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  5. 常識の鎖を解き放つ、デジタルビジネスの変

常識の鎖を解き放つ、デジタルビジネスの変

常識の鎖を解き放つ、デジタルビジネスの変

2018年8月20日

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次から次に生まれてくるキーワードを錦の御旗にして企業が変革を推し進めるのは今に始まったことではない。近年のテクノロジーの発展によって、私たちの生活は大いに便利になったことを実感するが、便利さだけでなく知らず知らずのうちに押し付けられていた暗黙の制約から解放されて「こんなことがやりたかった」を提供するコトに着眼した企業の時価総額評価が高くなっている。これがGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazonというデジタル市場で急成長を遂げているプラットフォーマー4社を指す表現)に代表されるような成功事例を学ぶべき視点だと考える。その切り口の1つが「デジタルビジネス」というキーワードだろう。

1.「デジタル化」がもたらす主客転倒

従前よりアナログ信号をデジタル変換する技術は進展してきた。アナログの音を分解(サンプリング)して数値に変換するデジタル化、その際どれだけ微細にサンプリングできるかという分解能が変換品質基準の1つである。昨今のデジタル化という表現は、従来は面(マス)で製品やサービスを提供してきたものを、個々人ごとに、さらには個人の時間帯ごとなどに分解して、そのタイミングに合った価値を届けるという文脈で使われることが多い。さらに、やりとりを片方向ではなく双方向に実現するIoT技術が進展し、大量データに裏付けられたパーソナライゼーションが可能になった。

【図】個別照射機能で進化するライティング技術
【図】個別照射機能で進化するライティング技術

その結果、サービス提供者が利用者に均一なサービスを提供するマスマーケティング的なビジネス常識から、サービスを受ける利用者側が複数の好みのサービスを組み合わせて利用するスタイルに選択主導権が移っており、デジタル化がもたらす主客転倒が生じている。従来私たちは、提供者が権力(プロダクト)を一方的に提供する構造の中で、様々な既得権益を持った事業者がインテグレーターと称して中間利益を得るビジネスモデルが社会の常識であることに疑問を持っていなかった。しかし、インターネットの普及によって多様な情報に触れられるようになり、自分の思考・行動に染みついている目に見えない「象の鎖」に気がつく人が出現し始めた。その鎖とは「無意識のうちに不便から目を背ける習性」であり、「これって本当はもっと便利にできるのでは?」と思っていても「こんなものだから」と蓋をすることだ。しかし、ネットを通じて私たちの生活を囲む障子の外に目を向けてみると、提供側が定めたサービスを既製服的に受け取ることに疑問を持ち、欲しかったサービスを自ら選んでオーダーメイド出来ることに気が付き、しかも本来は不要な既得権益者を中抜きする、フラットな構造の潮流が出現していることに気が付く。個人間を直接繋ぐサービスやシェアリングなどはそういった事例の一つだ。これはICTをはじめとした様々な技術により、利用者を主人公にした多様なストーリー作りが可能となったこと、それが新たな常識として受け入れられ始めているということだ。このような主人公の逆転現象に気がつかない企業がビジネスの変化に取り残され始めている。この流れを先取りして変身することこそが企業にとって必要な「デジタルトランスフォーメーション」だが、その実践のためには経営者には企業にとって既存の権力が失われる過程を感知して受け止め、手を打つ勇気が求められる。経営者にとって見たくないことを見ようとすることこそが事業継続の要である。

2.利用者の内部に潜む鎖を炙り出す

「無意識のうちに不便から目を背けている」と言うものの、無意識だからこそ意識できないことがジレンマである。多くの人にとって、実は不便であったとしても不便だと感じていない部分に光を当てるのは難しい。なぜなら、無意識のうちに生まれ育った環境や考え方に囚われたゆでガエル状態になっているからである。「モノからコトへ」というのも、本当は何をしたいのか考えるべしという意味であるが、コトを見つけるのはとてもハードルが高い。

例えば、世界中の美術品のデジタルアーカイブがもたらすコトは何だろう。私は美術品を尊敬するあまり、美術館という場所で自分の目で本物を鑑賞するべきものだ、その場で見ることが自分を磨くことだと無意識に考えてきた。それが容易に距離空間を超え、360度自由な視点で鑑賞できることは後ろめたさを感じつつも、とても「便利」だ。それだけでも利用者主権に移行していると言えるが、さらに美術品だけでなく作者とその生活様式にまで思考を広げ、作者が世界中を旅しながらかの地に与えたであろう影響を類似作品や年代推移によって知ることができると、作者が生きていた社会背景をよりリアルに体験することができそうだ。私は、本当は作者に成り代わった体験をしてみたかったのではないか。その体験を通じて、実は自分の気づかなかった次の好奇心を見つけたかったのではないか。もちろん、デジタルアーカイブを支える認証技術やAI技術などの進化による功績であることは疑いの余地はないが、アーカイブの国境を越えた相互流通には抵抗勢力も多いだろう。

