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新規事業創造の第一歩―ユーザーが本当に欲しがるものを見つけるために現場で問いかけ解を探る―

新規事業創造の第一歩

―ユーザーが本当に欲しがるものを見つけるために現場で問いかけ解を探る―

2018年8月20日

opinion2018-8-1

「革新は辺境から」という言葉に表されるとおり、業界で影響力を持っていた大手企業をスタートアップがあっという間に追い越してしまうケースは枚挙に暇がない。業界のルールを一変させ、追い越された企業は衰退していく。いわゆるディスラプション(破壊)である。こうした脅威にさらされている背景もあって、昨今、ビジネスモデルの見直しや新たな事業創出に関わる相談が増えている。しかし、その位置づけや方針が不明確なまま、いわゆる「デジタルビジネス」に取り組むケースがみられる。本稿では、新たな事業創出初期段階にフォーカスし、つまずきやすいケースを見ながら、製品やサービスの使い手であるユーザーにとっての価値を探索する必要性や取り組み方について触れる。

1. 新規事業を始める前に顧客を直視し、自社の課題を問い直す

―――VUCA、GAFA、OODA、IoT、デザインシンキング、アジャイル、リーンスタートアップ(注1)―――昨今、世間を賑わすキーワードだ。特に企業の新規事業の担当者はよく耳にするのではないだろうか。

次から次に生まれてくるバズワードを謳い文句にIT事業者がビジネス活性化を図る動きは今に始まったことではないが、確かにテクノロジーの発展は目覚ましく、人々の生活を豊かにすることに一役買っているのは間違いない。また、企業活動においても、それこそGAFAに代表されるように事業とテクノロジーを一体化させ、新たな価値を提供し、成功を収めている事実は無視できないだろう。こういったことを「デジタルビジネス」と表現し、自社でもできないものかと模索する企業が増えている。

【イメージ】
【イメージ1】(画像:Getty Images)

しかし、冒頭のようなバズワードありきで取り組みを考えるのではなく、自社を取り巻く環境の変化を見つめ、「何が本当の課題であるのか」を今問い直すことこそが肝要なのではないだろうか。具体的には、自社の顧客を直視したときに、自社だけでなく業界の構造はこれでいいのかと問いかけ、自社の変革課題を見出すことだ(注2)。それは、顧客の嬉しさからみた時に、現行の業界慣習、ビジネスモデルや仕事のやり方を前提にせずに、本来どうあるのが良いのかを検討することを意味する。場合によっては、そもそも「自社の顧客が誰なのか」から定め直す必要もある。そのように課題を問い直す中で新規事業がどう位置づけられるのか、その方針は何かを明確にすることが大事だ。例えば、現在の顧客に対して新たな価値を付加するサービスを立案すべきなのか、現在とは異なる顧客に対して自社の既存資産を活用して価値を届けるための事業開発をすべきなのかによっても取り組み方は大きく変わるからだ。(注3)

以上を踏まえ、本稿では新たな事業創出初期段階にフォーカスしてどう取り組むべきかについて紹介する。

2.新規事業創出初期は価値探索の繰り返し

世の中で上手くいっているケースをシンプルにまとめると(1)製品やサービスの使い手となるユーザーのことを理解し、(2)ユーザーの真に解決すべき課題とそれに対する最適な解決策を見つけ、(3)その解決方法を受け入れてくれる市場を見つけ、(4)最終的に事業として拡大するという段階を踏んでいる。もちろん、他のやり方が全くないというわけではないが、売れないリスクを最小化するという観点からユーザーを中心に据え、各段階で仮説検証を繰り返し大きく育てていくという点で有用だ。

