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新型肺炎の中国ICT市場へのインパクト(1)~高まるデジタル技術の役割と加速する社会実装~

新型肺炎の中国ICT市場へのインパクト(1)

~高まるデジタル技術の役割と加速する社会実装~

発行日:2020年3月2日

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要旨

  • 新型肺炎の中国ICT市場への短期的なマイナス影響は大きく、2020年Q1では前年同期比-10.2%で、年間成長率も通常より半分まで低下すると推計されている。
  • 近年、急速に台頭してきた民間IT企業は、肺炎対策においても寄付(寄付総額の約50%を占める)や支援物質の調達や配送おいて大きな役割を果たしている。特に、IT企業が有するテレワーク、データ分析、AI、クラウドコンピューティング、自動運転等の技術が感染状況の分析や情報提供、検査測定、ワクチン開発等の肺炎対策で実装に移されている。
  • デジタル技術の活用に着目して中国政府も民間IT企業との協力に積極的に動き出している。例えば、ビッグデータを活用した健康状況評価(健康コードによる移動や施設への出入管理)等による「デジタル・ガバナンス」が広がっている。ただし、大規模に行われた個人データ収集によるデータセキュリティ問題やプライバシー保護の課題は残る。

新型肺炎による中国のICT市場へのインパクト

  • 中国インターネット協会は、2019年中国のデジタル経済の規模は35兆元(約558兆円)でGDPに占める比率は37.8%に達すると推計している(注1)。そのうち、在来産業(リアル産業)がデジタル技術を利活用して効率向上や新たなビジネスモデルの構築などによってもたらす部分は全体の79.51%を占める。デジタル経済は中国経済成長の重要な成長エンジンになってきている。
  • 中国全域にわたる流行になった新型肺炎は、中国の政治・経済・社会のあらゆる側面に多大なインパクトを与えてしまっているが、急拡大を見せているデジタル経済にも様々な影響を与えている。図表1が示すように、大手ICT調査会社IDCは、新型コロナウイルス(COVID-19)による中国ICT市場への短期的な影響は経済全体への影響よりも深刻で、2020年第一四半期では市場全体の成長率が前年同期比で-10.2%減(発生前の予測では+10.7%増)、2020年では+5.5%増(同+10.2%増)と推計している(注2)。
  • ただし、感染拡大対策により店舗でのICT製品販売や人々の接触によるサービスが控えられることによって市場萎縮は余儀なくされているが、テレワークやオンライン教育などによるICT製品のニーズは急速に高まっているという。例えば、ICT大手の華為によると、オンライン関連製品のノートブックPCやデスクトップPC、ルーターなどの製品は供給不足状態になっているという(注3)。

(図表1)IDCによる新型肺炎の中国ICT市場への影響予測

(図表1)IDCによる新型肺炎の中国ICT市場への影響予測
出所:IDC(2020.02.17)
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prCHE46045120Open a new window

新型肺炎対策で先頭に立つIT企業の存在感

  • 中国ではデジタル技術が進行中の新型肺炎対策において大きな役割を果たしており、経済社会の営みにおいてデジタル化を加速させるべきだという認識が政府、産業界、一般市民を含めさらに高まってきている。
  • 中国において、これまで自然災害などに直面したときは、政府や国有企業が主要な役割を果たし、民間企業は脇役の役割しか果たせなかった。しかし、今回の新型肺炎対策においては、IT企業を中心とする民間企業が支援の先頭に立ち、デジタル技術も大いに活用されるようになっている。中国社会科学院関連組織の調査によると、2020年2月17日現在、一部外資企業を含む3,413社が総額276.9億元(約4,600億円)を寄付したが、中国のIT新興企業は、企業数では30%を、金額では50.2%を占めた(注4)。中でも、15億元(約250億円)、10億元、3億元、2億元、2億元、2億元をそれぞれ寄付したテンセント、アリババ、百度、バイトダンス(デジタルメディア、TikTokの親会社)、美団(フードデリバリープラットフォーマー)、京東(EC)等の大手IT企業はトップ16社寄付企業(寄付額2億元以上)のランキングに入った。
  • これらの新興IT企業に注目されているのは寄付活動に止まらず、それぞれの持つデジタル技術の優位性を生かした迅速な感染などの情報提供(BAT、ネットヘルスケアベンダーなど)、地域対策(アリババ、テンセント、その他の専門ITベンダーなど)、オンライン医療問診(BATのオンライン医療部署、ネットヘルスケアベンダー等)/テレワーク(アリババ、テンセント、バイトダンス、その他専門ベンダー等)/オンライン教育(アリババ、テンセント、その他専門ベンダー)、生活サービス提供(アリババ、美団など)、オンライン寄付ツール(BAT各社)などの無償活動は、ヒトやモノの移動が厳しく制限された環境の中で社会に高く評価され、感染対策に大いに役に立っている。例えば、春節の期間中にオンライン問診アプリのDAU(1日にサービスを利用したユーザー数)ピークは671.2万人に達し、平時より160万人も多かったという。また、統計によると、2020年2月3日の一日にアリババのテレワークアプリ「Dingtalk」(中国語では「釘釘」と言う)を利用した企業は千万社以上、利用者は約2億人に達したという(注5)。

