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多機能型拠点における共生ケアの実践

実施拡大に向けた制度改善と地域包括ケアにおける棲み分け

2017年2月28日(火曜日)

政府は団塊の世代が75歳を迎える2025年をめどに、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を目指している。その体制の中で求められているのは、福祉拠点の多機能化である。例えば、約10年前に制度化された「小規模多機能型居宅介護事業(注1)」はこの流れの1つである。その特徴は、1つの小規模拠点が、「通い」、「訪問」、そして「宿泊」の機能を備えている点にあり、多様なニーズを1か所が請け負えるというだけでなく、「通い」、「泊まり」、「訪問」を、利用者数が少数に限定された1か所が対応することで、利用者に担当者や環境が変わるストレスを感じさせにくいというメリットがある。また、利用者負担額が月当たりで設定されており、利用回数や日数に上限がないという点で、利用者にとって分かりやすい仕組みとなっている(注2)。今後、介護においては在宅ケアが中心となっていく中で、小規模多機能型拠点のように通うこともでき、そこから訪問も受けられるという複合的な機能を有する介護拠点が地域に存在する意義はますます高まっていくだろう。

この多機能化の流れの中で、最近では、拠点が持つ機能の多様化は介護事業の枠内だけでなく、その他の福祉分野ともつなげて考えられるようになってきた。従来、高齢者を対象とした介護、子供を対象とした保育、そして障害者福祉は異なる領域として扱われてきた。しかし、1つの世帯の中で複合的な問題を抱え、単独分野の支援だけでは十分に対応しきれないという現状が浮かび上がり、政府は分野を問わない福祉の供給を議論し始めたのである。このような分野横断的な福祉供給のあり方を「共生ケア」と呼ぶ(西山, 2016)。このように共生ケアの実施拡大に向けて議論が進み始めている動機は、利用者の複合的ニーズに対して一体化したサービスで応えるという点に加え、人材や設備の不足する保育や介護、障害者支援における資源のシェアにもある。

1.分野を超えたケア供給を目指すことによる多機能化

共生ケアは実践の現場から見いだされたケアのあり方であり、原点は「宅老所」と呼ばれた取り組みにある。その特徴は、利用者の介護度レベルに対する区切りを取り払い、利用したい者を「誰でも受け入れる」ことを原則とした、非常に包括的な点である(井口, 2013)。「区切り」のないケアが射程に入れる利用者の範囲は実践の中で次第に高齢者介護の枠を超え、高齢者や障害者、子供へと広がった。上述のとおり、これが利用者の属性を限定しない分野横断型共生ケアの原型である。

共生ケアの取り組みを制度として支える枠組みは地域包括ケア体制構築の議論の中で少しずつ形になり始めているものの、まだまだ時間を要する段階にある。そのため実践拠点を把握する公式統計は存在しないが、2015年時点で全国に1427か所を確認している研究報告がある。東京大学の研究者らが、そのうち186か所を網羅した調査結果によれば、半数近くが介護施設を拠点にしていることが多く、介護保険事業と障害者自立支援事業を組み合わせる、もしくは介護保険を軸にほかのサービスを自主的に行い、共生ケアを実践している場合が多い(江, 2015)。

分野横断型のケアとは、属性の異なる人々をただ同じ空間でケアしているという単純なものではない。共生ケアの現場では属性別のケアでは見られなかった相互作用が生じている。いくつか先進的な取り組みの聞き取りを行った中からそのエッセンスを考察してみたい。

(1)職員と利用者の関係性が変わる

共生ケアの実践に見られる顕著な特徴は、関わる世代や属性が多様化するため、従来のようなケアの与え手/受け手という二項対立の関係性以外の新たな関係性が生まれる点である。例えば、介護においてはケアの受け手としかみなされていなかった高齢者が、子供の存在によって、自らも世話をしたり教えたりと何かを与える側に回る場面がある。この循環がうまくいっているケースでは、介護スタッフと利用者である高齢者の関係の変化も観察された。共生ケアの環境は、職員と利用者である高齢者が個々の主体として相互に関わり合い、相互作用を生み出すプロセスが展開していくことを促す。それによって、職員と利用者がより対等に関わり合う場面が増えるのである。ある小規模多機能型拠点では、利用者が能動的に動くようになり、自分のできることを手伝うようになるなどして、結果6割もの利用者の要介護度が改善したという報告がある。

