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2017年の経済見通し:やはり気になるトランポノミクス

2017年1月17日(火曜日)

昨年、筆者は2016年の日本経済について、「ぬるま湯」が続くと予想したのですが、結果もそのとおりだったようです。昨年の世界は、英国の国民投票によるEU離脱の選択(Brexit)、米大統領選でのトランプ候補の勝利などで大きく揺れ動きましたが、それで世界経済が失速したという事実はありません。では、今年の経済はどうかというと、基本的には「ぬるま湯」が続く可能性が高いと見ています。国内要因を見る限り、雇用は完全雇用にあり、企業収益も高水準が続くので、内需が自律的に悪化することはないからです。もっとも、海外要因についてはトランプ大統領の経済政策=トランポノミクスの影響など、不透明感が非常に高いのも事実です。以下に詳しく見て行きます。

1. GDP統計の大改訂

経済見通しの話を始める前に、GDP統計の改訂について述べておきましょう。昨年12月8日に7~9月のGDP統計の改定値が公表されましたが、これは通常の2次推計ではなく、統計そのものの抜本的な改訂を反映したものだったからです。GDP統計は国連の統計委員会の勧告に基づいて作られており、これまで1993年の勧告に基づく93SNA(注1)だったのが、2008年勧告に基づく08SNAに変更されたのです(併せて統計の基準年も2005年から2011年に変更されました)。今次改訂の最大のポイントは、従来経費(=中間投入)扱いされていた企業などのR&D支出が「投資」に計上されるようになったことです。企業活動における無形資産の重要性の高まりを考えれば、当然の変更と言えましょう(注2)。このほかいくつかの変更の結果、足もとの名目GDPの水準は30兆円余り嵩上げされました。これは、2020年度に600兆円の名目GDP実現を目指す安倍政権にとって大きなボーナスを意味します(それでも、エコノミストの大多数は600兆円目標の達成は難しいと見ていますが…)。

また、この改訂によりアベノミクス下の経済成長のイメージも少し変わりました。【図表1】をよく見ると、(1)アベノミクス開始直後の2013年度前半までの成長スピードが上がっていることと、(2)2014年春の消費税率引き上げ後の落ち込みがやや浅く、2014年度後半の戻りが少し強くなっていることが分かると思います。以前から筆者らは個人消費を中心にGDPが過少推計となっている可能性を指摘していましたが、それが今回の改訂で裏付けられたことになります。この結果、アベノミクス開始以降(2013年第1四半期~2016年第3四半期)の平均実質GDP成長率は旧統計の年率+0.9%から同+1.3%に高まりました。年率4%近い高成長が実現したのは、大規模な財政出動とアベノミクスへのユーフォリアが働いた最初の3四半期だけで、その後3年間の平均成長率は年率+0.7%ですから、「デフレが終わっても経済成長は高まらなかった」という評価自体は変わりません。それでも、0%台と1%台ではかなりイメージが違うでしょう。なお、旧統計の下でゼロ近傍まで下がっていた潜在成長率(日銀推計0.2%、内閣府推計0.3%)も、新統計を踏まえれば0.4~0.5%程度に上がるのではないかと思っています。

【図表1】新旧統計で見た実質GDP(兆円)
【図表1】新旧統計で見た実質GDP(兆円)

2. 「ぬるま湯」が続いた昨年の日本経済

さて、昨年のこの原稿で筆者は2016年の日本経済について、「ぬるま湯」が続くと予想したのですが、結果もそのとおりだったようです。こう言うと、昨年夏頃まで世界経済のリスクや円高の悪影響、さらには個人消費の弱さなどが強調されていたため(注3)、意外に感じられるかもしれません。しかし、実質GDPは年初から3四半期連続のプラス成長(slow but steady growth)でしたし、日銀短観の景況感も特に良いわけではありませんが、まずまずの水準で推移しました。以下では、それはなぜかについて説明しましょう。