加速する5G、AI等デジタル技術の実装

  • 中国では、2019年10月に5Gの商用が正式に開始されたが、新型肺炎対策で遠距離医療や無人配達などの5Gのアプリケーションが大量に実装配備され、5Gのインフラ整備と応用の加速を促している(注6)。5G応用の実装が短期間で行われたのが武漢に新設された新型肺炎専門病院「火神山病院」と「雷神山病院」である。中国の3キャリアと設備メーカーの華為/ZTE及びアプリケーション開発企業の技術や設備、ソリューションが実戦で検証されている。

(図表2)5G技術を活用した遠距離超音波診断
(図表2)5G技術を活用した遠距離超音波診断
出所:中国国有資産管理委員会ウェブサイト

  • 例えば、浙江省にある病院の超音波医学センターは、5G技術や遠隔医療設備などを利用して武漢にある病院に入院中の患者への超音波診断を実施した(図表2参照)。また、武漢や上海の病院では5G通信技術をベースにしたスマートロボット(「5G+ロボット」、5Gは中国移動提供)を実装し、働かせていることや、5G技術をベースにした公共スペースの人体温度高速測定技術が実装され、各地方の地下鉄、病院、学校、政府機関、小売店舗、集団居住アパートの体温測定に導入されている。
  • また、ABCDEI(AI、Blockchain、Cloud、Data、Edge Computing、IoT)、ロボット、ドローン、自動運転の実装事例も多く見られ、実戦に移されている。例えば、AIユニコーンであるMegvii(旷视科技)は、新型肺炎発生直後に「新型ウイルス対策緊急チーム」を組織し、赤外線センサー・可視光センサーに顔認証技術/生体認証技術、さらに自社開発のアルゴリズムを搭載したAIツール「Brain++」を活用した「高速AI体温計測器」を開発し、北京市の地下鉄での検温などに生かされた(注7)。この高速対応測定ソリューションは、アルゴリズムの改善によって距離を置いた対象者に対してマスクや帽子を外すことなく通常歩行の状況でも測定可能であり、在来の近距離測定による感染の危険防止や人流の阻害にならずに済むことで新型肺炎対策に大いに活用されているという。また、5大オープンAIプラットフォームの一つ(ヘルスケアプラットフォーム)に指定されたテンセントは、2秒で新型コロナウイルス感染者を検出できるAI CT(コンピュータ断層撮影)装置(筆者注:感染最終確定にはその後PCR検査が必要だと推測される)を開発し、武漢の病院に実装するとともに、クラウド化して全国の病院などへサービスを提供し始めたのである(注8)。ベンチャー企業である杭州趣連科技はブロックチェーン技術を利用して追跡可能な寄付金プラットフォームを開発して実装し、運用を始めた(注9)。

(図表3)百度の自動運転技術Apolloを用いた自動運転車の実践例
キャンパス内消毒作業とフォード配達

(図表3)百度の自動運転技術Apolloを用いた自動運転車の実践例
出所:百度ニュースリリース

  • さらに、アリババ、テンセント、華為などの大手IT企業は、プラットフォーマーとしての特別な役割を生かして、自社の持つクラウドコンピューティングやAIアルゴリズム、データ分析ツールなどを病院、企業、ベンチャーなどに能力提供(Enabling)してコロナウイルスの遺伝子検出・分析、ワクチン開発、スマートロボット、無人配送車開発(図表3参照)などに活用されている。

