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デジタル革新とマクロ経済(3)
―経済厚生、GDP、長期停滞―

2018年7月4日(水曜日)

6. 長期停滞論の誤解

ここで、いよいよ生産性パラドックスの問題に立ち戻ることとしよう。先にも述べたように、筆者は今では『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者らとともに、主要先進国の生産性鈍化は、かなりの部分GDP統計がデジタル革新のもたらす消費者の満足を十分に反映できていない結果だと考えている。AIやロボット、IoTなどがもたらす生産性の増大を目の当たりにしている多くの産業界の人々も同様に感じているのではないだろうか。にもかかわらず、少なくともここ数年のマクロ経済学界では、主要国における潜在成長率の低下が常識とされてきた(注1) 。そこには、2013年秋のIMFコンファレンスで米国のラリー・サマーズ元財務長官(注2) が唱えた長期停滞(secular stagnation)論が大きく影響したと考えられる。

サマーズは、まず金融危機で米欧の経済が大きく落ち込んだ後も、回復の足取りが極めて鈍く、潜在成長率も低下している点を指摘する。その上で、彼は2000年代央の米国では史上稀に見るほどの住宅バブルが発生していたのに、当時の経済は加熱状態ではなかったと言う(注3) 。この点に関するサマーズの解釈は、完全雇用の下で貯蓄と投資がバランスする均衡実質金利=自然利子率(中立金利と呼ばれる場合もある)がマイナスになってしまったというものである。このため、金融緩和を行ってもなかなか効果が出ず、バブルが発生して漸く完全雇用が達成されるという訳だ(注4) 。

ただし、サマーズが考える自然利子率がマイナスになった理由には、需要・供給の双方から多くが挙げられていて、なかなか複雑である。まず第1に、投資需要の減退が指摘される。サマーズは、アップルやグーグルといったデザインやソフトウェアに強みを持つ企業はあまり実物投資を必要としないというのだ(事実、彼らの投資はM&Aが中心である)(注5) 。また、経済のハイテク化が進むにつれ、投資財の相対価格の低下が目立つようになってきている。第2に、人口成長率や技術進歩率の鈍化があり、これは先のゴードン教授の主張と同じである。第3に、所得分配の不平等化であり、近年のピケティー・ブーム(注6) で日本でも大きな関心を呼んだ論点である。米国などのように富がごく一部の大金持ちに集中すれば、彼らは使い切れずに多くを貯蓄するため、マクロ的には貯蓄率が上がるからである。第4は、アジアを中心とする新興国の貯蓄過剰である。2000年代央にFRBが金利を上げ始めた頃、長期金利がなかなか上がらず、これを当時のグリーンスパン銀行が謎(conundrum)と呼んだのに対し、当時理事だったバーナンキが中国などの外貨準備の積み上がりなどを背景に出した答えが、この世界的貯蓄過剰(global savings glut)論であった。

(決め手は低金利の持続?)

このように、サマーズの議論自体は複雑なものだったが、一般には長期停滞論は世界的な潜在成長率の低下を確認するものであり、その原因は主に需要の不足にあると受け止められた。なぜ、そのような解釈となったのかははっきりしないが、おそらく強く意識されたのは長期にわたる低金利の持続だったのではないか。事実、長期停滞論を受けて経済学界や中央銀行の間で大流行となったのは自然利子率=中立金利の推計だった。ここでは、近くFRBの金融政策担当副議長に就任する予定のリチャード・クラリダがPIMCO時代に推計した結果を掲げておこう(図表4)(注7) 。金利の低下トレンドは潜在成長率の低下を示唆するし、成長率の低下が供給制約によるものなら物価が上がって政策金利が引き上げられる筈だと考えると、その背後に需要不足を想定するのは不思議ではない。また、金利だけではなく世界的に賃金がなかなか上がらなかったことも、需要不足を背景とした潜在成長率低下という解釈につながったものと思われる。

【図表4】世界各国の中立的な実質金利
【図表4】世界各国の中立的な実質金利
出所)クラリダ(2017)(注8)

本稿からすればややわき道となるが、この自然利子率低下を巡る政策論争についても少し触れておこう。ここで注目されたのが、需要不足がもともとの原因であっても、景気停滞が長期化すれば潜在成長率の低下につながり得るとしたサマーズの主張である。これは、1980年代の欧州の長期経済停滞を主題にして、長期にわたる失業の持続がhysteresisを通じて自然失業率の上昇につながるとしたサマーズ自身の古典的論文(注9) を背景としたものであり、長期間職を失うと人的資本が劣化し、潜在成長率の低下を招くというロジックは理解できないものではない。ただ、この時期注目されたのは、このロジックを逆転させて、長期間やや過熱気味の経済状態を持続することで潜在成長率を高められないかという高圧経済論(high-pressure economy)だった。

