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ヒートアップする中国の新型インフラ(デジタルインフラ)整備の動き

ヒートアップする中国の新型インフラ(デジタルインフラ)整備の動き

発行日:2020年3月19日

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要旨

  • 中国では、新型肺炎で1-2月の個人消費、固定資産投資、輸出の伸び率はいずれも前年比で-20%前後となっていた。短期効果が得られやすい大規模な投資拡大政策が必要だというコンセンサスができた。一方で、新型インフラ投資「新基建」に関する議論が白熱している。
  • 新型インフラには、5G、データセンター等の次世代デジタルインフラ、超高圧送電網や 電気自動車の充電ネットワーク整備、都市間高速鉄道等が提案されているが、新型肺炎のような非常事態に必要な防災インフラや医療施設の充実も「新基建」の計画範囲に入る。
  • ただし、新型肺炎と関係なく、デジタル経済振興のため2019年度からデジタルインフラ「数据基建」の整備が優先的な政策となっている。それに加えて、新型肺炎対策で様々なデジタル技術が実践され、政府や社会のガバナンスまでが進んだことから、景気対策として浮上する大規模な「新基建」計画の中ではデジタルインフラの優先度が高まるだろう。

提案される「4兆元2.0」版新型肺炎の短期経済対策

  • 2020年3月16日に発表された中国の経済指標のうち、個人消費の代表的な指標である小売総額は-20.5%(2020年1-2月、前年同期比)、固定資本形成(企業設備投資とインフラ整備)は-24.5%(同)、輸出は-17.2%(同)で、新型肺炎の発生でいずれも大きな悪化となった。また、懸念される雇用悪化も指標に現れており、失業率は2019年末より1%ポイント悪化し、6.2%となった。油断はまだできないが、現状では中国国内の新型コロナウイルスの蔓延は抑えられ、1日の新規感染者も数人程度になったが、各種の予測や推計を合わせると、2020年の経済成長への影響は-1%超になるのではないかと考えられる。
  • 一方、中国国内はすでに、新型コロナウイルスの疫病対策から悪化した景気対策に移ってきている。その対策のポートフォリオには、①大規模金融支援(返済猶予、低金利融資など)、②財政支出拡大(社会保障費納付の延期・減免、生活費補助など)、③金融緩和(預金準備率の引下げ、買いオペなど)が含まれるが、④企業や個人からの寄付活動も活発になっている。これらの対策で用意された資金総額は約20兆円になると推定される。
  • 政策当局から発表された①金融支援額と②財政支出拡大額がどのぐらい真水(正常に予定されている支出額より増加された増加額)であるかは不明であるが、一部の有力エコノミストは、新型肺炎の中国経済への影響は2008年の金融危機レベルを超えると見て、金融危機後の4兆元に及ぶ大規模経済対策(注1)の新バージョンである「4兆元2.0」という大規模危機対策を提言している(注2)。提言には、中国経済の構造改革を一時保留して企業(特に中小企業)が生き延びることを優先すべきであると主張している。このような主張に対して、反対意見も即座に出てきている(注3)。主な理由は、「4兆元」の金融危機対策がもたらした副作用が大きすぎたからである。

「新基建」(新型インフラ建設)に着目した対策案が浮上

  • 確かに、金融危機後の「4兆元」大型景気刺激策は、短期的に経済の高揚をもたらしたが、伝統的な鉄道・道路・空港・電力などのインフラ整備、中低所得者層向けの社会保障的な住宅建設等のインフラ関連投資(約80%を占めた)に投入されたため、以下のような3つの問題を副作用として引き起こした。すなわち、①過剰生産能力と過剰債務の問題、②国有企業や地方政府が新設した特別事業体などが政策の受け皿となり、投資効率の悪い「国進民退」が生じた問題、③インフラ整備における汚職の蔓延という問題であり、これらは現在でも中国を悩ませている。したがって、「伝統的なインフラ整備を中心とする経済対策はもう時代遅れだ」というコンセンサスが中国社会に存在している。

