泳社、2013年
  • (注16):
  • (注17):
  • (注18):
    (注15)に同じ
  • (注19):
    Wolfgang, M. E., and Ferrauti, F. (1970). Subculture of violence: An integrated conceptualization. In D. O. Arnold (ed.), The sociology of subcultures (pp. 135-149). Berkeley CA: The Glendessary Press
  • (注20):
    (注15)に同じ
  • (注21):
    Boisnier and Chatman (2003)
  • (注22):
    Martin, J. and Siehl, C. (1983). Organizational culture and counterculture: An uneasy symbiosis. Organizational Dynamics, 122, 52-65
吉田倫子

本記事の執筆者

経済研究所
主任研究員

吉田 倫子(よしだ みちこ)

 

2001年富士通総研入社。日本経済研究センター、欧州委員会(ベルギー)税関税同盟総局付加価値税局研修生を経て、現在に至る。

ニック

本記事の執筆者

経済研究所
研究員

Nick Ogonek(ニック・オゴネック)

 

リバース・メンタリングやダイバーシティに関する組織的な取り組みに着目し、会社と社員の関係性、社員間の関係性などが社員の行動をどのように変えるのかについて研究している。

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