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リバース・メンタリング ―若手とシニアが相互に影響を及ぼし合える場づくり―

リバース・メンタリング

―若手とシニアが相互に影響を及ぼし合える場づくり―

2018年8月23日

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はじめに

若手がシニアのメンターとなる「リバース・メンタリング」は、1999年に初めてGEが開始し、次いでP&GやDell等で導入され、その後も欧米の企業や大学を中心に試行錯誤がなされてきた。

しかしながら、アジアとりわけ日本では、P&G日本本社や資生堂などの事例が単発的なニュースになりつつも、他の企業は実践に対して慎重であり、なかなか浸透していないのが実態である。

先進的にリバース・メンタリングを導入していた企業では、インタラクションを通じてシニアが若手から「新しいICTについて学ぶ」という第一フェーズから、ICTに限らず、「新しい知識を学ぶ」という第二フェーズを経て、現在は「新しい感覚を共有し合う」という第三のフェーズを迎えている。

本論では、先行研究を紹介しながら、富士通総研が2017年3月に実施したアンケート調査を紹介し、日本におけるリバース・メンタリングの実態把握を行い、今後の可能性について考察したい。

伝統的なメンタリングとリバース・メンタリングの違い

伝統的なメンタリングないしメンター制度とは、知識・経験豊富なシニアが「メンター」となり、「メンティー」である若手に対して、コミュニケーションを通じて様々なアドバイスを行ったりカウンセリングや教育を施したりする人材育成方法の1つである。ヒエラルキーに依存した命令というかたちではなく、あくまでも参加者同士の対話によって気づきが得られたり、自律的な行動に結びついたりすることを目的として実施されることが多い。

一方でリバース・メンタリングとは、このシニアと若手の関係性がリバース(reverse)すなわち逆転したものである。したがって、若手がシニアのメンターとなり、自分たちがシニアたちよりもよく知っている知識をもとにアドバイスを行ったり、経験を共有したりする。

伝統的なメンタリングとリバース・メンタリングでは、さらに目的や期待される効果も異なってくる。伝統的なメンタリングの場合は、上述の通り、知識や経験に基づくアドバイスが交わされているのに対して、リバース・メンタリングの場合は、若手の持っている知識や経験をシニアに伝えるのみならず、若い潜在力が組織的なイノベーションのドライバーになったり、ダイバーシティのためのイニシアチブを執ったりすることが期待されていることが多い。さらに、高齢化する企業において若い社員がリーダーとして機能する機会は限られており、リバース・メンタリングが、若い社員がある種リーダーを演じることが出来る場になり得るとも考えられている。

企業の導入事例~文献調査から~

1. 海外の事例

2000年問題が議論されていた1999年、GEのジャック・ウェルチCEO(当時)が500名のトップ・マネジャークラスの社員に対して、「新しいICTの動向や使い方を自分に教えてくれる若い社員を見つけメンターとするように」と命じた(注1)。先行研究では、これを企業におけるリバース・メンタリングの最初の導入事例として扱っているものが多い。

ウェルチ自身も、自分のメンターとして37歳(当時)のメンティーを指名し、定期的に時間を確保して、インターネットなどの新しい動向について学習していた。トップ・マネジャークラスは、ウェルチに倣い、メンターとして20~30代の社員を指名し、彼が掲げる「インフォーマルで、メンティーの必要性によって実施され、メンターとメンティーの双方によって体系的な取り組みがなされる」よう実践した(注2)。

続いて、DellやP&G、ゼネラルモーターズ、フィリップモリス、3M、シーメンス、ウォールストリート・ジャーナルなどが導入した。2000年代の初めにリバース・メンタリングを導入した企業の目的は、あくまでも新しい「ICT」に着目したものであった。これがリバース・メンタリングの第一フェーズである。第一フェーズでは、シニアの社員が若手社員から、インターネットやパソコンのスキルを学んだり、新しいICTサービスの使い方を教えてもらったりするようなことが中心で、技術に関する情報交換が主軸となっていた。

