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  5. 自律分散化する仮想空間と社会インパクト―仮想現実とブロックチェーンの展望―

自律分散化する仮想空間と社会インパクト―仮想現実とブロックチェーンの展望―

自律分散化する仮想空間と社会インパクト

―仮想現実とブロックチェーンの展望―

2018年7月6日

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現実空間と仮想空間は、常に相互に影響を及ぼしながら進化を遂げてきた。現実空間の情報の写しをモデルやデータとして仮想空間に形成、知識処理、あるいは可視化し、そこから得られる示唆を現実空間にフィードバックする。センシング技術やビッグデータによって、仮想世界の精巧さや知識処理の緻密さは急速に発達している。他方、近年のブロックチェーンをはじめとする新興技術は、協調分散的に仮想データを管理し、現実の社会システムにまでその影響を及ぼしつつある。これら重要技術の潜在的な関係を、従前の技術論を拡張し、空間(および時間)に着目して論じたい。

発展・拡張する仮想空間

VR(Virtual Reality)技術の著しい発展により、仮想空間の可視化およびそこでのユーザー体験が急速に拡張され、豊かになりつつあることは周知のとおりである。昨今では、可視化のみならず、仮想空間を現実空間の忠実なコピー(デジタルツイン)としていわば「実在」させて、社会的に利用する試みも始まっている。2018年4月、シンガポール政府主導による”Virtual Singapore”プロジェクトが始動した(図表1(a))。シンガポールの都市のあらゆるデータを仮想空間データ化し、都市計画、交通、建築その他の多様な行政管理に利用するものである。中心市街地を先行的に対象地域として完成像を描き、そのためのプラットフォームを構築している。建物や自動車、樹木等のテクスチャ(質感)まで再現した精度も大きな特長ではあるが、可視化そのものが目的ではなく、さらに建物の材質などの構造データや、外観上は不可視な設備情報なども紐づけて、維持管理にも活用していくとしている。

仮想空間の役割―モデル化と実証性

Virtual Singaporeのような仮想空間に関する社会実装以前においても、個別の工学分野において「モデル」という広義の仮想実体が既に実用化され、産業発展に大きく貢献してきたことは周知のとおりである。例えば、自動車の開発設計では仮想的に自動車を壁面に「激突」させて破壊性状や構造的な安全性を検討するシミュレーションが用いられてきた(図表1(b))。これにより、実物の実験に比べコストが削減され開発スピードが促進される。ただし、シミュレーションによって検討を進めるためには、事前にその妥当性を実物の現象と比較して検証する過程が必要である。

従前の工学技術では、実用に応じた限定的な空間領域や境界条件を与えて、「実験」を行ってきた。今日では、都市のデータや行動モデルの進歩もあり、都市空間と共に歩行者や自動車を仮想モデル化し、それらのインタラクションをシミュレートする技術も生まれつつある(図表1(c))。現実を忠実に再現した都市の仮想空間と組み合わせれば、仮想空間上のテスト走行、さらには<実証実験>にも発展しうる。

ここで重要なのは、モデルの「自律化(注1) 」であると考えている。中央制御したアルゴリズムによって人と自動車全てを予定調和した操り人形のように動かすのでは、実証的な意味は弱い。原理的に例えていえば、純粋に動作ルールなどを与えた仮想空間上の「自動運転車」に仮想空間上の「視界」を「認識」させ、自らの動力を「稼働」させる、そのような仮想空間上でのセンシングとアクチュエーションを自律分散的に行うことで、ひとりでに動く生きた空間が形成される。それによって、モデル間の齟齬(そご)(事故)を分析することが必要である。

もちろん、「自動運転」はすでに現実上の実証段階にあるが、自動運転のさらなる発展や開発実験の加速にこのような都市シミュレーションのプロセスが導入される可能性は十分に考えられる。とりわけ、社会的制約により開発途上の実証実験のハードルが高い国や地域においては、他の分野を含め有効な手段となっていくと考える。現実と仮想空間の境界は、徐々に取り払われていく。

