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中国金融市場における最新ITソリューションの動向

デジタル化/キャッシュレス化が進展する欧州金融界の現状


-欧州3か国の実態から見たキャッシュレス先進国の現状-

日本国内のキャッシュレス化推進議論に触発され、スウェーデンをはじめ北欧諸国の事例に注目が集まる。また、バルト三国の一角を占めるエストニアは電子政府化で先陣を切る。これらキャッシュレス化/デジタル化先進国の実情を明らかにする。

2018年12月27日

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 筆者は2018年の10月、エストニア、スウェーデン、イギリスと欧州諸国の金融事情視察に同行し、金融サービスならびに社会システムのデジタル化、またキャッシュレス化に関する現地動向を調査する機会に恵まれました。今回訪問した3か国はどれもデジタル化/キャッシュレス化において日本よりも進んでいるとされる国々です。今回の視察は、これらの国々におけるデジタル化/キャッシュレス化の実態がどのようなものであり、また、現地でどのように受容されているかについて、つぶさに観察することができる良い機会となりました。

電子国家における金融サービスのデジタル化 -エストニア-

初めに訪れたのはバルト三国の中で最も北側に位置するエストニアです。エストニアは、人口約130万人、首都タリンでも人口は45万人という小規模な国です。しかしながら、世界でも最も進んだ電子国家を実現したと言われています。エストニアは、1991年に当時のソ連から独立した後、政府主導でデジタル化が進められ、現在では公的機関の手続きのうち約99%がインターネット上で完結するまでに整備されています(インターネット上で利用できないものには結婚・離婚の手続き、土地の売買があります)。同国では、この電子政府の仕組みの一部が金融サービス等の民間サービスの手続きにも利用されています。

エストニアでは、これら電子政府のサービス利用にあたって、「デジタルID」と呼ばれる日本のマイナンバーにも似た公的なIDカードを利用しています。同カードは、エストニア国民の98%が所有しており、身分証明書の代わりとなるほか、電子署名や国民健康保険、そして既往歴等のデータが確認できます。このデジタルIDを用いて、エストニアの銀行ではインターネットバンキングへのログイン、各種取引時の認証が行えます。また、エストニア国民も日常的に利用していることから、同カードに対する信頼性が高いという側面が浮かび上がってきます。

このように、デジタルIDが公的機関だけでなく民間でも利用可能となっている背景には、「X-road」と呼ばれる官民共同で利用するデータ共有基盤が挙げられます。X-road上で国民に関する様々な情報が厳重に管理されており、個人の許諾に基づき、民間でもこれらのデータの一部を利用することが可能となっています。また、X-road上にあるデータについて、いつ、どのような公的機関、事業者が、どのような目的でデータを閲覧したかについては、公的な情報ポータルサイト上でいつでも確認することが可能です。このように信頼性を担保する仕組みが公的に整備されているということが、エストニアにおけるデジタル社会の牽引役となっていると言えます。

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写真.1 エストニアの電子政府ショールームe-Estoniaの様子(筆者撮影写真より)

世界で最も先進的なキャッシュレス社会の実情 -スウェーデン-

続いて訪問したのが、スウェーデンです。同国は、北欧諸国の中で最もキャッシュレス化が進展した国として、昨今、日本のメディアでも大々的に取り上げられています。昨今では、世界最古の中央銀行と言われる同国のスウェーデン国立銀行が「e-krona」と呼ばれる通貨の電子化を本格的に検討するなど、社会全体として現金が存在しない状態に向けて取り組んでいるように見受けられます。今回訪問した首都ストックホルムにおいても街中で現金を使う機会は滅多になく、例えば、宿泊したホテルでは現金の取り扱いが廃止され、併設の売店での買い物にあたっても、すべてクレジットカード等で決済する必要がありました。また、街中では公衆トイレでもクレジットカード決済が利用でき(欧州諸国では公衆トイレの利用にあたって少額の小銭が必要な場合が多くあります。)、交通機関の券売機についても現金が取り扱えないものが見受けられました。

同国においてキャッシュレス化を推進するうえで重要な役割を果たしたと言われているのが、「Swish」と呼ばれるモバイル送金アプリです。Swishは、スウェーデンの大手金融機関7行が共同で開発したサービスであり、現在はスウェーデンの主要銀行に口座を有する個人間で送金が行え、かつ無料で利用できることが特徴です。同サービスの認知度は高く、すでにスウェーデン国民の半数にあたる650万人が利用したと言われています。