一見当たり前のようにも見えるが、これが意味していることは何だろうか? 特に着目したいのは(1)や(2)である。事業創出の初期段階において万人受けするビジネスアイデアである必要はないということが言えるのではないだろうか。言い換えれば、まずはたった1人のユーザーが心の底から「お金を出してでも、そのアイデアを買いたい」というところにいかにたどり着けるかということでもある(注4)。そのためには自ずとユーザーのことを深く知り、一体何が価値になるのかという探索が必要となる(注5)。つまり、ユーザーとの対話を通じて積極的にアイデアの死角を見つけ、間違いに気づき、自身の持っている仮説を修正・変更することだ。それを積み上げて初めて(3)、(4)へとつながる。

しかし、日本企業は意外とこの初期段階でつまずくケースが少なくない。事業創出の現場において、以下のような事象が発生する。これらの多くは確立された既存事業を持つ企業が取り組む際に生じるものでもある。

  • 現場に行くことなく机上での企画立案に終始する
    「失敗したくない」という思いから机上での企画づくりに時間をかけすぎてしまうケース。精緻な企画作りと言えば聞こえはいいが、万人受けするものにしようと机上で理屈をこねるだけでは本末転倒になってしまう。
  • 突飛なアイデアを生むための発想法ばかりに目が行く
    ユーザー課題の設定よりも独創的なアイデア発想にばかり意識が行くケース。発想法自体は否定するものではないが、ユーザーを理解することなく発想しても空砲に終わってしまう。
  • 生み出したアイデアに固執する
    1つのアイデアに固執してしまい、方向転換する勇気が持てないケース。時間が経つほど、「これだけ予算とリソースを割いてしまった」と心理的に方向転換がしにくくなりがちだ。

このような事象は活動に投入した時間に対して得られるものが極めて少ないまま終わるという結果を招いてしまう。実際にユーザーがいる現場に行くことなく机上での企画検討で半年が経ってしまったといった話も聞こえてくる。

【イメージ】
【イメージ2】机上の検討に終始し、現場での価値探索を行うことなく重厚長大な企画を練ってしまうのは、つまずくケースの1つだ。(画像:Getty Images)

そのため、私たちは活動の第一歩としてクライアントの新規事業の方針を設定したうえで、製品やサービスの使い手となるユーザーにとっての価値を探索することを強く勧めている。仮に机上で検討したものの何らかがうまくいって世の中に送り出せたとしても、ユーザー目線に立った価値の検証ができていないことから結局使われないものになってしまうという可能性も高いからだ。また、このような活動をスピーディーに繰り返すことで、価値の確からしさを上げていくことが重要である。

そこで、私たちは、上記の(1)ユーザーのことを理解し、(2)ユーザーの真に解決すべき課題とそれに対する最適な解決策を見つける入口に該当するプログラムを開発し、クライアントに提供している。これは最短2週間で価値探索を実施するもので、スタートアップが用いる考え方・方法論をベースにし、クライアントと富士通グループのエンジニア・デザイナーの共同プロジェクトでの実践を通して生まれたものでもある。

3.まずはユーザー価値の探索を高速で行う

このプログラムでは、ユーザー課題を設定し、必要最小限の解決策をプロトタイプという目に見える形にし、実際にユーザーにぶつけて価値の検証を行う。一連の活動を通じてユーザーの課題・ニーズをより深く理解することを目的とする。そのため、プロトタイプはあくまでユーザーにとっての価値を検証するためのものであり、製品・サービスそのものの開発を進展させるものではない。

プログラムの水先案内人は事業創造に関わるファシリテーション経験を有するコンサルタントが担い、プロトタイプの開発は専門エンジニアが担う。必要に応じてUX/UIデザイナーも参画する。

実施時にはクライアントと共同のチームを2つほど作り、同時並行でそれぞれのアイデアの価値探索活動を進める。クライアントと共同で検討するのは最短で3日間(残りはプロトタイプの開発期間となり、専門エンジニアが担う)だが、クライアントの目的や状況によって推進する内容を個別設計することもある。基本的な流れは以下だ。

