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  4. SNSで構築された社会関係による副業・兼業の機会創造

SNSで構築された社会関係による副業・兼業の機会創造

2016年12月14日(水曜日)

1. はじめに

昨今、第4次産業革命と言われるような大規模情報の提供と活用を中心とするビジネス形態が世界的潮流となり、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以降:SNSと記す)などネットコミュニティを利用する形での新たな価値創造が期待されている。このような流れの中、シェアリング・サービス(注1)の普及などが副業・兼業の拡大をもたらすことが考えられる。日本国内において、少子高齢化の進行による人的資本の減少(楊 2016)、労働市場における流動性不足の問題による人材のミスマッチングなどを背景として、9月に総理大臣官邸で開催された「働き方改革実現会議」では「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」がテーマの1つとして盛り込まれた。

これまでの就職・起業活動は個人の持つ社会関係を利用したものが少なくなかったが、インターネット・サービスがもたらした情報収集の効率化によって個人的な社会関係の役割は低下傾向にある。例えば、通訳の仕事については個人的なネットワークが以前は重要だったが、ネット通訳などのオンデマンド型サービスでは個人のスキルなど最低限の情報をサイトで利用者に提供すれば手軽に副業ができる。その一方で、スマートフォンのアプリなどの利用が宣伝や口コミなど情報交換活動の展開に利便性をもたらし、利用者の間で強固なネットワークが構築されやすいという一面もある。そこで、本稿では、インターネットを経由した副業・兼業の成功事例を中心に分析し、特に社会関係資本(注2)の役割について考察する。

2. 社会関係資本と副業・兼業活動の現状

社会関係資本は、個人レベルでの幸福度や生活の質から、マクロレベルでの政策の有効性まで影響するとされている(注3)。社会関係資本の定義は定まっていないが、一般的に、信頼関係、個人間のつながり、社会参加という3つの要素を中心に議論されている。また、インターネット経由の社会関係の構築は、オンライン(インターネットに閉じた関係)とオフライン(実際に対面する関係)という2つに大別できる。本稿では、ネットビジネスの展開におけるオンライとオフラインの社会関係の役割・相互関係、特に、SNS経由で構築される個人間のつながりと社会参加に注目する。

アメリカの社会学者Granovetter(1974)は、社会関係が労働市場において重要な役割を果たしていると指摘した。その後、Lin(2001)は社会関係を社会的資源と呼び、個人が社会ネットワークを利用することにより、労働市場でより理想的なポジションを入手できることを発見した。これらの研究はアメリカで行われてきたものだが、日本の労働市場における社会関係の役割に関する研究によると、新卒の就職活動をはじめ、転職活動もインターネット上の著名なサイトやサービスに大きく依存するため、日本では個人的な社会関係に頼る割合が海外に比べて少ないことが明らかになっている(小川2013)。安全性と効率性の高い日本のインターネット・サービスの広がりは、従来の個人的な社会関係への依存を減少させる可能性がある。

起業・兼業活動を見てみると、2012-2013年度の開業率は、アメリカの約7% (OECD Entrepreneurship at a Glance 2014)に対して、日本は約4.6%(中小企業白書2014)であった。また、廃業率は、アメリカの約7.4%に対して日本は3.8%であった。その他のOECD諸国と比べても日本の起業活動は比較的低迷している。日本国内において、副業を持つ人の数はおよそ234万人(就業構造調査 2012)であり、全労働力人口の約3.5%である。この比率は、アメリカの約5%(726万人 2012)やカナダの約5%(95.6万人 2012、Labor Force Survey (LFS))と比べるとやや少ない。カナダの場合、副業を持つ人が固定職を持つ比率は57%で、65歳以上の兼業が近年増加傾向にある。つまり、従来のように非正規雇用など収入源の不安定性を理由とした兼業・副業活動ではなくなってきていることが読み取れる。しかし一般的に、就業構造調査のみで実態を把握するのは難しい。例えば、Fox (2015)は、就業構造調査と個人所得税申告統計とのギャップは約800万人にも上ると指摘している。日本も統計以上に副業・兼業を行っている人が存在すると思われる。そのような中で、今後、新たなネットサービスを経由した副業・兼業活動の拡大、さらには、その延長としての起業の増加は期待できるだろうか?