デジタル技術による社会ガバナンスの大規模実践

  • 2020年2月3日に開催された中国共産党常務委員会の会合で、中国政府は、肺炎対策の強化と同時に、経済社会秩序の回復や生産・サービスの再開による経済社会発展の目標追求も宣言した。新型肺炎という疫病の性格からヒト、モノの移動を制限せざるを得ないので、ソーシャルメディアの役割を無視できなくなったどころか、テレビ・ラジオなどの伝統的な情報伝達手段よりもむしろ積極的に利用すべきだという認識に至った。
  • 中国の民衆はソーシャルメディアへの参加率が高く、今回のような場合に重要な情報の正確さ(政府の透明性と情報公開など)や更新のスピード、双方向のインタラクションといった「デジタル・ガバナンス」(中国語では「数字治理」という)が、中国政府にとって大きな試練となっている(注10)。つまり、情報の非対称性の解消や透明性の確保に止まらず、市民のニーズを早くキャッチし素早く満たすような価値提供や価値創造への助力が求められる。確かに、肺炎対策の進展につれ、中国各レベルの政府機関では、WeChatなどのソーシャルメディアを通じてデータ公開、情報更新、支援政策の周知徹底、民間有力IT企業との連携が強化されている。
  • 例えば、浙江省杭州で2020年2月11日に実施された「健康碼」(健康コード)は、官民協力によるデジタル・ガバナンスの新しい試みである。現在のような非常事態において、肺炎対策(人々の移動制限)と経済社会活動の正常化(人々の自由な移動の確保)を両立させるバランスの取れた有用な施策であると認められ、現在は杭州から浙江省、そして中国全土へ広がっている(注11)。この「健康碼」は、赤、黄、緑3色のQRコードを利用して個人の健康状態を証明するアプリケーションで、アリババの関連会社アントファイナンス「支付宝」が開発し、地方政府が認可した「デジタル証明書」でもある。申請者は、「支付宝」に挿入されている「健康碼」アプリで身分証明情報や行動情報(健康情報)を自己申告し、「支付宝」アプリ内で認証(「支付宝」が所有する基礎情報や第三者から提供される位置情報等のデータと本人の申告情報の真実性を照合・分類)して「健康碼」の種類が付与される。コードが緑色であれば通行は可能だが、赤と黄色の人は規定に基づいて隔離や健康チェックを行うことになる。
  • 「健康碼」はリリース初日で申請者が1000万人に達し、2020年2月19日現在で100以上の都市で導入されたという。また、杭州では、「健康碼」は健康保険データともリンクされ、保険カードとしても使えるようになった(注12)。このように、デジタル・ガバナンスの進展によってデジタルイノベーションが促され、「デジタル+ヘルスケア」市場に進化していくことも期待される。実際、中国のネット大手テンセントも2020年2月12日にテンセント「健康碼」を立ち上げてデジタル・ガバナンスを支えるITベンダーとなり、デジタル・ヘルスケア市場での競争に参入したのである。
  • もっとも、肺炎対策に必要だとは言え、個人データの収集は、データセキュリティ問題やプライバシー侵害の懸念も中国内外から提起され、実際に個人データの違法流出問題が生じている(注13)。このような現状を踏まえて、2020年2月9日に中国のネット政策管理監督官庁である中央網絡信息管理弁公室は、緊急通知を出してデータセキュリティや個人のプライバシー保護を図っている(注14)。ビッグデータの活用とデータ安全性・プライバシー保護をいかに両立させるかは、新たな課題として残った。

このように、新型肺炎は、中国の政治・経済・社会に甚大な影響を与えているが、その感染拡大防止のための支援においてはIT企業の役割が目立ち、デジタル技術の実装も加速されている。

注釈

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本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

金 堅敏(Jin Jianmin)

中国浙江大学大学院/横浜国立大学国際開発研究科修了。博士。専門は、通商政策、中国経済・産業、ニューエコノミーとIoT時代のイノベーション政策/活動。

主な著作に『図解でわかる中国有力企業と主要業界』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、『中国 創造大国への道-ビジネス最前線に迫る-』(共著)、『米中貿易戦争と日本経済の突破口』(共著)、「中国のネットビジネスの革新と課題」、「産業の高度化を狙う中国製造2025を読む」、「IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か」、“The Changing Currents of Transpacific Integration: China, the TPP, and Beyond”、ほか。

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