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渦巻く価値観、つながる働き方変革

2016年6月20日(月曜日)

1.日本における働き方変革の変化の兆し

働き方変革の話題では必ず少子高齢化による労働力不足への対応という課題が議論される。その文脈で、1人当たりのGDPや労働人口推移、労働生産性の国別比較といった数字が並び、生産性向上のための働き方変革が注目されてきた。政府の成長戦略にも「働き方改革による未来を支える人材力強化」の施策が盛り込まれているが、豊かな国民生活を享受する経済モデルを作るには、「働き方の質」を高めることが重要であるという論調である。

バブル崩壊後の1990年代から、企業は業績悪化を理由に人員採用を絞り込み、慢性的な長時間労働が続いている。国際比較では、日本の残業の多さ、生産性の低さ、利益率の低さの評価が定着しており、アベノミクスで景気回復に向かう中、今後一人当たりの生産性向上がより重視されるのは当然である。

従前の日本の経営者の取り組みは、特に製造業に関して振り返ると、製造業の工場労働を前提とした労働慣行や規制がそのまま受け継がれ、進展する産業構造の変化とのミスマッチが顕在化しつつある。日常業務について、数多くの長時間会議、メール依存による非効率業務、意思決定の先送り、形だけの情報共有施策など、コミュニケーション方法やワークスタイルの見直しが求められている。

しかしながら、近年こうした課題認識に基づき、組織や職位を横断した未来志向型のワークショップの検討に企業が取り組み始めている。例えば、働き方変革を目指した「ありたい働き方を考えるワークショップ」は、特に以下のような課題への対応をテーマに据え、デザイン思考の考え方を導入したアプローチとなっている。

  1. 縦割り業務から脱却した社内外とのつながりを生かした新たな価値の創出
  2. ICTを活用した業務効率や生産性の向上
  3. 育児・介護などの制約がある社員が働きやすい環境の整備

なぜ最近になって、このような横断型ワークショップが求められるようになったのだろうか?

変化に敏感な経営者は従来のトップダウン型経営ではなく、多様な発想をベースとしたボトムアップ型経営の重要性を肌で感じ、トップダウンとボトムアップの間に潜む価値観のギャップ解消を目指し、ワークショップをきっかけにして企業の働き方変革を成功させようと腐心しているのではなかろうか。

2.個と個のつながりを重視した働き方変革の台頭

(1)新しい価値観の出現に対処する

従来の日本型経営は終身雇用に代表されるように、いわば強い結束を前提にして従業員が孤独を感じにくい、しかしながら閉じた環境での組織運営がなされてきた。一方、欧米社会では会社や家庭においても個を中心に位置づけて、個のつながりを大切にする考えが根底に流れている。近年、日本においてもICTが進展して人のつながりがフラットになった結果、個を主張できる環境に移行し、その結果、従来の価値観に変化が生じている。例えば、若手人材を中心に、創造性豊かで能力の高い人材は組織などの枠を超えたつながりを重視し、閉じない関係性を高めていくことを志向している(ワークインソサエティ(WIS)またはワークインライフ(WIL))。このように、個のつながりを重視する欧米のスタイルが日本においても市民権を得始めており、これは日本における働き方変革の方向性として経営者が理解しておくべき大きな潮流である。

(2)日本流と欧米流の価値観を融合する

伝統的な価値観と新たな価値観とが混在する中で「ありたい働き方」を模索し、より効果的な施策を考える第一歩は多様な働き方の認識と承認であると考える。例えば、働く日数や時間、勤務場所、契約形態の多様化を図り、有能な人材から働きたいと思ってもらえる環境を整備すること。育児や介護の事情で働き方に制約がある社員についても、別制度に閉じ込めるのではなく、制約と両立する魅力的な仕事や働き方を選択可能に制度設計し直すこと。また、特に悪者扱いされる長時間労働を削減するには、一定の制約を設定することも効果的である。例えば、残業や休日出勤を禁止することで、仕事に使う時間が制限される中で最大の成果を創出することを意識付けさせる。個を重視する価値観を持つ社員であれば、むしろ自ら創意工夫し、業務改革に取り組むことで生産性の向上にもつなげられることになる。したがって伝統的な価値観と新たな価値観とを融合した働き方を創出することが日本企業の最大の課題であり、経営者が率先して組織や職位を横断した未来志向型のワークショップをベースに融合を図る場を設けることが効果的だと言える。