一般論として高圧経済論が成功する可能性はあり得るが、マクロ政策で潜在成長率が高まるためには、財政政策や金融政策で促される需要が供給力の強化につながるようなwise spendingである必要があろう。財政政策や金融政策が非効率な公共投資(1990年代の日本における「ハコ物」投資!)や資産バブルにつながれば、結果として潜在成長率はむしろ低下してしまうかも知れない(注10) 。昨年秋の東大・日銀コンファレンスのパネルでもこの議論が行われ、筆者自身も参加したが(注11) 、全体のトーンはやや懐疑的であった(注12) 。

(マネタイズできないと金利も賃金も払えない)

本題に戻って、サマーズらは世界的な低金利は自然利子率低下の反映だと考えているのだが、本稿のように、デジタル革新で経済厚生は高まっても、情報財の特殊性によって企業はその一部しかマネタイズできないと考えるなら、全く違った結論となり得る。金利にしても賃金にしても、企業はマネタイズできた部分からしか支払うことはできないからである。ここで注意すべきは、GDPであれば三面等価が成り立つから、(減価償却部分以外は)全てを金利や賃金などに分配し得る。しかし、今我々は消費者余剰部分も加えた経済厚生で成長を測っている一方、分配の原資となるのはマネタイズできた部分、すなわちGDPに対応する部分だけである。無償のデジタル・サービスのウェイトが高まっていけば、両者の乖離はどんどん拡がるに違いない。

なお、潜在成長率と自然利子率を巡る議論では、潜在成長率≒自然利子率と想定されることが多いが、もともとこの条件自体一定の仮定の下でしか成立しない。まして我々のように、潜在成長率を経済厚生の高まりで測る場合には、マネタイズの制約が十分強ければ、潜在成長率≫自然利子率ということも十分あり得ることになる。さらに、熾烈なプラットフォーム競争が展開される中では、アイデアの出し手にも相応の対価を払う必要があろう。そうなると、賃金や金利にはGDP以上に下方圧力が掛かることになる。いずれにしても、こうした世界では低賃金や低金利は潜在成長率低下の証拠にはならないし、需要不足の証拠にもならないのである。

(テック株評価の問題)

このように考えると、この問題は株価、とくにテック株の評価の問題にもつながって行く。GAFAなどは大変な高収益企業だが、とくにグーグルやフェイスブックの収入は大部分が広告費であり、彼らが生み出した効用に比べればマネタイズできた部分はごく僅かだと考えられる。実際、グーグルのチーフ・エコノミストを務めるハル・ヴァリアンによれば、2011年にグーグルが生み出した消費者余剰が1500億ドルに上ったのに対し、グーグルの広告収入は360億ドルだったと言う(注13) 。

にもかかわらず、市場は彼らの将来性を強く期待しているため、GAFAなどのテック株の株価は高騰し、それが米国株高のリード役となっている。実際の収益よりも株価が高いのだから、当然テック株の株価収益率(PER=株価/1株あたり利益)は極めて高いということになる(今年の6月末時点でアマゾンのPERは270倍に近かった)。しかし、当然ながら配当もマネタイズできた部分から支払うほかない。だとすると、市場はテック企業が将来のいつの日か消費者余剰のマネタイズに成功すると仮定していることになるのではないか。しかし、先にも述べたように、いったん独占を確立してから値上げを行うのは容易でないとすると、この市場の期待に根拠はあるのだろうか?

実は、このことが米国株について「まだ上がる」との見方が少なくない市場関係者と、イェール大学教授でノーベル経済学賞受賞者でもあるロバート・シラーとの見方の違いの背景にあるのだと思われる。周知のように、シラー教授は過去10年間の収益を基に長期的な観点からのPERを計算して公表している(図表5)。これによれば、シラー式のPERは過去140年間で2000年のITバブルのピークに次いで2番目の高さ(1929年の世界恐慌直前を僅かに上回る)にあり、同教授はしばしば「米国株は高過ぎる」という警鐘を鳴らしている(注14) 。筆者の知る限り、米国株が割高だというのは経済学者の間では多数派の意見であり、FEBのイエレン前議長なども米国株のヴァリュエーションについて何度も警告を発している。ここには、テック企業が経済厚生のマネタイズに成功できるか否かに関する楽観論と悲観論の乖離が窺われるようだ。

