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  4. 空き家の公費による除却が増加

空き家の公費による除却が増加-所有者負担の仕組みが必要-

2016年9月12日(月曜日)

1.空家法とその効果

危険な状態になるなどした「特定空家」の所有者に対し、指導・助言、勧告、命令、代執行を行うことのできる空家対策特措法(以下、空家法)が2015年5月に全面施行されて1年以上が経つ。空家法では、従来、代執行できなかった所有者がわからないケースも代執行できるようになった(略式代執行)。同時に、15年度税制改正では、勧告の対象となったものは固定資産税の住宅用地特例を解除することとした。住宅を建てた場合の税軽減の仕組みは、住宅が足りない時代には住宅取得を促進する効果を持ったが、住宅が余っている現在では、危険な住宅でも除却せず残しておくインセンティブを与えていた。

このように空家法と税制改正によって、特定空家の所有者に対してプレッシャーが強まった。これが空き家所有者の行動に与える影響としては、特定空家にならないように維持管理を行う、賃貸化するなど物件を活用する、維持管理コストと将来的な税負担増を考えて売却するなどの選択を行うことが考えられる。

ただ、特定空家の所有者の税負担を高めたとしても、その支払い能力がなく、除却費も出せない場合には、そのまま放置される物件も出てくると考えられる。この場合、最終的には代執行に至るが、費用は請求しても払ってもらえず、費用回収のため敷地の売却を迫られる。しかし、売れても抵当権が付いていた場合、自治体に回ってくる分があるかはわからない。代執行に積極的に踏み切る弊害としては、最終的にこうした措置が取られることがわかっているとしたら、自ら動かず、自治体に任せる所有者が出てくることである。

空家法と税制改正で、特定空家の自主的除却は従来より進んだ。現に自治体が直面する問題は、それでも対応してくれない場合、すべて代執行を覚悟するのか、あるいはそれ以前の段階で除却費補助などで自主的対応を促しておいた方が得策なのかという問題である。

2.様々な除却支援策

実際、これまで自治体は、各種のインセンティブを通じて除却を促してきた。最も多く除却費を補助している自治体は広島県呉市で、15年度までに455件、総額1億2,877万円の補助を実施した(1件当たり上限は30万円)。呉市は斜面が多く除却が進みにくいため、補助の仕組みを設けた。これにより、これまで処分に悩んできた所有者が、空き家の除却に踏み切るきっかけとなった。仮に455件が代執行となれば、自治体の対応能力を超える。

このほか、土地建物を市に寄付する条件で、空き家の公費による除却を進めた自治体もある(長崎市など)。また、空き家が建っていた土地を一定期間公共利用することを条件に除却費を補助し、公共利用の間の固定資産税を免除する仕組みを設けた自治体もある(福井県越前町など)。こうした様々な形の公費投入の仕組みは、自治体がそれぞれの事情によって講じたものである。ただし、公費投入にはモラルハザードの問題がある。最初から支援を受けられるとわかっていたら、誰も自己負担で除却しなくなる。自治体としては、あくまでも自主的除却を原則とし、公費投入に踏み切る場合は、地域にとって有効な手法を選ぶ形で支援しようとしている。

3.所有者不明、相続放棄のケース

16年3月末時点で、空家法に基づく措置の実績は、指導・助言が2,895件、勧告が57件、命令が4件、代執行が1件となっている(図)。所有者がわかっているケースの代執行は1件にとどまるが、所有者がわからない場合の略式代執行は8件に上っている。自治体は、すでに事態が切迫していた所有者不明物件について、略式代執行で除却を急いだことを示している。所有者がわからないケースは、費用は回収できず、公費投入となる。

一方、相続放棄されたケースでは、次の管理者が出てくるまでの間、相続人の管理責任は残る。しかし、管理者が出てくるのは自治体が相続財産管理人を選任し、処分するようなケースである。費用がかかるため、こうした措置をとることは限られる。相続放棄された物件が特定空家に認定された場合、相続人に対して指導・助言、勧告までできるが、それ以上はできない。除却の必要が生じた場合は略式代執行になるが、この場合も公費投入になる。相続放棄は、今後ますます増えていくと予想される。税負担は増すばかりである。

【図】特定空家等に対する措置の実績
【図】特定空家等に対する措置の実績

4.除却費用の固定資産税による事前徴収案

空き家の除却費用は、本来は所有者が負担すべきである。しかし現状では、除却費補助や、費用回収の見込みにくい代執行も実施せざるを得ないという形で公費投入されている。これは所有者が負担すべきものを、納税者全体で負担していることになり公平性を欠く。この打開策としては、必ず所有者が負担することになるよう、毎年の固定資産税に、除却費に充てる分を少しずつ上乗せして徴収していく仕組みが考えられる。固定資産税が徴収されている限り、相続放棄されたり所有者が不明になったりしたとしても、除却費用の心配はなくなる。自ら除却する場合は、除却費が還付される仕組みにすればよい。

この仕組みは、今後、深刻化していくと賃貸マンション・アパートや分譲マンションの空き家問題でも有効である。賃貸住宅は相続対策で建設されるケースが多く、供給過剰となっており、空室率は全国で23%(13年)に達する(民間賃貸住宅(共同住宅)、総務省『住宅・土地統計調査』)。老朽化し管理放棄された物件で代執行した例があるが(大分県別府市など)、代執行費用は一戸建ての倍以上かかった。

一方、分譲マンションは今後老朽化が急速に進展していく。築40年以上のマンションは、2035年には2015年の約6倍の296万戸に達する(国土交通省推計)。建て替えは、容積率に余裕があって従前よりも多くの住戸を造ることができ、その売却益が見込めなければ、デベロッパーの協力は得られにくい。建て替え困難な場合は、敷地を売却して終止符を打つ方法があるが、買い手が現れない場合は、除却費用も捻出できず、老朽化物件が放置される恐れがある。この場合、最終的に誰がそれを除却するのかという問題が生じる。

責任は区分所有者にあるが、マンションでは除却に億単位の費用がかかる。代執行も困難だが、仮に代執行して費用を回収できない場合、それを納税者全体で負担することになる。区分所有者が必ず負担する形にするには、除却費用の積み立て義務付けが考えられる。しかし、その実効性を確保することが難しいのなら、固定資産税に上乗せする形で毎年少しずつ徴収する仕組みが有効となる。

除却費用を事前徴収する考え方は突飛なようにも見えるが、自動車では購入時にリサイクル費用が徴収される形ですでに実現されている。人口減少で次の使い手が現れず、危険な物件が放置される可能性が今後ますます高まることを見据え、導入を検討すべきである。

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【調査・研究】


米山 秀隆(よねやま ひでたか)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員

【執筆活動】
限界マンション(日本経済新聞出版社、2015年)
空き家急増の真実(日本経済新聞出版社、2012年)
ほか多数。
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