GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. ナレッジ >
  3. ニューズレター >
  4. デンマークにおけるデジタルヘルスの動向(3)データの利活用とその課題

社員の心理的側面から見た働き方改革―ハラスメントやコンプライアンス問題を指摘できる雰囲気づくりを―

デンマークにおけるデジタルヘルスの動向(3)

データの利活用とその課題

発行日:2019年7月12日

newsletter_no19-004_1280x800

要旨

  • デンマークではヘルスケアデータの利活用が非常に進んでいる。医療と個人番号が紐づくようになって42年が経過し、医療に関する個人の様々なデータが蓄積されているという背景がある。
  • 現在デンマーク政府は、2012年に設立されたバイオバンクに蓄積されるデータを活用した精密医療の発展に注力している。2019年6月時点で約2,530万もの生体サンプルを保存しており、そのデータは疾患の発症リスクの特定など多くの研究プロジェクトに活用されている。
  • データ保護の観点からの透明性確保や多職種の円滑な連携のためのデータ整備などまだ課題は残るが、世界でも稀にみる膨大なデータの活用推進によって個別化したきめ細やかなヘルスケアサービスの提供を目指している。日本では、7月8日に初めての情報銀行が認定された。今年4月からは神戸市が健診と生活データの一元管理を稼働させるなど今後データの利活用はヘルスケア分野でも進んでいくであろう。デンマークの動向は日本の取り組みにとっても参考になるはずである。

デンマークのヘルスケアデータ整備の進展

  • 医療と個人番号が紐づくようになって42年が経過したデンマークではヘルスケアデータの蓄積と活用が非常に進んでいる。1968年にデンマーク版マイナンバーであるCPRナンバーが導入され、医療と紐づいたのは9年後の1977年のことである。当時は管理や実情把握を目的としてデータの整備が進められた。
  • 続いて部門間・多職種間でのデータ活用が始まった。1994年にMedComと呼ばれるデンマーク健康管理データネットワークが設立された。MedComは非営利の公的機関で、デンマークの厚生省や自治体が共同で運営している。連携の円滑な促進がMedComの役割であり、例えば、異なる部門や職種が連携してデータを扱う際のフォーマットやルールについて共通の枠組みを提供している。
  • 2000年代に入ると、医療従事者と患者の双方が医療に関するデータにより簡便にアクセスできる体制が整えられていくこととなる。2004年に、かかりつけ医がオンライン上で患者の医療データを共有することが法的に義務づけられるようになり、様々なデータや情報を一元化した医療ポータルが整備された。
  • 市民は、医療に関する様々な情報や手続きをポータルから簡単に行うことができる。具体的には、1)カルテにある治療や診断履歴の閲覧、2)かかりつけ医の診療予約、3)処方箋更新、4)自身の服薬コンプライアンスのチェック、5)急性期病院の医療の質や手術の待機状況の確認、6)臓器提供者登録、7)外来患者向けの病状管理システムの利活用である。
  • 各医療機関はそれぞれに治療や検査時に得られるデータを、長年をかけて蓄積してきており、各データベースが整備されている(図表1)。これらのデータは市民がアクセスすることはもちろんのこと、サービス提供を担う広域行政機構等の公的セクターもサービス向上のための分析に活用している。一次データ以外にも、サーベイデータなど二次データの収集が豊富に蓄積され、現場で活用されている。

【図表1】利用可能なヘルスケアの一次データ
19-04-01

(出所) Venkatraman et al. (2015)(注1)を基に富士通総研作成
注)記載のデータ例が全てを網羅しているわけではないが、主要なものが列挙されている。

「精密医療」で世界トップを目指すバイオバンクの発展

  • 利用可能な一次データのなかでも、ヘルスケア領域で存在感を放つのは生体サンプル等を蓄積しているバイオバンクである(注2)。デンマークでは、2012年にデンマーク国立血清研究所(Danish Serum Institute)が主導し各病院等に散らばって保存されていた血液やDNA等のデータを一括管理し保存するバイオバンクが設立された。
  • バイオバンクの保存するデータは世界でも最大規模を誇る。2019年6月時点で約2,530万の生体サンプルを保存しており、在日本デンマーク大使館の公表するところによれば1976年以降に生まれた全デンマーク人の血液とDNA情報が登録されている。
  • 保存された様々なデータは、研究開発プロジェクトに利活用されている。例えば、南デンマーク大学が主導し、1870年以降に生まれた双子約87,000組の情報を比較し疾患の発症や寿命には遺伝的もしくは外的要因のどちらが関与しているのかという研究を進めている。また、コペンハーゲン大学は副作用データのディープランニングによる副作用の予測および動物実験の削減と撤廃の検討を行っている(注3)。
  • 現状でのデータの活用範囲は、研究目的にのみ使用可とされている。研究目的であれば、民間企業がチーム内に入っていても問題ないが、必ずデンマークの研究機関(大学もしくは国立の研究所)が研究チームに参画していることがデータへのアクセス権を取得する条件となっている。

データ利活用の課題と今後の展望

  • 一方、ヘルスケアデータを商業目的のみで利用することはできない。GDPR(EU一般データ保護規則)が2018年5月に施行されたことも影響し、データの取り扱いについては、以前よりも慎重になる必要があるものの、デンマークのヘルスケアサービスが目指す、より個別化したきめ細やかなサービスの提供をユーザーに還元するためにも、研究以外の目的での活用推進が望まれる。
  • 医療従事者のなかでもデータの取り扱いについて見解は一様ではない。例えば、患者と直接やり取りをすることが多いかかりつけ医は、クリニックに訪れる患者の健康に関する情報とよりプライベートな個人の生活に関する情報の線引きが難しいことから、データの提供に関して必ずしも賛成ではない一方、急性期病院の医療従事者はデータベース化や一元化に積極的である(注4)。
  • このように、デンマークでは、データ保護の観点からの透明性確保や多職種の円滑な連携のためのデータ整備などまだ課題は残るが、世界でも稀にみる膨大なデータの活用推進によって個別化したきめ細やかなヘルスケアサービスの提供を目指している。日本では、7月8日に初めての情報銀行として三井住友信託銀行とフェリカポケットマーケティングが認定された。ヘルスケアの分野でも、今年4月から神戸市が健診データと生活データの一元管理を稼働させるなど、今後はデータの利活用が本格化することは間違いない。デンマークの動向は日本の取り組みにとっても大いに参考になるはずである。

注釈

  • (注1)
    Venkatraman, V., Mani, P. & Ussing, A. (2015) Mapping the Healthcare Data Landscape in Denmark, Leapcraft Aps report.
  • (注2)
    OECDの定義によれば、バイオバンクとは「体系化したシステムにおいて保管された、ある集団(または集団内の部分集団)の生体試料とそれに付随する情報のコレクション」を指す。日本語訳:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターOpen a new windowによる。
  • (注3)
    村上&飯田(2018)「TIME誌も絶賛!マイナンバーをヘルスケアに活用するデンマーク」『バイオサイエンスとインダストリー』76巻4号
  • (注4)
    筆者がコペンハーゲンで実施した国立血清研究所所長のマス・メルビュー氏へのインタビュー調査より
森田 麻記子

本記事の執筆者

経済研究所
上級研究員

森田 麻記子(もりた まきこ)

 

2012年~2015年 デンマーク、オールボー大学、比較福祉研究所(Centre for Comparative Welfare Studies)に4年間在籍し、2016年 富士通総研入社。 専門領域は社会政策学、高齢者福祉、ライフコース研究。

お客様総合窓口

入力フォーム

当社はセキュリティ保護の観点からSSL技術を使用しております。