【図表5】シラー式のPERの推移
【図表4】シラー式のPERの推移
出所)イェール大学シラー教授のサイト

7. 「物価安定」という難問

以上のような話を金融市場関係者(日銀関係者も含む)にすると、彼らが決まって聞いてくるのは、「物価はどうなるのか?」、「2%物価目標は望ましいのか?」といったことだ。正直に言って、筆者は本稿をかなり抽象的なレベルの思考実験と考えているので、これを政策論と直接結び付けたくないと感じる。しかし、物価について「何も語らず」では許されそうにないので、現時点で思い付く範囲のコメントを記しておこう。ただ、何分思考実験からの出発であるため、現実的な政策提言などは期待しないで欲しい。

まず最初に、デジタル革新によって価格形成自体が大きく変貌している点に注目すべきだと思う。例えばホテルや航空券の予約の仕組みは大きく変わり、価格が日々変動するようになった(dynamic pricing)。これはatomの資源配分をbitのシステムで行うようになったためだ(販売対象もbitならコストを掛けずに大量コピーできるので、配分自体が不要になる)。それどころか、加藤出氏によれば(注15) 、米国ではデパートでも電子タグを用いたダイナミック・プライシングが始まったという。同じく加藤氏は、人気アーティストのツアー・チケットにもダイナミック・プライシングが採用され始めたと言うが、その場合オークション方式を使えば、本稿(1)の(図表2)の消費者余剰部分を企業収益(GDPに含まれる)に吸収することも原理的には可能になる。こうした時に、価格をどう捉えたらいいのだろうか(注16) ?

またサービスについては、もともと電力や水道料金で見られる固定料金+変動料金方式などの非線形価格(non-linear pricing)、大口割引といった顧客毎の価格差別化が可能だった(モノの場合は、転売の可能性がこうした価格設定を不可能にする)。だが、デジタル化は従来よりも遥かに複雑な非線形価格、顧客毎の価格設定を可能にした。恐らく最も身近な例は携帯電話の料金であり、相当に複雑な料金プランが導入されている。読者は自分の料金プランを完全に理解しているだろうか(少なくとも筆者は理解していない)。この時の「価格」とは一体何だろうか?このように、価格とはリンゴ1個の値段といった単純なものではなくなっているのだ(いや、リンゴだって品質による価格差は極めて大きくなっている)。

(物価は上がり難くなる)

以上を述べた上で、物価がどうなるかだが、まず既存の物価指数は上がり難くなるのではないだろうか。本稿(1)で述べたbitがatomを駆逐する場合、駆逐されるatomの価格には、生産要素が瞬時に移動できると仮定しない限り、下落圧力が掛かるだろう。一方、bitの方が無償サービスなら物価指数にはカウントされない。また、本稿(2)で見たように、デジタル革新が大きな消費者余剰を生み出したとしても、その一部しかマネタイズされないなら賃金は上がり難いだろう。もちろん、無償サービスが増えた結果、消費者の満足が高まって懐が豊かになったと感じれば、既存の財・サービスへの支出が増えて物価上昇圧力が生まれる可能性はある。したがって一概には言えないが、多分既存の物価指数も上がり難いだろうというのが、筆者の印象である。

しかし、無償サービスが急拡大していることを認識するならば、既存の物価指数には問題があると考えるべきである。物価指数とは、本来効用と整合的に構成されるべきものであり、具体的には消費者が各時点で最適な選択をしていることを前提とした上で、t時点において基準時の1+X倍の貨幣所得があった時、基準時t=0と同じ効用が得られるなら、Xがこの間の物価上昇率となる。これが理想的な物価指数なのだ(注17) (経済成長を経済厚生=消費者の効用の増加として捉える本稿の立場とも整合的である)。この場合、GDPが経済厚生を過少評価しているなら、物価指数は同じ幅だけ理想的な物価指数より過大評価になっている筈である。

本稿(2) で述べたように、ブリニョルフソンらは2007~11年の米国では、インターネットや無償サービスを考慮していないことによって、GDPは0.7から1.1%過少評価になっているとした。それが正しいなら、当時の物価指数(多分、個人消費デフレータ)は同幅過大評価だったことになる。リーマン・ショック後の米国はさすがにデフレではなかったが、かなり際どい状態だった訳だ。今後、さらに無償サービスなどが拡大して行くとすれば、このバイアスも拡大を続けるだろう。いずれにしても、理想的な物価指数は既存の物価指数以上に上がり難くなっているものと考えられる。

(物価安定とは何か?)

