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【フォーカス】数理最適化技術で実現した広域ガス供給設備の保全業務改革

2017年2月23日(木曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

新しいICTの使い方によってビジネスのデジタル化が活発化していますが、ガス供給網のメンテナンス業務を改革するのに数理最適化技術がどのように役立ったのでしょうか?

本対談では、「数理最適化技術で実現した広域ガス供給設備の保全業務改革」というテーマで、東京ガス株式会社防災・供給部供給設備管理センターの市川所長、飯嶋副所長、富士通株式会社のフィールド・イノベータの鵜飼さん、システムエンジニアの砂土居さん、株式会社富士通総研(以下、FRI)茂木チーフシニアコンサルタントに語っていただきました。進行役はFRIビジネスアナリティクス事業部の渡辺事業部長です。

1. ガスの安定供給を支え、供給網の保安を担う供給設備管理センター

【渡辺】
AI、ビッグデータ、IoTといった新しいICTの使い方によってビジネスのデジタル化を加速する動きが活発化しています。消費者・生活者に新たな価値提供をしていくデジタルマーケティング分野、製造・生産のさらなる高度化やパ-ツ・製品レベルからプラント・システムレベルまでの品質維持といったIndustrie4.0の取り組み等があります。また、事業活動の生産性の飛躍的な向上によって事業のスケーラビリティや経営の合理的判断を実現するスマート経営も盛んになると思われます。本日は、ガス供給網という社会的に極めて重要で広域に張り巡らされたインフラの保守事業のデジタル化による業務改革に早くから取り組まれておられる東京ガス株式会社防災・供給部供給設備管理センター所長の市川様、副所長の飯嶋様にお話を伺います。市川様、早速ですが供給設備管理センターのお仕事についてご紹介いただけますか?

【市川】
都市ガスは工場で製造されてから様々な設備を通じてお客様にお届けしますが、供給設備管理センターでは1都6県に点在する280の施設について、主にLNG(液化天然ガス)基地から出る高圧導管の各所にある高圧ステーションの電気計装の維持管理、町中の一般にはガスタンクと呼ばれるガスホルダーのある整圧所の電気、計装、機械設備の保全に37名で対応しています。
供給設備管理センターは防災・供給部制御設備グループに所属しており、制御設備グループの基本使命はガスの供給調整に重要な供給施設の建設・維持管理と自営無線の建設・維持管理です。
供給設備管理センター37名の業務は、整圧所ホルダー、無線の中継所、地区ガバナーに関する電気とコントロール用の計装設備、ガスホルダーも含めた機械設備の計画・建設・維持・管理です。高圧ステーションも電気や計装設備、無線鉄塔設備は特殊なので、我々が一括して、維持管理を行っています。

【東京ガス株式会社 供給設備管理センター所長 市川 昭仁 氏】
【東京ガス株式会社 供給設備管理センター所長 市川 昭仁 氏】

【渡辺】
広域の多くの施設の建設・維持・管理と無線鉄塔の維持といった多岐にわたる業務を37名でこなされているというお話でしたが、そうした難しい業務を行うために、どのようなことを重視していらっしゃいますか?

【飯嶋】
「安定供給」と「保安の確保」が最重要課題でキーワードになると思います。口で言うのは簡単ですが、実践していくうえでの業務基準があり、その配下に定められる作業要領・各種点検業務マニュアルを確実に実行することによって安定供給を実現しています。供給エリアの拡大によって設備数も増え、急ぐあまり手順がおざなりにならないよう、業務基準・作業要領の順守を所員に徹底しています。

【渡辺】
そうすると、業務の中に占める教育や訓練が重視されているのでしょうか?