3. SNS経由の副業・兼業活動

本節では、社会関係とインターネット上で展開する副業・兼業活動との関係について考察したい。まず、最近、クラウンドソーシング(CS)による副業・兼業活動の拡大が期待されているが、調べてみると、その継続性が疑問視されていることがわかってきた。海外において、例えば、Zumbrun (2016)は、JPモルガンの報告を引用し、2年以上継続的にFreelancerのようなCSのオンライン・プラットフォームを利用する割合は労働者側で約26%、雇用側では約22%へと低下したと報告した。また、日本国内においても、最低賃金の制約がないため(注4)、優秀な人材が集まらず、継続性も疑われている。

また、オンライン・プラットフォームの大きな特徴として、社会ネットワークに依存しないということがある。 つまり、個人がサイトに登録さえすれば労働活動ができるという低コストのメリットがある一方で、その他の労働者やサイト管理側との意見交換が少なく、労働者のスキル向上や発注者との信頼関係の構築といった収入増加以外のインセンティブが充実されにくいデメリットもある。起業家が起業コストを抑えるためこのようなプラットフォームを利用しようとした場合、スキルの高い優秀な人材による作業の継続保障が見込めなければ、利用しようという意欲も低くなると思われる。

そこで、インターネット・サービスの主流であり、かつ多様な社会関係資本の構築が可能であるSNSを経由した副業・兼業活動に期待できるかについて考察した。一般的に、SNSの利用には主に4つの目的があるとされている(Gil de Zu ́n ̃iga et al. 2012)。政治活動、情報収集、既存の社会関係の維持、および新たなネットワークの構築である。企業が一般的に行っているのは、ソーシャルメディアを通じたCMによる宣伝、商品関連情報の提供、アンケート調査による商品の改善などである。しかし、これらの活動は、情報収集・情報提供を目的にして、単にSNSの広告・集客機能を利用しているにすぎない。

一方で、一般の利用者では、SNSを通じた既存の友人との連絡や新たな友人関係の構築が幅広い層の間で広がっている。しかし、SNS経由で形成されたこれらの新たな社会関係を活用した副業・兼業活動などに関する情報は、決して大きく広がっているわけではない。

筆者の観察では、仕事に直接関連する語学に関しては、SNSを活用した兼業活動は急速に進んでいるが、趣味をベースにした副業・兼業活動の規模はそれほど大きくなっていない。というのは、趣味関連の場合は、展覧会やハイキングなどイベントのたびに参加者が集まるため、参加者は多様でありながら、継続的なコミュニティの形成が難しいからだと考えられる。

4. SNSを活用した英会話イベントの事例

SNS上で新たに構築された社会関係を活用して副業・兼業を行い、さらに起業してビジネスとして継続していくためには、SNS上のネットワークを活用しながら、オフラインで社会関係資本を再構築しなければならないと筆者は考えている。そのことを裏付けるため、Facebookを利用して規模を拡大した英会話イベントを事例として分析したい。

都内で英会話イベントを週2,3回開催する団体がある。その主催者は英語教育の経験がないが、外資系企業に勤務し、実務ビジネス英会話に関する知識が豊富である。少人数でこの団体を始め、現在では毎回のイベントに200~300人が参加し、定期利用者はおよそ500人以上という規模にまで拡大した。開催情報はFacebookやTwitter経由で拡散し、利用者が登録した場合は、E-mailなどで連絡情報を発信する。これは、SNSよりもE-mailの利用頻度が高いためである。

イベント主催者にとってはコストの削減が最も重要であるが、SNSでの情報提供にかかるコスト(時間コストを含む)は極めて低い。また、開催場所の利用費用、講師やスタッフの人件費もなるべく低くする必要がある。主催者は本業で採用面接やイベント開催など様々な活動を経験しており、そこで得た既存のネットワークを活用してスタッフと場所にかかるコストもなるべく低く抑えた。都内で1回1万円以下で利用できる会議室を確保することで、1人当たりの参加費を1000円までに抑えることが可能となった。また、初期には知名度の高い各分野の専門家を招聘して講演してもらうことで、参加者の拡大に成功した。さらに、参加者の要望も個人ベースでヒアリングを行い、講演のテーマや学習内容を調整している。

この事例からSNS経由の副業・兼業活動における社会関係資本の役割を考えると、SNS経由でイベントに関する情報を提供する一方で、多くの参加者を引き付ける専門家の講演のためには個人の持つ社会関係資本が極めて重要であった。つまり、専門家を呼び込む個人的な社会関係資本と、利潤確保のために多くの参加者を集めるSNS上の社会関係資本という両方の存在が不可欠であったのだ。

結論として、SNS上の「弱い紐帯」(注5)(薄いつながり)をベースとする社会関係資本を利用したビジネスを開拓するためにも、比較的強いオフラインの社会関係による補完が重要である。

