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数理最適化技術によるリサイジング・イノベーション-昨今のアナリティクスの話題-

2017年2月24日(金曜日)

ビッグデータやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(人工知能)というものに職業柄、日常的に向き合っている中で感じることがいくつかあります。

1.統計学は「安定を生み出す活用」から「不安定な状況でも最適化を図る活用」へ

例えば統計学。

ビッグデータを可視化したり、ビッグデータから特徴を抽出したりモデルを生成したりする際に必要不可欠な道具の1つが統計学であり、そうした背景からか、ここ何年かで習得しておくべきスキルとして株を上げています。大学などでも、教育に力を入れている分野の1つということです。

その統計学の典型的な使われ方ですが、例えばモノづくりにおいて、安定的な生産品質を維持するために品質変動に影響を与えるパラメータのモニタリングと調整を施し、変動を抑制したり排除したりするというのが典型的な使われ方です。

統計学が多用される分野、例えば製薬の薬事検定においても、マーケティングにおける顧客分析にしても、販売計画における需要予測にしても、データの中にある安定的な傾向、つまりは統計的特徴量を抽出して、それぞれの分野の品質、歩留まり、生産性などを維持していこうとするものです。

ところが、最近はこうした安定を生み出すための活用から踏み出して、不安定な状況や複雑な環境の中でも、目的とするパラメータの最適化を図るといった活用が行われるようになってきました。

環境を改善して誤差の発生を抑えていく、あるいは観測システムを高度化してコントロールシステムを高精度化していくというアプローチではなく、誤差や変動を受容して最適化を図っていくというアプローチです。

例えば、1つ1つの予測精度を高めるのではなく、「全体として最もコストミニマムでアウトプットを最大化できるか?」といったような問題です。

こうしたテーマの嚆矢の1つが、ボラティリティ(価格の変動性)に注目したポートフォリオ理論であり、その後に金融商品市場の拡大につながった金融工学です。

製造物やプラント、あるいは社会インフラの管理などにおいても、個々のパーツや設備の維持を個々独立に管理していくというスタイルから、全体として最適に維持管理していこうという取り組みが出始めていますし、カスタマー・エクスペリエンスの分野でも安定的な傾向で顧客を捉えるだけではなく、刹那的な状況や環境に影響された状況などをモデル化して接点機会を最適化するといった取り組みがなされています。

こうした応用では、従来のように統計学を統計学のまま使うのではなく、例えばディープラーニング(注1)や数理最適化といった他分野の技術とのコンビネーションで使われることも特徴の1つでしょう。

昨年は、AIの囲碁ソフトがプロ高段者に勝って注目を浴びましたが、着手選択肢の膨大な囲碁ソフトがここにきて急速に力をつけてきたのも、「モンテカルロ木探索」という統計的な手法を内挿したからだということです。

「クリーンな生産環境でエラー率8σ、9σの品質を目指す」といった細部精緻化のために使われていた統計学が、「時々刻々変化するビジネスのディシジョン」といった経営判断の最適化のために当たり前のように使われるのも、もう目と鼻の先の話でしょう。

2.数理最適化はAIにより大規模な問題を解けるようになった

最近はAIブームということでAIに関するお客様からのお問い合わせには様々なものがあります。

それこそ多種多様で、ビジネスの多様性やイノベーションの息吹を感じるわけですが、独自に分類してみると、大きくは3つの分野のニーズがあると理解しています。

(1)既存のデータ(機械のログであったり、システムのトランザクションデータであったり、オペレーション日誌であったり、様々ですが)を機械学習にかけてイノベーションのとば口に立てないか、といったビッグデータ・チャレンジからつながるテーマ

(2)組織にストックされている情報(いわゆるノウハウ情報ですが)を組織化・知識化して活用の高度化を図ったり、専門業務の生産性を高めようとする知識処理分野

(3)事業、組織、オペレーションシステムのプロセスや状態を最適化してインプット最小化・アウトプット最大化を図る領域

今回は数理最適化をテーマとしているので、(3)について述べたいと思います。(もちろん(1)(2)についてもコア領域としてコンサル/ソリューションを提供しています。)

数理最適化技術というのは、オペレーショナルなシステムを数理的なモデルで記述して最も有利な解を導き出すという技術です。OR(Operations Research)と言った方が、通りがよいかもしれません。

この数理最適化技術、例えば物流センターから、多数のコンビニ店に商品を配送するロジスティクスシステムにおいて、各店に定められているそれぞれの店着時間を守って、総走行距離を最短にしたり、必要貨物車台数を最小にしたりするという配送計画に使われたりしています。