今昔問わず、経営者にとっては無意識という内部に潜む鎖を炙り出すことがビジネス拡大の課題であり、多くの専門外の事実に触れて閃きを得る場を意図的に作ることが有益だ。近年は特に、デジタル化という名の主客転倒が起きつつある環境だからこそ、あちらこちらで開催される「無意識に潜む不便を見つけようワークショップ」はハッカソンやコンテストなどの様々なスタイルで価値創造アプローチの一部として実施されている。そういったセッションを行う際に私たちが留意していることは以下2点だ。

  1. 多くの常識に触れる
    利用者が気づいていない不便を見つけるのに、いくらサービス提供側の人だけで議論しても期待できないことは自明の理である。他人の常識は自分の非常識であるが、だからと言って蓋をしないことが、身近に多くなった未来洞察ワークショップやハッカソン、アイデアソンといったイベントでの自分のゆでガエル思考の発見に通ずる。フィールドワークと呼ばれる現場の観察も有効な方法だ。
  2. 承認を連鎖させる
    人間、本当は何をしたいのかと問われて答えられはしない。しかし、他のメンバーのアイデアに共感することは比較的容易い。共感するポイントを意識的に表明し、いわゆる承認することでメンバーはやりたいコトを炙り出すきっかけになる。無意識を炙り出すには他人からの承認の連鎖が効果的で、その過程で自分の思い込みを超えて、「そうだったのか」という気づきにつながりやすい。「いいね!」の連鎖も有効だ。

3.価値創造アプローチとして再注目されるデザイン思考プロセス

最近、既存ビジネスの付加価値を高めるだけでなく、デジタル化技術を自社のビジネスに取り込み、ビジネスモデルを大きく転換することを目指したデジタルトランスフォーメーションを試行する企業が増えてきた。技術だけでなく、資金調達のハードルも下がってきて、アイデアを素早くカタチにしながら徹底的に利用者に向き合い、利用者さえも気づかなかった価値を創りあげることにステークホルダーも理解を示し賛同してくれる。イノベーションを求める経営者にとっては、事業の舵を切るのに絶好の環境が整ってきている。

では、アイデアを抽出しビジネス化を考えていくためにはどのような検討方法が良いのだろうか? ここで改めて注目され直しているのが「デザイン思考」だ。この手法は、アメリカのデザインコンサルティング会社IDEOが長年行ってきた手法を方法論化して「デザイン思考」と呼び始めたことで、2001年以降、一気に広まったものであるが、決して目新しい考え方ではない。一連の検討プロセスでは、アイデアを簡単なプロトタイプとして形にし、想定するエクストリームユーザーに使ってもらうことで、アイデアの有用性を確認しながら進めることが推奨されている。

このデザイン思考は、最終的に利用者の求めるコトなのかという有用性、技術的・組織的実現可能性、ビジネスとしての持続可能性の3つが重なる解決策の創出を目指すものである。私たちはこの手法を研究、実践し、顧客の既存業務の効率化だけでなく、新たなビジネス創造を支援してきた。とはいえ、この手法を取り入れればうまく行くというわけではなく、様々な要因により頓挫するケースの共通点が分かってきた。

4.デザイン思考プロセス、活かすも殺すもトップ次第

デザイン思考プロセスは創造的でイノベーションにつながるアイデアが生まれる魔法の杖ではない。利用者内部に潜む鎖は、企業の組織プロセスにも深く潜んでいて、意思決定を蝕んでいる。デジタルネイティブが組織の中核となっている現在、権力の主客転倒は組織マネジメントにも生じるべきだが、経営層にとって権力を奪われる感覚は受け入れにくい。本気でデジタルトランスフォーメーションするには、トップの覚悟が透けて見えるような、時間の使い方へのこだわりが最も重要だと考える。

そのこだわりの1つは、机上の調査や検討に時間をかけすぎないことである。ユーザーニーズに応えるなら、広く市場調査からマーケティングするだろう。しかし、無意識の中の果実を炙り出すには、社内のコンセンサス作りを重視するあまり半年間を机上検討に費やしてしまうような手順では徒労に終わるだけでなく、競合に先を越されてしまうかもしれない。根回しを求めないことも覚悟の1つではないだろうか。

