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EV(電気自動車)がエネルギーシステムにつながることで生まれる新しいビジネス

EV(電気自動車)がエネルギーシステムにつながることで生まれる新しいビジネス

―エネルギー技術モデルを用いたシステムズ分析―

発行日:2018年10月17日

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要旨

  • EVは今までの内燃機自動車と違って、電気をエネルギーとするため、EV普及による電力系統及び発電余力に注目する必要がある。個人がEVを所有した場合、電力系統が不安定化するおそれがあり、EV普及が抑制される可能性がある。
  • しかし、今回、独自モデルによる推計を行った結果、EVの充電パターンを最適化すると2030年で新車販売の13%がEVとなることがわかった。
  • モビリティのサービス化(MaaS: mobility as a Service)で自動車のシェアリングが注目されているが、EVの使用状況を考慮した上でシェアリングを行い、EV全体で充電パターンを最適化することができれば、EVの普及が進み、EVシェアリング費用を下げることも可能となる。EVのシェアリングによる充電パターンの最適化は、エネルギーインフラ投資を最小化することもでき、新たなるビジネス機会として期待できる。

普及が加速化するEV

  • EV(電気自動車)への注目が高まっている。そもそもEV普及の背景には、2015年に採択されたパリ協定の「産業革命以前と比較して気温上昇を2℃以下に抑える」という目標がある。パリ協定に呼応するように、我が国も平成28年5月13日に閣議決定がなされた「地球温暖化対策計画」において、「長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。」と表明している。
  • 日本において運輸部門は日本全体のエネルギー消費量の23.4%を占めており、運輸部門のエネルギー消費の97.9%は石油製品である(注1) 。このことからも、運輸部門のエネルギー消費の削減は、温室効果ガス削減につながる。このことも、にわかにEVが注目されている一因である。
  • EVシフトへの動きは、日本国内に限ったことではなく世界的なものとなっている。例えば、イギリスとフランスは2040年までに内燃機自動車の販売を禁止する方針を示した。アイルランド、オランダはそれよりも早い2030年に内燃機自動車の販売を禁止することを目標としている(注2) 。
  • 世界最大の自動車販売台数を誇る中国でもNEV(New Energy Vehicle)規制(注3) が2019年から導入される予定であり、次世代自動車としてのEVの普及を後押しする。
  • インドも「2030年までにすべての販売される自動車をEVにする」という当初の目標から、「2030年までに販売される自動車の30%はEVにする」(注4) と目標値は引き下げられたとはいえ、EV化を推し進める姿勢に変化はない。
  • 日本政府も販売される自動車に占めるEV(含むプラグインハイブリッド)のシェアを2020年に15~20%、2030年に20~30%とする目標を示している(図表1)。

図表1:2020~2030年の乗用車車種別普及目標(政府目標)
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(注意:新車販売に対する割合)
(出典:経済産業省製造産業局自動車課「自動車産業戦略2014」)

  • EVの弱みとしてよく指摘されるのが充電時間の長さと各国・地域で異なる充電規格であるが、日本の充電規格「CHAdeMO」普及を担うチャデモ協議会と中国の規格である「GB/T」推進を行う「中国電力企業連合会」が急速充電技術を共同で開発する計画を発表する(注5) など、EVのもつ問題も改善の兆しを見せてきている。
  • EVの普及には、二次電池の価格の問題と供給能力の問題も指摘される。価格に関しては、量産化による効果で急速に低下している。Nykvist and Nilsson (2015)(注6) によると、リチウムイオン電池の価格は2007年の1,000ドル(113,000円)超/kWhから2014年には410ドル(49,720円)/kWhへと年平均で14%価格下減少している。
  • リチウムイオンバッテリーに利用されるコバルトは、EVなどの普及もあり価格の高騰がおきているが、それのみならず子供を使った採掘がおこなわれているとの指摘もあり、児童労働問題が発生している(注7) 。トヨタ自動車が2020年代前半に数量限定ではあるが全固体電池の実用化を目指すなど(注8) 、コバルトに依存しない全固体蓄電池がEVのバッテリーの中心となることが予想され、コバルトに関する問題の解決も期待できる。