この数理最適化技術に関するニーズが増えてきています。

その背景には、AIが話題になって、「コンピュータって、自分たちが考えているよりもう少し利口かもしれない」という期待値が上がったということがあるでしょう。

数理最適化では、実際のビジネス課題を数式に置き換えて、その数式をコンピュータに解かせるという手続きをするわけですが、課題を単純化した、いわゆるトイモデル(Toy model)では容易に解けても、現実に運用するために考慮が必要な様々な細かい条件を入れていくと、数式の規模が膨れ上がっていきます。数理最適化で厄介なのは、この数式の膨れ具合に対して解を出すための計算量が級数的に増加するということでした。この計算量の抑制に対して、これまでも様々なアルゴリズムが供給されてきましたが、ここに来て、AI技術の援用や量子アニーリング(注2)といった新たな技術でより高速化が見込める、つまりは、より複雑な問題や、より規模の大きな問題を解くことができるようになってきたのです。

では、大規模な問題を解くことができるということは、どういうことなのでしょう? 大規模な問題を解けるシステムを持つということは、ビジネス上でどのような意味を持つのでしょうか?

3.大規模な問題を解くということ、問題を大規模化するということ

問題の規模を大きくして改めて解き方を考える、あるいは管理対象範囲を広げたうえで、その全体を最適に運営していくといったテーマが経営革新の取り組みの中で最近増えてきています。

例えば、従来の独立採算事業単位を見直して、より大きなユニットにして運営していくといったチャレンジ、あるいは従来それぞれ独立して生産していた複数の工場について、それらの工場全体のサービス率の最大化を目指して相互調整型の工場群に転換するといったチャレンジです。

こうしたビジネスの大規模化は、生産性の向上や利潤の拡大という点では元々正しい選択です。事業フレキシビリティの拡大やリスクの縮退という点からもメリットがあります。

例えば、保険や証券、金融といったリスクビジネスにおいては、一般に貸出資産や引受保険などのリスク資産をバルク化すればするほど、リスクレートは下がりますし、一般事業会社においても規模を大きくすればするほど固定費賦課低下などによって収益率は上がります。

しかしながら、これまでの経営理論では、こうした規模の経済には限界点があり、その限界点以降はむしろ収益率が下がる収益逓減のジレンマに陥る、規模を追いかけるのは賢明な経営ではない、というのが常識でした。

規模を大きくしていくと、管理コストが指数的に増加するのがその理由です。また管理が複雑になりすぎて、現実問題として管理不能になるためです。

ところが、もし指数的に増加する管理コストを抑制できたら、あるいは大規模化する事業システムを最適に管理できる方法が手に入ったらどうでしょう?

そこにはブルーオーシャンが見えてきます。

現実に、生産システム、ロジスティクス、保守、事業計画、事業管理など、様々な分野でコントロールスコープの見直しや拡大がなされるようになってきています。そして、そうしたコントロール範囲のリサイジングやアップサイジング課題に対してビッグデータ、AIなどの技術を適用することによって大きな果実を獲得できるようになってきています。

生産性の向上、事業効率の向上というのは、経営においては普遍的なテーマですから、少し大げさに言えば、こういうことに手をつけない経営者は不作為を問われるのではないかと思ったりします。

また、話は少し飛びますが、TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋パートナーシップ)の推進も、これを破棄して、さらにNAFTA (North American Free Trade Agreement:北米自由貿易協定)の見直しを迫るトランプ政権の構想も、経済最適化のスコープと目的関数のリサイジング問題と捉えることができます。そして、こうしたダイナミズムはあらゆる経済活動に影響を与えることになります。

内的リサイジングへの挑戦、外的リサイジングリスクへの対応に、経営者の皆さんにはぜひ数理最適化技術やOR技術を活用してほしいものです。

経営革新やそれに伴う新たなビジネスの勃興を、ITはいくつかの節目で支えてきましたが、それぞれの節目に共通するのは、1つではない複数のテクノロジーが同時に、あるいは合わせ技で臨界点を超えたその時ではないでしょうか。

とすれば、今まさにビッグデータテクノロジー、IoTテクノロジー、AIテクノロジーと三種の梃が揃ったわけですから、これから当分はイノベーションが花盛りになるでしょう。

注釈

(注1)ディープラーニング : 多層構造のニューラルネットワークを用いた機械学習。システムがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う。

(注2)量子アニーリング:量子焼きなまし法(quantum annealing、略称: QA)は、量子ゆらぎを用いた過程によって、解候補(候補状態)の任意の集合から任意の目的関数の最小値(グローバルミニマム)を探す一般的方法である。主に探索空間が多くのローカルミニマムを持ち離散的である問題(組み合わせ最適化問題)に対して用いられる。
(出典:Wikipedia)

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渡辺 南
渡辺 南(わたなべ みなみ)
株式会社富士通総研 執行役員 ビジネスアナリティクス事業部長
【略歴】1979年 富士通株式会社入社。1988年株式会社富士通総研へ出向。流通ビジネス分野コンサルタント、ビジネスサイエンス分野コンサルタントを経て現在に至る。
【著書】「差延の戦略」(共著 富士通ブックス 1995年)、「流通ネットワーキング革命」(共著 富士通ブックス 1996年)、「リレーション・プロセス・マネジメント」(共著 ダイヤモンド社 2000年)