【図表1】現在の空間技術
【図表1】現在の空間技術
(出所)脚注(注2)

仮想空間の共創技術

仮想空間にはさまざまな発展可能性が込められながらも、その開発には無論初期投資が必要である。Virtual Singaporeのようにプラットフォーム構築のためのパイロットプロジェクトを、社会的目的を明確化して国家主導で行うことは方法論として有効であると思われる。その一方、非専門家、個人向けの汎用可能なデジタル化技術(例えば3Dスキャン:図表1(d))が普及しつつあり、近年では、個別の物体や顔だけでなく、空間そのものも「スキャン」する技術が実用化されている。今後は仮想空間に任意のユーザーが自身や身の回りの事物を仮想世界に「参加」させることが可能となることが期待できる。

図像の変換のみならず内部のアルゴリズムに関してもビッグデータ処理や法則分析アルゴリズムの汎用化もあいまって、数理モデル化や予測の援用技術も進展している。

他方、前述のように仮想世界への「参加」の自由を認めるとすれば、仮想世界の創造はインターネットの興隆と同様に加速度的に進むと同時に、一種の悪意の「改ざん」モデルが混入する可能性も否定できない。

仮想空間を「検証・証明」する―空間技術から時間技術へ

この問題に対して、仮想通貨やセキュリティをはじめとするブロックチェーンの分散協調による管理は示唆(注3) を与えてくれる。すなわち、管理者不在のもと「参加者」が任意にチェーン分岐を伸長することを許したとしても、参加者の相互照合、検証によって不正なチェーンは排除され、「正しい」記録のみが残る仕組みが成立している(注4) 。

例えば、現実空間のモノの「存在」の証明にブロックチェーンが用いられつつあることは、知られている。登記簿や契約書など、第3者的に(公証的に)証明が必要なモノに対して、内容の情報およびそれが「存在」する旨をブロックチェーンによって保証するものである。

今日では、上記のような何らかの社会的効力の保証を目的とした活用のみならず、地理情報との連携により、より純粋な「存在」そのものの保証へと深化している。スマートフォンアプリPlatin(Proof of Location Protocol on the Blockchain)は、地理情報システムの空間上において、「そこに誰かが存在した」ことを表すコインを「拾う」ことによって、他者の存在証明を行うとともに、報酬が得られる。

近年では、「事実」の認定そのものにもブロックチェーンを用いる概念が生まれつつある。社会には、政治の行方など、一意の客観的尺度では測れない(「事実」そのものが一義的に定まらない)現象がある。ブロックチェーンを利用したDistributed Fact Stream(分散型事実認定)では参加者(レポーター)が将来に関する予測の命題(Aとなるか、Bとなるか)に対し、実際にどうなったかを「報告」する。レポーターの報告内容が多数派になれば、当人は「正しい」報告をしたとして報酬を受け取ることができる。それによって、「正しい」事実認定が担保されている。

これまでは、現実世界に客観的事実が存在し、それをいかに正確にセンシングし、それに妥当するモデルを構築するかに主眼が置かれてきた。仮想世界は、現実世界に一方的に依存してきた。ブロックチェーンによって、仮想世界が自律的に事実を認定し、仮想世界と現実世界は相互に担保しあう関係に変化している。

ブロックチェーンによるこれらの事例から示唆されることは、次の2点である。第1には、現実空間の代替手段とされてきた仮想空間の立場が変わりつつある。端的にいえば「仮想空間が現実空間を証明」するものとなりつつある。第2には、物事の「存在」や「正しさ」といった性質がブロックチェーンによって証明されるのであるならば、それは仮想空間そのものの検証にも用いることができるはずである。上述のセキュリティや仮想通貨記録への応用、本論の仮想空間に至るまで、ブロックチェーンが担保しうる原理は、以下のように表現できよう。

  1. 「正しい」ものは、トップダウンによらず誰もがそれを認め、不可逆に覆らないものである
  2. 「存在」するものは、存在するに至った歴史が明らかで、いつでも再検証可能である
  3. 正しさや存在の証明過程は、誰にでも明らかにしなければならない