しかし、他の条件を一定にして物価が上がり難くなるということは、どういう物価の状態が望ましいのかとは、また別の話である。例えば、2%のインフレ目標はデジタル革新が進む環境でも望ましいのだろうか。望ましい状態を考える場合には、既存の物価指数より理想的な物価指数で論じるべきだが、理想的な物価指数が2%上がるには、既存の物価指数はバイアスの分だけより大きく上がる必要がある。確たる根拠がある訳ではないが、無償のデジタル・サービスがどんどん拡大して行く中で、既存の財・サービスが毎年3%とか4%とか上がっていくのを人々が快く思うかと言うと、どうもそうではないのではないかというのが筆者の直感である。価格ゼロのデジタル・サービスを含めた物価安定という発想自体に無理がある気がするのだ。

それより、先に述べたようにデジタル化で価格設定が柔軟になることを考慮することが必要だろう。ダイナミック・プライシングとまで言わなくとも、例えば楽天サイトではポイント還元率の変更などで価格変更は相当頻繁になっている。もともとニューケインジアンの経済学では、メニュー・コスト等を背景に価格の硬直性が生まれ、それが資源配分の歪みにつながるから、物価安定が望ましいという論理構成になっていた。デジタル化でメニュー・コストが大幅に低下するなら、物価安定自体あまり重要ではないことになる筈である。一方、gig economyといった動きはあるにしても、名目賃金にはかなりの硬直性があるなら、賃金目標の方が自然なのではないか。

なお、物価安定自体にあまり意味はないとしても、デフレを放置して良いということにはならない。(図表4)が示すように、デジタル革新が進んで経済厚生は高まっても、マネタイズが不十分なら実質金利は低下してしまう。これに物価下落まで加われば、名目金利は簡単にゼロ制約に当たってしまうだろう。名目金利がゼロ制約に直面し金融政策が効果を失うことの問題の重さについて、我々日本人は痛いほど知っている筈だ(注18) 。一般に、これを防ぐにはある程度の物価上昇が必要とされている(しばしば「糊代」という言葉が使われるが、筆者は素直に「保険料」と考えるべきだと思う)。

しかし、理論的に考えると、ゼロ制約を防ぐために物価上昇が必要だというのは、随分アバウトな次善(second best)理論だと言わざるを得ない。デジタル革新が今後も進むことを踏まえるなら、やはり最善(optimal)を目指すべきではないか。それは本稿(1)の注4)でも触れたように、現金を廃止して中央銀行が自らデジタル通貨を発行するというものである。そうすれば、マイナス金利政策が容易に実行できるため、無理に物価を上げる必要はなくなる(注19) 。もちろん、日本人の現金嗜好(その背後には、おそらく他国以上にプライヴァシーを重んじる習慣があるのだろう)を踏まえると、近い将来の現金廃止など暴論だということは承知している。ただ、本稿が想定するようなタイム・スパンで考えるなら、そうしたアイデアも排除すべきではないと思う。

注釈

(注1) : 「マクロ経済学の常識は世間の非常識」というケースは少なくない。例えば、1990年代から金融危機までの米国経済のパフォーマンスの良さは、「ボルカー、グリースパン以来のFRBの金融政策が優れていたから」というのがマクロ経済学界の常識だった(いわゆるgreat moderation論)。おそらく一般人(ミクロ経済学者を含む)の常識は、「90年代からの米国経済の復活は、Wintelを代表とする米国企業がICT革命をリードしたから」というものだろう。

(注2) : サマーズ元長官の前職はハーバード大学の経済学教授。ケネス・アロー、ポ-ル・サミュエルソンという2人の偉大な経済学者(ともにノーベル賞を受賞)の甥に当たる人物である。

(注3) : この「大規模なバブルが発生していたのに経済は加熱状態ではなかった」というのも、「マクロ経済学の常識は世間の非常識」の一例だと言えよう。現代マクロ経済学の主流を成すnew Keynesian economicsでは、価格の硬直性だけが市場の非効率性の原因とされているため、過熱=インフレであり、物価上昇率が小幅に止まっている限り、経済は過熱していないと考えるのである。