その後、P&Gは「ダイバーシティなど新しい視点やバイオテクノロジーなど新しい技術を必要とする役員向けのプログラム」(注3)として活用するようになり、広く「知識」が獲得できるような仕組みへと変化していった。これが第二フェーズである。第二フェーズでは、ICTに加え、バイオテクノロジーなど進歩が著しい専門分野の知識交換がなされるようになり、世代間の知識移転が注目された。この場合の知識の移転は、熟練のそれを若手に伝えるのではなく、あくまでも新しい知識を持つ若手がシニアに伝授するのである。

そして第三フェーズでは、ICTとダイバーシティに加えて、インクルージョンやLGBTなどに対する新しい考え方や、その時代ならではの新しい「感覚」を共有することで社員間の相互作用が促進することが期待されている。第一から第三への流れを図表1に示す。

【図表1】リバース・メンタリングのフェーズの特徴
【図表1】リバース・メンタリングのフェーズの特徴

ゆとり世代、ミレニアル世代、ジェネレーションYなどと呼ばれる若い世代が入社したが、彼らはそれ以前の社員とは異なる感覚や価値観で育てられており、新しい視点や感覚を持つ存在であると考えられている。情報にしろ知識にしろ感覚にしろ、何等かの世代間のギャップがあり、それを解消するための手段として、しかも若手優位での移転が起きる場が、リバース・メンタリングである。

海外事例は少なくはないため、ケーススタディをもとにリバース・メンタリングの特徴を列挙したり、効果測定や、リバース・メンタリングが成功する要因などを分析したりする研究が進んでいる。例えば、成功するリバース・メンタリングには、①ヒエラルキーが逆転している(通常のヒエラルキーに依存しない関係性を構築できる)、②知識共有・文化や世界観の共有ができる、③能力のブラッシュアップができる(専門教育、知識移転、若手のリーダーシップ育成)、④相互的なコミットメントと相互学習ができる(良質な関係性の構築)という4つの特徴が挙げられている(注4)。

また、通常のメンタリングにおいても社員間の良質な関係性は潤沢なソーシャル・キャピタルを形成することが分かっているが、リバース・メンタリングを通じたコミュニケーションもその一つになり得る(注5)。

2. 日本の事例

日本では、2004年にP&G日本本社の取り組みが「逆メンター」として紹介され、これが最初の事例となっている。あるケースでは、日本本社に勤める外国人社員が、自分よりも等級が高い米国本社の役員のメンターとなってアドバイスをしていた。職場でのキャリア形成を優先して子供をもたなかったメンティーである役員に対して、子育て経験のあるメンターが、子供を持つ社員の悩みなどを代弁してアドバイスを行っていた(注6)。

最近では、2017年3月に資生堂の事例が「部下が上司に教育」をするというコンセプトでニュースになった。「社長から執行役員までの役職者約20名を対象に一人ひとり20~30代の若手のメンターが付く。メンターは月1回、スマートフォンや交流サイト(SNS)の使い方から消費者の動向などIT機器にまつわる様々な事象を説明。学んだ内容を役員は担当部門で活用するよう求められる」(注7)。

しかしながら、これら以外の事例がなかなか挙がってこない。先進的にリバース・メンタリングを導入していた外国企業は第三のフェーズを迎えているとはいえ、日本企業にはまだまだ馴染んでいないと考えられる。資生堂の事例は、海外事例と比較すると、まだまだ第一フェーズにとどまっている。

もちろん、リバース・メンタリングや逆メンターという言葉を使わずに、若手がシニアに対して自分が持っている知識を提供したり、実体験からアドバイスを行ったりする事例は存在する。例えば、富士通ソフトウェアテクノロジーズでは、アジャイル開発を導入しているチームがあり、その中ではペアリングで一緒になった同僚とともにソフトウェア開発をする中で、上下関係を超えた様々なコミュニケーションがなされている。

日本におけるリバース・メンタリングの実態把握~アンケート調査から~

日本企業での導入にあたっては、懐疑的に捉えている企業が多いのではないかと考えられる。そもそも、「若手から学びたくない」と思っているシニア社員や、ヒエラルキーを重視するあまり「部下が上司に教育をするなど論外だ」と考えている管理職層社員もいるだろう。

富士通総研では、2017年3月に「経営に関するアンケート調査」を実施した。実施機関は株式会社日経リサーチ、調査対象は株式会社日経リサーチの調査モニターのうち、a. 従業員規模5,000人以上の企業に勤務する20歳以上の正社員、b. 従業員規模300~5,000人未満の企業に属する20歳以上の正社員である。合計9,738人の回答が得られた。うち、製造業に従事する回答者は4,043人(41.5%)、非製造業は5,695人(58.5%)であった。