まず昨年の世界は、英国の国民投票によるEU離脱の選択(Brexit)、米大統領選でのトランプ候補の勝利などで大きく揺れ動きましたが、それで世界経済が失速したという事実はありません(むしろPMI等から見ると、世界の製造業循環は年央から上向きに転じています)。ここで重要な点は、リーマン・ショックのような金融ショックと政治経済的ショックの波及の違いを理解することです。大きな金融ショックが起こると、流動性不足によって多くの経済主体が強制的に投資などの圧縮を迫られますから、これは急性症状につながります。一方、政治経済的ショックは通常ジワジワ効いてくるのです。例えばBrexitは、これから長い離脱手続きが始まるということで、まだEUへの離脱通告さえしていないのですから、短期的な影響はさほど大きくありません。にもかかわらずポンドが急落したため、Brexitの悪影響よりポンド安の効果が上回って、足もとの英国景気は堅調といった奇妙なことが起こっているのです。米国でも、後述のように筆者はトランプ・ラリーの持続性には懐疑的ですが、トランプ当選で米国経済に破局的な事態が起こっていないことは明らかでしょう。こうした中、2013~2014年の大幅な円安でも輸出が伸びなかったことを考えれば、対称的に多少の円高で輸出が減らないのは何の不思議もありません(そもそも1ドル=100円前後は、「過度の円安」が購買力平価程度に戻っただけです)。実際、足もとの実質輸出はアベノミクスの期間中で最もしっかりした動きになっています(【図表2】)。

【図表2】実質輸出入(2010年=100)
【図表2】実質輸出入(2010年=100)

一方、ここ3年余り個人消費が伸び悩んでいるのは事実です。しかし、これは企業収益の好調にもかかわらず賃金がほとんど増えず、円安や消費増税で物価が上がって実質賃金が大きく目減りしたわけですから(【図表3】)、当然のことです。むしろ足もとは、これまでの原油安に伴う物価下落で実質賃金は増加に転じ、個人消費もやや持ち直しているというのが正当な評価でしょう。それでも「消費が弱い」と言われるのは、高齢化に伴う社会保障給付・負担の増加が家計の所得・消費に及ぼす影響が十分認識されていないからだと思います。その典型が政府の『月例経済報告』の際に使われていた次のグラフです(【図表4】)。これを見ると、「所得は伸びているのに消費が弱い」という印象を与えますが、ここには2つのトリックがあります。

【図表3】実質賃金(前年比、%)
【図表3】実質賃金(前年比、%)

【図表4】個人消費・雇用者報酬
【図表4】個人消費・雇用者報酬
出所)内閣府「月例経済報告に関する関係閣僚会議資料」(2016年11月)

1つは、このところ毎年のように年金や医療の保険料が上がりますが、この「雇用者報酬」には給料以外に公的保険の企業負担分が含まれていることです。一方、保険料が上がれば、家計が受け取る手取りは減ります。つまり、高齢化に伴う社会保障負担の増加は、雇用者報酬を増やし、可処分所得ひいては個人消費を減らして、両者に乖離を作り出しているのです。もう1つは、高齢化が進めば当然医療・介護支出が増えますが、現行統計では医療・介護支出は個人負担分も含めて個人消費ではなく、政府消費に計上されていることです(93SNAより前の68SNAでは医療・介護支出は個人消費に計上されていました)。高齢化で衣料や外食への支出は減っても、病院には行列ができ介護施設はどんどん増えているのですが、後者は個人消費にカウントされていません。

3. 今年も基本は「ぬるま湯」シナリオ

それでは今年の経済はどうかと言うと、基本的には「ぬるま湯」が続く可能性が高いと見ています。もちろん海外要因については、次項で述べるように不透明感が非常に高いのは事実ですが、国内要因を見る限り、雇用は完全雇用にあり、企業収益も高水準が続きますので、内需が自律的に悪化することは想定できません。昨年秋口までは1ドル=100円を超える円高が最大のリスクと考えられていましたが、トランプ・ラリーのお陰でその心配は薄れました。円高で輸出や設備投資が大きく落ち込むことはまずないでしょう。このため、民間エコノミストのコンセンサス予想を見ると(【図表5】)(注4)、経済成長率は+1.3%だった2015年度の後も2016、2017年度と1%強が続く見通しとなっており、まさに「ぬるま湯」継続の姿です(注5)。例えば2017年度は、消費増税再先送りと大型経済対策の効果を含めた数字ですから、決して高い成長とは言えません。しかし、おそらく0.4~0.5%の潜在成長率を明確に上回る状態が3年続くわけですから、現在の人手不足はさらに深刻化することになります。失業率は近々2%台になるでしょうし、有効求人倍率は驚くべきことに平成バブル期のピークを抜くのではないかと考えています(【図表6】)。

【図表5】民間予測機関の経済見通し(前年比、%)
【図表5】民間予測機関の経済見通し(前年比、%)