【飯嶋】
はい。若年層が増えて、3分の2が20代前半です。入社間もない人間に「安定供給」「保安の確保」を意識しろと言っても難しいので、常にキーワードを口に出すことで、重要な仕事であると意識付けをしています。さらに、作業手順を省いたりしていないか、チェックリストを活用しているか、厳しくチェックすることを徹底し、適切な手順で仕事が早期に身につくよう教育しています。

2. ガス供給網のメンテナンス業務改革とスケジューリングシステム

【渡辺】
なるほど、こうした「安定供給」と「保安の確保」といった絶対的な命題に加えて、広域にまたがる多数のガス供給施設の維持管理を、少数精鋭部隊で効率的に実施していかなければならないということですね。

【市川】
1都6県という広範囲で280の施設を1拠点から見ており、何をしても移動距離が長く時間的制約があり、さらに加えて今後地域拡大や施設増加が見込まれる中で、従来からのメンテナンス方式では早晩業務量がオーバーフローしてしまうことは明らかでした。何とかしなければならないという危機感を持っているところへ、富士通さんからフィールド・イノベーション(FI)(注3)の提案を頂き、私たちの業務を分析してもらい、新しいメンテナンス方式を導き出していただきました。まさに業務改革です。そして、新しいメンテナンス方式に基づいた最適計画を自動的に算出できるスケジューリングシステムの開発を経て現在はその運用を開始したところです。

【渡辺】
業務改革となった新しいメンテナンス方式とは、いったいどのような内容なのでしょうか?

【市川】
ポイントは2つあります。
1つ目は、それまでは千住センター1箇所を中心として、個々の施設を都度往復する移動スタイルでしたが、それでは今後の施設の広域化に伴って移動距離がどんどん伸びてしまうため、遠方の保守エリアに中継拠点となる保守センターを設置し、そこを拠点に巡回する移動スタイルを取り入れました。
2つ目は、設備単位の保守から施設単位の保守への変更です。それまでは、今月は電気設備、来月は計装設備といった具合に設備単位でのメンテナンス計画を立て、対象となる設備がある全ての施設を訪問していましたが、来月、また別の設備のメンテナンスのために同じ施設を訪問するなど、移動時間の無駄が考えられました。そこで、設備単位ではなく施設単位、つまり出向いた先の施設にある設備をいくつか同時にメンテナンスする方法に変えることにしました。

【図1】業務改革のポイント
【図1】業務改革のポイント

【渡辺】
今までやってきた業務を変えるのは容易ではなかったと思います。供給設備管理センターの業務革新を支えているスケジューリングシステムはどのようなシステムか、ご紹介いただけますか?

【飯嶋】
スケジューリングシステムは翌月の仕事のスケジュール、つまり、280施設のうち、あらかじめ毎月の業務が平準化されるよう計算された来月のメンテナンス対象施設を抽出し、業務に必要な知識レベルを持つチーム編成と、最も効率のよい施設巡回順序を導き出し、最適なメンテナンススケジュールを計算するシステムです。
以前は、翌月のスケジュールを人間の頭で考えるのに1人かかりきりで1週間近く要していましたが、今はシステムによって50分で結果が出てきます。システムで出た結果をそのまま使うわけではなく、実際は人手で微調整をしていますが、それでもスケジュールを立てる時間が大幅に短縮できたのが大きなメリットです。

【東京ガス株式会社 供給設備管理センター 副所長 飯嶋 健 氏】
【東京ガス株式会社 供給設備管理センター 副所長 飯嶋 健 氏】

【渡辺】
計画作業が効率化して1週間から50分に短縮し、メンテナンス作業が設備ごとの周期から施設ごとに変わったことで実際の作業の生産性が向上したと伺いましたが、計画が前倒しでできることによって、業務をきちんとこなすこと、そのための準備が余裕をもってできることもメリットですね。さて、砂土居さんはこのスケジューリングシステムの開発と提案の富士通側責任者ですが、現在のシステムの稼働状況をどう見ていますか?

【砂土居】
皆さんのメンテナンス業務が今までの設備単位から施設単位になって、やり方が一変しましたが、混乱なく実施されているのを見て、お役に立てているのかなと自負しています。機械設備、電気設備、計装設備と大きくまとめてお話をされていますが、実際には同じメンテナンス作業でも施設の規模や導入年代によって行うことが違ったり、レベルの高い人しかできないもの、作業にかかる時間や必要な人数等バラバラです。こういった特徴をすべて加味して最適なチーム編成を考えて計画を立てるのは、人の手では不可能だったと思っています。

【渡辺】
システムのカットオーバーはいつ頃でしたか?