図表2は、日本におけるリバース・メンタリングの実施状況である。「①会社・部署で公式にリバース・メンタリング制度を導入している」「②リバース・メンタリングという名前ではないが、年齢や職位が高い/経験豊富な社員が、年齢や職位が低い社員からメンタリングを受けている」「③自分自身が、自分より年齢や職位が低い社員からリバース・メンタリングを受けたことがある」「④自分自身が、自分より年齢や職位が高い/経験豊富な社員にリバース・メンタリングを行ったことがある」「⑤いずれにもあてはまらない」と答えた人の割合を示している。①~④は複数回答であるが、複数の経験があっても1回答とみなしている。この合計は全体の15.6%に過ぎないが、企業は、リバース・メンタリングという呼称での取り組みは少ないものの、年齢や職位が高い/経験豊富な社員がそうでない社員からメンタリングを受けるような何等かの場づくりを行っていることがわかった。84.4%の回答者は、①~④のいずれにも該当せず、リバース・メンタリング又はリバース・メンタリングのような立場が逆転したメンタリングの経験がない人であり、こちらが大多数を占めている。

【図表2】リバース・メンタリングの実施状況
【図表2】リバース・メンタリングの実施状況

上記①~④の回答者に対して、どのような効果が得られたのかについて尋ねたのが図表3である。回答は「非常にそう思う・どちらかといえばそう思う・どちらともいえない・どちらかといえばそう思わない・まったくそう思わない」の5段階である。「どちらともいえない」に回答が偏ってはいるが、「リバース・メンタリングは、会社・部署全体に有益な結果や成果をもたらす」という項目において、44.1%が「非常にそう思う・どちらかといえばそう思う」と回答している。同様に「お互いに信頼できる関係を築くことができた」は40.9%、「仕事上の課題を克服し、より効果的なアプローチをとることができた」は40.2%であった。

我々は、年功序列によって、年齢や勤続年数がヒエラルキーの中で重視されがちな上意下達の日本企業では、目下の社員が目上の社員に助言をする制度は馴染まないのではないかと想定していた。制度そのものに対する否定的な意見は無視できないとはいえ、「リバース・メンタリングのような制度は、私の会社の企業文化には合わない」は29.9%と意外にも少なかった。

【図表3】リバース・メンタリングの効果
【図表3】リバース・メンタリングの効果

「リバース・メンタリングは何に有用か」という期待感を示したのが図表4である。この質問は、リバース・メンタリングの経験の有無に関わらず、全ての回答者に期待感を聞いた。その結果、「非常にそう思う・どちらかといえばそう思う」という回答が多かった項目は、順に「RM3:問題が生じた時に相談しやすい(45.2%)」「RM10:会社の中での人脈が増える(44.6%)」「RM2:仕事に関するアドバイスや考え方を知りやすくなる(44.2%)」「RM5:相手との対話によって自分を見つめることができる(43.0%)」「RM7:お互いを思いやる気持ちが出てくる(42.4%)」であった。

仕事に役立つ知識や情報や人脈を獲得する場として期待している点は、ダイバーシティの観点からリバース・メンタリングを活用してきた先行事例と同様である。さらに、悩み事を共有してお互いに助けやすい雰囲気をつくったり、さらに自分を見つめなおしたりすることへの期待感を持っていることがわかった。この点は、伝統的なメンタリングでもそうであるが、社員間の良質な関係性が潤沢なソーシャル・キャピタルを形成するという先行研究で確認した通りである。

一方で、「RM8:価値観や宗教観、哲学などの世界が広がる(23.4%)」「RM9:会社に愛着がわいてくる(25.4%)」「RM4:自分が知らなかった趣味や娯楽について世界が広がる(36.3%)」については懐疑的である。これらのことから、仕事以外の情報よりも、仕事を効率的に進めるための情報が重視されていることがわかる。会社に対する愛着が増すかどうかについては、メンタリング以外にも要因が考えられるため、低い値になっていると推察できる。

