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  5. 米国の脱炭素化の行方 ―原動力となるビジネス機会の追求―

米国の脱炭素化の行方 ―原動力となるビジネス機会の追求―

2018年1月29日(月曜日)

具体化に向かうパリ協定離脱への反発

米国が2017年6月にパリ協定離脱決定を正式に発表して半年あまりが経つ。実際の離脱は、同協定の規定により最も早くて2020年11月4日となる。この日は次回米国大統領選挙の翌日であり、その結果によっては離脱撤回の可能性もあると見られている。いずれにせよ、離脱予定日までは米国も同協定に関する国際交渉に参加することになる。今や唯一の非参加国となった米国の言動は、離脱発表後の2017年11月に開催された国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP23)でも注目された。前オバマ政権下では、先進国に期待される役割を率先して果たす姿勢をアピールしていただけに、COP23ではその落差が目立った。先進国の役割とは、温室効果ガス排出削減の先導や、途上国の気候変動対策に向けた資金拠出である。米国によるパリ協定離脱や資金拠出のキャンセルは、先進国全体としての排出削減の遅れや資金額の不足に対して、途上国が以前から抱いていた先進国への不満を悪化させた(注1)。これによって先進国と途上国との協議が難航する場面もあり、特に外交的な意味で米国離脱の影響が大きいことを示した。

米国の国内気候変動対策方針も、大きく揺らいだ。対策の担当局である米国環境保護局(EPA)の人員や予算の大幅削減が検討され、主要な削減手段となるはずであったクリーンパワープラン(CPP)は、撤廃されることが決まった。CPPは、前オバマ政権が策定したもので、全ての州に対して発電部門の排出を制限させることを狙いとしていた。

一方で、気候変動対策の後退への反発も具体化しつつある。CPPの撤廃を受けて、複数の州が協働して排出削減に取り組もうとする動きが強まっている。北東部の9つの州では、2009年から既にRGGI(Regional Greenhouse Gas Initiative)と呼ばれる排出量取引制度が実施されていた(図表1)が、2017年11月にはバージニア州とニュージャージー州が新たに参加する意思を表明した。RGGIは発電部門を対象とする点でCPPと同じであり、比較的排出量の大きな州が多い現参加州周辺(注2)に拡大すれば、CPPをある程度代替する効果を持つと考えられる。

【図表1】排出量取引制度実施州と参加表明州および参加可能性の高い州

図表1 排出量取引制度実施州と参加表明州および参加可能性の高い州

(出所)富士通総研作成

RGGIは開始以降、設定された排出上限量を実際の排出量が大きく下回った。天然ガスの価格低下や電力需要量の停滞がその要因である(注3)。このため、排出削減努力を促す役割を果たしていないとの批判もあったが、2014年の排出上限量を前年の約半分に減らし、以降2020年まで毎年2.5%ずつ削減していくこととなった。2030年までにはそこからさらに30%減を目指すことが決まっている。

もう一つ、協働して排出削減対策に乗り出す可能性が高い地域が、西海岸の3州(カリフォルニア、オレゴン、ワシントン)である(図表1)。この3州は、合わせてCO2排出量では米国の1割近く(2015年)(注4)、GDPでは2割近く(2016年)(注5)を占めている上、先進的な企業の集まる地域としても影響力が大きい。2013年には3州で「Pacific Coast Action Plan on Climate and Energy」という協定を結んだが、法的な拘束力はなく、定性的な目標を共有したに過ぎなかった。しかし、トランプ政権への強い対抗姿勢を示すこれらの州は、今後本格的な協力に向けて動くという見方が強い。具体的には、カリフォルニア州が発電や産業部門等を対象として2013年から実施している排出量取引に、他の2州が加わることが考えられる。

CPPが実施されなくなったことで、排出削減対策がほぼ無い状態が続く州も数多く存在する。しかし、特に米国経済への貢献や排出量という点で存在感の大きな州が、排出削減の制度を拡大・強化する動きは、気候変動対策後退の影響をも打ち消す可能性を持っている。

続く再エネ拡大とその先の課題

上で述べたように、米国の気候変動対策に関する国レベルの政策における空白は、州政府によって埋められつつある。その一方で、主要手段の1つである再生可能エネルギー(再エネ)の拡大については、国および州の政策との関連性が薄れてきている。それを示す一例が、近年の太陽光発電設備(非住宅用・系統連系型)の設置動機である。米国のエネルギー関連市場調査会社のGTMリサーチ(2017)によれば、過去5年の間に、各州で発電における一定量以上の再エネ利用を義務付ける制度(RPS)よりも、経済性や顧客のニーズを理由に設置された設備容量の割合の方がはるかに多くなっている(図表2)。