【図1】ユーザー価値探索プログラム
【図1】ユーザー価値探索プログラム

  • 事前準備:新規事業の位置づけ整理、テーマに関わる情報収集、体制の構築を行う。
  • Day1:顧客インタビューや現場観察を行い、課題の設定とアイデア創出を行う。
  • プロトタイプ制作期間1:約1日でモックアップ(簡易のプロトタイプ)を開発する。
  • Day2:モックアップをユーザー視点でレビュー。課題を深掘りし、解決策のアイデアを練り直し、何を検証するのか、そのためのプロトタイプの要件を決める。
  • プロトタイプ制作期間2:4~5日かけて必要最小限のプロトタイプとしてICTプロトタイプ(Webやアプリ)を開発する。
  • Day3:ユーザーに実際に触ってもらい、フィードバックを受ける。学びをまとめ、今後の活動計画を立案する。

最終アウトプットは、価値探索を通じて学んだ内容のレポートと今後のアクションになる。本プログラムに取り組んだクライアントには、手応えを得て時間とリソースをさらに投入して継続的な価値探索に移行するケースもあれば、何がダメなのかがわかったことによって解決すべき課題の設定を抜本的に変えたケースもある。また、小さく成果を出しつつ並行して全体構想を策定し、展開プランを考える例もある。いずれにしてもスピーディーに価値探索を実践したことによって得られた成果と言える。ユーザーへのアクセシビリティなどのいくつかの条件をクリアすれば、一般コンシューマー向け(BtoC)新規ビジネスだけでなく、法人向け(BtoB)にも適用可能なものであり、すでにどちらも提供実績がある。

4.活動を通して、自社が、そして自分自身がどうありたいかに向き合う

この手の活動をすでに自社内で取り組んだ方も中にはいることだろう。その際に注意したい点が1つある。ユーザーの声を聞いて、言われたままに反映するだけではないということだ。価値探索を通してユーザーへの理解を深め、ユーザーすらまだ気づいていない解決すべき課題や解決策の発見を目指すのはもちろんだが、忘れてはいけないのが「自社はどうありたいか」に向き合うことである。さらに言えば、推進する当事者自身がどうありたいのかが問われることでもある。それは詰まるところ、なぜ取り組むのかが主観的に納得できるかどうかということである。これは活動の原動力にもなり得るもので、「自分ごと化」とも言える。逆に言うと、それがなければ、どこかで壁にぶつかる。

【図2】自分自身がどうありたいかに向き合う
【図2】自分自身がどうありたいかに向き合う

では、どうすれば主観的に納得できるものが見つかるのだろうか。本稿で紹介したような活動を行うこともその1つと言えるだろうし、自身の原体験と照らし合わせて課題を解決したいと思えるかどうかという切り口もある。また、所属する組織の取り組みの歴史を振り返り、何を大切にしてきたのかをヒントにするというやり方もある。

この分野でのクライアントとの活動から気づいたことがある。それは推進担当者の多くが企業の縦割りの組織の中で特定の業務経験に閉じているケースが多いということだ。つまり、すでに確立された事業領域の中で分業化された業務や組織の同質的な価値観のもとで働くことが当たり前となってしまっているために、自社や自分を冷静に認識することが難しくなっているのではないか、ということである。結果的に自分たちの“村”のルールや常識が、自分たちの視野や視点を限定させ、活動の足かせになっているというわけだ。

5.縦割り、専門分化された “村”から一歩外に出ることで自社の固定概念を壊す

このような状況に対して、自社という“村”から一歩外に出て、無意識のうちに当たり前だと思い込んでいたものに気づき、それを壊すことが必要になる。そのためには、外部セミナーの聴講などといった一方通行的なものではなく、短時間であっても他者とのインタラクションが発生するものをお勧めしたい。例えば、外部で開催されているアイデアソン/ハッカソンへの参加は身近に取り組めることの1つといってもいいだろう。共通のお題のもとで何かを一緒に作り上げることを通じて、日常的に接していた相手とは異なるプレーヤーやコミュニティと深く関わることができ、こういった新たなつながりと刺激から、固定概念を壊すきっかけを得られることが期待できる。また、このような他流試合ともいうべき体験を通じて、自分自身の創造性に自信を持つことができることもあれば、自社の強みや弱みに気づくこともあるだろう。