【図表4】リバース・メンタリングへの期待
【図表4】リバース・メンタリングへの期待

リバース(逆)からレシプロカル(相互)へ

伝統的なメンタリングには、経験豊富なシニアのメンターと若手のメンティーという上下関係が存在する。また、リバース・メンタリングにおいても、その立場が逆転するだけで、やはり上下関係は存在し、結局「誰が上の立場なのか」という意識を払拭できない。誰かが誰かを指導する、教育する、育成する、という立ち位置を作ってしまうと、上下の関係性が自然と意識されてしまう。そうではなく、お互いが気軽に知識を提供し合ったり、共感し合ったり、自分を見つめなおしながら新しい感覚を身に着けたりするレシプロカル・メンタリングの形が求められている。レシプロカル(reciprocal)とは、「お互いの、相互の、互恵的な」という意味である。変化が激しく、複雑な社会においては、伝統的なメンタリングとリバース・メンタリングの両方が重要であり、年齢に関係なくお互いがお互いから学ぶことが不可欠となる(注8)。

IDEOのパートナーであるトム・ケリーは、日本の経営者がさらに革新的になるためにはリバース・メンタリングが有用であると述べている(注9)。リバース・メンタリングを導入したからといって、職位に基づく既存のヒエラルキーが消滅するわけではない。若い社員が持っている新しい知識を経営層が積極的に取り入れることによって、イノベーションのための戦略としてリバース・メンタリングを活用する方法もある。実際に、P&Gではダイバーシティなど新しい視点やバイオテクノロジーなど新しい技術を必要とする役員向けのプログラムとして導入していた。

また、1999年にリバース・メンタリングを導入したGEのジャック・ウェルチCEO(当時)は、「コミュニケーションの最もよい形は双方向のものであるため、リーダーは常に組織のあらゆる部署、あらゆる層の人と対話するように心がけるべき」(注10)という考えを持っており、リバース・メンタリングの場においても双方向の姿を自らが示していた。

今後は、お互いが対等の立場で相互に影響を及ぼし合うことができる場づくりや、組織戦略としての活用が鍵となる。

注釈

  • (注1)
    Greengard, S. (2002) “Moving forward with reverse mentoring,” Workforce, Vol.81 No.3, p.15
  • (注2)
    Madigan, C.O. (2000) “It’s not your father’s mentoring program,” Business Finance
  • (注3)
    Solomon, M (2001) “Coaching the boss.” Computerworld, Vol.35 No.5, p.42
  • (注4)
    Murphy, W.M (2012) “Reverse mentoring at work: Fostering cross-generational learning and developing millennial leaders,” Human Resource Management, Vol.51, No.4, pp. 549-574
  • (注5)
    Ibid.
  • (注6)
    2004年11月22日 日本経済新聞夕刊「逆メンターが上司を育成」
  • (注7)
    2017年3月14日 日本経済新聞電子版「資生堂、若手社員が上司を教育」
  • (注8)
    Gonzales, C., and Thompson, V. (1998), “Reciprocal mentoring in technology use: Reflecting with a Literacy Educator,” Journal of Information Technology for Teacher Education, 7, 2, 163-176 ならびに Harvey, M., McIntyre, N., Thompson, H., and Moeller, M. (2009), “Mentoring global female managers in the global marketplace: traditional, reverse, and reciprocal mentoring,” The International Journal of Human Resource Management, Vol. 20, No. 6, 1344-1361
  • (注9)
    2015年11月4日 日経産業新聞「経営者に年下の助言を」
  • (注10)
    ジャック・ウェルチ「連載 J.ウェルチが指南:大変な時代の生き方~新リーダーとして最高のスタートを切るためのカギとは」 PRESIDENT 2010年1月18日号
吉田倫子

本記事の執筆者

経済研究所
主任研究員

吉田 倫子(よしだ みちこ)

 

2001年富士通総研入社。日本経済研究センター、欧州委員会(ベルギー)税関税同盟総局付加価値税局研修生を経て、現在に至る。

ニック

本記事の執筆者

経済研究所
研究員

Nick Ogonek(ニック・オゴネック)

 

リバース・メンタリングやダイバーシティに関する組織的な取り組みに着目し、会社と社員の関係性、社員間の関係性などが社員の行動をどのように変えるのかについて研究している。

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