【砂土居】
2015年12月の終わりです。約1年、このシステムでのスケジュールでメンテナンス業務を回していただいているところです。

3. 業務改革-危機意識と変革プランそして最適実行解のシンクロニシティ-

【渡辺】
業務改革の経緯について、もう少し触れていただけますか?

【飯嶋】
「チャレンジ2020ビジョン」(注2)策定が東日本大震災後の2011年11月で、それを受けてLNGバリューチェーンの高度化を掲げる中、導管部門に課せられた対応が「エネルギーを安全かつ効率的安定的に供給する」ことでした。供給設備管理センターの業務に直結するところでしたが、「2020ビジョン」以降、エリアを拡大してLNGを多方面で復旧・利用していく動きが出てきて、その後どれくらい設備が増え、エリアが広がっていくか、2012年時点では明確に見えませんでした。それまでも、この広いエリアで多くの箇所のメンテナンス・維持管理業務に対応するには時間に余裕があるわけではない中、さらにエリアが広がり箇所数も増えるとなると、本当に大丈夫なのかと疑問視したのです。そういうタイミングで富士通さんからご提案があり、業務効率化に役立つ知恵をお貸しいただけるということで、業務の見直しを始めたわけです。自分たちの仕事の先行きに不透明感を感じている時期に、「考えてみませんか」と声をかけていただいたのです。

【渡辺】
それが富士通からFIの提案だったのですね。このプロジェクトがどのように始まったのか、鵜飼さん、お話しいただけますか?

【鵜飼】
当時、「タイミングがよかった」と言われました。震災後に拡大した遠方エリアへも千住センター1箇所からメンテナンスに行っていて、インタビューを行うと「無理を感じるけど、30年やってきたのだから」と、皆が今の業務のやり方に疑問を感じ、今後のさらなる広域化に不安を感じていることがわかりました。現場に立ち会って行った業務量調査からも1日で行って戻る移動時間が長いのは明白で、その後の皆で行ったワークショップでは、「移動距離を短くしたい」「やり方が違うのでは」「施設ごとにやった方がいい」「1回遠方に行ったら泊まって複数設備を回ったら」「泊まってはいけない就業規則なら、規則を変えるしかない」といった、業務改革に前向きな意見がたくさん出ました。我々の仕事は全員が合意したうえで進めるので、ワークショップで皆が同じカードを出した結果から、遠方の中継拠点をベースに巡回する移動スタイル、施設ごとのメンテナンススタイルという2つの業務改革をご提案したのです。本当に効果があるのか裏付けるために実証実験をしたところ、業務のやり方を変えることで移動距離は短縮され、施設が広域化しても今と同じ人数でも回りきることができるとわかったのです。問題はスケジュールを誰が作るかです。今までやり方を変えずにやってきたのは、複雑な条件を守りつつ、かつ移動時間を短縮させるような効率的なスケジューリングができないからで、システム化して欲しいとお客様から言われました。

【富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 フィールド・イノベータ 鵜飼 丈太】
【富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 フィールド・イノベータ 鵜飼 丈太】

【渡辺】
やり方を変えて業務のイノベーションを行うということで、フィールド・イノベータから提案があったわけですが、そのまとめた結果は東京ガス様の皆さんにどう捉えられたのでしょう?

【飯嶋】
当初は半信半疑であったというのが正直なところです。ですが、話を伺う中で、来年、再来年、20年先まで見渡したとき、20XX年に破たんするということを数字的に見せられてしまい、今までどおりに続けていても数年後は破たんすると気付いたわけです。これまで業務効率化というと、点検周期を伸ばそう、作業を簡便にして時間を短くしようという内容の変更、つまり「守りのメンテナンス」でしたが、今回は考え方を変えて、業務のやり方自体を大きく変える「攻めのメンテナンス」に挑まなければとなりました。

【渡辺】
当初から東京ガス様の将来に対する危機意識が高いことがあり、それに対してFIのスタディ結果、変革の提案がぴったりフィットしたということですね。

【飯嶋】
不透明感を各自が持ち始めたタイミングでご提案いただいたことが良かったのですね。仕事に余裕がある中で見せられても流してしまったかもしれませんが、会社として新たなビジョンが打ち出された時期であり、タイムリーな提案だったと感じています。

