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  5. 学校の働き方改革の実現に向けて ―地域社会の積極的な支援が不可欠―

学校の働き方改革の実現に向けて
―地域社会の積極的な支援が不可欠―

2018年1月26日(金曜日)

深刻化する教師の長時間勤務

我が国の小中学校は、最も長時間勤務が常態化した職場かもしれない。国の資料によると、1週間あたりの正規の勤務時間は38時間45分であるの対し、55時間以上勤務していると回答した教師の割合は、小学校で6割弱、中学校で7割強にのぼる(注1)。

これは、月に換算すれば60時間以上の残業に相当する勤務時間である。アンケート調査による自己申告結果であることから、あくまでも参考値ではあるが、これ以外にも自宅に持ち帰り作業を行っている可能性があることを踏まえると、過酷な労働環境にあることに疑いの余地はない。なぜ、このような状況に陥っているのであろうか。

膨張する業務と業務改善の動機の欠如

この問題を検討するため中央教育審議会に設置された「学校における働き方改革特別部会」がとりまとめた「中間まとめ(注2)」を見ると、主に2つの要因が読み取れる。

第一に業務の膨張である。我が国では、学習指導のみならず生活指導等の面でも学校が主要な役割を担うことが期待され、生活習慣の改善など本来は家庭や地域でなすべきことが、学校現場に委ねられてきた。保護者の意識の変化、経済社会環境に伴う家庭環境の多様化に伴い、対応する問題が量的に拡大するとともに、質的にもより深刻な問題を取り扱うケースが増えている。

また、学習指導の観点からも、学力の格差が拡大傾向にあるとの指摘もあることから、授業外での学習支援が必要になるなど負担が増す傾向にある。

第二に業務改善の動機の欠如である。大半の教師は、子ども達のためにという使命感と責任感を持ち、業務にあたっている。また、指導のため無制限に働くことが美徳とされる傾向もある。このような価値観は、本人の意識のみならず、日本の公教育の組織・制度設計の根底にあると指摘する有識者もいる。色々な経緯があったものの、時間外勤務手当の代わりに教職調整額を支払うことを定めた「特給法」にもこの価値観が根付いていると言えよう。

行政部門や民間企業であれば、時間外勤務の増加はコスト増となることから、管理者は、業務改善を図るよう現場に要請する。しかし、コスト増に繋がらない教師の時間外勤務の増加は、現場の問題であり、地方自治体ならびに教育委員会が積極的に解決する問題ではないと見なされてきた。我が国の義務教育制度には、業務改善を促す組織的な機能が欠如していると言えよう。

業務改革への期待と限界

この「中間まとめ」を受け、文部科学省では、取り組むべき具体的な方策を緊急対策(注3)として取りまとめている。この緊急対策は、上記の2つの要因のうち、業務改善に焦点を当てたものと言えよう。緊急対策では、4つの方策を示している。業務範囲に関するものが2点、業務量の抑制に関するものが1点、人的リソースやICTの活用等の業務プロセス改善に向けた環境整備に関するものが1点である。業務の範囲、時間、プロセスに着目したものであり、具体的な改善方策も示されていることから、即効性のある対策として評価できよう。

しかし、これらの取り組みはあくまでも教師の「業務」に焦点を当てている。例えば、時間外勤務の抑制に向け勤務時間を客観的に把握し抑制を図るよう指摘しているが、現場への業務指示などのプロセスレベルの改善にとどまっている。緊急対策であることは理解するが、短期的な対策に加え、中長期的な観点からの対策も求められよう。

求められるガバナンス改革と地域社会の支援

持続可能な学校指導・運営体制に向け、どのような対策をとるべきか。その鍵となるのが「総合性の罠」からの脱却に向けたガバナンス改革であろう。

本来、家庭、地域社会が解決すべき子どもの問題を学校現場に委ねるという動きは、今後もより一層強まることが予想される。小学校は地方自治の最小単位である。学校を問題解決のプラットフォームとする動きは、物理的な「場」としては理解できるものの、その活動主体を小中学校の教師に担わせるようとする姿勢には疑問が残る。

教師は学習指導の専門家ではあるが、子どもやその家庭が抱える様々な問題の解決を図る専門家ではない。しかし、教師には、「総合的」な指導を担うことが暗黙的に求められている。この指導の総合性を拡大解釈し、多くの役割を教師に担わせようとする動きこそが「総合性の罠」である。学校の持続可能性を破壊する構造的要因となっている。

2014年に改正された地方教育行政法により、地方教育行政のガバナンス強化が図られている。しかし、この法改正は首長等による教育委員会のチェック機能を強化するなど、教育委員会の組織改革の側面が強い。

しかし、問題の解決を教育委員会、学校に委ねるだけでは、総合性の罠から脱却することはできない。学校で起こっている子どもの問題は、学校に閉じた問題ではなく、学校で顕在化した地域社会全体の問題である。変えるべきは、学校外のステークホルダーの意識である。地域や行政は監視役の役割に加え、当事者として問題解決にあたる責務があることを理解する必要がある。地域、行政、教育委員会、学校の役割・権限の見直しも含めたガバナンス改革が求められよう。

21世紀は、教育が、政治、社会、経済、文化の未来を決定する時代ともいわれる。公教育の中核となる教師の力を最大限に発揮できる環境をつくることこそが、地域力向上に繋がることを理解し、学校、教育委員会を積極的に支援することが求められている。

注釈

(注1) :出所は「教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について(概要)」(文部科学省、2017年4月28日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1385174.htm

(注2) :「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中間まとめ)【案】」(文部科学省、2017年12月12日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/siryo/__icsFiles/afieldfile/2017/12/13/1399399_1.pdf

(注3) :「学校における働き方改革に関する緊急対策」(文部科学省、2017年12月26日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/12/__icsFiles/afieldfile/2017/12/26/1399949_1.pdf

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蛯子 准吏(えびこ ひとし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
東京理科大学理学部物理学科卒。ボーズ(株)、長野オリンピック冬季競技大会組織委員会、富士通(株)を経て、2003年より(株)富士通総研公共コンサルティング事業部に出向。専門分野は行財政改革、情報化戦略。2007年4月~2009年12月まで内閣府地方分権改革推進委員会事務局に出向。2009年9月 株式会社 富士通総研 公共コンサルティング事業部 マネジングコンサルタント。2012年4月 北海道大学 公共政策大学院 教授。2015年4月より現職。
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