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米中紛争に巻き込まれた中国のAI産業戦略・政策展開

米中紛争に巻き込まれた中国のAI産業戦略・政策展開

発行日:2019年10月17日

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要旨

  • 中国は、AIを新たな経済成長の原動力と期待し、一連のAI産業振興政策を打ち出している。また、次世代デジタル技術のグローバル競争を勝ち抜いて2030年ごろに世界の先端に立つAI先進国を目指している。
  • 2017年に出されたAI総合政策に続き、ビッグデータ政策や、AI人材教育・育成政策、ナショナルチャピオン選抜政策、民間有力IT企業をインフラとして指定する政策などが実施されている。また、これまでの政策は産業や経済効果に偏っていたが、AI倫理、ガバナンスなどについても取り組み始めた。
  • 最近になって、勢いに乗った中国の有力AI企業は米中貿易紛争にも巻き込まれた。米国の技術規制や市場参入規制に直面する中国のAI産業は独自な発展を遂げるかに注目したい。

中国のAI戦略:経済成長の新たな原動力、世界先頭に立つ
AI先進国

  • 最近の中国では、特にビッグデータやAIを活用した新しい産業の育成に力を注いでいる。優先的な産業政策として2015年には「中国製造2025」、2017年には「産業インターネット」、そして2018年の全人代の政府活動報告で「AI+」政策が打ち出された。つまり、経済社会のあらゆる側面でスマート化の実現に向けて取り組んでいくことが決定されたのである。政策や産業界のキーワードとしても「IoT時代」から「AIoT(AI+IoT)時代」に取って代わられている。
  • 大手コンサル会社PWCの推計(2017年)(注1)では、世界各国・地域におけるAI社会の実現(2030年時点)によってもたらされる経済効果(付加価値ベース)で、中国は7兆ドル(約740兆円)にものぼり、世界全体の15.7兆ドルの45%を占める。経済成長の新たな原動力を探している中国にとってAIは渡りに船のような存在となった。
  • 経済社会の発展において新たな原動力になるAIの潜在性をつかむため、中国は、AI技術政策や産業政策を矢継ぎ早に打ち出した。図表1は、主要なAI政策をまとめたものである。2015年より前に出されたAI政策は、主に伝統的な最適化にかかわる技術政策と理解されるが、2015年前後からビッグデータを背景にした次世代AI技術が発展し、注目されたのである。
  • 2017年7月、中国政府は「新一代人工知能発展計画」(次世代AI発展計画)を発布し、三段階に分けた産業の成長目標や取り組む分野が明記された。つまり、AI産業の数字目標として、①2020年の産業規模は直接2.6兆円/間接17兆円、②2025年に同7兆円/85兆円、③2030年に同17兆円/170兆円を目指すとしている。2030年ごろには世界の先頭に立つAI先進国になるとしている。

図表1:中国のAIにかかわる主要政策のまとめ

19-10-01

出所:中国政策資料などから筆者作成

AI産業振興のためデータ政策、AI人材教育、BATなど
IT大手企業からの協力に力

  • 他方、中国ではAI発展を支えるビッグデータに関する産業政策も別途策定されている。AIチップやアルゴリズムなどの基盤技術と比べ、データは中国の力が発揮できる独自の優位性であり、データの収集・管理・活用が国家戦略として進められている。特に、政府の所有するデータの各部署内部での共有や社会全体での共有は、政策の重点分野として取り組まれ、かなり進展しているとみられる。
  • ただ、データの流通や個人情報保護に関するルールは、各法規や規則、ガイドラインに散在しており、法制度の一本化は遅れている。一方、データの流通は一部の地方や企業で先行して行われている。例えば、上海、貴州、北京などでは、データ流通システムが整備されており、データ取引のプラットフォームもできている。また、BAT等のネット企業やビッグデータ企業もデータ取引のプラットフォームを整備している。現在、データ流通ルールの立法化と個人情報保護法の整備が議論・研究されている。
  • 「高等教育機関の人工知能創新行動計画」というAI人材育成政策も策定された。AI産業政策と合わせて2020年、2025年、2030年の目標設定がなされた。例えば、人材育成機関の目標としては、2017年末現在86ヵ所のAI関連教育学科に加えて2018年に57ヵ所を新設するとした。また、小学校からAI普及教育を導入し、専門学校と社会人教育、大学教育からなるAI教育体系を形成するとうたっている。さらに、AI開発に関する大学の役割として、基礎研究強化と研究成果の迅速な産業化(教育分野のAI応用を優先)を図ることとした。
  • AI振興の重点分野としては、①生産・生活(製造/物流、ヘルスケア等)、②社会(スマートシティー、農業等)、③国防があげられている。AI技術の開発や応用ソリューションの開発に当たっては、AI技術が進んでいる大手ITベンダーに五つのオープンAIプラットフォームを指定し、AIベンチャーなどの活性化を図っている。五つのOpen AI PFは、①ヘルスケア(Tencent)、②スマートシティー(Alibaba)、③自動運転(Baidu)、④音声認識(iFlytek)、⑤画像認識(Sence Time)からなる。
  • また、ミクロレベルでは、AI関連企業を満遍なく支援するのではなく、やる気ある企業を募る「AI産業創新重点任務のチャンピオン企業募集掲載工作計画」を策定して各分野のトップ3だけを優先的に支援することとしている。支援政策の範囲は、スマート製品、コア基盤技術、スマート製造、サポート基盤の四領域における17の優先分野(①スマートカー、②スマートサービスロボット、③スマートドローン、④スマートホーム製品、⑤医療画像補助診断システム、⑥映像身分識別システム、⑦スマート音声交換システム、⑧スマート翻訳システム、⑨スマートセンサー、 ⑩Neuromorphic chip、⑪オープンソースPF、⑫スマート製造キー装備、⑬業種別データソース、⑭標準測定とIPRサービスPF、⑮スマートネットワーク、⑯セキュリティー、⑰その他)に限定している。