【市川】
今でも大変なのに、その先もっと交通の便の悪い所まで伸びていく、どうしようと思っていたところに、明確な数字で表されたので、皆の心に入ったのかもしれません。

4. 数理最適化技法の適用-「業務平準化」と「移動距離最小化」を満たしたスケジューリング-

【渡辺】
東京ガス様の危機感に対し、業務をこう変えれば何とかなりそうだということが共有でき、それを実現させるシステムが必要になりました。そこで、富士通と富士通総研が参加して業務の計画、見える化、モデル化で数理最適化技法をシミュレーションし、適合性の検討から実装につながったわけですね。業務を変えるというコンセプトを受け、現実に実行可能なスケジューリングシステムの開発に携わった茂木さんから話してもらいましょう。

【茂木】
富士通総研はスケジューリングシステムの数理最適化の機能設計およびロジック開発を担当しました。FIを実施した直後でしたので、お客様の課題は明確で、今後供給設備が広域化しても今のままの人数で対応していきたい、そのためには業務を平準化し、移動距離を削減する必要があるということでした。この課題は、月間スケジューリングシステムを作れば解決するといった単純なものではありませんでした。数十年先まで平準化された中長期計画と年次計画、さらに、それをインプットした月間スケジュール、この3段階のロジックが必要だったのです。
まず、中長期計画、年次計画についてですが、お客様の業務が年によって、月によってばらついてしまう要因は、メンテナンス業務の点検周期にあります。設備ごとに点検周期が定められており、その周期以内に次のメンテナンスを実施しなければなりません。2か月に1回、3か月に1回といった月次レベルの周期、2年に1回、3年に1回といった年次レベルの周期、長いものでは20年に1回といった周期があります。それら周期をうまく組み合わせて、今後20年の作業を平準化しつつ、かつ、施設の訪問回数が最小になるように、月々にメンテナンス作業を割り振る問題について数理最適化技術を用いて解きました。数理最適化は、作業の平準化と施設の訪問回数最小化といった異なる目的のバランス点を見つける組み合わせ問題が得意なのです。
次に、中長期計画、年次計画によって月々に割り振られた作業に対して、移動距離を最小にする効率的な施設訪問ルートとチーム編成を決定するロジックを構築しました。施設訪問順番やチーム編成も組み合わせ最適化の問題で、ここにも数理最適化技術を用いました。この部分がスケジューリングシステムに搭載されています。

【株式会社富士通総研 チーフシニアコンサルタント 茂木 美恵子】
【株式会社富士通総研 チーフシニアコンサルタント 茂木 美恵子】

【渡辺】
開発前にシミュレーションで計画が可能であると確認したのでしょうか?

【茂木】
はい。開発前にシミュレーションで検証を行い、今の37人体制のまま業務継続できるという結論に至りました。また、設備ベースから施設ベースにメンテナンススタイルを変更し、数理最適化技術を用いて計画を立案することで、年間の施設訪問回数を年間約1500回から約500回まで削減できるという効果も定量的に示せています。

【渡辺】
点検周期や移動時間といった様々な制約があって人手では大変なシミュレーションですが、数理最適化技術を適用してシミュレーションしても良い答えが出ないケースもあります。プロジェクトとしては運が良かった面もあるのでは?

【茂木】
この話を頂いたとき、特徴的な点検周期の制約条件が数理最適化技術の考え方にぴったりでしたので、目標水準を満たす実行可能計画を導き出す自信はありました。それに、中長期計画、年次計画、月間スケジュールのすべてに数理最適化技術が適合するなんてめったにありませんから、絶対解きたいという思い入れも強かったです。
ロジックから考えると数理最適化は東京ガス様の課題にぴったりだったのですが、数理最適化は所詮コンピュータによる数値計算なので、時に血の通わない結果を出すこともあります。現場の方からすると受け入れ難い結果だったかもしれませんが、説得に苦労されたのではないでしょうか。

