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新型肺炎の中国経済へのインパクト

新型肺炎の中国経済へのインパクト

発行日:2020年2月19日

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要旨

  • 発生から約2ヵ月を経った新型肺炎は中国のガバナンスシステムや経済社会に甚大なインパクトを与えている。経済へのインパクト(一年以内の短期的影響)は、総じて2020年のGDP成長率は0.5%~1.5%ポイント低下して4.5%~5.5%前後になると試算されている。
  • ミクロ的には、大企業では感染抑制による事業再開規制や人員不足、サプライチェーンの寸断が大きなリスク要因であるが、小規模・零細企業は手元資金の枯渇による人員削減や経営破たんが表面化しつつある。ただし、アリババ等のEC企業では顧客ニーズが急増して大規模な人員募集を行っており、「シェアド従業員」という形で譲り合う現象もある。
  • 中国当局も感染防止対策とともに、金融・財政・消費・貿易政策を総動員して2020年の「小康社会」目標(実質GDPと住民可処分所得の倍増、絶対貧困脱却)を達成するよう号令をかけている。2020年は5.7%成長が求められるが、短期的な影響よりも中長期的な持続成長が可能かに注目したい。

経済成長への影響:2020年のGDP成長は通常より0.5%~1.5%ポイント低下と予測

  • 2019年12月初期に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)は、伝染力が強く約2ヵ月を経ても終息する見通しが立てにくく、中国国内では全国範囲でヒトの移動を規制する政策が取られ、一部の国では厳しい国境措置が実施されている。特に、1月30日の世界保健機関(WHO)による「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言に伴い、中国国内外の措置は一層厳しくなってきた。
  • 新型コロナウイルスの拡散とそれに伴う対策(政府と企業)により、直ちに深刻な影響を受けたのは、観光、娯楽、飲食、物流、小売などのサービス業である。しかし、感染の拡大と対策の継続に連れて、企業の生産活動や国境を超えた貿易活動にも影響が表れており、感染終息までが長期化(およそ半年以上)すれば、企業の設備投資、個人の不動産投資に構造的な変化が生じる可能性が高い。

(図表1)新型コロナ肺炎の中国経済成長へのインパクト評価

(図表1)新型コロナ肺炎の中国経済成長へのインパクト評価
出所:各研究機関のニュースリリース等による筆者しらべ

  • 新型肺炎による中国経済へのインパクトについては世界の関心が高く、1月下旬から様々なアセスメントが行われている(図表1参照)。総じて、中国経済へのマイナス影響は、成長率で通常予測値から0.5%~1.5%ポイントの低下と見込まれている。大部分の評価は、2002~03年の間に起きたSARSの状況、中国の最近の産業構造/消費構造、グローバルなリンケージなどに基づいて行われたものである。また、新型肺炎が半年前後で終息することを前提にしている推定が多い。
  • 中国では、新型肺炎の経済へのインパクトをより悲観的に見るエコノミストもいる。例えば、調査研究機関の西澤研究院長の趙建氏は、感染状況が3ヵ月以上続けば、GDP成長は3%ポイント以上低下する可能性もあると警告を発している(注1)。

経営破たんの急増と雇用悪化の懸念

  • 中国の調査研究機関である恒大研究院は、2019年の春節期間中の収入をベースに2020年春節期間(2020年1月24日~31日)中に映画館などのエンタテインメント業、飲食・小売業、観光産業の三業種だけで損失は1兆元(約16.5兆円、中国GDPの1%に相当)に達すると推定している。業務が中止している状況は、春節が終わった今でも変わらない。これらの生活サービス業はほとんどが小規模企業・零細企業や個人経営である。上記趙氏の調査では、小規模・零細企業が自前資金で経営維持できるのは2ヵ月前後であることを参考に考えると、経営資金ショートで経営難や失業者の多発が現実になりつつあると指摘している。
  • 他方、大中型企業については短期間で資金ショートによる経営破たんよりも、オーダーの減少、事業/生産再開の制限、従業員不足、サプライチェーンの中断など、供給サイドの制約から経営難に直面するリスクが高くなっている。清華大学経済管理学院の緊急調査(サンプル数212社)によると、新型コロナ肺炎の影響について「深刻」と「非常に深刻」と答える企業は約58%に達している(注2)。図表2が示すように、企業経営への影響はウイルス感染拡大への経済活動再開規制や顧客需要不足やサプライチェーン寸断によるところが大きい。
  • 他方、大中規模の企業については、手持ち資金で経営維持できる期間について、約42%以上は半年以上、35%は3ヵ月~6ヵ月は可能と考えられる。上述した小規模企業・零細企業と比べ、キャッシュフローの問題は緩和されるが、それでも約23%の企業は3ヵ月以内に手元資金が枯渇するという状況にあり、資金支援への期待がうかがえる。
  • ロイター通信によると、北京にある300社余りの企業が総額574億元(約9000億円)の優遇金利扱いの銀行融資を申請しているという(注3)。その中には、ネット企業で時価総額第3位の「美団」(外食ネット注文配達など)、スマホ新興企業の「小米」、シェアドタクシー「滴滴出行」、AIユニコーンの「旷视科技(Megvii)」 等の有力新興企業も名を連ねている。小米、旷视科技などは新型肺炎撲滅のための新規ビジネス立ち上げや研究開発に必要な資金だとされるが、一部は明らかに新型肺炎の影響を乗り越えるために必要と推測される。