一方、個を重視する欧米社会において価値観は多様である。米国ヤフー社で在宅勤務禁止の社内通達があった。元々、在宅勤務の狙いは、「社員が自由に時間をコントロールできること」であり、通勤などの時間を削減し、生産性の向上を図ることができる。事実、米国の調査では、社員が休憩や休みをとる日数が減り、仕事への満足度も向上し生産性が22%向上した、という結果が出ている。しかし一方で、オフィスで働くことについては、「アイデアを共有する場としての重要性」が挙げられる。対面で気軽にアイデアを議論することがビジネスを成長させると考えるのは、イノベーションが気づきから生まれることを実感しているからである。ヤフーが在宅勤務禁止を決めたのも、このような理由からであろう。これらを鑑みると、在宅勤務を良しとする価値観とオフィスでの議論を良しとする価値観とが融合し、変化することは自然な流れである。

(3)つながりにテクノロジーを活用する

社内コミュニケーション活性化の切り札として、統合コミュニケーション基盤(メール・予定表・Web会議・在席情報・情報共有など)の導入が各社で進んでいる。しかしながら、このICT基盤の出自は個を重視する欧米社会であり、その狙いは組織などの枠を超えたつながりを実現し、オープンでフラットな関係性を志向するものである。したがって、その狙いを根底に置かずに単なる効率化の手段と捉えてしまうと、本来得られる果実が手に入らないであろう。もちろん、従前の基盤よりも便利であり、定量効果も測ることができるために満足されている企業は多い。しかし、それだけでは価値観を融合した働き方変革には程遠いのではなかろうか。果実を手に入れるためにはイノベーション志向の枠を超えたつながりに共感することが求められる。

3.日本流、働き方変革成否の要

日本は欧米に比べて労働生産性が低いという結果はあるが、人口、資源、国民性などが異なる中で単純な比較は難しいとも指摘されている。日本は改善活動など現場力で業務を見直すことに長けており、独自の方法で働き方を変革してきた。幹部社員クラスの世代では、周囲を見渡す癖や非公式なつながりを構築することには全く違和感がないが、それは伝統的な組織価値観をベースにしたものである。しかし、デジタルネイティブであるミレニアル世代にとっては閉じた価値観に対する違和感を覚える場面など、世代間の相容れることが難しい価値観の違いが顕在化しつつあると言える。

今こそ価値観のギャップを認め合い、日本流の働き方変革の青写真を描く機会である。個を重視しながら個のつながりを醸成し、強くてイノベーティブな組織を目指すために着手すべき施策は様々ではあるが、人材の得意分野を活かし組織として成果を上げるため、業務と人事制度の設計が最初の着手ポイントであることが多い。テレワークや雇用の多様化などである。多様なスキルや背景を持った人材に「働きやすさ」「やりがい」を提供することは不可欠であるが、一方で、いかに“多様性を束ねるか”の観点も組織運営として重要である。性別・年齢・経歴・国籍・雇用形態などの多様性は担保しつつ、それらを1つのベクトル(ビジョン・経営理念・行動指針)で統合することは、経営リーダーシップに関する課題そのものでもある。

過去の成功体験だけで今起こりつつある変化への経営戦略の舵取りが困難であると感じているならば、経営戦略を考える場として組織や職位を横断したワークショップを通じてボトムアップされた発想を承認する、というような経営スタイルの変革を率先して実践する機会ではないか。その姿こそが社内外のあらゆる組織とつながり、新しいコトへのチャレンジを促す風土を醸成していくことであると考える。経営スタイルを変えずに現場に任せているだけの働き方変革を推し進めるならば、目的の果実を手に入れることが難しいだろう。働き方変革こそ経営トップのコミットメントが成否を握っている。

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細井事業部長顔写真

細井 和宏(ほそい かずひろ)
株式会社富士通総研 執行役員 エグゼクティブコンサルタント
【略歴】
1983年富士通入社以来、電力および製造業のSEとして業務システム開発からSIプロジェクトマネジメントを実践してきた。2006年から株式会社富士通総研でビジネスコンサルティングを開始。
海外駐在経験も活かし、製造業のお客様を中心とした経営戦略立案、業務プロセス革新、グローバルERP戦略策定を深耕。 現在はワークスタイル変革やグローバルWeb統合戦略なども加え、様々なテーマの知見を基にお客様の経営・業務課題解決に携わっている。