スウェーデンでは、急速なキャッシュレス化の進展に伴い、金融サービスのあり方が変化しつつあります。例えば、ある銀行では、首都ストックホルムにおいて現金を取り扱う店舗を2店舗にまで削減し、ATMの台数も大きく減少させています。一般の人々においても財布を持つ人々が減り、スマートフォンと2,3のプラスチックカードで大抵のサービスを利用し、現金自体をここ1年以上触ったことがないという人が増えています。しかし、例えば、すべての決済がスマートフォンだけで済ませられるといった状態になるには時間がかかるように見受けられます。スウェーデンの場合、街中での決済はプラスチックカードによるものが中心である一方、個人間での送金等についてはSwishの利用が一般的となり、用途に応じて決済手段が使い分けられています。Swishについても、QRコード決済による加盟店開拓を進めていますが、街中での普及は道半ばであるように見受けられます。今後、スウェーデンにおいては、こうした街中と個人間での決済がいかに融合していくかが論点となりそうです。

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写真.2 スウェーデンの街中で浸透するカード決済(筆者撮影写真より)

オリンピックを契機としたキャッシュレス決済の急速な浸透 -イギリス-

最後に訪れたイギリスでは、政府関係者よりイギリス国内におけるキャッシュレス決済の普及状況について直接お話を伺う機会に恵まれました。イギリスでは現在、クレジットカード/デビットカードによる決済が日常での商品・サービス購入にあたっても一般化しており、2018年ではクレジット/デビットカードによる決済の割合が50%を超えています。また、イギリスで発行されたデビットカードのうち約8割にはNFC (Near Field Communication)チップが搭載されており、NFCによる非接触決済がキャッシュレス決済全体をけん引している状況にあります。現金利用がこのまま減少していくと、2026年には決済全体に占める現金利用の割合が20%前後にまで減少すると言われています。

イギリスにおいてキャッシュレス化が進展した背景には、2012年にロンドンで開催された夏季オリンピックが挙げられます。オリンピック開催に合わせて国際カードブランドとイギリスの金融業界が協力して、街中の小売店であってもNFCによる決済が可能な環境を積極的に整備し、また、銀行側もプラスチックカードの更新に合わせてNFCチップを搭載したものに置き換えるといった積極的な更新施策が取られています。これに加えて、イギリスにおいては今後、カード決済時にサーチャージを徴収することを政府が禁止する等、キャッシュレス決済が普及するための下地を積極的に作り上げています。

イギリスでは、オリンピックという国を挙げたイベントを機にキャッシュレス決済に向けた環境整備が進みました。キャッシュレス決済の普及にあたっては国際カードブランドと銀行業界が協力して推進したことが大きく影響しています。

おわりに

今回訪問したエストニア、スウェーデン、イギリスの3か国は、国の規模は大きく異なりますが、どの国においても国と銀行界が協調してデジタル化/キャッシュレス化に向けた取り組みを推進してきています。こうして環境整備を進めたうえで重要となるのが、いかに利用者からの信頼を得るかという観点でしょう。3か国それぞれにおいて利用者からの信頼を得るように制度・サービスの設計が行われています。

例えば、エストニアの場合、データ閲覧に関する履歴を確認できる利用者向けのポータルの整備など、デジタルIDの安全性を担保する仕組みを構築しています。また、同IDの仕組みについても国民に周知されていることも特徴です。エストニアにおいて、関係者がデジタルIDを説明する際、皆がカード自体を手に取らせて詳しく見せてくれた点が印象的でした。関係者の説明によれば、カード自体には重要な情報が保管されていないため、カードの情報を悪用したとしても機密情報にはアクセスできないとのことでした。国民性の違いなどもありますが、デジタルID制度に対する利用者の信頼の高さが窺えます。

また、イギリスにおけるキャッシュレス推進にあたっても同様に利用者からの信頼をいかに築き上げるかを意識していることがわかります。銀行によるNFC決済によるサービスの導入に当たって、各銀行がモバイルサービス等を拡充し、利用者側で簡単に利用停止や決済額を設定できるなどの機能を付与し、利用者への啓蒙に努めました。また日常的に利用するデビットカードが更新時にNFCチップ搭載のものに自動的に置き換わることで、利用者側のスイッチングコストを低減させていることも重要です。

日本でも連日のように議論されているマイナンバーを中心とした公的/民間サービスのデジタル化ならびにキャッシュレス化の推進にあたっては、利用者側の信頼感をいかに高めるかといった視点での制度設計が重要になってくると思われます。この際、長年に亘り消費者との信頼性を築き上げてきた金融機関が果たす役割は少なくないと思われます。

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松原義明

本記事の執筆者

コンサルティング本部 金融グループ
チーフシニアコンサルタント

松原 義明(まつばら よしあき)

 

2007年富士通総研入社。入社より一貫して金融業界向けのコンサルティング、調査業務に従事。 現在は海外金融機関における先進サービスに関する調査業務、国内金融機関におけるソーシャルメディア、スマートデバイス活用に関するコンサルティングを実施。 2016年4月 富士通研究所アメリカにてFintechならびに金融サービスの最新動向に関する調査活動に従事。2017年4月帰任。

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