EV普及の影響

  • EVを考えるとき、図表2の右側にあるEVと充電設備は多くの人にとってイメージがわきやすいだろう。もちろん、EVの普及において充電設備が十分準備される必要がある。しかし、実際には、EVは充電器の向こう側にあるエネルギーシステム(図表2の左側)と密接に関係することを忘れてはいけない。電力系統は、EVが普及することを前提に建設されていたたわけではなく、EVの普及は電力系統に負担をかける可能性があること、普及に合わせて系統増強も必要であることを理解する必要がある。さらには、地域での人口の変化も重要である。従来の内燃機自動車はほぼ石油由来の燃料であり、このようなシステム的な見方をする必要性はあまり高くなかった。

図表2:EVとつながる社会
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(注意1:人口動態:2010年総⼈⼝数(補正あり)を100とした場合の2050年総⼈⼝数(補正あり)の指数
(出所:国⼟数値情報 将来 推計⼈⼝メッシュ(H26国政局推計)より筆者作成))
(注意2:画像:ゲッティ・イメージズ)
(出典:富士通総研作成)

EV普及とエネルギーシステムへの影響

  • 私たちは、EVの充電パターンに注目し、独自開発のエネルギー技術モデル(注9) を用いてEVの普及及び系統への影響に関して検討を行った。EVを個人所有するとした場合、自宅で充電するのが一般的である。この場合、帰宅後の時間帯に充電が集中する可能性があるため、系統不安定化を招く可能性がある。一方、パブリック充電(注10) を活用する場合には、より幅広い時間で充電が行われるため充電に伴う負荷は分散され、より既存の電力系統及び発電余力の活用が期待できる。

自宅充電の場合

  • まず、自宅充電を前提とした場合の新車販売に占めるEVのシェアを都道府県単位で評価を行った。これによると、自宅で充電する場合には、充電するタイミングが帰宅後に集中し、系統不安定化を招くおそれがあるため、2030年時点でのEVの普及は限定的である(図表3)。

図表3:都道府県別新車販売に占める割合(2030年、自宅充電)
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(注意:各棒グラフは各都道府県を示す。左端が北海道で、右端が沖縄)
(出典:富士通総研作成)

パブリック充電の場合

  • パブリック充電とは、出先の充電設備を利用してEVの充電を行うことを指す。そのため、自宅充電と比較してより幅広い時間帯で充電することになり、充電タイミングの集中が起きない。ここでの前提はさらに進めて、各地域で発電設備及び系統の電力供給余力のある時に充電を行うとしている。より広い時間帯に分散して充電を行うパブリック充電では2030年において新車販売の13%がEVになる。その普及は都道府県により大きく異なる(図表4)。

図表4:都道府県別新車販売に占める割合(2030年、パブリック充電)
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(注意:各棒グラフは各都道府県を示す。左端が北海道で、右端が沖縄)
(出典:富士通総研作成)

  • この場合のEVが消費する電力量は、2030年において日本全体のわずか1.4%を占めるに過ぎない。これは非常に低い値であるため、系統容量や発電余力に問題がないと思われがちである。しかし、実際にEV普及を考える上で重要なのは、各地域の各時間帯の断面で必要となる電力供給量の検討が必要である。図表5に示すように、各都道府県で運輸部門が占める電力のシェアは大きく異なる。最も高いシェアは54%である。このシェアは各都道府県のその時間帯の系統の送電及び発電余力であると言え、いかにして供給余力のある場所・時間帯を活用した充電を行うかが、EV普及の必要な視点である。

図表5:都道府県別部門別電力消費割合(2030年、パブリック充電)
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(注意1:各棒グラフは各都道府県を示す。左端が北海道で、右端が沖縄)
(注意2:秋の昼間時間帯)
(出典:富士通総研作成)

