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平時からの事業継続能力を高める演習起点のESAサイクル

2016年9月14日(水曜日)

東日本大震災では、想定外の結果事象への対応が不十分であり、柔軟な対応実現の課題が浮き彫りとなりました。被災時対応において、想定外の事象にも「迅速」かつ「柔軟」に重要業務を継続できる対応能力(=有事の実効性)が、事業継続マネジメント(BCM)として求められています。被災時の初動においては、実際に対応を行うメンバーが、被災時に起こり得る事象や状況イメージを共有し、自らの役割を理解しておくことが前提となります。

1.計画ありきの「訓練」から人の対応能力を高める「演習」へ

従来の「訓練」の目的は、策定した計画(BCP)どおりに行動するための準備を行うことでした。BCMのマネジメントサイクルでは、事業継続計画を作り(P)、事前対策を実施(D)、計画どおりに動けるかを訓練で試し(C)、評価改善(A)を行う流れで、平時の運用に取り組んでいました。この方式では「人」が、作成された「計画」に合わせる形となります。その訓練手法は、想定した状況をシナリオに落とし込み、予定調和型で読み合わせを行うものが主流でした。決められた手順に習熟することや、発生可能性の高い想定内の状況への対応を試す場合は、従来の訓練でも対応が可能です。しかしながら、計画ありきのこの訓練形式では、あらかじめ決められた事象の体験が主軸であるため、想定外の事象への柔軟な対応能力を高めることは困難です。

そこで富士通総研では対応能力の強化を目的として「模擬演習」形式の取り組みを進めてきました。「演習」の目的は、迅速かつ柔軟に重要業務を継続するための対応能力を試し、課題を抽出することです。有効な課題を抽出するためのポイントは、起こり得る状況を「被害想定(インフラ被害)」「事業継続の阻害要因(重要リソースの枯渇等)」「意思決定(判断が必要な事象)」といった構成要素を踏まえたうえで、リアリティのあるシナリオ設計をすることです。同時に、求められる想定時間までに重要業務の復旧を行う「時間軸」の考慮も重要です。模擬演習は、参加者には事前にシナリオ内容を開示しないスタイル(シナリオ非提示型)で進めます。被災時さながらにその場で情報・状況を把握しながら、様々な判断を行います。様々な状況をリアルにイメージしながら、組織の危機対応能力を見える化し、対応への想像力・判断力を養うことで、人・組織の想定外への対応能力を強化することができます。

すなわち、対応能力強化を重視したBCMサイクルでは、従来の計画における手順やプロセスを確認するBCMサイクルではなく、演習(Exercise)から気づき(Sense)、改善(Action)に着手するプロセス「ESAサイクル」が重要と考えています。有事、平時にかかわらず速いスピードでの環境変化への迅速な対応を行うには、ESAサイクルによるプロセスマネジメントが有効です。

【図】BCMはPDCAサイクルからESAサイクルへ
【図】BCMはPDCAサイクルからESAサイクルへ

すでに様々な分野において、演習を気づきの起点としたBCMの取り組みが行われ、評価され始めています。

2.演習を起点とした取り組みの事例

(1)石油業界における実効性の高い演習と評価の仕組み

石油業界ではインフラ企業としての強い使命感を背景に、官民が一体となって、災害時の迅速な石油供給を実現する取り組みの実効性を高めることが課題でした。災害時には資源エネルギー庁と協調し、石油連盟共同オペレーションルームを経由して、元売各社連携による速やかな石油供給がなされる仕組みの強化に取り組まれています。災害時のオペレーションシステムを迅速に機能させるためには、具体的な供給再開目標を関係者が理解し、その達成に向けた模擬演習が不可欠です。BCPで体制やルールを設定していても、有事のリアルな状況や脆弱性課題を反映したシナリオを検討し、シナリオ非提示型の模擬演習で試しておかないと、迅速かつ柔軟な対応を実現することはできないからです。