【市川】
継続的なメンテナンス業務を行っている中で、あるタイミングでいきなり平準化した新しい計画に切り替えましたので、一部の作業の点検周期を前倒しすることになりました。当然、メンテナンス作業にはお金もかかるわけで、実施したばかりのメンテナンス作業もありましたから、抵抗はありました。でも、5年後、10年後を見据え、折衝も含め内部で対応してきました。

5. 現場業務で使い続けられるシステム開発-数理最適化に血を通わせる調整-

【渡辺】
シミュレーションがうまくいき、システム開発も順調に進んだのでしょうか。こういう大規模な計画システムも最近注目を浴びて業務改革に入れていくチャレンジが増えていますが、当時は事例としてもあまり多くありませんでした。砂土居さんはどのようなシステムにしようという作戦だったのですか?

【砂土居】
皆さんの実際の業務を拝見していると、緊急対応も入るし、急に行けなくなる人もいるので、数理技術で最適化した結果をそのまま実施しようとしても、現場には受け入れられないと思いました。ですので、臨機応変に対応できるシステムを心がけました。例えば、誰がどこに行くという個人の割り当ては数理技術では出さず、結果が出た後で個人をチームに割り当てたり、その週内でどの施設に行くかは決めるけど作業の順番は現場に任せることにしたり、あとは緊急対応も調整できるようにしています。

【富士通株式会社 社会基盤システム事業本部 砂土居 知子】
【富士通株式会社 社会基盤システム事業本部 砂土居 知子】

【渡辺】
「血の通わない数理最適化」に砂土居さんが血を通わせたということですね。

【茂木】
今回工夫したのは、様々な業務シナリオを想定して複数パターンのシミュレーションを実施し、結果を可視化し、お客様の望む結果に近づくよう比較検討いただいた点です。要件定義ですべて条件が網羅できるわけではないので、地図上に月別の訪問施設をプロットするようなシミュレーション結果をお見せしながら、雪が降る季節は北の山間地に行かない、連休は観光地に行かないといった条件を聞き出しました。
また、トレードオフの関係にある「業務の平準化」と「移動距離の最小化」のバランスを決定していただく時も、平準化重視バージョンと距離重視バージョン、その2つのバランスバージョンをシミュレーションし、定量的な数値で結果の違いを説明しました。

【渡辺】
距離重視か平準化重視かというのはパラメータで随時変更できるのですか?

【茂木】
はい。継続的に使えるシステムを目指し、パラメータ化できる部分はできるだけパラメータにしようと、砂土居さんと相談しながら機能決定していきました。最適化の出す結果が意図と合わなくなってきたら、パラメータを調整することで対応できます。作業員人数や施設数、設備の作業自体もパラメータになっているので、それを増やしていただければ、今後さらに施設が増えたときにも使っていただけます。

【渡辺】
そのあたりの仕様は、血が通うようにかなり練り込んだのですね?

【茂木】
これまでに、様々な業種・業務の計画系システムに数理最適化を適用してきましたから、数理最適化がどうしても血が通わない結果になりがちなのは予想できていました。そこをカバーできるシステムの機能を砂土居さんと話し合い、富士通サイドから「こういう調整機能があるべき」というご提案をさせていただきました。

【砂土居】
一番心配だったのが、最適化で出た結果とその調整結果で、果たして業務を回せていけるかということです。机上では「この週こういうチームでこれだけの作業を」と出ますが、そのとおりにみなさんが動けるのか心配でした。今それに従って業務を回していただいていると知り、ホッとしているところです。

【渡辺】
一般のシステム開発では、システムの納品には責任を負うけど、業務効率化の目標が達成できるかどうかは契約上はコミットしないというスタイルだと思います。今回はその目標達成をシステムが担保しなければならなかったわけで、プロジェクトリーダーとしてはその点の苦労があったのではないですか?