EV普及促進への示唆

  • フォルクスワーゲンがEVを用いたカーシェアサービスを開始すると発表(注11) するなど、自動車メーカー各社はカーシェアビジネスへの参入を行っている。野村総合研究所の調査によると、日本の自動車の平均稼働率は1.9~2.6%(1日あたり28~37分稼動)でしかない(注12) 。自動車各社は、日本でもカーシェアサービスが拡大する余地は大きいと考え、自らシェアリングのサービスに乗り出している。
  • 今回のモデルによる推計によると、EVを大量に用いるシェアリングを通じて新たなビジネス機会が提供される可能性が見えてきた。これはMaaS(Mobility-as-a-Service:モビリティのサービス化)に付随した新たなサービス提供ともいえるもので、EVの利用状況をIoTを活用してデータ収集し、集めたデータで学習をしたAIを利用しEVがどのタイミングでどの程度利用されるのかを予測しつつ、電力系統・発電余力を考慮した充電を行うようなビジネスである。この新しいビジネスは、EVの普及を促進するだけでなく、EV社会実現のために必要なインフラ投資を低下させることが可能になり、既存インフラの効率的利用につながる可能性がある(注13) 。
  • 同時に、充電器不足の問題解消にもつながる。現在、EV・PHV ユーザーの9 割以上は戸建て住宅の居住者であり、共有住宅の居住者は1 割未満と言われている。一方で、我が国の住宅は、共同住宅が2,209 万戸と住宅全体の4 割以上を占めており、戸数も増加傾向にある(注14) 。EVを充電するための充電設備の不足が、EV普及を阻害している可能性がある。最近の試みとしては、サンフランシスコのスタートアップ企業Oxygenがドイツの電力会社であるInnogy SEと連携して提供しているShare & Chargeは、ブロックチェーンであるイーサリアムをベースにEVとプライベート&パブリックの充電設備をマッチングして支払い決済を行うサービスであるが、シェアリングを実施すればこの充電器不足と同時に充電パターンの最適化が可能となる。
  • 既にデンマークではV2G(Vehicle to Grid:車と系統の間で電力融通を行うこと)の一年間にわたる実証実験を行い、EVを蓄電池として利用することの系統安定化への影響を検証している。今後、系統のデジタル化がより進むことで系統混雑度及び限界発電費用を反映したノード(変電所など)及び時間単位での電力価格の算出が可能となる。電力価格を反映したEVの充電・放電を大規模に実施することでさらなる既存の電力インフラ有効活用につながり、インフラ整備費用の削減が可能となる。

注釈

  • (注1)
    資源エネルギー庁、総合エネルギー統計、2016年度より富士通総研算出
  • (注2)
    IEA、「Global EV Outlook 2018」
  • (注3)
    NEV規制に関しては、小端(2018)、「EV普及の動向と展望、気候変動対策の観点から」、2018年6月、自然エネルギー財団に詳しい。
  • (注4)
    日本経済新聞 2018年3月17日朝刊「インド「EV販売、30年に3割」 揺れ動く⽅針、⾞各社翻弄」
  • (注5)
    日本経済新聞 電子版 2018年8月22日、「EV充電規格、日中で共同開発へ 国際標準目指す」
  • (注6)
    Nykvist, Björn and Måns Nilsson, Rapidly Falling Cost of Battery Packs for Electric Vehicle, Nature Climate Change, Vol. 5, April 2015.
  • (注7)
    詳細な内容は、Airhart (2018)に詳しい。https://wired.jp/2018/06/20/alternatives-to-cobalt/Open a new window
  • (注8)
    日本経済新聞電子版、「トヨタの全固体蓄電池 2025~30年EVが化ける 全固体電池、本気のトヨタ(上)」2018年9月26日6:30
  • (注9)
    詳細に関しては、濱崎(2018)参照のこと。http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/2018/report-456.htmlOpen a new window
  • (注10)
    自宅ではなく出先で誰もが利用可能な充電器からの充電を行うことを指す。
  • (注11)
    佐藤信彦、トヨタもBMWもライドシェアへ 「持たない」時代にメーカーはどう生き残るか、https://boxil.jp/beyond/a5326/Open a new window
  • (注12)
    中島久雄、「デジタル化時代を勝ち抜くために」、NRI Public Management Review, Vol.176, March 2018
  • (注13)
    実際にある欧州のスタートアップ企業は、EVを利用したピークカットをサービスとして提供し、あらたなビジネスとする計画を有する。
  • (注14)
    経済産業省 製造産業局 自動車課(2017)、「平成28年度エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費(EV・PHVの充電インフラに関する調査)」調査報告書、2017年3月
濱崎 博

本記事の執筆者

上席主任研究員

濱崎 博

 

MSt (Master of Studies) in Manufacturing, University of Cambridge, Wolfson College, the United Kingdom. MSc (Master of Science) and DIC (Diploma of Imperial College) in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technologies (ICCET), Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London, the United Kingdom.
1995年 富士総合研究所(現 みずほ情報総研)入社、1997年 富士通総研経済研究所入社、2007年~2009年 国際公共政策研究センター出向、2009年5月~ 国際公共政策研究センター客員研究員。

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