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事業創造におけるSXSWの活用のあり方
―日本企業を中心とした出展企業の動向から―

2017年7月26日(水曜日)

毎年3月にアメリカテキサス州オースティンで開催されるサウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest、以下SXSW)は、音楽、映画、インタラクティブを組み合わせた世界最大級のクリエイティブ・ビジネスのイベントだ。SXSWはスタートアップの登竜門として知られており、かつてTwitterは、ここでアワードを受賞したことを機に爆発的に普及したことで有名だ。

2017年のSXSWは、SONYやPanasonic、資生堂、パルコなど日本の大手企業の出展も目立った。筆者らは、2015年よりメインイベントの1つであるトレードショーへの出展やリサーチを行ってきた。そこで本稿では、多様なイベントが開催されるSXSWの魅力と、日本企業はどのように活用すべきかについて、事業創出の視点からそのポイントを述べたい。

オースティン中心地にあるAustin Convention Center(ACC)がSXSWのメイン会場。トレードショーはACCで行われる。ACC以外にも、ヒルトン、マリオットなどの周辺ホテルがカンファレンスの会場になり、会期中は、オースティンの街全体がSXSW一色になる。

【写真1】オースティン中心地にあるAustin Convention Center(ACC)がSXSWのメイン会場。トレードショーはACCで行われる。ACC以外にも、ヒルトン、マリオットなどの周辺ホテルがカンファレンスの会場になり、会期中は、オースティンの街全体がSXSW一色になる。

世界最大級のクリエイティブ・ビジネスのイベントSXSW

Keep Austin Weird(風変わりなオースティンであれ)――テキサス州オースティンの街の至るところで見かけるキーワードだ。これを体現するかのような、いわゆるクリエイティブなものが世界中から集まるのがSXSWだ。

SXSWとは、1987年にインディーズの音楽祭としてスタートし、その後フィルム、インタラクティブ、トレードショーが加わり、進化を続けている。デジタルやクリエイティブ業界の第一線で活躍する面々によるキーノートやパネルディスカッションといったセッションは1000を越える。約10日間の会期中には世界中から約8万人が集まるとも言われ、無名のスタートアップからテクノロジー業界の大物、投資家、政府関係者など多様な分野のキーパーソンが集結する一大イベントだ。

オースティン6thストリートも盛り上がりを見せる。夜間は道全体がクラブハウスのように盛り上がり、屋内外各所でライブが演奏される。

オースティン6thストリートも盛り上がりを見せる。夜間は道全体がクラブハウスのように盛り上がり、屋内外各所でライブが演奏される。

【写真2】【写真3】オースティン6thストリートも盛り上がりを見せる。夜間は道全体がクラブハウスのように盛り上がり、屋内外各所でライブが演奏される。

この日本でもSXSWの認知度は向上している。2017年は日本からの参加者が1000人を超えたとも言われ、出展においても、IT系スタートアップ・ベンチャーから大手企業まで幅広く出展していた。例えば、PanasonicとSONYは、最も多くの参加者が集まる市外中心地に1棟を丸借りして、「Panasonic House @ SXSW 2017」、「The WOW Factory」と題してそれぞれ構え、いくつかの事業アイデアをプロトタイプとして出展していた。また、トレードショーでは、NHKエンタープライズ、博報堂グループ、資生堂、パルコ、ワコム、富士通などの大手企業の出展に加え、経済産業省の中堅・中小企業等イノベーション創出支援プログラム「飛躍 Next Enterprise」で選出された11社のスタートアップがブースを展示するなど、政府としてもSXSWを活用し始めている。

NHKエンタープライズ、NHKメディアテクノロジー、レコチョク、WONDER VISION TECHNO LABORATORYの4社が共同で、“8K+ドーム型ワイドスクリーン+モーションライド+5.1ch”による世界初の「8K:VRライド」を出展。デバイスなしでVR体験ができる。東京をテーマに過去から現在、2020年に向かう様子を時空移動しながら、8Kによる実写とCGを組み合わせた映像をサザンオールスターズの楽曲「東京VICTORY」とともに楽しむことができた。