【図表6】労働需給
【図表6】労働需給

次に物価については、しばらく前の原油安の影響で足もとの消費者物価(除く生鮮)の前年比はマイナスですが、今年1~3月中にプラスに転じるでしょう。その先、仮に1ドル=110円超、1バレル=50ドル超が続くとすると、今年後半のインフレ率は1%程度となる可能性があります(注6)。ただし、円安や原油高による物価上昇が一過性だということは2013~2014年に経験したことであり、物価の持続的な上昇にはやはり賃金の上昇が不可欠です。この点、昨年の物価上昇率がマイナスだったことや、2016年度の企業業績が大企業製造業中心に減益になることを踏まえると、今年の春闘ベア率は昨年を下回る可能性が高いと思います(注7))。だとすれば、日銀が目指す2%インフレはまだまだ遠いということになります。

ここで金融政策について2点だけコメントしておきます。1つは、足もとの円安には昨年9月に日銀が導入した新しい政策枠組み(イールドカーブ・コントロール、YCC)が影響していることです。後述のように、トランポノミクスへの期待から米国の長期金利は大きく上昇していますが、YCCの下では日本の長期金利が連れ高することはないため、金利差が拡大して円安になるわけです。もう1つは、もし今年後半にインフレ率が1%程度になれば、現在ゼロ%の長期金利ターゲットの引き上げが議論の俎上に上るでしょうが、その実行は簡単ではないと思います(注8)。

4. やはり気になるトランポノミクス

このように、国内要因から考えれば今年も「ぬるま湯」継続になりますが、海外要因に大きな不確実性があることは否定できません。このうち、欧州では今年も仏独の選挙など大きな政治的イベントがありますが、前述のようにこれが金融危機に発展しない限り、短期的な経済的影響は限定的だろうと思います(ユーロ圏の将来といった長期的なテーマは、また別の話です)。また、リーマン・ショック後の4兆元対策の結果、過剰設備・過剰債務の問題を抱える中国は、今や世界経済の「火薬庫」ですが、今年中のバブル崩壊といったシナリオは想定していません。結局、一番気になるのはトランプ新大統領の経済政策=トランポノミクスの影響如何ということになるでしょう。以下では、この問題に関していくつかの論点を取り上げます。

まず第1に、米国では金利高・ドル高が進んでいますが、これは理論的には自然な動きです。米国の失業率はすでに4%台まで下がり、賃金・物価にも上昇の兆しが窺われます。その中でトランプ大統領の下で大規模な財政出動が行われるなら、当然物価が上がり、金利が上がり、ドル高になるからです。ただ、先のBrexitの場合と同じくタイミングの問題があります。米国財政の仕組みを考えると、財政が出て来るのは早くて今年の後半ですから、今年前半の米国景気はドル高の影響で減速する可能性があります。そうなれば、金利高・ドル高の流れにも一時的な調整があるかもしれません。

第2に、株式市場はトランポノミクスによる米国経済の再生を期待しているようですが、その実現性は疑問です。ここでは、アベノミクスの事例が参考になるでしょう(4%成長を前提に「財政赤字は拡大しない」とする辺りも相似形です)。米国はほぼ完全雇用ですが、短時間労働者が多いことなどを考えると、財政出動で一時的に成長率を高めることは可能です。しかし、日本の場合と同様に、供給サイドの構造改革なくして持続的成長にはつながりません。トランポノミクスをレーガノミクスに擬える向きもありますが、トランプ政権が本当に供給サイドを重視するなら保護貿易主義はあり得ないはずです(注9)。

第3に、一番心配なのは政治経済的帰結です。法人税・富裕層減税、金融規制緩和となればWall Streetが喜ぶのは当然ですが、金利高・ドル高で痛むのはMain Street、中でもトランプ大統領を可能にしたRust Beltの労働者たちです。彼らの不満が高まれば、トランプ大統領はそれを宥めるための保護主義に走るのではないでしょうか。為替相場への口先介入、FRBへの政治的攻撃などを始めれば、世界経済の大きな混乱要因になることが懸念されます。

5. もっと心配な日本型ポピュリズムの行く末

2016年は世界全体がポピュリズム台頭の嵐に揺れた1年でしたが、その中で「なぜ日本はこの嵐から無縁でいられるのか?」と問われる機会が少なくありません。確かに、ポピュリズムを「過激な言動で民心を煽る政治」と定義するなら、日本の政治スタイルはそれとは大きく異なります。しかし、「困難な課題を先送りして大衆迎合的な政策を行う」ことをポピュリズムだと考えれば、日本こそポピュリズム先進国ではないでしょうか。現在の日本における最大の政治的課題=急速な高齢化・人口減少の下での社会保障制度の維持から政治が逃げ続けているからです。

