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インターネットによる信用創造

2017年1月17日(火曜日)

近年、ヒトを介さないモノとモノを結ぶインターネット、IoT (Internet of things)が大きな話題になっている一方で、ヒトとヒトを結びつけるためのインターネットによる信用創造が、これまでの経済の仕組みを大きく変えていくのではないかと思われる。

1. シェアビジネスを成立させるためには個人情報の与信が不可欠

シリコンバレーから始まったUber社によるライドシェア(いわゆる白タク)は瞬く間に世界中に広がった。まだ上場してはいないが、Uber社の時価総額はJR東海の何倍にもなるという。そして、もはやシリコンバレーで道路を走るタクシーの姿を見ることはない。タクシーに乗りたければホテルまで行って呼んでもらうしか方法がなくなった。しかし、よく考えてみれば、世界中からあらゆる民族が集まっていて、銃の携帯も許されており、凶悪犯罪の発生率も高いアメリカで、見知らぬ車に乗ることは怖くないのだろうか? あるいは見知らぬ他人を自分の車に乗せることは怖くないのだろうか? そういう疑問が湧いてくる。

同様に、同じくシリコンバレーから誕生したAirbnbは世界のホテル業界にとって大きな脅威となっている。Uberを未だ認めていない規制後進国の日本ですら、Airbnbはすでに東京で5万室以上を確保しているという。東京全体のホテルの収容能力がおよそ15万室だから、Airbnbの影響力は甚大である。さて、このルームシェアについてもライドシェア同様に疑問が沸く。見知らぬ他人の家に泊まることは怖くないのだろうか? 見知らぬ他人を自分の家に泊めるのは怖くないのだろうか?

こうしたシェアビジネスが普及しているアメリカでは、極めて詳細な個人情報がすでに社会に蓄積されているので、これを参照して個人の与信能力を調べれば、サービスを提供する資格、あるいはサービスを受ける資格が簡単に判明するのだという。こうした個人情報は「パーソナルクレジットスコア」と呼ばれていて、全米では全人口のおよそ9割の人々がデータ化されているという。個人情報に神経質な日本人から見れば、とても許しがたい社会に見えるかもしれない。

もちろん、アメリカでも、自分の個人情報が勝手に利用されていることが許せない人は、裁判所に訴えれば消去してもらうことは可能だという。ところが、この情報を消去された途端に、その人は米国の残りの1割に当たる不法移民、ホームレス、犯罪者のグループに分類されることになり、アメリカ社会の毎日の生活で普通にできたことが何もできなくなるのだという。

AirbnbやUberを利用するには会員登録が必要で、その際には住所、氏名、電話番号、インターネットアドレス、免許証番号、パスポート番号など、かなり詳細にわたる個人情報を要求される。Airbnb社によれば「どうしてそんなに細かい情報まで出さなければならないのだ!」というクレームも多数あるという。そうした時にAirbnb社は「お客様の安全を守るために必要であり、ご提出いただけないのであれば、残念ですが会員登録はできません」と丁重に断っているそうだ。

2. 与信情報としてSNSをはじめインターネットの行動履歴が使われる

そして、AirbnbにしてもUberにしても、それぞれサービスを受けた方も提供した方も相互に評価点をつけることになっている。この評価点が、さらに与信情報として蓄積されていく。評価点が高いサービスの提供者はますますビジネスが拡大するし、評価点が高いサービスの利用者は、多くのサービス提供者から優先的にサービスが受けられるようになる。だから、Airbnbで宿泊した人は皆、部屋を出る時に綺麗に掃除していくのだという。

また、こうしたAirbnbやUberのようなシェアビジネスを行っている人たちが個人の与信情報として活用しているのがFacebookのようなSNSへの投稿である。Facebookの投稿を見ていると、投稿者が信用できる人かどうかがわかるということだろう。もちろん、その膨大な情報の判定には人工知能(AI)を使っているだろう。一方、欧米でテロ犯罪が起きた時、すぐに犯人が割り出せるのも、公安当局があらかじめSNSの投稿から危険人物をマークしているからだと言われている。SNSは個人情報の宝庫である。

「だから、俺はFacebookのようなSNSはやらないのだ」という方も多いかもしれない。しかし、その際には、誰かがなりすましで自分を騙っていないか、よくチェックした方が良い。そして、SNSをやらないにしても、ネット通販で何を購入したかはしっかりチェックされているし、GoogleやYahooでどこのサイトを検索したかも、携帯電話で位置情報をオンにしておけば、どこに立ち寄ったかも、すべて与信情報に組み入れられている。つまり、インターネット社会では個人の行動はすべて誰かに掌握されている。そうであれば、むしろ積極的に、毎日、清廉潔白な暮らしをしているのだという証拠となる有益な情報をSNSに発信した方が得である。