(図表2)新型コロナ肺炎の経営への影響要因
(複数回答、%)


(図表2)新型コロナ肺炎の経営への影響要因
出所:清華大学経済学院

  • もっとも、住民生活のニーズがあり、感染防止措置も比較的完備している企業は、業務回復を優先的に許可されている。例えば、2月12日現在、全国の国有企業の業務・生産はかなり回復しており、北京では99.7%、上海80%以上、浙江省79%などと高い(注4)。しかし、上海にある米国商工会議所の調査によると、事業再開の認可を地方政府からもらったとしても従業員・スタッフが不足する企業は78%に達している。感染が落ち着いている地方(特に浙江省などの沿岸部)では、地方政府がすでに補助金を出して労働者を奪い合う現象も生じている。また、アリババのように、顧客ニーズの増加で大規模な人材募集をかけている企業もある。アリババの物流会社「菜鳥」は2万人を、ニューリテール業態の「Hema」は3万人を、それぞれ人材募集をかけているという(注5)。
  • また、業務停止によって人員削減や自宅待機などの雇用問題が表面化した一方、アリババ、京東、蘇寧などのEC企業やレノボなどのIT企業は、雇用問題を抱える企業から一時的に社員を譲り受ける「シェアド従業員」の新しい雇用モデルで自社の人材不足を解決しようとしている(注6)。労働契約や福利厚生などの課題も残るが、マッチングするプラットフォームも出てきたほど、新たな雇用形態(主な対象はブルーカラーと一部の事務職員)になる可能性もある。

感染ルートの遮断と経済活動の維持を同時に図る政府の対応

  • 中国政府当局は、これまでは短期利益を犠牲にしても肺炎感染の拡散を抑えようとする人的活動規制に傾いていたが、2月3日の政治局常務会で、新型肺炎感染対策の強化とともに、秩序ある生活・生産活動を保ち、2020年の「小康社会」の実現や絶対貧困の脱却という経済社会発展目標を達成するように努力する方針を打ち出した。つまり、肺炎感染拡大の防止と経済社会活動の正常化はトレードオフの関係にあるように見られるが、その両立に取り組み始めた(注7)。金融政策(特別融資枠の設定や金利優遇など)、財政政策(減税、国債規制枠の拡大など)、社会政策(社会保障費用の減免、延期納付など)、消費促進と対外貿易の安定化政策などの総合対策が練られている。
  • 中国共産党が出した「小康社会」の経済目標では、2020年のGDPと住民一人当たり収入(可処分所得)が2010年(41.21兆元、12,520元)より倍増する(2010年価格で82.42兆元、25,040元)としている。GDP倍増の目標を実現するためには2020年の実質成長率は5.7%が必要で、住民の実質可処分所得は1.9%増が必要である。他方、絶対貧困脱却という目標を達成するためには、2020年に残り551万人を絶対貧困から脱却させること(2012年~2019までに年平均1000万人以上の貧困脱却を達成)が求められる(注8)。
  • 2020年における三つの数字目標において、住民一人当たりの実質可処分所得と絶対貧困の脱却はクリアできるだろうが、GDP成長率5.7%については、新型肺炎感染の早期鎮静化と大規模な景気対策なしでの実現は難しいと考える。

(図表3)中国のGDP成長の推移と大きなリスク事件
(図表3)中国のGDP成長の推移と大きなリスク事件
出所:IMF、その他資料により筆者作成

  • ただし、筆者は、新型肺炎の中国経済へのインパクトを見る上で、短期的な成長率の変動によってもたらされる雇用問題や金融リスクを評価するとともに、中長期的な潜在成長率が構造的に損なわれ、中国の経済成長が持続するかどうかに注目している。図表3が示すように、中国では経済成長の過程において5年ごとに大きなリスク(政治的、経済的、自然災害的、海外から波及的リスクを含む)が発生し、様々なインパクトはあったが、破綻せず持ちこたえてきた。ただ、中国が世界で第二の経済規模になり、しかもグローバルシステムにこれほど深く組み込まれてきた以上、今回の危機が中国国内に留まらず世界経済に与えるインパクトについても注意深く情報を収集し、分析していく必要がある。

注釈

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本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

金 堅敏(Jin Jianmin)

中国浙江大学大学院/横浜国立大学国際開発研究科修了。博士。専門は、通商政策、中国経済・産業、ニューエコノミーとIoT時代のイノベーション政策/活動。

主な著作に『図解でわかる中国有力企業と主要業界』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、『中国 創造大国への道-ビジネス最前線に迫る-』(共著)、『米中貿易戦争と日本経済の突破口』(共著)、「中国のネットビジネスの革新と課題」、「産業の高度化を狙う中国製造2025を読む」、「IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か」、“The Changing Currents of Transpacific Integration: China, the TPP, and Beyond”、ほか。

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