(図表1)ポスト新型肺炎のキーワード:「新基建」
(図表1)ポスト新型肺炎のキーワード:「新基建」
出所:中国政府資料、報道、筆者分析など

  • そこで最近では、「新基建」(新型インフラ整備)に着目した景気対策案が急浮上してきた。「新基建」の厳格な定義は定かではないが、広義には「イノベーションの要素や省エネや環境配慮等の新型発展理念を体現した技術型インフラ建設」を指し、主に5G、データセンター、人工知能、産業インターネット、超高圧送電網、インターシティ高速鉄道網とライトレール、新エネルギー自動車充電施設の7分野を含むとされている(注4)。ただ、図表1が示すように、新型肺炎の発生で目立ってきたのは、伝染病などに関連する防災インフラ、バイオ兵器等の攻撃に備えるセキュリティインフラや緊急時の住民生活を維持するための物流インフラなども優先的に整備されるだろうということである。
  • 金額ベースでは、伝統的なインフラ投資はなお大きいだろうが、「新基建」の部分が急速に増加していくに違いない。21世紀数据新聞実験室の調査によると、3月5日現在24省が投資計画を発表したが、2020年のインフラ投資額は2019年より1.5兆元(約25兆円)増と推計されている(注5)。その増加分は優先的に「新基建」に投下されると考えられる。

「新基建」のコアとなる「数据基建」(デジタルインフラ)

  • しかし、中国では「新基建」というキーワードは早くも2018年12月に開催された中央経済工作会議で提起されていた。図表2は、中国政府が正式な政策文章で明確にした「新基建」の5G、人工知能(AI)、データセンター(IDC)、IoT、産業インターネット等のデジタルインフラを示している。上述した広義の「新基建」の解釈と対照的に、狭義には「新基建」は、「数据基建」、すなわちデジタルインフラ整備を指しているのである。

(図表2)「新基建」のコアは「数据基建」(デジタルインフラ)
「新基建」(デジタルインフラ整備)に関する主な政策的言及
(図表2)「新基建」のコアは「数据基建」(デジタルインフラ)
出所:中国政府資料により筆者まとめ

  • 実際、中国の経済成長戦略の中心は、デジタル技術を産業化する革新的産業の育成と、デジタル技術を活用した伝統産業(リアル産業)の革新にある。つまり、中国の言うデジタル経済は、デジタル技術の産業化と伝統産業のデジタル化を併せ持つものである。デジタル経済を支える基盤こそデジタルインフラである。したがって、中国にとって、デジタルインフラの整備は新型肺炎とは関係なく次世代産業における国際競争力の強化においても大きな意味を持つと言えよう(注6)。例えば、5Gの投資(図表3を参照)は着実に加速されるが、2030年までに5Gの累計産出(付加価値ベース)は直接の3.4兆元、間接の6.2兆元、合計9.6兆元(約160兆円)に達すると推定されている(注7)。

(図表3)5G基地局投資推計の推移
(図表3)5G基地局投資推計の推移
出所:https://finance.sina.cn/zl/2020-03-08/zl-iimxyqvz8857444.d.htmlOpen a new window

  • また、中国では、狭義の「新基建」であるデジタルインフラの投資額は、中国のインフラ投資額と比べて規模が小さく(総投資額の数%程度)、短期的な景気対策のツールとして期待はずれになる可能性もある。しかし、米中ハイテク紛争には「積極的な意味がある」という分析も存在する(注8)。
  • 筆者がニューズレター「新型肺炎の中国ICT市場へのインパクト(2)~経済社会のデジタル化加速とビジネス機会~」(注9)で述べたように、中国では今回の新型コロナウイルス対策を通じて社会ガバナンスにおいてもデジタル技術が大いに実践されているので、デジタルインフラに対する期待が膨らんでいるようだ(注10)。
  • 全体として、中国が新型インフラのコアとしてのデジタルインフラ整備に高い優先順位を与えている背景は、以下のようにまとめられる。
    1. * 投資額自体は小さいが、他のセクターの効率向上と新たな付加価値創出という機能を持つこと
    2. * 民間資本主導が可能で、過剰投資を回避できる可能性があること
    3. * 次世代産業形成に欠かせないインフラであり、短期効果よりも中長期効果に着目したこと
    4. * 次世代インフラとしての成長戦略が必要なだけでなく、ガバナンスを含む社会全体のデジタル化に向けた布石でもあること

注釈

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本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

金 堅敏(Jin Jianmin)

中国浙江大学大学院/横浜国立大学国際開発研究科修了。博士。専門は、通商政策、中国経済・産業、ニューエコノミーとIoT時代のイノベーション政策/活動。

主な著作に『図解でわかる中国有力企業と主要業界』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、『中国 創造大国への道-ビジネス最前線に迫る-』(共著)、『米中貿易戦争と日本経済の突破口』(共著)、「中国のネットビジネスの革新と課題」、「産業の高度化を狙う中国製造2025を読む」、「IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か」、“The Changing Currents of Transpacific Integration: China, the TPP, and Beyond”、ほか。

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