【図表2】太陽光発電設備(非住宅用、系統連系型)の設置動機(%)

図表2 太陽光発電設備(非住宅用、系統連系型)の設置動機(%)

(出所)Greentech Media Research (2017)(注6)を元に富士通総研作成

(注)その他の理由には、経済的なメリットによる自発的な経営判断、大口需要家の再エネ電力ニーズへの対応、より安価な電源からの電力調達を促す法律の遵守などが含まれる。

再エネに対する税制面等での優遇策は継続しているが、トランプ政権は太陽光発電設備の輸入に対する関税導入など、優遇策の効果を打ち消すことになる施策を検討している。その行方は事業における新たな不確実性を生むため、受注ペースが落ちると懸念する再エネ設備供給や設置事業を行う企業も少なくない。一方、エネルギーコンサル、研究者、政策担当者など事業者以外の関係者は、再エネ拡大の流れ自体は変わらないものと見ている。陸上風力や非住宅用太陽光発電の発電コストが化石燃料の発電コストを下回り(注7)、米国における再エネ発電が強い競争力を持つようになった今日、再エネの拡大に向けて政策が果たす役割は終わりつつあるとの認識が強いからである。政権による一連の動きは、それを少々早めるに過ぎないと受け止められている。また、州や地域にもよるが、再エネの拡大よりもその効率的な活用の方が大きな関心事となりつつある。

中でも関心が高まっているのが、州をまたいだ再エネの活用である。これまでも主にRPS遵守の目的で、他州から再エネ由来電力が送電されるケースはあった。しかし、基本的には送電計画は州ごとに決定されるものであり、したがって他州の再エネ発電事業まで考慮して作られてはいない。だが、発電における再エネの割合が大きくなるにつれて、州という境界で区切られた電力需給の中では限界が出てくる。多様なエネルギー資源や需要家を含む方が系統の柔軟性を高めるポテンシャルは高く、より効率的な再エネ活用が期待されている。加えて、前述した各排出量取引制度の参加州拡大や削減目標の引き上げも、実現されれば広域での再エネ活用を促進することになる。大幅な排出削減目標の達成のため、域外からの再エネ電力も利用する必要が生じるからである。

実現に向けた課題もある。送電網が整備されていない場合の費用負担の割り振りや、電力市場関連の制度や系統運用機関が異なる州間でのガバナンスがその例として挙げられる。さらに、排出量取引制度への参加の有無により炭素価格(注8)が生じる州とそうでない州があるという状況も、州をまたいだ再エネ活用において考慮する必要が出てくるだろう。

このような課題の解決は、電力システムの確立・運用が州単位で進んできた米国にとって大きな転換点といえる。化石燃料中心に築き上げてきた各州のシステムを、全く性格の異なる再エネの活用に適した形にまとめあげていけるのか。それは、共和党と民主党が拮抗する中で起こりがちな政策上の大転換に関わらず、米国が脱炭素を実現できるかどうかを決定づける問題といえる。

ビジネス機会の追求による脱炭素実現

同時に、効率的な再エネ活用に向けた課題解決がもたらす新たな機会への期待も高まっている。広域での制度およびインフラ運用・管理やガバナンスの問題に加え、電力供給先や消費段階においても、系統の柔軟性に貢献するための手段が必要となる。蓄電や電気自動車(EV)は、再エネの発電量が過剰な時に蓄えた電力を、別の時間に供給および使用できるようにする。EVはもちろんのこと、米国では家庭用太陽光発電設備と併せて蓄電設備を所有する消費者も増えてきている。そのような消費者は、発電量が自らの需要量や蓄電容量を超えた場合は、電力の供給者となって利益を得ることができる(注9)。現状では、彼らが電力を売る先は主に公益事業者(utility)であるが、いずれ消費者間での取引を手軽にできる仕組みが普及することが期待されている。中でも、ブロックチェーン(注10)を利用した卸売市場や小売業者を必要としない取引手段の開発に注目が集まっている。リアルタイムの電力消費量や市場情報に基づき最適な取引判断を行うデバイスの提供(注11)など、さらなる付加価値を与えるサービスを組み合わせたビジネスも現れ始めている。