これらの原理は、存在や正しさとは異なる時間上の仮想空間に維持されている構造のようにも捉えられる。ブロックチェーンがこれらを担保できることから、ブロックチェーンは空間と相補的な「時間」概念の実装と位置付けることもできると考えている。

仮想空間の自律分散-収斂(しゅうれん)そして実現へ

「維持」を目的とした仮想通貨やセキュリティだけではなく、仮想空間にはその中に災害事象などの自らを破壊する不確定な脅威そのものも内包されなければならない 。仮想空間が想定外に対応できるものでなければ、それは日常の延長でしかない。例えば、地震や津波のように少なくとも現時点では予測不可能なものについては、確率事象として取り入れる必要がある。

従来の工学モデルでは、不確定事象は確率分布として数学的に解析したり、モンテカルロシミュレーションのように多数回の試行によって統計的に傾向を求めたりして、いわば閉じたモデルの世界にあった。これに対して、計算技術の発展(並列化あるいは量子的重ね合わせ)によって、仮想世界にいくつかの仮定をおいた仮想世界のバージョンが分岐、並行して生成しうる。そして、現実との照合によって、生成しては消える(正しい一つの仮想世界に収斂する)ことを繰り返すことで、仮想世界の多様性を保ちながら、現実に即した仮想世界を「正しい」ものとして維持していく。これは換言すれば、仮想世界自体に関する「チェーン」である。

この発展段階においては、現実世界は仮想世界の一つを事後的に追認するものでしかなくなる。未来が訪れるのではなく、いわば現実が追いかけてくるような関係である(図表2)。このような可能的な仮想世界を描く社会システムにおいて、「検証」についてのみならず、「実現」したこと自体への報酬をフィードバックすることができれば、私たちは「実現したい未来」を合意的に選択し、実現し、報酬を受けるという正のサイクルによって、政策的な指導や誘導によらずして新たな社会的自治を達成することができると考える。

以上の議論を模式化し、図表3に示す。これまで、個別に切り出されていた「モデル」は、一つの仮想空間上で統合されうるが、それが一つの世界として自律するためには、器としての空間のみならず個々のモデルが「自律的に動く」ことが必要とされる。これまで主として専門家の手によってきた「モデル化」は知的システムの援用により、工学的な手段から、協調的な「参加」に形を変える可能性がある。その一方、仮想世界では、モデルと観測記録というオーソドックスな検証プロセスは相対化される。仮想世界が自由参加型の開かれた世界になっていくとすれば、それを検証し、管理し、さらには能動的選択的に「実現」していく社会となる。

この技術は国家や都市の自治管理の在り方を変えうる。例えば、未知の世界に対する対処を支援する。災害時のような有事において、災害対応は「予め用意された多数の仮想空間とその先の分岐から、現実に合致する仮想空間とその対応方針を選ぶ」プロセスへと変容する。さらに、長期的未来の世界に向けた合意形成を促進する。これまでの民主主義的な自治は、合意形成によって将来に向けた方針(政策)を決定し、それを契約や誘導(法律)によって誘導し、社会をあげて達成することによって、達成の報酬(社会発展)を共有する―そのようなプロセスを制度化した循環的社会システムと理解することができる。災害のような未到来の事象や、持続可能な都市計画、貧困の撲滅のような長期的課題に対して、社会合意がたびたび困難に陥る要因は、目指すべき社会が共有可能な形で描けないこと、その達成が責任下で約束されていないこと、達成した場合のインセンティブや報酬の回収が不透明であることなどである。そこで、多数の可能的な仮想空間の中から実現したい未来を合意的に選択し、その達成をセキュアに約束し、達成した場合の「報酬」を確実に受け取る―このような社会システムが「制度」に代わり技術的に実装されるならば、仮想空間を介した自治が今日の国家の政策的機能や意思決定の方法論にとって代わる潜在力を持つ。そこでは、現実世界と未来の仮想世界が常に並立し、相互作用し、時間の概念さえも相対化される。