その一方で、早期に結果を求めすぎないトップの忍耐力も必要だ。ステークホルダーへの説明をPLやBSという短期数字だけに頼るのではなく、GAFAを例に挙げるまでもなく時価総額による評価も念頭に置いて、トップとして会社の未来を創るための試行錯誤の狙いを丁寧に説明することに重点をシフトすることだ。価値創造を担うチームに問いかけるべきは、「ビジネス規模は?」「市場拡大性は?」「成功事例はないのか?」「他社はどうやっているのか?」「失敗しないだろうな?」「いつまでにできる?」 といった経営者自身の安心を求める問いではない。「ユーザーの課題は?」「何に共感できたか?」「仮説は何か?」「どんな発見があった?」「失敗から何を学んだ?」「今、探究しているのは?」というような、主人公であるメンバーの気づきを加速する問いにシフトすることだ。

5.価値創出アプローチの3つの課題

デジタルビジネスという何となく正体の分からない風が吹いている今、主客転倒が起きつつあるのは紛れもない事実であり、企業にとっては賢くビジネス主権を考えるチャンスである。組織プロセスに潜む暗黙の非常識を炙り出すチャンスでもある。そのチャンスを活かすために、いくつかの課題を認識しておくことが大切だ。

第一の課題は、「新たな価値の創出」という言葉が、何となく浮ついていて地に足がついてないと感じることだ。将来目指す姿を考える際にコトや社会善を直感的にイメージすることが必要ではあるが、それを言葉で伝えることに焦点をあてていないからだと考える。1人の発想を広く共感してもらうためには、その発想を論理的に説明することが求められる。新たな価値をゆでガエル状態の人に訴求するには、「なるほど!」と直感的に共感してもらうプロトタイプ手法が有効ではあるが、コトを論理的な言葉にして価値や目的を論理的に訴求することで、感情と理性の両面から価値訴求することが必要だ。

第二は、抵抗勢力への対応だ。抵抗勢力の養分は、縦割り状態がもたらす不便さではないだろうか。利用者ファーストが浸透し、縦割りの境界が一方的に押し付けられていることに気がついた瞬間に利用者はより良いサービスを求めて顧客でなくなってしまう。すると、抵抗勢力の養分も枯渇してしまうことを理解してもらえるような黒船の役割を誰に求めるかを早い段階で考えておくとよいだろう。例えば、地域活性化テーマは特定地域起点の議論ではなく、利用者のコトを実現するために複数地域の資源を活用するスタンスに変えていく必要があろうが、黒船役を国際団体か行政か、あるいはアニメのような文化コンテンツに担ってもらうシナリオを考えるのも有効だろう。

第三は、組織の中での評価の問題だ。新規事業や新サービスの開発は試行錯誤の連続であり、結果としてうまくいかないことのほうが多いと言っても過言ではない。しかし、一度うまくいかなかったとしても、ビジネスモデルの変革(あるいは、デジタルトランスフォーメーション)という点ではスピーディーにトライ&エラーをすることを奨励し、それを組織に根付かせるような評価制度の再定義が必要になる。例えば、会社の一部ではあるが地理的に離れて、本社とは異なるルール・文化を許すような、「出島組織」を導入するケースがある。あるいは、社長直下にイノベーション推進部門を創設するとか、本社から切り出して独立して事業を行わせるといったケースも増えている。

6.経営者を鎖から解放するデジタルビジネス

会社の存在価値を再定義し、時代に合わせて業態を変化させ、経営者の先見の明を象徴する事例は過去から多く知られている。企業としての慣習や価値観変化を従業員全体に浸透させ、業態変化できたからこその成功事例で、強力な推進力を持つ経営者の実績である。デジタル化という潮流を機会と捉えるのは容易なことではない。しかし、周りを見ると、企業が変化することに賛同されやすい環境が整ってきており、利用者が「こんなことをやりたい」と主張することが受け入れられているのと同様に、経営者も従来の鎖を断ち切って「こんなスタイルに変化したい」と主張してもよい環境になっているのではないだろうか。自社の外で起きている様々な事象が瞬時に共有されるようになって、「無意識の不便」を錦の御旗として捉えることが社会の大きな共通善になっている今こそ、過去や慣習のしがらみに縛られずに経営者の思いを実現する絶好の追い風が吹いているのではないだろうか。

細井 和宏

本記事の執筆者

執行役員
エグゼクティブコンサルタント

細井 和宏(ほそい かずひろ)

 

富士通株式会社入社以来、電力および製造業担当のSEとして業務システム開発/PMに従事。
2006年より株式会社富士通総研でビジネスコンサルティングに従事。製造業のお客様を中心に業務改革、グローバルERP戦略策定、IoTビジネスに関わるテーマを深耕。直近では、事業継続をテーマに、自然事象への危機対応プラン策定だけでなく、サイバーセキュリティ事案への対応まで幅広く捉えた組織レジリエンス強化に取り組んでいる。

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