介護現場におけるスタッフと利用者の関係性の変化は日本の介護現場だけで観察されることではなく、高齢者福祉の先進国と言われるデンマークの事例においても同様の指摘がある。デンマークの社会政策分野で研究を進めるJensenとFerschは、高齢者ケアにおいて、利用者をサービスの受け手という受動的な存在としてのみ捉えるのではなく、職員と利用者が利用者の暮らしを“co-produce”、つまり共同で創っていく過程を介護の現場で実践する行為についてケアの”path-breaking innovation(革新的イノベーション)”の1つと評している(Jensen and Fersch, 2016)。このような新たなケアの議論は日本のケアの先進的実践を理解し、これからのケアサービスのあり方を考えるうえで示唆的である。

しかし、実際問題としてケアを必要とする人々と相互作用を通して関係性を構築するという試みは非常にチャレンジングに聞こえるかもしれない。日本の先進事例では、この点に関する努力を惜しまない実践者の存在が大きい。このような先導者の存在なしに、「共生ケア」が相互作用を生み出すプロセスとして発展していくことは、現状ではなかなか難しい側面もある。

(2)仕事における創造性と事業の付加価値

インタビュー調査から、ケアの場が多機能化することにより、複合的なサービスが供給できるようになると、仕事に対するモチベーションの向上が見られる場合があることが明らかになった。その一例として、サービス付き高齢者住宅、デイサービスと学童保育が併設されているとある施設でのアクティビティの企画において、利用者を高齢者のみと想定していた時に比べ、子供が参加することを考慮に入れる場合では企画を立てるアイデアに幅が出るようになった点がある。子供が関わるということは、子供だけでなく、保護者や学校など関係する人や場所が増えることを意味し、関わりの種類の増加は「介護事業」という枠を超えたサービス内容を考えるきっかけにつながる。

混合介護(注3)推進のため、特区を設けて規制緩和を推進する動きが出ているなか、介護事業により多様な業種が参入してくるようになる将来を見据えると、ほかにはない付加価値をもって選んでもらえる施設になることは益々重要になってくる。その点において、上記のように企画の選択肢における厚みを持つことは事業の付加価値につながる。ただ拠点を多機能化するのではなく、施設の立地している近隣地域にはない、もしくは不足している「機能」を展開することを意識し、地域における拠点づくりを念頭に置いた場を発展させ、地域の資源として価値のある拠点の形成が求められる。

2.今後に向けて:実施拡大に向けた早急な制度改善と従来型属性別ケアとの棲み分け

現状、共生ケアを実践する多機能型拠点の実施を進めていくためにはまだ課題がある。今後に向けて、本稿では以下3点を指摘したい。

(1)自治体の理解と法整備

1点目に、共生ケアを念頭に置いた「地域包括支援体制」の具体的な内容は各自治体に広く理解されているわけではない。特定非営利活動法人、全国コミュニティライフサポートセンターが2015年11月に実施した共生施設に関するアンケート調査(注4)によれば、共生ケアの実践に対する行政の理解が得られず、認可に数年を要した、もしくは認可してもらえず、結局、従来の高齢者介護だけに特化した事業運営にとどまっているなどの指摘が報告されており、認可制度の改善が望まれる。また、介護と保育の事業を同時に同じ場所で行う場合には法律により高齢者と子供が同じ玄関を使用できないなどの規制が存在しており、政府は法改正の検討も視野に入れるべきである。

(2)「質の評価」の制度化

より一般的な介護事業の問題としても指摘されていることであるが、現行制度は症状の改善など、ケアの質を評価し報酬に反映しないという問題もある。現状では、要介護度が改善すると事業所の報酬は減ることになり、事業所が利用者の症状を改善するインセンティブがない。上記、要介護者の6割が改善を見せた事業所があると述べたが、現状ではそのような結果は利益につながらず、逆に経営の首を絞めてしまう。これに対し、品川区は2013年より要介護度改善ケア奨励事業を実施し、社会福祉法人等の運営する指定施設の要介護度改善に対し奨励金を給付している。ほかにも川崎市などが介護サービス事業者へのインセンティブ付与を部分的に実施するに至り、現在全国7自治体が「介護サービス質の評価先行自治体検討協議会(注5)」を組織して政府へ提言を行っている。2016年11月に開催された政府による「未来投資会議」も介護報酬のインセンティブについては言及しているが、全国レベルでの早急な制度化が望まれる。