3. インターネットによる信用創造はサービス業から金融業まで拡大する

UberやAirbnbなどは、こうして蓄積した膨大な与信情報をベースにして、さらなるシェアビジネスを拡大しようとしている。宅配、ベビーシッター、掃除・洗濯、ケータリング、介護などのサービス授受を見知らぬ人同士まで拡大するには、サービスを提供する側と受ける側の双方の信用が重要となる。そうした個人エージェントがサービス産業の主役になった時に、従来のサービス企業という組織はむしろ非効率な存在となる。個人ベースの方がサービスの対価は安くなって品質も確保されるし、働く人の収入は仕事の出来栄えによって従来より増えるからだ。

さらにこうしたインターネットによる信用創造はサービス産業だけにとどまらない。信用をベースとする最大の産業は金融業であり、中でも銀行という存在は信用だけで成り立っている。顧客にとって銀行は安心して預金を預けられる存在、また決済を任せることができる存在であり、また銀行にとって最も重要な仕事は融資先の与信管理である。こうした「信用」を、新たにインターネット上に構築可能としたのがブロックチェーン技術に代表される新たな金融工学・Fintech(フィンテック)である。

インターネットは元々、管理者不在の自律分散構造で運営されている。この自律分散システムが信用創造を受け持つようになると、これまで決済業務を銀行に頼っていた企業や個人は手数料を支払うことなく自身でできるようになる。そうした決済情報は最も信頼できる与信情報であり、この情報を手にした者は融資業務まで事業を拡大することができる。AppleがApple Payに乗り出したのも、そうした狙いがある。

FacebookやGoogleが個人に無償で多くのサービスの提供しているのは、単に広告事業だけを狙っているわけではない。彼らは個人の行動をそっと見守ることによって個人の与信情報を蓄積し金融ビジネスへ事業拡大することを目指している。GoogleもAmazonもFacebookも目指している最終ゴールは金融業である。インターネットによる新たな信用創造が、サービスや金融の世界に破壊的イノベーションを起こすのは、どうも間違いなさそうだ。

4. 組織ではなく提供価値が信用できる個人に直接仕事を依頼する未来

さて、今からおよそ30年後の2045年には人工知能が人間の能力を追い越し、約7割の職種が消滅すると言われている。特に高学歴が必要とされた職種ほど、その存続が危ないと言われている。私は、職種というよりも、むしろ「会社員」という職業の人が激減するのではないかと思っている。つまり、30年後には、会社に所属し上司から指示された仕事をするというのではなく、個人として顧客から直接仕事を請け負う形に働き方が変化していくと思われる。

現在、多くの顧客は信頼がおけるブランドを持った会社に仕事を依頼している。それは、名が売れた会社に仕事を依頼すれば、責任を持って最後までやり遂げてくれるからである。しかし、今でも、深刻な病に罹った人は高名な病院を探すのではなく、高名な医師を探すという。重要なことは、「どの病院に入院するか」ではなく、「どの医師に診てもらうか」だからだ。一般の仕事を依頼するのも、それと同じことである。

インターネットによって、個人レベルで仕事のスキルや責任感、人間性などの信用情報に加え、これまでやり遂げてきた仕事の評価などが参照できれば、顧客は名が売れた会社に仕事を依頼するより、卓越した能力を有する個人に仕事を頼んだ方が遥かに良い結果が得られるだろう。これは決して将来の夢物語ではなく、現在、UberやAirbnbが行っているシェアビジネスの延長線上にある。つまり、現存する多くのサービス企業が、Uberによって潰されたタクシー会社と同じ運命を辿ることになる。

こうした時代の到来に向けて、私たちの子供や孫たちは、どのような準備をさせれば良いのだろうか? 何しろ、良い会社に入社すれば、将来まで安定した生活ができるという保証は全くない。それよりも、個人として社会に貢献し、対価を得るために何ができるかが問われている。そして、それはきっと有名大学で学べば教えてくれるというものではないだろうと想像できる。インターネットによる信用創造が活発になされる時代には、毎日の生活の中で地道な生活力を養っていくことこそが肝要なのかもしれない。


伊東千秋

伊東 千秋(いとう ちあき)
元富士通株式会社取締役副会長、元株式会社富士通総研代表取締役会長。
日立造船株式会社、株式会社ゼンショーホールディングス、株式会社オービックビジネスコンサルタント 社外取締役。
【略歴】
1947年生まれ、1970年 東京大学工学部電子工学科卒業、富士通株式会社入社、1998年 FUJITSU PC CORPORATION (USA) Chairman & CEO、富士通株式会社パーソナルビジネス本部長などを経て、2001年~常務理事、執行役、経営執行役常務、取締役専務、2006年 代表取締役副社長、2008年 取締役副会長、2010年 株式会社富士通総研 代表取締役会長、2012年 相談役、2014年 顧問。
【社外団体】
日本経済団体連合会 産業問題委員会 産業政策部会 部会長、日・EUビジネス・ラウンドテーブルICT-WG 共同主査。