【砂土居】
そうですね。「こういうシステムを作って欲しい」という機能要件を頂いたというより、一言でいえば「業務改革がやりたい」というのがリクエストでしたから。でも、今回はその業務改革のシナリオが、背景を含めFIフェーズからお客様内部も富士通サイドも全員で共有できていたので、お客様の期待には必ず応えられると考えていました。

【渡辺】
普通は機能要件が定義され、これを作ろうという合意で開発しますが、共通認識は機能要件よりむしろ業務目標を達成できるシステムを作るということだったのですね。

【砂土居】
システム開発では、要件定義で伺ったものが設計になると「やっぱりこうしたい」ですとか、設計したら「仕様変更したい」といったことが多々ありますが、今回はそういった変更がほとんどありませんでした。それは目標がシンプルで「平準化」と「効率化」だけに絞っていけたからだと思います。組織として目指す目標が明確で芯が通っているので、今後も大きく変わることはないと思っています。ただ、要件定義時の想定より施設増設が急速で、この対応は必要となってきます。

【市川】
個別の機能というより最終目的を達成するためにシステム開発してくださいと、開発に当たり、やり方に対して機能を指示しなかったので、行ったり来たりがなかったのではないかと思います。

【渡辺】
今はうまく使われているのでしょうか?

【飯嶋】
システムを100%使いきれているとは正直言えません。というのは、今システムを使っているのが従来スケジュールを作っていた人間で、今回のシステム開発にあまり参加しておりませんでした。そこへシステムが出来上がったからといって渡しても、彼らの頭にあるパラメータとシステムにあるパラメータは一致していないので、疑問を感じながら触っているのが現状だと思います。その一方では実際にこのシステムで組まれたスケジュールで現場を動かしている現状があるので、近いうちにシステムの有効性に気づき、より積極的な利用が行われるものと思っています。

【渡辺】
今の計画システムがメンテナンスのスケジュールを作るところは、飯嶋さんから合格点を頂いているようですが、市川所長の目からご覧になっていかがですか?

【市川】
前年度はトライアルで、本格的に使い始めたこの1年ではまだ評価まで結びついていませんが、まずは1年間回っていたなと感じています。特にキャラバンで回った所はすでに実施して効果が見えているので、及第点は超えていると言えます。もっと活用すると効率的に余裕をもった業務ができるかと思いますので、担当者が使いこなせるかが今後の課題です。あとはチームとして業務に当たっており、若い人が多く教育を兼ねてメンテナンスに行くことがありますので、そういった点を加味しながら、うまくシステムを活用できると良いですね。

6. 今後の展望-スリムでパワフルな事業者を目指して-

【渡辺】
スケジュールシステムの導入によって、業務拡大に対応できる体制が整ったお話を伺いました。最後に、今後の供給設備管理センターの抱負についてお伺いしたいと思います。

【株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部長 渡辺 南】
【株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部長 渡辺 南】

【市川】
まず1つ目は、スケジューリングシステム運用を軌道に乗せて、来年開通する施設、その先の工事着手している施設、そういったものの維持管理が入ってきたときに大丈夫か再検証しつつ、施設拡大・業務拡大に対応していくということです。
2つ目は、今回の計画範囲はメンテナンス、定期点検業務でしたが、設備更新作業など他業務も含めた業務計画最適化が将来的にできると、業務全体の効率化が期待できます。更新工事の担当者はその現場以外の現場の維持管理も担当しており、両方の業務負荷がかかっているのが現状です。平準化を目指して、例えば更新工事をしている現場の定期点検は工事立会者が対応して、他の場所の維持管理を他の担当が対応するというような対応で負荷の軽減が図れると思います。
3つ目ですが、最近の社長の発言の中でも「スリムでパワフルな導管事業者を目指す」と宣言しています。管理場所が増えて動線的にも伸びていきます。そうした中では業務の品質や効率化はもちろんですが、加えて人のマネジメントや業務サポートの高度化が大切な課題と考えています。

【渡辺】
ガス供給網が今後さらに拡大していくというのが事業の前提なわけですね。

【市川】
社会インフラとしての輸送網ということで、輸送導管は整備しなければいけないというのが国の政策でもあるので、我々がメンテナンスする施設が増えていくことが見えています。また、お客様が新たに増えれば、その設備の作業が10分で済んだものが1日かかる設備に変わったりしますので、数が増えなくても行う内容が濃くなります。そういったところを織り込んでいくと、もう1回業務を見直す時期が来るかもしれません。人を見る立場としては、キャラバンで行ったままの人たちとセンターとのつながりが希薄になるので、そういったところをどうカバーしていくかも今後の課題ですね。