(注4) : 長期停滞論に関するサマーズの初期の見解をまとめたものに、L. Summers,“U.S. economic prospects: Secular stagnation, hysteresis, and the zero lower bound”, Business Economics 2012がある。日本での長期停滞論に関する著作としては、翁邦夫『金利と経済』(ダイヤモンド社、2017年)、福田慎一『21世紀の長期停滞論』(平凡社新書、2018年)がある。

(注5) : この点に関しては、後に書かれたD. Autor, D. Dorn, L. Katz, C. Patterson and J. Van Reenen,“The fall of the labor share and the rise of superstar firms”, NBER Working Paper 2017をも参照。

(注6) : トマ・ピケティー『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)

(注7) : (図表4)も含め、中立金利の推計はT. Laubach and J. Williams,“Measuring the natural rate of interest”, Review of Economics and Statistics 2003の手法に基づくものが多い。ただ、この手法は中立金利と実質金利からGDPギャップを決めるIS曲線と、GDPギャップからインフレ率を決めるフィリップス曲線を誘導型で同時推計して、「思ったほど物価が上がらなければ、中立金利が下がったと解釈する」ものである。その意味で、この方法を使って「物価が上がらないのは中立金利が下がったためだ」と主張しても、本当は説明になっていない(同義反復である)。
中立金利の低下を物価が上がらない理由として提示するには、より構造的な推計が必要であり、ごく最近では日銀でもそうした研究が行われている。須藤直・岡崎陽介・瀧塚寧孝「(リサーチ・ラボ)わが国の自然利子率の決定要因」(日本銀行、18年6月)。ただし、このような構造推計は、モデルや変数の選択によって結果が大きく変わってしまう場合が多い。

(注8) : リチャード・クラリダ「中立政策金利のグローバル要因」、Global Central Bank Focus, PIMCO 2017

(注9) : O. Blanchard and L. Summers,“Hysteresis and the European unemployment problem”, NBER Macroeconomics Annual 1986

(注10) : FRBのイエレン前議長は、一昨年一時的に高圧経済論に賛意を示すような発言をしたが、比較的直ぐに引っ込めている。

(注11) : モダレーターが渡辺努東大教授、パネリストは塩路悦朗一橋大教授、筆者、福田慎一東大教授および関根敏隆日銀調査統計局長だった。「東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第7回共催コンファレンス『マクロ経済分析の新展開:景気循環と経済成長の連関』の模様」(2017年11月)を参照。

(注12) : なお、これはあくまで筆者個人の推測だが、サマーズの本音は「ヒラリー・クリントン政権ができたら、我々はインフラ投資をやるぞ!」という意思表示だったのだろう。インフラの劣化が著しい米国では、インフラ投資は間違いなくwise spendingになるからだ。しかし、現実にはトランプ大統領が当選し、富裕層を対象とした大規模減税を行っただけでなく、保護貿易政策など経済の供給面を痛める(=潜在成長率の低下につながる)政策を行っている訳だから、サマーズとしては憤懣やる方ないのではないだろうか。

(注13) : H. Varian, “Economic value of Google”, 2011。因みに、1980年代頃のヴァリアン氏はミシガン大学教授で、米国を代表する中級ミクロ経済学の著者として有名だった。

(注14) : 比較的最近のものとしては、R. Shiller,“The world’s priciest market”, Project Syndrome Jan 23 2018

(注15) : 加藤出「『即日完売』は将来なくなる?、定価が姿を消す世界はすぐそこ」、(週刊ダイヤモンド、2018年6月16日号)

(注16) : 統計作成者は、多分平均価格を使うのだろう。しかし、ホテル料金の場合、どうしても部屋を確保したい人は高い料金で確実に予約できる一方、そうでない人は直前の低料金を使うことができる。結果として顧客の満足度=消費者余剰は増えている筈だが、平均価格ではそうした経済厚生の向上を把握できない。

(注17) : こうした物価指数については、早川英男・吉田知生「物価指数を巡る概念的諸問題」、(日本銀行ワーキングペーパー、2001年)に数学的な定式が示されている。また、先に述べた非線形価格の理解にも、この論文は役立つ筈である。

(注18) : この5年余りの「異次元緩和」の実験により、マネタリーベースの「量」を増やしたり、中央銀行がインフレ目標に強くコミットするだけでは問題が解決しないことが確認された。これらについては、拙著『金融政策の「誤解」』、(慶應義塾大学出版会、2016年)を参照。

(注19) : この点に関しては、M. Bordo and A. Levin,“Central bank digital currency and the future of monetary policy”, NBER Working Paper 2017が参考になる。

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【調査・研究】


早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。
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