【写真4】NHKエンタープライズ、NHKメディアテクノロジー、レコチョク、WONDER VISION TECHNO LABORATORYの4社が共同で、“8K+ドーム型ワイドスクリーン+モーションライド+5.1ch”による世界初の「8K:VRライド」を出展。デバイスなしでVR体験ができる。東京をテーマに過去から現在、2020年に向かう様子を時空移動しながら、8Kによる実写とCGを組み合わせた映像をサザンオールスターズの楽曲「東京VICTORY」とともに楽しむことができた。

SXSWで自分たちのビジョンとその具現としてのプロダクトを問う

今回筆者が交流した日本企業の出展企業のうち約7割はトレードショーへの出展は初であった。そのことからも、SXSWへの関心の高さがうかがえる。一部、すでに日本国内で公開されているものもあったが、このSXSWに照準を合わせて商品をアップグレードさせた企業も存在した。注目すべきは、これらの多くが事業コンセプト立案段階や研究開発段階のプロトタイプであることだ。すでに商品化されているサービス・プロダクトを展示するのではなく、自分たちが考えるものがSXSWに訪れる多様な人たちに受け入れられるのかを問いたい、という声が実際に聞かれた。

いくつか例を紹介すると、Panasonicの出展は家電の新規事業創出を主目的に8つの事業アイデアを開発担当者自らが前面に立って紹介し、直接来場者からフィードバックを受けていたのが印象的だった。SONYのWOW FACTORYでは、エレクトロニクス、コンテンツ、エンターテインメントの要素を絡めたプロトタイプや研究開発プロジェクトを、すべて体験可能な形で、来場者を楽しませていた。

また、このようなコンセプト段階のものをいわゆる“オープンイノベーション“の手段を通して出展する企業もあった。パルコは自社で運営するクラウドファンディング「BOOSTER」を活用し、学生との2つの共同プロジェクトNeko ElectroとMove+を出展していた。また、筆者が関わった富士通のinteractive shoes hubは、慶応義塾大学メディアデザイン研究科と連携した出展だった。

SONYは、建て屋一棟を丸借りしてThe WOW Factoryを構えていた。すべて体験可能なプロトタイプや研究開発段階のプロジェクトを計13展示。写真はプロジェクションマッピングとボルダリングを組み合わせた体験型展示。

SONYは、建て屋一棟を丸借りしてThe WOW Factoryを構えていた。すべて体験可能なプロトタイプや研究開発段階のプロジェクトを計13展示。写真はプロジェクションマッピングとボルダリングを組み合わせた体験型展示。

【写真5】【写真6】SONYは、建て屋一棟を丸借りしてThe WOW Factoryを構えていた。すべて体験可能なプロトタイプや研究開発段階のプロジェクトを計13展示。写真はプロジェクションマッピングとボルダリングを組み合わせた体験型展示。

完成されたプロダクトやサービスの展示が多いCES(Consumer Electronics Show)などの総合見本市とは異なり、SXSWは、出展者が見据える未来像やコンセプト、そしてその具現としてのプロトタイプを通じて、多様な参加者とインタラクションを行えるのが大きな特徴であり、魅力であると言えるだろう。つまり、自社にとってチャレンジングで、その価値をコンセプトやプロトタイプの段階から世の中に思い切って問うことができる絶好の機会になる。このような場をうまく活用するメリットは、プロダクトやサービスの市場における受容性の検証、事業パートナーの獲得、投資家とのコンタクト・資金獲得などが挙げられる。

事業創造を加速させるためのSXSWの活かし方

では、SXSWを企業の事業やサービス開発を行ううえで有効に活かしていくためには何が必要だろうか。これまで富士通総研では、SXSW 2015~2017の3期にわたり、出展活動や現地視察を行ってきた。それらの実践経験を踏まえて、主にトレードショー出展に向けた企画のポイントを3つ述べたい。