【飯嶋】
これから施設が増えれば仕事が増えるといったパラメータを変える部分は、ユーザーが調整できるシステムを作っていただいたので、そこは私が担当させていただいています。要件定義ではその辺はあまり多くないと見込んでいたようですが、今年度すでに20か所くらい発生してしまったので、見込み違いな点があります。ですが、ユーザー側で対応可能な作りとなっているので、粛々と進めていきます。そのような運用面の改善として、私以外でも触れる人間を増やしていかなければならないし、システムのメンテナンスをするためのインタフェースを追加する等、考えていかなければいけないと思います。 現場の維持管理をしている部署がこういったシステムを作るケースは珍しいので、富士通さんが私たちから意見を吸い上げるのにご苦労されたのではと思います。非常に熱心に取り組んでいただいたことで、今回システムが機能しているということに感謝しています。このスケジューリングシステムは1回適用してしまうと、止めるとか他のものに変えるといったことが難しい、使い続けていかなければならないシステムなので、今後とも富士通さんにご協力いただきながら、メンテナンスして使えるシステムを継続していきたいと思っています。

【渡辺】
今年4月にはガス小売自由化がスタートするということで、東京ガス様のビジネス環境も大きく変化していくと予想されます。そうした中、ガス供給インフラ、社会基盤として一層重要性が増していくと思います。これらの敷設や維持管理の安心安全という点から、サービスレベルの向上という点から、ますます高度化が必要だろうと思います。本日はありがとうございました。

(対談日:2017年1月13日)

対談者

対談者(敬称略 左から)

  • 鵜飼 丈太 : 富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 フィールド・イノベータ
  • 砂土居 知子 : 富士通株式会社 社会基盤システム事業本部 第四システム事業部
  • 市川 昭仁 : 東京ガス株式会社 防災・供給部 供給設備管理センター所長
  • 飯嶋 健 : 東京ガス株式会社 防災・供給部 供給設備管理センター副所長
  • 茂木 美恵子 : 株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部 チーフシニアコンサルタント
  • 渡辺 南 : 株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部 事業部長

東京ガスグループについて

東京ガスグループ(注1)は1885年創立以来、首都圏を中心に都市ガス供給を通じてお客様の豊かな暮らしや社会の発展を支えてきました。1969年に日本で初めてLNGを導入し、天然ガスのトップランナーという立場でLNGのバリューチェーン確立・強化、天然ガスの普及・拡大に努め、国内外から評価を受けています。2020年に向かいLNGのバリューチェーン高度化を図り、日本のエネルギーセキュリティの向上とエネルギーコストの低減、エネルギーシステムの革新に貢献し、東京ガスグループの持続的な成長・発展を目指します。昨年4月に電力小売自由化が開始し、今年4月にガスの全面自由化が予定されている時代の変革期に当たり、一昨年10月に東京ガスの目指す姿として新しいコーポレートメッセージ「あなたとずっと、今日よりもっと」を策定しました。日本のエネルギー業界が変わる中、東京ガスは電力販売など時代のニーズに応えて社会の発展に貢献すべく、グループの総力を挙げてスピード感を持って大胆に挑戦していこうと宣言しています。一方、130年にわたって大切にしてきた安心・安全・信頼というブランド価値を礎に、お客様の安心・安全を確保し、一層信頼いただけるよう努めていくと発表しています。現在、従業員は東京ガス単体で約8000人、グループ全体で17000人という体制で、供給エリアは1都6県1100万軒超、約6万キロのガス導管でガスを供給しています。

(東京ガス株式会社 防災・供給部 市川供給設備管理センター所長 談)

注釈

(注1)東京ガス株式会社様HPOpen a new window

(注2)東京ガス チャレンジ2020ビジョンOpen a new window

(注3)フィールド・イノベーション(FI) : お客様ともにビジネス課題を可視化し、ICTだけでなく仕事のやり方やスキル、業務プロセスを含めて改革を推進する活動。Open a new window

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