AIの産業育成や経済効果に偏った政策は、AI倫理・ガバナンスにも広がっている

  • さらに、2019年8月には「AI創新発展試験区設置ガイドライン」を公布して、AI発展の経済効果に留まらず、社会運営の有効性や地域ガバナンスへのインパクト(倫理・モラル、コミュニティーへの影響、ガバナンスモデルなど)を検証して全国的に広げようとしている。
  • これまでにAIに関する議論は技術開発や産業育成等の経済効果に偏っていたが、AIガバナンスに関する議論が国際的に高まっている現状を鑑み、中国国内の政策議論が加速している。2019年3月に国家次世代AIガバナンス専門委員会が設立され、2019年6月17日に「次世代AIガバナンス原則:責任あるAIの発展」(《新一代人工智能治理原則:発展負責任的人工智能》)というガイドラインが発表された。AIガバナンス・ガイドラインには、①調和・友好、②公平・公正、③包摂・共有、④プライバシーの尊重、⑤安全で制御可能、⑥共同責任、⑦開放・協力、⑧速やかなガバナンスという八つの原則が書かれた。中国のAIガバナンス原則は、5月に打ち出された「人工知能に関するOECD原則」(五つの原則)と大部分は整合的であるが、OECD原則にある“AI actors should respect the rule of law, human rights and democratic values”というような表現はない。

急成長するAI産業市場だが、政策目標には達していない

  • 図表2は中国のAI産業市場が急拡大していることを物語っている。2015年の市場規模112億元(約2000億円弱)から2020年には710憶元(約1.2兆円)までに拡大し、年平均約45%の伸びと推定される。ただ、この推定された産業市場規模は、上記の政策で目指される数値目標を達成するには程遠い。
  • この産業市場の推計範囲は、①AI基盤(AIチップ、アルゴリズム、スマートセンサー等)、②AI技術(音声認識、画像・顔認証、文字認識など)、③AI応用(スマートロボット、セキュリティー、金融、小売、交通など)からなるが、AI産業市場に関する政府の統計はなく、調査機関の推計に頼っている。各調査機関の推計範囲や項目の設定に不一致が存在すると考えられ、推定の結果(産業市場規模)のばらつきに留意する必要がある。

図表2:中国のAI産業市場規模の推移と推定

19-10-02

データ出所:中国情報通信研究院、Deloitte

米中紛争に巻き込まれるAI企業

  • AIを含む中国の次世代デジタル技術は大いに米国の基盤に依存している。トランプ政権登場以来、米中貿易紛争がヒートアップし、そしてハイテク主導権争いに発展してきている。中国企業による技術取得を規制する米国は、これまでの重要技術からAI等の次世代デジタル技術を中心とするエマージング技術へと規制の対象を移している。また、データの重要性が増すにつれて、パーソナルデータの規制も厳しくなっている。
  • その規制手段には、中国企業による対米投資、M&A、出資などの規制とともに、エマージング技術の対中輸出(第三国再輸出も含む)規制を含む。皮肉にも、米国がエマージング技術規制を強めたのは、AIを含む中国のエマージング技術や産業の台頭によって急速に米国に危機感が生まれたからではないかと考える。
  • 実際、米国はこれらの規制を実行し始めている。5Gに関しては、中国のZTEや華為を「安全保障」の名目でICチップやソフトの供給規制や調達を実施したか、実施中である。また、10月には、AI監視カメラ・メーカーや画像認証企業、音声認証企業など、8社の中国ハイテク企業を「人権侵害」の理由で規制リストに載せて米国企業からの調達や米国市場への進出を規制し始めている。この8社には、中国政府が指定する重点AIプラットフォーマー企業であるSence Time社とiFlytek社も含まれている。
  • これらの規制が中国の台頭を遅らせるか阻止できるかどうかは、今後の推移を見ないと判断しかねるが、中国にとっては次世代デジタル技術産業の発展に大きな挑戦になることは間違いない。
jin

本記事の執筆者

経済研究所
主席研究員

金 堅敏(Jin Jianmin)

中国浙江大学大学院/横浜国立大学国際開発研究科修了。博士。専門は、通商政策、中国経済・産業、ニューエコノミーとIoT時代のイノベーション政策/活動。

主な著作に『図解でわかる中国有力企業と主要業界』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、『中国 創造大国への道-ビジネス最前線に迫る-』(共著)、『米中貿易戦争と日本経済の突破口』(共著)、「中国のネットビジネスの革新と課題」、「産業の高度化を狙う中国製造2025を読む」、「IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か」、“The Changing Currents of Transpacific Integration: China, the TPP, and Beyond”、ほか。

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