本稿では、仮想空間技術の発展と、それにブロックチェーンが結びつくことによる来るべき社会インパクトの可能性について述べた。ブロックチェーンは、空間技術と相補的な「時間」軸上の技術としての特性を持ち、それが現在のみならず未来に対する意思決定の在り方にまで影響を及ぼすと考える。この論点は、技術のみで議論することはできない。潜在的日進月歩の両技術の新結合の可能性を、社会的、学際的にさらに深堀し、模索するべきである。

【図表2】仮想世界の自律的な分岐と収斂―「チェーン」の連鎖としての予測と検証
【図表2】仮想世界の自律的な分岐と収斂―「チェーン」の連鎖としての予測と検証
(出所)富士通総研作成

【図表3】仮想空間に対する自律分散管理さらに可能的仮想空間の自律分散的発展へ
【図表3】仮想空間に対する自律分散管理さらに可能的仮想空間の自律分散的発展へ
(出所)富士通総研作成

参考文献

  • Aukstakalnis, S.(2017): Practical Augmented Reality, Addison-Wesley
  • Baudrillard, J.(1981): シミュラークルとシミュレーション, 法政大学出版会
  • L´evy, P.(2006): ヴァーチャルとは何か?―デジタル時代におけるリアリティ,昭和堂
  • Sargent,R.(2011): Verification and Validation of Simulation Models, Simulation Society, Winter Simulation Conference
  • Vigna, P.,& Casey, M.(2018) :The Truth Machine- The Blockchain and the Future of Everything, St. Martin's Press
  • 江﨑 浩(2017): サイバーファースト デジタルとリアルの逆転経済, インプレス社
  • 大須賀明彦(2017): マルチエージェントによる自律ソフトウェア設計・開発, コロナ社
  • 森田邦久(2011):量子力学の哲学-非実在性・非局所性・粒子と波の二重性, 講談社
  • Platin - Proof of Location Protocol on the Blockchain  https://platin.io/Open a new window

注釈

  • (注1)
    自らの行動を律する基準を自ら内部に持ち、外部命令によらず周囲や自己の状態から判断を下して、執るべき行動を決めること。人やロボットのみならず、システムに対しても一般化して用いられる概念。
  • (注2)
    図1(a)-(d)の出典:
    Virtual-Singapore Project: https://www.nrf.gov.sg/programmes/virtual-singapore
    Synthia City:
    http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3651296/Welcome-Synthia-City-Virtual-world-complete-pedestrians-bad-weather-cyclists-created-AI-cars-learn-drive.htmlOpen a new window
    Numeric3D http://www.numeric3d.com/Product/main_product.html
    3D-Room Scanner https://www.clotheshops.us/home/3d-room-scanner/scan-blog2-superior-3d-room-scanner-3/Open a new window
  • (注3)
    Casey & Vigna (2018)によれば「社会が機能するためには、事実に対する合意、すなわち私たちをつなぎとめる『共通の現実』が必要」であり、ブロックチェーンは、そのために「より良い世界を誕生させる共同の歴史を創造するための手段」となるとしている。
  • (注4)
    もちろん今日の段階において、例えば仮想通貨における認証に関する計算負荷や仮想通貨価値の安定性など、解決すべき社会課題も少なくない。これらの課題の社会、技術的解決を図るとともに、利便性やセキュリティに留まらない新たな価値を提案的に生み出していくことが必要である。
  • (注5)
    例えば、 L´evy(2006)は、バーチャル(既に現前し、仮想化され、抽象化されたもの)とポテンシャル(可能的なもの、これから起こりうるもの)を区別して社会技術に対する洞察を展開している。L´evy自身の著作では、災害、想定外という文脈では論じていないものの、重要な示唆を与えていると考える。
上田 遼

本記事の執筆者

経済研究所
上級研究員

上田 遼(うえだ りょう)

 

2007年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程(工学) 修了後、鹿島建設株式会社、株式会社小堀鐸二研究所を経て、2016年 富士通総研入社。 専門領域は、都市防災へのICTの活用、Human-Computer Interaction、Internet of Phenomena (現象のインターネット)。

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