(3)共生ケアと属性別ケアの棲み分け

厚生省は「新しい福祉ビジョン」として、共生ケアを実践する「全世代・全対象型地域包括支援体制」の構築を方向性として示し、共生ケアの拠点整備推進を掲げている。しかし、共生ケアと従来の属性別ケアが地域包括ケアシステムの中でうまく棲み分けを行うことが肝要ではないだろうか。その2つが本質的には何を共有し、一方でどのように異なるのかをより明確に把握する必要がある。共生ケアの実践は場合によっては利用者に不要な混乱や困惑を招くなど、逆効果になることも考えられ、属性別ケアが適するケースも存在しているはずである。今後は、このような視点に立った研究を進め、どのような棲み分けを行っていくべきかを具体的に探る必要がある。

参考文献

  • 井口高志(2013)「『新しい認知症ケア』の時代と労働・仕事・活動―認知症ケアの現在地点とその先Open a new window」シノドス
  • 江文菁、岡本和彦&西山和彦(2015)「共生ケア施設における基礎的ケア状況に関する分析」日本建築学会技術報告集 第21巻 第47号,255-258
  • 全国コミュニティライフサポートセンター(2016)「多世代交流・多機能型福祉拠点のあり方に関する報告書」
  • 西山裕(2016)「都道府県の地域福祉施策における共生型事業推進施策の意義」年報公共政策学 vol.10
  • 山口健太郎, 三浦研, 石井敏 (2015) 「小規模多機能ホーム読本ー地域包括ケアの切り札」 ミネルヴァ書房.
  • Jensen, P., H. & Fersch, B. (2016) Institutional entrepreneurs and social innovation in Danish senior care. In Administration & Society, 1 -22.

注釈

(注1)各事業所において登録定員の上限は29人以下。1日当たり通いは概ね15名、泊まりは9名を基準に定められている。2011年の介護保険法改正により新たに比較的近距離に、一つの事業所がメインの小規模多機能型居宅介護拠点と、更に小規模なサテライト型出張所2か所を同じ日常生活圏内に設置できるようになった。サテライト出張所の利用者登録定員は本事業所のおよそ3分の2である18名で、本事業所から車で20分程度以内のところに設置されることが条件となっている。サテライト出張所に利用登録をした利用者は空きがあれば本事業所での宿泊もしくは本事業所からの訪問を受けることができる。

(注2)利用料は表1に示した通りである。

表1 小規模多機能型居宅介護の利用料一覧
利用者負担(円/月)
事業所と同一建物に
居住しない場合
事業所と同一建物に
居住する場合
要支援1 3,403 3,066
要支援2 6,877 6,196
要介護1 10,320 9,298
要介護2 15,167 13,665
要介護3 22,062 19,878
要介護4 24,350 21,939
要介護5 26,849 24,191

(注3)介護保険制度の対象となるサービスと、利用者が全額を自己負担する保険外サービスを併せて提供することを言う。

(注4)第7回地域共生ホーム全国セミナーにて2日間に渡り779名を対象に実施された。

(注5)品川区、岡山市、川崎市、名古屋市、滋賀県、福井県の6自治体により2015年11月に発足。2016年8月より江戸川区も参加し、現在7自治体で活動している。

関連サービス

【調査・研究】



森田 麻記子(もりた まきこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2008年 デンマーク、オーフス大学留学、2010年 神戸大学大学院博士前期課程修了(人間環境学)、2013年 京都大学文学研究科 共同研究員、2012年~2015年 デンマーク、オールボー大学、比較福祉研究所(Centre for Comparative Welfare Studies)にPhDフェローとして4年間在籍し、2016年 富士通総研入社。
専門領域は社会政策学、高齢者福祉、ライフコース研究。
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