BCPによって具体的な供給再開目標時間とレベルを設定し、様々な被災想定シナリオに基づく演習を行い、想定時間内での供給達成を検証し、有識者が第三者的に格付け評価をしています。このような演習起点の評価制度を導入することにより、平時から元売各社のモチベーションを維持しています。そして想定外の事象にも「迅速」かつ「柔軟」に供給継続できる対応能力を高めるための改善活動につなげています。先般発生した熊本地震の際には、素早くBCPを発動し、迅速な供給再開を実現されました。

(2)演習を起点としたBCP策定で地域強靭化に取り組む

岐阜県・商工政策課では2015年からの3ヵ年事業として「岐阜県BCP研修・訓練センター」を設置され、県下の企業のBCP策定を推進されています。ここでも模擬演習を起点としたBCP策定への取り組みがポイントです。様々な被災状況をリアルにイメージしたうえで、各社の戦略に則って決められた重要業務を迅速に継続するための計画づくりを実践し、有事の実効性を高めようとしています。岐阜県下では製造業を中心に2年ですでに約200社がBCPを策定・改訂しています。

この活動は、全国的にも岐阜モデルとして注目を集めています。県下企業が、業界団体であるNPO法人事業継続推進機構のアワードを受賞しています。また2016年4月にスタートした、事業継続に積極的に取り組む企業を認証するレジリエンス認証において、東京に続き全国で最も多い4社が認証を取得しています。県下企業が、災害をはじめとする様々な環境変化に対して柔軟に対応していくしなやかな強さを持つことで、エリア全体での産業競争力強化につなげていくことを目指しています。

3.変化に柔軟に対応できる組織対応能力の獲得へ

BCPを作り想定内の訓練を繰り返すという従来の活動方式では、組織内の活動意欲を維持しにくく、また訓練を行うことが目的化(イベント化)するケースも散見されました。模擬演習により、常に想定外を経験することで、組織構成員の想像力を刺激し活動への取り組み意欲を向上させるとともに、平時におけるワークスタイルそのものへの気づきを与えることができます。同時に、組織構成員の対応能力を鍛えるための人材育成としても非常に有効です。ここに共感されて、マネージャー向けの人材育成メニューに位置づける企業も増えつつあります。

グローバル化の進展によりサプライチェーンをはじめとした事業の相互依存性が複雑化する中、経営環境を取り巻くリスクは、自然災害やコンプライアンスリスク以外にも取引先の倒産、原材料の高騰、為替の変動など、日々山積し拡大しています。経営環境が激変する中で、変化に柔軟に対応できる人材を育成し、自らの組織の変革を促すことで、真の事業継続戦略の果実として企業の持続的な成長を実現していくことが可能となります。

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関連サービス

【事業継続マネジメント(BCM)】
ビジネスを維持・運営する上で重要なのは、日々の活動を安定化させることです。事故や災害で業務が停止し、復旧が遅れれば収益だけでなく、企業の存続にすら深刻な影響を及ぼすことがあります。

【セキュリティレジリエンスコンサルティング】
シミュレーション演習による気付きから、現状対策レベルの評価、CSIRT*構築支援、インシデント発生時の対応能力を検証する演習までをトータルにご支援します。

大規模地震対応模擬演習やサイバーインシデント対応演習などのお申し込みはこちらから。


浅野 裕美

浅野 裕美(あさの ゆみ)
株式会社富士通総研 ビジネスレジリエンス事業部 プリンシパルコンサルタント
1990年富士通株式会社入社、アウトソーシングサービス事業の企画業務を経て、2005年から富士通グループの事業継続マネジメント(BCM)構築を担当。2008年度より株式会社富士通総研において、BCMコンサルティングに従事。2010年4月開設の「BCM訓練センター」副センター長として、様々な業種における危機対応能力強化と、BCMの普及啓発に従事。NPO法人事業継続推進機構理事。