1.事業アイデアをコンセプトとして昇華する

SXSWは多様なフィードバックが得られる場であるため、プロダクトやサービスアイデアを“事業コンセプト“として練ることをお勧めしたい。このコンセプトが軸足となるため、様々なフィードバックを受け止め、活かすための根幹になると言えるからだ。筆者が出展に関わるにあたり、プロダクトやサービスアイデアがどんな世界をつくるのかという世界観を表現するべく以下の5つの問いを設定し、事業コンセプトを明確にした。

(1)私たちが考える未来はどのような姿だろうか
これからの未来が、どうなっていくのかという洞察を自分たちの視点で描く。5~10年後に社会の風景がどのように変わっていくのか、また人々や暮らし、企業がどのようになっていたらよいと感じるのかを考える。

(2)私たちが問題や課題に感じていることは何だろうか
描いた未来に対して、何が重要な問題や課題となるのか。また、その問題や課題は、どのような影響をもたらすのか、そして、それを解決できれば、どのような機会が生まれると感じたのかを描く。

(3)ターゲットは誰だろうか
実際に、その問題や課題に悩んでいる企業や人はどのような人だろうか。また、その人たちは解決のために現状はどんな代替手段を講じているだろうか。いわゆるペルソナを具体化する。

(4)何を提供価値とすべきだろうか
ターゲットの問題や課題に対して、今自分たちが出展しようとするプロダクトやサービスは、どのような価値を提起することになるのだろうか。その価値は、困りごとの解決か、嬉しさの増幅のどちらだろうか。

(5)私たちがもたらしたいものは何だろうか
結果的に、その価値は企業活動や人々の生活にどのような好影響を及ぼすことにつながるだろうか。

これらは、未来のビジョンや実現したい世界の姿から、現在とのギャップを課題として捉え、解決策として価値を練る、いわゆるバックキャスティング型のアプローチで考えていくものだ。ここから、SXSWの来場者に自分たちのプロダクトやサービスのアイデアをどのように体験してもらいたいかという展示の設計に落とし込んでいく。

2.出展の狙いを定め、ブースでの“体験”を設計する

準備期間はコンセプト構想段階を含めると少なくとも3か月から半年は必要だ。筆者の経験上では、3月の出展に向けて、前年の10月頃から徐々に動き出す。筆者が交流したSXSWの出展企業のいくつかも同様の期間で準備を始めていた。筆者の場合は、プロダクト・サービスの開発はもちろんのこと、出展のための基本企画、ブースでの体験設計も行っていく。出展のための基本企画では、まず出展の目的を明確にする。ユーザーリサーチ、事業パートナー、資金の獲得など、狙いによって訴求の仕方は異なる。

ブースでの体験設計は、プロダクトやサービスをどのような流れで来場者に触ってもらい、何を感じてもらいたいのかをつくることだ。どのようなブースの装飾にするのかはもちろんのこと、プロモーション用のWebサイト、ムービー、フライヤーやノベルティなどの設計も含まれる。これらを固めプレスリリースなどを通じて広く発信する。最も重要なことは、ブースでの体験を通して、来場者に何を感じて欲しいのかを明確にすることだ。これが体験の設計の根幹になるからだ。以上のような検討を踏まえて、新規事業デザインの取り組みとして過去3年間のブースでの体験設計は、富士通デザインが中心となって行っている。

富士通が出展した靴の未来を共創するプラットフォーム「interactive shoes hub」の出展風景。LOOP(輪)というコンセプトで利用者には見えない閾値を可視化することで、センサーシューズのAPIから把握できる身体の状態が閾値を超えた際に、状況に合わせたフィードバックを返すデモンストレーション。

【写真7】富士通が出展した靴の未来を共創するプラットフォーム「interactive shoes hubOpen a new window」の出展風景。LOOP(輪)というコンセプトで利用者には見えない閾値を可視化することで、センサーシューズのAPIから把握できる身体の状態が閾値を超えた際に、状況に合わせたフィードバックを返すデモンストレーション。

3.市場の受容性を見極める“インタラクティブリサーチ“を設計する

完成した商品でないものの方が時に喜ばれ、フィードバックを受けて革新的なプロダクトに生まれ変わるようなことが可能なのは、インディーズ精神が根底に流れるSXSWならではと言える。つまり、自社内だけで完結させ、プロダクトの完成度を十分に担保してから市場に投入したり、完成品の販促活動として出展したりするのとは異なる。そんなSXSWのような場では、一方通行ではない双方向的なやりとりが極めて重要だ。