一見、新規事業創出に遠回りに聞こえるかもしれないが、担当者が縦割り組織の中で特定の業務経験に閉じているような場合は、自らが一歩外に出て他者に会い、短時間でも対話・協働することを通じて自社や自分の当たり前を見つめ直す視点を得ることを大切にしたい。それがひいては日本企業の新規事業創出の土台作りにつながると考える。

注釈

  • (注1):
    • VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字からとったもので、将来の見通しが簡単に立たない世の中であることを表す。
    • GAFA:現在、世界で最も影響力のある企業としてGoogle、Apple、Facebook、Amazonの頭文字をとったもの。
    • OODA:Observe(観察)、Orient(方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(実行)の頭文字をとった意思決定・行動における考え方。
    • IoT:Internet of Thingsの略。定義は論者によって様々だが、多種多様なあらゆるモノがインターネットにつながり相互に通信・連携することで新しい価値を生み出すという概念。
    • デザインシンキング:論者によって異なるが、人を中心に据えて課題と解決策を見出し、その技術的実現性、経済的持続性を含めて成り立たせる考え方。
    • アジャイル:イテレーション(反復)を重ねてソフトウェアを開発する方法。
    • リーンスタートアップ:構築―計測―学習のサイクルをベースとする起業や新規事業立ち上げのためのマネジメント手法。
  • (注2):
    自社の変革課題を見出すタイミングとして、例えば『ホワイトスペース戦略』(マークジョンソン、2011)では、ビジネスモデルイノベーションという文脈で業界における「競争基準」に変化が生じた時、予測不能な市場変化もしくはテクノロジー変化、政府の政策の劇的な変化を挙げている。富士通総研では、このような文脈において変革機会・課題を発見するコンサルティングや調査・情報整理による予測の範囲を超えたユニークな未来を見出すための未来洞察プログラムを提供している。
  • (注3):
    例えば、『新規事業開発の戦略と組織』(山田幸三、2000)では新規事業の使命として①脱本業、②新技術・新製品を活かす機会、③リストラに伴う人員の再配置、④組織活性化の一環、⑤多角化を挙げ、進出分野の例として①既存事業の補完分野・関連分野、②既存事業の関連分野、③既存事業の職能分野・サービス部門の拡充による新事業を挙げている。
  • (注4):
    『逆説のスタートアップ思考』(馬田隆明、2017)では、顧客の声をきちんと聞きつつも彼らの期待通りのものを作るのではなく、その声の裏に潜む、本当の欲求が何なのかを捉えることが大事であると主張している。その中で、初期段階には多数の人からそこそこ好かれる製品ではなく、少数の顧客が深く愛する製品を作ることの必要性、また、その方がその後大きく成長する可能性が高いことが述べられている。
  • (注5):
    『リーン顧客開発』(シンディ・アルバレス、2015)では、ベンチャーキャピタルが投資するスタートアップの75%が失敗することや、新製品の40%~90%は陽の目を見ることすらないことを指摘している。また、Microsoftであってもアイデアのうち想定通りの改善につながったものは3分の1であることや、Amazonは試しに出した機能のうち役立つものが50%未満であることにも触れ、仮説立案・検証による継続的学習によって顧客を開発していく必要性を述べている。
黒木 昭博

本記事の執筆者

コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ
チーフシニアコンサルタント

黒木 昭博(くろき あきひろ)

 

事業構造の変革、IT中期計画、テクノロジーを使った新規サービス開発のコンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体となって価値を生み出す「共創」を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。修士(経営学)。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。

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