5. まとめ

SNSを利用した社会関係の構築が、副業・兼業活動とその活動によって生まれた事業の継続に大きく貢献している。特に、オンラインで構築された社会関係をオフライン活動で再確認・再構築し、補完することが重要である。一方で、CSのようなビジネスモデルは、利用者の間で社会関係が形成されにくいため、短期的な所得の増加につながるが、ビジネスとしての継続性が確保できないおそれがある。

SNS経由で個人が起こしたビジネスの多くは、副業・兼業活動から始まり、ネットで構築された新たな社会関係を起点としている場合が多い。成功した場合には、大規模なビジネス活動まで展開されている。パラレルキャリアの構築など働き方の改革が提起される中、SNSなどを活用して新しい社会関係資本を積むことで、新たな就業機会・起業機会が生まれる。このような傾向は、労働力市場における流動性の促進にも有益であろう。さらに、高齢者の再就職に備え、本業以外のスキルの取得機会を提供し、取得したスキルを活用して再就職を活性化することも考えられる。

しかし、障壁もいくつかある。前述したように、SNS経由の事業展開を行う場合、オフラインでの社会関係の再構築が必要となる。その際、イベントや会議の開催などに伴い、空間の利用やスタッフの雇用などのコストも発生する。それらの活動を低コストで展開できるシェアリングなどのサービスの充実は、ベンチャービジネスにとって極めて重要と思われる。

また、日本では長期雇用制度が長年根付いているため、アメリカなどのようにサイドビジネスの文化は広がっていない。2015年に株式会社リクルートキャリアが行った4,513社を対象とする「兼業・副業に係る取組み実態調査」によると、兼業・副業活動を容認する企業は全体の3.8%しかなく、推進する企業はほとんどない。その理由として「本業に専念してもらいたい」や「業務に悪影響を及ぼす」などが挙げられているが、副業・兼業活動を成長の手段として柔軟に考える土壌が必要である。また、技術開発による新たな労働管理システムの導入も考えられる。具体的には、例えば、兼業している労働者の本業が忙しくなり、過労などによって医療サービスを受けなければならなくなったときに、それが本業によるものか、副業によるものかの判断が難しい。そこで、本業と副業にかけた時間や業務のストレスを可視化できるシステムがあれば、労災保険の正確な適用なども可能になるだろう。

さらに、社会関係を構築する過程においてトラブルの発生なども想定されるため、トラブル回避のルール設定やセキュリティ対策の構築も必要である。例えば、手軽に副業・兼業活動を行うことが可能になった一方で、秘密情報の扱いなどに関する意識は必ずしも高まっていない。また、前述したように、CSにおける最低賃金の問題など現在の法律ではカバーできない部分も少なくないため、法制度の見直しや第三者機関による監督などが必要になると思われる。

注釈

(注1) : シェアリング・サービス : 財やサービスを個人間(peer-to-peer)で貸し借りするサービスをシェアリング・サービスと呼ぶ。UberやAirbnbが典型例である。広い意味ではレンタカーのように法人が所有する財を個人が利用するのもシェアリング・サービスであるが、最近注目を浴びているのは個人間の共有である。

(注2) : 社会関係資本 : 社会学では社会ネットワーク(social network)と言い、経済学の分野では社会関係資本(social capital)と呼ばれる。

(注3) : 社会関係資本がもたらす効果については、多数の研究が行われてきた。より良い制度の形成や経済発展に直接・間接的なプラスの影響を与える(Putnam 1993; Guiso, Sapienza and Zingales 2006, 2010)ほか、幸福度や生活の質にも影響を与える(Calvo et al. 2012; 千田俊樹・玉村雅敏2011)といった研究成果がある。

(注4) : CSで仕事をする個人は発注元と業務委託契約を結ぶことになっており、最低賃金法などの労働関係法規は適用されない場合が多い。

(注5) : 弱い紐帯:社会学において使用されている「weak ties」の概念で、Granovetter(1975)の「弱い紐帯の強み」の論文によって知られている。

参考文献

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【調査・研究】


楊珏(ヤン ジュエ Yang Jue)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2008年 国立環境研究所・地球環境研究センター アシスタント・フェロー/特別研究員、2011年 筑波大学大学院・生命環境科学研究科 Ph.D.、2012年 東北大学大学院・環境科学研究科 産学官連携研究員を経て、2015年 株式会社富士通総研 経済研究所 入社。
専門領域は環境経済学、環境政策。