まずは7年余り前、民主党(当時)は「無駄を削れば財源などいくらでも出て来る」として、子ども手当ての創設などのバラマキ政策を訴えて、政権奪取に成功しました。しかし、事業仕分けを行って、そんな甘い話はないことを自らの手で明らかにしてしまいました。その後、迷走の末に野田前首相は消費増税を決断したのですが、それは総選挙での敗北=政権喪失をもたらす結果となりました。

一方、安倍政権は当初アベノミクスで大胆な金融緩和を行えば、日本経済に高成長が甦り、財政状況も自然に改善すると主張していました。しかし、実際の成長力は高まらず、「アベノミクスの果実」と呼んでいた税収増も、円安などに伴うあぶく銭だったことが明らかになりつつあります。それでも首相は、公約に反して消費増税を二度までも先送りし、大規模な財政出動を繰り返す大衆迎合政策で高い内閣支持率を維持しています。社会保障改革もさっぱり進んでいません。普通なら長期金利が上昇して市場が警鐘を鳴らすはずですが、日銀の国債大量買い入れがこの機能を封じているのです。

しかし、これは昨年のこの原稿で指摘した茹でガエルの姿そのものではないでしょうか。この「静かな日本型ポピュリズム」の先に待つものが財政破綻でないことを祈るばかりです(注10)。

注釈

(注1) : 日本では、2000年10月から93SNAが使われてきました。それ以前は、1968年の国連勧告に基づく68SNAでした。

(注2) : 経済学における無形資産への注目の高まりに関しては、昨年出版された宮川・浅羽・細野編『インタンジブルズ・エコノミー』(東京大学出版会)をご覧下さい。

(注3) : ここには、株価から景気を見る近年の風潮が反映しているように思います。逆に、株価が2万円を超えた一昨年中頃には、景気は明らかに停滞局面だったのに、「いよいよ好循環が廻り始めた」といった見方が拡がり、筆者などは唖然としたことを記憶しています。

(注4) : 昨年12月19日公表のESPフォーキャスト調査(日本経済研究センター調べ)。

(注5) : ちなみに、11月時点のこれらの数字は、2015年度実績も含めて1%弱でした。民間予想の上振れは、大部分GDP統計の改訂の影響だと考えられます。

(注6) : 2017年度の物価上昇率については、円安・原油高が進む前の11月時点で+0.6%でしたから、+0.7%の民間コンセンサスはやや低過ぎの印象です。

(注7) : 人手不足にもかかわらず、なぜ賃金が上がらないかについては、昨年8月のオピニオン「物価はなぜ上がらないのか(2)」を参照。

(注8) : 日銀の新しい政策枠組みについては、昨年10月のオピニオン「日銀の『総括的検証』を読み解く」を参照。YCCは国債大量買い入れと違って持続性の高い枠組みですが、金利目標の変更は(政府を含めた)利害関係者の対立を招きやすいという困難があります(特に長期金利の変更は、オーバーナイトと違って大きなキャピタル・ゲイン/ロスを伴います)。

(注9) : 規制緩和についても、レーガン政権が航空や通信などの寡占産業に競争を促したのに対し、トランプ政権は金融規制や環境規制など、本来必要な規制の撤廃を目指している感があります。

(注10) : 国民の多くは、まだ財政破綻を現実的なリスクと感じていないようですが、経済財政の専門家の見方は違います。例えば、一昨年初に出版された伊藤隆敏『日本財政:「最後の選択」』(日本経済新聞出版社)は、「2020年までに消費税率を少なくとも15%まで上げることが必要」と、財政破綻を避けために何が必要かを主題としていました。一方、昨年末に掛けて出版された小黒一正『預金封鎖に備えよ』(朝日新聞出版)や河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか』(集英社新書)は、実際に財政破綻に至った場合、どのような事態が起こるかを論じています。昨年の消費増税再先送りを機に、専門家たちが財政破綻への危機感を募らせていることが分かります。

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早川 英男(はやかわ ひでお)
経済研究所エグゼクティブ・フェロー
1954年愛知県生まれ。1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。1983~1985年米国プリンストン大学大学院(経済学専攻)留学(MA取得)。調査統計局長、名古屋支店長などを経て2009年日本銀行理事。日本銀行在職期間の大部分をリサーチ部門で過ごした後、2013年4月より現職。
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