筆者は「新製品やプロトタイプを奨励する展示会に開発途中や販売直前・直後の商品を展示することで市場の声を直接獲得し、商品開発やマーケティングに即座に反映するプロセス」を、「インタラクティブリサーチ」と呼んでいる。ソフトウェア業界のように動きが速く、かつ未成熟な市場においては、双方的な対話を行っていくことが有効な手法だと考えているものだ。

具体的には、来場者とのコミュニケーションを、対面ヒアリング、アンケート、Webなどの各チャネルにおいてどのように行っていくかを設計する。一口に対面ヒアリングといっても、例えば、継続的な関係性が築けるようなファン作りを念頭に置いた場合、強く興味を持つユーザー候補や投資家と濃いやりとりをいかに行うかが重要になる。このようなことを念頭においてどのようなやりとりを行うのか、そのためにどのような準備が必要になるかを落とし込んでいく。

富士通のinteractive shoes hubの出展では、様々な企業と連携しながら新たなプラットフォームを作ることに対して市場に受け入れられるのかどうかをリサーチした。そこではプロダクトやサービス開発の加速につながる思いもよらないアイデアの獲得や、コンセプトへの共感から具体的な連携の申し出があった。

事業創造のフェーズごとに場を使い分ける

SXSWなどのイベントを活用し、プロダクトやサービスの開発を加速させるやり方は施策の1つとして有効だが、どのフェーズにあるのかを考慮し、適切な場で発信することが大切だ。プロダクトやサービスを披露する展示会は様々あるが、それぞれに合った伝え方がある。新領域のプロダクトやサービスにおいては、初期のフェーズで様々な事業者と接点を持ちエコシステムを形成することで、市場のニーズにマッチしたものを早期にリリースし、アップデートしていくことが重要だ。そのための場として、異業種の交流や多様なフィードバックが得られるSXSWは、研究開発やプロトタイプフェーズのプロダクト・サービスとの親和性が非常に高いと言える。あえて分かりやすいイメージで言うと、初期のフェーズではSXSW、次に特定分野の専門展示会、そしてCESなどの大規模展示会といった具合だろう。

実際に筆者と出展者間の交流の中で、「来年はプロダクトを完成させてCESに出展したい」といった声を何度か聞いた。すでに完成品があり、これまで以上にビジネスの規模を拡げたいのであれば、SXSWよりもCESの方が適していると言える。本稿では、SXSWにフォーカスを当てているが、CESなどを含めたビジネスイベントの特性を理解し、活用することが大事だ。

まだない事業の創造に向けて

SXSWは、音楽、映画、インタラクティブなどの要素が個別に発信されるのではなく、それぞれの要素と多様な人、文化、技術が融合された唯一無二のフェスティバルだ。SXSWでプロダクトやサービスを発信することで、今まで聞き得なかった多様なフィードバックを得ることができ、事業の未来をデザインするためのインプットとなるだろう。自社のプロダクト・サービスのフェーズを理解し、今どんなアクションが求められるのかを考え、最適な手段を選択しなければならない。富士通総研では、今後も動向の調査だけにとどまることなく、事業創造を加速させる提案や実践を続けていく。

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黒木 昭博 黒木 昭博(くろき あきひろ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ チーフシニアコンサルタント
主にIT中期計画やテクノロジーを使った新規サービス開発のコンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体となって価値を生み出す「共創」を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(共著、日経BP社)がある。修士(経営学)。

石井 博之 石井 博之(いしい ひろゆき)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ コンサルタント
2013年、富士通総研入社。主に通信業のビジネスコンサルティングを行う。
近年は、MVNO事業領域に焦点を当てた専門的知見を提供しており、新規参入支援やビジョン・成長戦略の策定、サービス・商品開発、北米・欧州を中心とした事例・動向調査など、そのテーマは多岐にわたる。