これらの新たなビジネスモデルのカギとなるのは、様々な分野で急速に進むデジタル化(digitalization:デジタライゼーション)(注12)である。米国企業は、再エネ活用に伴って生まれる様々な可能性とデジタル化を組み合わせて、どのようなサービスをデザインするかをこぞって検討している。極端にいえば、今の米国にとって排出削減はこのようなビジネス機会の追求に付随してくるものである。再エネ拡大に端を発した関連ビジネス開発は、米国の電力需給のあり方をも大きく変えようとしている。実現すれば、米国はパリ協定に不参加の間も着実に脱炭素社会への転換を進めることになるだろう。

一方、日本に目を向けると、国内の排出削減と絡めたビジネス推進は遅れ気味である。日本は中期的な目標として2030年に温室効果ガス排出量26%削減(2013年比)、長期的には2050年までに80%削減を掲げている。長期目標を見据えた戦略的取り組みには、革新的技術の開発・普及による削減の追求も含まれている(注13)ものの、まずクリアすべき中期目標は、省エネなど従来の手段による削減量を積み上げて設定されている。「着実な実行」を前提としているためだが、部門ごと・手段ごとに細分化された削減見積りからは、削減量とビジネス機会の両方で限界も見える。実際、それ以上の削減については、政府は「海外における削減への貢献」によって果たす方針である。

しかし、電力の消費者と供給者の区別さえ曖昧になりつつある今日、部門別に削減対策を考えることは非効率かもしれない。ビジネスに目を向ければ、日本でも電力会社の余剰電力をEVに蓄電する実証事業が計画され(注14)、再エネの変動性を管理すると同時にEVを普及させる試みが進みそうである。米国の場合のように、ここにデジタル化を駆使した様々なサービスが組み合わせられるようになれば、排出削減事業が、特定の部門に限定されない市場を持つ新たなビジネス領域となる可能性がある。

パリ協定の下では今後、各国削減目標の見直しが行われる予定となっており、先進国を中心に、さらなる削減が要求される場合もある。仮に日本が目標引き上げを求められた場合、それを「困難な要求」としてではなく「ビジネス機会創出のきっかけ」として捉え、今後の排出削減対策を再検討することが必要と考える。

注釈

(注1): WWFジャパン 国連気候変動フィジー会議現地レポート
https://www.wwf.or.jp/activities/2017/10/1392831.html

(注2): ペンシルバニア(2015年国内排出量第3位)、イリノイ(同5位)、オハイオ(同7位)、インディアナ(同8位)などがある(米国エネルギー情報局データに基づく)。

(注3): 米国エネルギー情報局(EIA)”Lower emissions cap for Regional Greenhouse Gas Initiative takes effect in 2014”
https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=14851

(注4): 米国エネルギー情報局(EIA)State Carbon Dioxide Emissions Data
https://www.eia.gov/environment/emissions/state/

(注5): 米国商務省経済分析局(BEA)

(注6): Greentech Media Research (2017) “US Utility Solar Service”.

(注7): 国立再生可能エネルギー研究所(NREL)Annual Technology Baseline 2017
https://atb.nrel.gov/electricity/2017/summary.html

(注8):温室効果ガスの排出に価格を付けること。排出者に経済的な負担を課すことで排出の抑制を促す。排出量取引制度や炭素税が炭素価格導入の主な方法である。

(注9): 電力の供給も行う消費者は“Prosumer(プロシューマー)”と呼ばれている。

(注10): ブロックチェーン(blockchain)は仮想通貨の中核技術として発明された分散型台帳技術で、第三者機関による認証を介さずに取引を行うことを可能にする。
(参考:https://www.pwc.com/us/en/industries/financial-services/library/qa-what-is-blockchain.html)

(注11): ニューヨークのブロックチェーン関連ベンチャー企業から派生したGrid+(グリッドプラス)は、最適な取引判断を行うデバイスの提供によって、顧客の電気代を抑制することを目指している。
https://drive.google.com/file/d/0Bz90riPGRHquNDVXVE81RmppaUk/view

(注12): 紙などの情報を単純にデジタルデータに変換するデジタル化(digitization)とは区別され、デジタルデータを活用して新たな価値や利益を生み出すことを指す。

(注13): 日本政府(2016)「地球温暖化対策計画」

(注14): 日経新聞2017年12月13日付記事「余剰電気をEVに充電 東電と日産が実証実験」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24578200T11C17A2X93000/

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加藤 望(かとう のぞみ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2005年 米国デラウェア大学大学院修士課程修了(エネルギー・環境政策学)。NPO法人環境エネルギー政策研究所、公益財団法人 地球環境戦略研究機関を経て、2012年 富士通総研入社。
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